第78話 決戦前夜

文字数 3,782文字

「おい、お前何やってんだよ!! 分かってんのか? こりゃ重罪だぞ!!」
 高台でザカールがサルワニに掴みかかっている。
「ふざけているのはお前のほうだ少尉! 
 こんな醜悪なものを見せられて、私がヘラヘラしているとでも思ったか! 
 こんなものは戦闘でも何でもない!! 
 これを容認するくらいなら、私もパルミラも喜んで処刑されよう!!」
 
 マーダーⅡのあまりに品の無い攻撃に、さすがのサルワニも堪忍袋の緒が切れ、自ら速射砲でマーダーⅡの頭を打ち抜いたのだった。

「おい本部長。どうすんだよこれ。作戦は失敗だしマーダーⅡは頭撃たれちまったらオシャカだろうが……さっさとサルワニを処刑しろよ!」ザカールがたけり狂って、ランダイスに掴みかかったが、ランダイスがその顔にぺっとつばを吐きかけた。

「ふざけてるのはお前だザカール。あれが本部長モードだと!? 
 いくら私でも最低限のプライド言うものはあるんだぞ!!」
「何を!?」
 今度はザカールとランダイスが取っ組み合いを始めた。

「はーい。そこまでだ、ご一同」突然後ろから声がして振り向くと、なんと多数の人間兵と僧兵が銃を構えて後ろに立っていた。

「何、あの歩兵の囲みを破ったのか?」ランダイスが驚く。
「ああ、途中で知り合いの団体さんに会ったんで、手助けを頼んだのさ」
 そうトーマスが言い、ダルトンやJJが前に出て来て、三人を拘束した。

 JJが高台から下を見て手を振るが、スフィーラはこっちを見てないか。
 いや、なんか重傷なのか? 横になってメリッサがそばについてるけど……。

 突然、ザカールが叫んだ。
「おい、あいつを止めろ! マーダーⅡは自爆するぞ!」
 エルフ語だったので一瞬判断が遅れたが、ダルトンが下を見るとメトラックが停止したマーダーⅡに走り寄っているのが見えた。

「いかん! メトラック。そいつに近づいちゃだめだ!!」
 ダルトンが全身で叫ぶが、声は届かない。

 そしてメトラックがマーダーⅡに触れたか触れないかの所で、マーダーⅡが大きな爆炎を伴って自爆した。

「ああ……やっちまったか……機密保持のために、機能停止後一定時間立つとリアクター爆縮後全体が吹っ飛ぶ様にしてあったんだ……」

 ダルトンやJJが処刑広場に降りると、メリッサがメトラックの一部を抱いて大泣きしていた。
「この子ったら、あのアンドロイドからスフィーラ用の部品取るんだって………」

 そばにはミーシャが半裸で呆然と座っており、スフィーラも手足を負傷して動けない様であったが、事態は把握している様でボロボロ泣いていた。
「メトラック……ばか……何私より先にいっちゃってるのよ……」

 あまりの状況にダルトンもJJもト―マスも言葉を失った。

 ◇◇◇

「そうか、あのエンジニア君が……惜しい人材を失ったものだ」
 じじい様が嘆息した。
「はい。これでアリーナ姫の人格バックアップは絶望的です。ですが替わりに、ザカールというアンドロイド技師を捕虜にしましたので、こいつが使えないかは引き続き調べます。ただ……リアクターの寿命までに間に合えばいいのですが」
 トーマスが説明した。

「それでアリーナ姫はどうなっておる?」
「重傷は重傷なんですが、人間でいうとまあ単純骨折というところで、腕も足も、とりあえず電気溶接でメリッサ殿がくっつけて動く分には支障がないとの事です。
 しかし、以前の強度は保持出来ていません」

「それだと、女王救出作戦も難しいかの?」
「それなんですが、サルワニが全面協力を申し出ています。彼はパルミラが病院にいた事にも強く関心を持っています。それとランダイス進駐軍本部長も……まあ彼の場合は保身が主眼かも知れませんが……ですが彼は今までの裏のいきさつをかなり知っている様で、いざとなったら拷問でも何でもして……」
「はは。まあ、あのタイプはうまくおだてて使った方がうまく行くかも知れんぞ」
「はっ。心します」そういってトーマスは退出した。

 一人になったじじい様は、椅子に座ったまま、眼を閉じる。
(今回、払った犠牲も大きかったが、得られたものも多い。
 アリーナ姫は本当にエルフと人間の救世主になるやもしれんな)

 ◇◇◇

「ぐぬぬぬぬぬ……」リゾン公爵の、触れただけで爆発しそうな形相にワイオールも何を話掛ければいいのか見当がつかない。

 それはそうだ。女アンドロイドへの作戦が失敗しただけではなく、こっちの手の打ちを知るランダイスがレジスタンスに拘束された?
 いやいやそれならいっそ死んでくれていたほうが助かるのだが……。

 しかし、今のところ魔導教会は一切のコメントを出していない。
 とにかく進駐軍本部長を押さえられてしまっては、あちらの状況が全く分からない。どうしたものかと思案するワイオールに、突然リゾン公爵が声を掛けた。

「すぐに大ゲートの再開準備をしろ! 
 もう魔導教会や人間共の顔色をうかがうのはやめだ!
 私に反対する者はすべて飛行戦艦で焼き払ってやる!! 娘でも容赦はせん!
 それで、あちらの各領主にはひと月以内に割り当ての人間兵を供出する様命令せよ。こちら側の兵はそれで固める!!」

「しかし、魔導教会が大ゲートの再開を手伝ってくれましょうか?」
「馬鹿者! 何のため今まで現地工作をしているのだ。
 教会に関係なく手伝えるものは、金で顔を叩いて駆り出せ!」
「はっ。すぐに取り掛かります」

 ◇◇◇

 ターレス要塞で、メトラックの葬儀がしめやかに行われた。
 そしてこうなった以上、アリーナの人格保持が難しく、スフィーラのリアクターの寿命の事を隠しておくより、皆にすべてを話して協力を要請した方がいいというダルトンの発案で、スフィーラとアリーナの秘密がすべて開示される事になった。

 どのメンバ―も、二百五十年以上前のお姫様が、最新技術の姿をしながら、魔法で自分達を助けてくれていた事に深く驚き、そして感銘を受けた。
 そしてその寿命があと一年もない事が、皆の涙を誘った。

「JJ、タルサさん。いままで隠していてごめんね」アリーナが言う。
「いや、なんかいろいろ納得がいったというか……でもあと一年持たないって……なんとかならないのかよ!」JJが悲しそうな顔をする。
「メトラックが必死に何とかしようとしてくれてたんだけど、こんな事になっちゃって……この間捕まえたエルフのアンドロイド技師になんとかさせられないかって魔導教会は言ってるんだけど、多分その人が協力してくれてもメトラックより早くは対処出来ないと思う」

「あの……アリーナ姫って呼べばいいんですよね」タルサが尋ねる。
「アリーナでいいよ。今は姫じゃないから。
 王族はみんなを裏切って逃げちゃったしね」
「あのさ、アリーナ。アリーナは人間なんだよね? 
 だから人を好きになるんだよね?」
「あ、それは……そうかな」
「だったら、わたしは……」
「タルサ、もうそれ以上は言わないで。
 所詮スフィーラはあと一年で電池が切れる機械だから……」

 そういうアリーナを、タルサは優しく抱きしめた。
「アリーナ、ごめんね。そして……ありがとう」

 アリーナの事はサルワニとミーシャらにも伝えられ、ある晩サルワニとミーシャがアリーナを訪ねて来た。

「はは、サルワニさん。これですべて納得いきましたか?」
 アリーナが笑ってそう言った。
「いや。君には完敗だ。まさか魔法だったとは……しかし、これで魔導教会も面目が立つし、女王様の悲願も達成されるのだろう。あとは、エルフ国内の問題は我々エルフが自分達の手で何とかしないといけない。女王様のためこの命は捧げる覚悟がとうに出来ている。パルミラもそれを望むだろうし、自分の成すべき事をしないのではメトラック君に顔向けが出来ないからな」

「それで、スフ、いやアリーナさん。パルミラ先輩も含め、女王様の居所は私とサルワニさんが先行してエルフ国に潜入調査致します。潜入方法も含め魔導教会が力を貸してくれるそうです」ミーシャがそう言った。
「でも、ミーシャさん。それ危なくないですか?」アリーナが驚く。
「いえ、もう自分の命がどうこう言っている段階ではありません。
 多分父も強行手段に出てくるでしょう。
 私は誇り高き女王の臣下として、職務に殉じる覚悟はあります!」
「そうですか。それではお気をつけて……無理はなさらないでね」

 ◇◇◇

「それじゃ、本人に会わせていただくワケにはいかないと……」
「ああ、お前の顔を見るのも嫌だそうだ」
 西の森の教会の研究施設で、ザカールがトーマスと会話をしていた。

「いや、あの自爆は彼を狙ったもんじゃなくて、事故なんですが……」
 ザカールが決まり悪そうにそう言った。
「それ以外にも、おまえのアンドロイドの下品さは目にあまる。
 女性に嫌われても致し方あるまい」
「いや、下品なのは本部長の人格が原因で……」
「言い訳はいい。アリーナのバックアップはどこまで取れる?」
「ちょっと考えさせてください。それから必要な資料もお願いしますね」
「わかった。ただ、変な気は起こすなよ。ここを出たらお前は即処刑されるぞ」
「えー何言ってるんですか。こんな面白い事やらせていただけるなら逃げたりはしませんよ。それに、そこかしこにある人格AI連携型の魔導装置。それにも興味深々です。いや、AIアンドロイドが魔法使えるなんて世紀の大発見じゃないですか!」


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登場人物紹介

アリーナ・エルリード・フラミス【主人公】


昔の王国の第一王女。転生当初はスフィーラと名乗る。


15歳の時、脳腫瘍が原因で夭折するが、父である国王により、

人格データを外部記憶に保管される。それが約260年後、

偶然、軍用セクサロイドS-F10RA-996(スフィーラ)

インストールされ、アリーナの記憶を持ったまま蘇った。


当初、スフィーラの事は、支援AIのモルツに教えてもらっていた。

Miritary Objects Relaytion Transfer System)


メランタリ・ブルーベイム 猫獣人少女


モンデルマの街の第二区画で店員をしていて、妹のコイマリと暮らしている。

美少女が好きで、モンデルマに迷い込んだスフィーラと友達になる。


実はけっこう肉食系。


JJ(ジェイジェイ) 本名不詳の多分15歳


モンデルマ第三区画のスラム街に住み、窃盗やひったくりを生業にしている人間の孤児。

自分の出自も全く不明だが、同じく孤児のまひるを、自分の妹として面倒みている。


あるトラブルがきっかけで、スフィーラと知り合う。


アルマン レジスタンス・ブランチ55のリーダー


モンデルマから逃げてきたアリーナ達と合流し、協力してエルフ軍に対抗しようとしている。

大戦経験者で、戦争末期、高射砲部隊の新兵だった。


ヨーシュア エルフ王国女王


すでに五百年以上エルフ王国を統治しているが、見た目は十代の少女と変わらず年齢不詳。

心優しい女王なのだが、国政を臣下に任せてしまっている。

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