第12話 クソッたれ領主

文字数 2,872文字

 いつも暮らしているテントの中で、JJは、まひるのお気に入りだったあの服を抱きしめて、ずっと地面に座っていた。
 アリーナが隣に座ったが、まったく眼中に無い様にも思える。

「JJ……」正直、どの様に声をかければいいのか、アリーナには分からない。
 しばらくすると、JJがアリーナに向けて話だした。

「スフィーラ。俺……まひるを助けたい。
 でも、このまま乗り込んでも何にも出来ねえ。
 だから、この金を元手に、武器や人を揃えようと思うんだ。どうかな?」

「あー。資金は、いくら位あるの?」
 JJが袋を開いて中を見せてくれた。

【この資金では手りゅう弾数個が精いっぱいです。他の方法を推奨】

「あのねJJ。これだと武器も人も十分に揃えられないと思うの。
 年季が二十年って言ってたし、時間をかけて準備しようよ。私も手伝うからさ!
 ああ、そうだ。このお金で有力者に仲介してもらうってのはどう?」

「そんな悠長に待ってられるかよ! 
 エルフ共は人間の命なんて、蚊位にしか思ってねえんだぞ。
 ちょっとのミスで殺されちまうんだよ! そんなのしょっちゅうさ!
 それに……何でまひるなんだよ……あいつはまだ六歳だぞ! 
 恋も幸せも何にも判っちゃいないのに……。
 それがエルフのおもちゃだなんて、絶対認めねえ!!」
「JJ……」
 
 アリーナの肩に寄りかかりながら、JJは嗚咽を上げた。
 
 …………

「おい。あんたスフィーラだろ? 探したぜ」
 もう大分夜も更けた頃、声のする方を見たら……あれ? ニドル?
 そう思ったら、ニドルの後ろから大きな声がした。

「スフィーラ!!」
 えっ? メランタリ?

「どうしたのメランタリ。こんな夜中にこんな所まで……」
「スフィーラぁぁー。
 コイマリが……コイマリが、領主様に連れてかれちゃったのよー」
「えっ!?」
 
 その言葉にアリーナも驚いたが、JJも目を見開いて立ち上がった。

 ◇◇◇

「おはようございます、御領主様。
 昨晩のうちに、ご要望の少女二名を屋敷にお招きしてあります。
 後程、お目通りをお願い致します」

「そうですか。それは上々。まったく……よりにもよって二人同時に自害してしまうとは……それでなくても人間の寿命は短いのに。でも、まあそれがエルフにはない魅力でもありますけどね。でもこれでサロンの欠員は補えました。
 また今夜からサロン活動を再開しましょう」

「御意」

 モンデルマの領主、トルネリア公は十五年前にこの町に赴任してきた。
 しかし自分はかなり位の高い貴族であるにも関わらず、なぜこんな辺境領地の領主なのか、余り納得はいっていない。

 まあ敵国の指導部が丸ごと夜逃げした状況で、残された住民や移民共を卒なく管理するには、支配者側も数を揃える必要があり、戦後の混乱であわてて適当にはめられたのだろうとは思っていた。そんな訳でしばらくして落ち着いたら、また領主の再編成などがあるのかと思っていたのだが、そんな気配はなかった。他の領主に話を聞いてみたが、どこも同じ様な状況で、いとこのハスラムリ公などは、せっかくこれだけの人間を奴隷として抱えているのだから、好きにやればいいじゃないかと言っていたので、自分もそうする事にした。

 人間や獣人の寿命は、エルフのそれに比べて格段に短い。
 だがそれがいいとトルネリア公は常々考えていた。
 物事の旬は、期間が短い方が価値が大きいというのが持論で、人間や獣人の少女も、旬はほんの一瞬だ。羊だってマトンよりラムの方がうまい。

 そして、辺境の鬱屈さを払拭すべく、好みの女児を集めたサロンを作ったのだ。

「ようこそ、我が野辺の花サロンへ。
 お嬢さん達、これから仲良く過ごしましょうね」

 お人形の様に着飾ったコイマリとまひるの前に腰かけ、トルネリア公は微笑みながら、こう言った。

 ◇◇◇

 二人が連れて行かれた日の翌日。第二区画のメランタリのアパート。
 そこにアリーナとJJもいた。
 
 メランタリから聞いた限りでは、コイマリに起こった出来事は、まひるとそう変わらない様だった。

「ああ……どうしたらいいのよ! 
 勤め先や役所、警察にも相談したけれど、あきらめろって……むしろ光栄な事だって……でも、あきらめられる訳ないじゃない!! 
 あの子は私の命より大事な宝物なのよ!
 私がちゃんと成人させて自立させるの! それなにの……」

「あのね、メランタリ。さっき、JJとも相談したんだけれど……この、貰った契約金とかで、別の有力者とかに相談して、口利いたりしてもらえないかしら?」
「何言ってんのよ、スフィーラ。あんたよそ者だから知らないかも知れないけど、領主様より偉い人なんて、すぐには見つからないわよ! ああ……こうしている間にも、ひどい目に会ってるんじゃないかって……気が狂いそう!!」

「おい、姉ちゃん。メランタリだっけ? 
 俺は、何とかして第一区画の領主邸に潜り込むつもりだ。
 あんたはどうしたい?」JJがメランタリに問いかけた。

「それって、領主様に逆らうって事?」
「そうだ! たとえ身分は最下層であろうが、住民の意思を大切にしない奴を、俺は領主とは認めねえ」
「……私も構わないわ。コイマリ以上に大切なものなんてないもの。
 でもどうやって忍び込むのよ? 
 第一区画の中の状況なんて全く分からないわよ?」
「なーに。夜陰に乗じて忍び込めば……」

「あ、あの……」
 アリーナには、二人の気持ちが良く分かるのだが、あまりにも無謀だ。
 だが……。

(ねえモルツ。二人分の契約金で、装備とか何とかならない?)
【無理です。敵のマップも勢力も不明な状況で、仮にそれ相当な準備が出来たとしても、成功確率は限りなく低いです。下手をすれば少女達にも被害が出ます。
 せめて敵陣地の情報でもあれば、もう少し検討は出来ますが】

「そっか…………あっ! ねえJJ、メランタリ。
 あの第一区画の領主邸っていつ頃からあるの?」

「いや……おれはよく分からねえ。見た事もねえしな」JJがすまなそうに言う。
「多分、十年ちょっと前だと思う。まだ両親が生きていて、父が工事に駆り出されたりしていたから……あっ! そういう事? 
 当時の工事に携わった人から情報を得るって事?」

「そうか! それなら多分、工事は獣人より人間の方が関わった奴が多いはずだ!
 俺、もう一回、第三区画に行って情報集めてくるよ」
「私も、昔の父の知人に当たってみるわ」

 それで何が出来るかは分からない。だが、まだ打てる手があるかもしれない。
 そう思うだけで、JJもメランタリも勇気が出て来た様だ。

「それじゃ、JJとメランタリは、それぞれ情報収集に取り掛かって。
 私は、自分の目で、出来るだけ第一区画を観察してくるから。
 明日の夜。またここで落ち合いましょ!」

【アリーナ。やはり潜入するのですね】
(もうお友達二人、いや四人の生死に関わる問題ですもの。止めても無駄よ。
 たとえ我が身がどうなっても、ここで身体を張れない様じゃ、王族として生きていても恥ずかしいだけですわ)

【了解しました。まあ、そう言うと思っていました】
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登場人物紹介

アリーナ・エルリード・フラミス【主人公】


昔の王国の第一王女。転生当初はスフィーラと名乗る。


15歳の時、脳腫瘍が原因で夭折するが、父である国王により、

人格データを外部記憶に保管される。それが約260年後、

偶然、軍用セクサロイドS-F10RA-996(スフィーラ)

インストールされ、アリーナの記憶を持ったまま蘇った。


当初、スフィーラの事は、支援AIのモルツに教えてもらっていた。

Miritary Objects Relaytion Transfer System)


メランタリ・ブルーベイム 猫獣人少女


モンデルマの街の第二区画で店員をしていて、妹のコイマリと暮らしている。

美少女が好きで、モンデルマに迷い込んだスフィーラと友達になる。


実はけっこう肉食系。


JJ(ジェイジェイ) 本名不詳の多分15歳


モンデルマ第三区画のスラム街に住み、窃盗やひったくりを生業にしている人間の孤児。

自分の出自も全く不明だが、同じく孤児のまひるを、自分の妹として面倒みている。


あるトラブルがきっかけで、スフィーラと知り合う。


アルマン レジスタンス・ブランチ55のリーダー


モンデルマから逃げてきたアリーナ達と合流し、協力してエルフ軍に対抗しようとしている。

大戦経験者で、戦争末期、高射砲部隊の新兵だった。


ヨーシュア エルフ王国女王


すでに五百年以上エルフ王国を統治しているが、見た目は十代の少女と変わらず年齢不詳。

心優しい女王なのだが、国政を臣下に任せてしまっている。

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