第64話 二度目の余命宣告
文字数 3,316文字
【バッテリー容量基準値内。インバータ給電正常。異常ありません】
「ふー、やっと元通りか。一体何だったのかしら。だいたい三年間はメンテナンスフリーじゃなかったの?」
【それはあくまでもカタログスペックです。実際の使用状況により、蓄電率やリアクターの寿命は、多少は前後します】
LowBatteryで動けなくなり、検証・最適化作業のため意識も休ませていたスフィーラが三日ぶりに起き上がった。
アリーナがモルツと脳内会話をしていたら、メリッサとメトラックが部屋に入って来た。
「スフィーラ。調子はどう?」メリッサが言う。
「うん。もう全然平気。足はまだ動かせないけど、落ちた時の衝撃は影響ないみたい」
「ああ、それならよかったわ。膝はまた後日対応しましょう。それでねスフィーラ。
私はあなたにちゃんと話しておかなければならない事があるの」
「えっ? ええ、何かしら?」
「……あなたの将来に関わる重要な事なの……」
「何よ! もったいぶらずに教えて頂戴!」
「あなたの寿命は、あと一年ないかも……」
「えっ!? ちょっとメリッサ。それって……どういう事?」
「ごめんなさい。LowBatteryの原因を調べようと、あなたがスリープしている間に、あなたのリアクターのシステムログを確認したの。それでね……リアクターそのものには異常はなかったんだけど……リアクターの燃料が規定より早く消耗していたの……」
「えっと。ごめんメリッサ。私に分かる様に説明してくれないかな」
アリーナが困惑しながら尋ねる。
「あなたのリアクターは標準使用で三年持つように設計されているんだけれど、いままで設計時の想定以上にパワーを使ったので、多分あと一年くらいしか稼働出来ない……ああ……」メリッサがむせび泣く。
「うーん。燃料切れなら補充すればいいんじゃない? まあ、そう簡単ではないとは思うけど」アリーナの問いにメトラックが答えた。
「それが……出来ないんだ。いや、正確に言うと出来るんだけど設備がない。材料もない。S-F10RAをメンテするにはクラナーレン陸軍ラボにあった設備が必要なんだけど、君もご存じの通りあそこはもはや影も形もない」
「……そっか。それで燃料が切れると私の人格も消えちゃうという事か……」
「そうなるね……」メトラックも今まで見せた事がない様な辛そうな顔をした。
「ちょっと一人にしてもらっていいかな?」アリーナはそう言って、メリッサとメトラックに退室してもらい眼を閉じて考えた。
ああ……まさか二度目の人生でも余命宣告されるとは……。
でも、前の時よりはずっとマシかな。あの時は、痛くて苦しくて……。
「ねえモルツ。燃料が切れる時、具体的にはどうなるの?」
【使用済みマイクロリアクターは、特級産業廃棄物扱いです。解体処理も難しいですし、軍事作戦中に破損して放射能漏れを起こしてもいけない為、自己爆縮機能が付いています】
「自己爆縮機能?」
【自分で作るエネルギーで自身を爆縮してナノブラックホールを生成し、リアクター自体を亜空間に蒸発させます。爆縮用のエネルギーは予め貯めて置く事も出来ますが、計画的に後から貯める事も出来ます】
「うーん。良くわかんないけど、自分でスイッチを切るってのもそれ?」
【はい。現時点で爆縮用エネルギーはストック済です】
「何にせよ。最後に苦しみながらって訳ではないのね」
設備もない……材料もない……か。
あれ? でも、アンドロイドは私だけじゃないよね?
「あー!!」それに思いが至って、アリーナは慌ててメリッサ達を呼び戻した。
◇◇◇
「何ですって? 男性型のセクサロイドと交戦した!?」
メリッサが眼を剥 いて驚いている。
「はい。伝えるのが遅くなってごめんなさい。いろいろありすぎて……。
えっと……S-M01LYってモルツが言ってました」
「S―M……スマイリーですって!?」メリッサがさらに驚く。
「あー。旧王国はスマイリーって呼んでたんだ。
エルフはマーダーⅡって呼んでました」
「メリッサチーフ。それって?」メトラックが不思議そうに言う。
「たぶん鹵獲品ね。エルフ達もこちらのマネをして、それでAIアンドロイド兵士の研究をしてたって事よ。でもそれなら、メンテ用の施設や部材もあるに違いない!」メリッサが確信した様にそう言った。
「でもエルフじゃ……協力はしてくれませんよね?」メトラックが否定的に言う。
「魔導教会に相談したらどうかな? どのみち私、じじい様の所に行かなくっちゃならないんだよね」
アリーナがそう言い、翌日、二人を伴って西の森の教会に向け出発した。
◇◇◇
「そうなんですか。女王様すでにお帰りになられたのですね」
残念そうにそう言うアリーナに、じじい様が声をかける。
「心配するな。お前達人間の想いはちゃんと持って帰っていただいた。政治的な問題も会ってすぐに大ナタは振るえぬが、いずれ状況は変わってくるじゃろう」
そう。その兆しはすでに表れている。レジスタンスが集結したターレス戦略要塞に一番近い街、ホルコールのエルフ領主は、街の人間の地位向上を約定に掲げて、レジスタンス側に不可侵条約を持ちかけてきたりしている。やはりあの飛行戦艦を叩き落としたのが大きいのだろう。軍があてにならないと踏んだエルフ領主達が後に続けばよいと思う。
だがそれも、力関係に変化があればすぐにひっくり返るものなので、やはり女王による改革が一番望まれるのは間違いない。
「それで老師様、予めお伝えしてあったアンドロイドのメンテ設備の件なのですが……」メリッサがじじい様にうやうやしくお伺いを立てる。
するとそばにいたトーマスが口を開いた。
「それは、スフィーラの魔法の話が先だ。もとよりその約束だったはずだ」
アリーナとメリッサ、メトラックは三人で顔を見合わせ、大きく頷いた。
「はい。実は私の意識は人間なんです」
アリーナの説明に、じじい様とトーマスは、何を言ってるのかよく分からないと言った顔をした。
「私は、二百六十年位前に死んで、メモリバンクに保存されていたアリーナの人格データが一年位前、誤ってこのスフィーラの人格AIとしてインストールされたものです。アリーナがもともと魔法が使えましたので、そのままスフィーラも魔法が使える様になりました」
「なんじゃと!?」
じじい様もトーマスも、驚きの余り口をポカンと開けたままになっている。
「エンジニア君。それは間違いないのかね」じじい様がメトラックに尋ねる。
「間違いありません。スフィーラの人格は二百六十年前にお亡くなりになった、
アリーナ・エルリード・フラミス姫です」
「ああ、何という事じゃ。しかも……アリーナ姫じゃと!?
もし本当にそうであれば姫よ。じじいに見覚えは無いか?」
「えっ? あ……すいません。生前の子供の時の記憶は結構あいまいな所もあって……私、けっこう忘れっぽいタチでして……」
「お忘れか。ヨーシュアと一緒に三ヵ月くらいあなたから魔法を教わったウイルヘイズじゃよ! あの時はあなたは十歳くらいだったじゃろうか」
「ん? ……あー、思い出した! 最後の大魔導士! あーん。私何でこんな事忘れちゃってたんだろ。女王様と顔を合わせた時もどっかで見た事あるよなとは思ってたんだけど……あまりに昔の事すぎて全然記憶と結びつかなかったわ!」
「それは、こちらも同じじゃ! まさかここでアリーナ姫にお会い出来るとは……これが神の思し召しでなくて何だと言うんじゃ!!」
「それにしても人格データで魔法を行使出来るとは……今までの既成概念を一度破棄して、頭を切り替えないといけませんね」トーマスの言葉にじじい様が答えた。
「いや。今でもゲートや反重力ユニットなどの魔導装置の原理は百%明らかになったとは言えん状況じゃ。なぜ機械が魔法を使えるのという根源的な部分でな。
でもこれで解明の糸口が見つかるかもしれん」
「よし、アリーナ姫。魔導教会はあなたに全面協力を約束する。なのであなたも、魔法の件で我々に協力してほしい」
「はい、もちろん!」
これでアリーナの燃料問題も突破口が見つかるはずだ。
メリッサとメトラックは、その時心からホッとした。
「ふー、やっと元通りか。一体何だったのかしら。だいたい三年間はメンテナンスフリーじゃなかったの?」
【それはあくまでもカタログスペックです。実際の使用状況により、蓄電率やリアクターの寿命は、多少は前後します】
LowBatteryで動けなくなり、検証・最適化作業のため意識も休ませていたスフィーラが三日ぶりに起き上がった。
アリーナがモルツと脳内会話をしていたら、メリッサとメトラックが部屋に入って来た。
「スフィーラ。調子はどう?」メリッサが言う。
「うん。もう全然平気。足はまだ動かせないけど、落ちた時の衝撃は影響ないみたい」
「ああ、それならよかったわ。膝はまた後日対応しましょう。それでねスフィーラ。
私はあなたにちゃんと話しておかなければならない事があるの」
「えっ? ええ、何かしら?」
「……あなたの将来に関わる重要な事なの……」
「何よ! もったいぶらずに教えて頂戴!」
「あなたの寿命は、あと一年ないかも……」
「えっ!? ちょっとメリッサ。それって……どういう事?」
「ごめんなさい。LowBatteryの原因を調べようと、あなたがスリープしている間に、あなたのリアクターのシステムログを確認したの。それでね……リアクターそのものには異常はなかったんだけど……リアクターの燃料が規定より早く消耗していたの……」
「えっと。ごめんメリッサ。私に分かる様に説明してくれないかな」
アリーナが困惑しながら尋ねる。
「あなたのリアクターは標準使用で三年持つように設計されているんだけれど、いままで設計時の想定以上にパワーを使ったので、多分あと一年くらいしか稼働出来ない……ああ……」メリッサがむせび泣く。
「うーん。燃料切れなら補充すればいいんじゃない? まあ、そう簡単ではないとは思うけど」アリーナの問いにメトラックが答えた。
「それが……出来ないんだ。いや、正確に言うと出来るんだけど設備がない。材料もない。S-F10RAをメンテするにはクラナーレン陸軍ラボにあった設備が必要なんだけど、君もご存じの通りあそこはもはや影も形もない」
「……そっか。それで燃料が切れると私の人格も消えちゃうという事か……」
「そうなるね……」メトラックも今まで見せた事がない様な辛そうな顔をした。
「ちょっと一人にしてもらっていいかな?」アリーナはそう言って、メリッサとメトラックに退室してもらい眼を閉じて考えた。
ああ……まさか二度目の人生でも余命宣告されるとは……。
でも、前の時よりはずっとマシかな。あの時は、痛くて苦しくて……。
「ねえモルツ。燃料が切れる時、具体的にはどうなるの?」
【使用済みマイクロリアクターは、特級産業廃棄物扱いです。解体処理も難しいですし、軍事作戦中に破損して放射能漏れを起こしてもいけない為、自己爆縮機能が付いています】
「自己爆縮機能?」
【自分で作るエネルギーで自身を爆縮してナノブラックホールを生成し、リアクター自体を亜空間に蒸発させます。爆縮用のエネルギーは予め貯めて置く事も出来ますが、計画的に後から貯める事も出来ます】
「うーん。良くわかんないけど、自分でスイッチを切るってのもそれ?」
【はい。現時点で爆縮用エネルギーはストック済です】
「何にせよ。最後に苦しみながらって訳ではないのね」
設備もない……材料もない……か。
あれ? でも、アンドロイドは私だけじゃないよね?
「あー!!」それに思いが至って、アリーナは慌ててメリッサ達を呼び戻した。
◇◇◇
「何ですって? 男性型のセクサロイドと交戦した!?」
メリッサが眼を
「はい。伝えるのが遅くなってごめんなさい。いろいろありすぎて……。
えっと……S-M01LYってモルツが言ってました」
「S―M……スマイリーですって!?」メリッサがさらに驚く。
「あー。旧王国はスマイリーって呼んでたんだ。
エルフはマーダーⅡって呼んでました」
「メリッサチーフ。それって?」メトラックが不思議そうに言う。
「たぶん鹵獲品ね。エルフ達もこちらのマネをして、それでAIアンドロイド兵士の研究をしてたって事よ。でもそれなら、メンテ用の施設や部材もあるに違いない!」メリッサが確信した様にそう言った。
「でもエルフじゃ……協力はしてくれませんよね?」メトラックが否定的に言う。
「魔導教会に相談したらどうかな? どのみち私、じじい様の所に行かなくっちゃならないんだよね」
アリーナがそう言い、翌日、二人を伴って西の森の教会に向け出発した。
◇◇◇
「そうなんですか。女王様すでにお帰りになられたのですね」
残念そうにそう言うアリーナに、じじい様が声をかける。
「心配するな。お前達人間の想いはちゃんと持って帰っていただいた。政治的な問題も会ってすぐに大ナタは振るえぬが、いずれ状況は変わってくるじゃろう」
そう。その兆しはすでに表れている。レジスタンスが集結したターレス戦略要塞に一番近い街、ホルコールのエルフ領主は、街の人間の地位向上を約定に掲げて、レジスタンス側に不可侵条約を持ちかけてきたりしている。やはりあの飛行戦艦を叩き落としたのが大きいのだろう。軍があてにならないと踏んだエルフ領主達が後に続けばよいと思う。
だがそれも、力関係に変化があればすぐにひっくり返るものなので、やはり女王による改革が一番望まれるのは間違いない。
「それで老師様、予めお伝えしてあったアンドロイドのメンテ設備の件なのですが……」メリッサがじじい様にうやうやしくお伺いを立てる。
するとそばにいたトーマスが口を開いた。
「それは、スフィーラの魔法の話が先だ。もとよりその約束だったはずだ」
アリーナとメリッサ、メトラックは三人で顔を見合わせ、大きく頷いた。
「はい。実は私の意識は人間なんです」
アリーナの説明に、じじい様とトーマスは、何を言ってるのかよく分からないと言った顔をした。
「私は、二百六十年位前に死んで、メモリバンクに保存されていたアリーナの人格データが一年位前、誤ってこのスフィーラの人格AIとしてインストールされたものです。アリーナがもともと魔法が使えましたので、そのままスフィーラも魔法が使える様になりました」
「なんじゃと!?」
じじい様もトーマスも、驚きの余り口をポカンと開けたままになっている。
「エンジニア君。それは間違いないのかね」じじい様がメトラックに尋ねる。
「間違いありません。スフィーラの人格は二百六十年前にお亡くなりになった、
アリーナ・エルリード・フラミス姫です」
「ああ、何という事じゃ。しかも……アリーナ姫じゃと!?
もし本当にそうであれば姫よ。じじいに見覚えは無いか?」
「えっ? あ……すいません。生前の子供の時の記憶は結構あいまいな所もあって……私、けっこう忘れっぽいタチでして……」
「お忘れか。ヨーシュアと一緒に三ヵ月くらいあなたから魔法を教わったウイルヘイズじゃよ! あの時はあなたは十歳くらいだったじゃろうか」
「ん? ……あー、思い出した! 最後の大魔導士! あーん。私何でこんな事忘れちゃってたんだろ。女王様と顔を合わせた時もどっかで見た事あるよなとは思ってたんだけど……あまりに昔の事すぎて全然記憶と結びつかなかったわ!」
「それは、こちらも同じじゃ! まさかここでアリーナ姫にお会い出来るとは……これが神の思し召しでなくて何だと言うんじゃ!!」
「それにしても人格データで魔法を行使出来るとは……今までの既成概念を一度破棄して、頭を切り替えないといけませんね」トーマスの言葉にじじい様が答えた。
「いや。今でもゲートや反重力ユニットなどの魔導装置の原理は百%明らかになったとは言えん状況じゃ。なぜ機械が魔法を使えるのという根源的な部分でな。
でもこれで解明の糸口が見つかるかもしれん」
「よし、アリーナ姫。魔導教会はあなたに全面協力を約束する。なのであなたも、魔法の件で我々に協力してほしい」
「はい、もちろん!」
これでアリーナの燃料問題も突破口が見つかるはずだ。
メリッサとメトラックは、その時心からホッとした。