第18話 こんな歓迎ある?

文字数 2,370文字

「おい、スフィーラ。このヘリ、こんなに低空飛行で大丈夫なのかよ?
 って、おい! 木にぶつかるっ!!」
 JJが慌てて目をつぶるが、アリーナは何でもない様にヘリを操り、木のすれすれをひょいっと躱わしていく。

「えっとね。あんまり高い所飛ぶとレーダーに捉まっちゃうんだって。
 だからこう、地面ギリギリをね……」

「それにしてもスフィーラ。あんた、本当に何者なんだい? 
 どこかで、軍事教練受けてたのかい?」
 メランタリも、不思議そうな眼でアリーナを見ている。

「うん……ごめんね。今は秘密。とにかく、レジスタンスと早く合流しないと。
 そのうちちゃんとお話する機会が来る……かも知れないから」
「分かったわ。あんたの事は信用しているから……」

 先ほどから、モルツがヘリに備え付けの軍事ネット端末をハッキングして、エルフ軍側の動きを探ってくれている。

(ねえモルツ、敵さんどんな感じ?)
【本ヘリをターゲットに戦闘機が二機発進したようですが、こちらの現在位置は捕捉されていません。でも、それも時間の問題でしょうから、今のうちに出来るだけ距離を稼ぎましょう】

(そう……ねえ、もっとあちらの詳しい状況はつかめないの? 
 出来れば軍事ネット丸ごと乗っ取っちゃってもいいんだけれど。
 子供の時観たアニメでは、そんな事やってたわよ)
【それは無理です。そもそもこのヘリの端末ではクラスC作戦レベルの軍事ネットにしかアクセス出来ません】

(はは……そうか……)

 その時、突然ヘリが急上昇をはじめ、シートベルトをしていなかったJJがキャビンの後方に吹っ飛んだ。

「ちょっと何事!」アリーナが叫ぶ。
【レーダー照射されました。地上歩兵の携帯型短SAMと推定。
 回避運動を優先。身体を固定して下さい】

「みんな! ちょっとヘリが暴れるから、しっかり掴まって!!」
「おせーよ……痛てててててっ」キャビンの後方で、JJのぼやきが聞こえた。

【フレア発射!】
 ヘリの後方から、ポン、ポンと花火の様なものが打ち出されている。
 すると、前方の木立の中から、何かがものすごい勢いで飛んできて、その花火めがけて突進し爆発した。

「きゃっ!!」
 衝撃でヘリがものすごく揺れたが、直撃は避けられた様だ……しかし。

【いまの衝撃でテイルローターが破損。姿勢が維持出来ません。
 緊急着陸!! 衝撃に備えて下さい】

「えーーーーー!? みんなーー落っこちるわよー!! 衝撃に備えて!!」
「なんですってぇーーーーー!!」メランタリが素っ頓狂な声を上げた。

 ヘリのキャビンが渦巻きのように大きく周りだし、みるみる地面が迫ってくる。

「こんちくしょーーーー」アリーナ……というよりスフィーラの機能が、操縦桿での制御を目いっぱい試みる。

 そして……ズガガガーーーンという衝撃とともに、ヘリは地面に胴体着陸した。

 ◇◇◇

「ふひゃーー……みんな……大丈夫?」アリーナが二人の安否を確認する。
「なんとか……」メランタリが隣のシートで半分眼を回しながら答えた。
 JJは!? 慌ててキャビンの後方を見ると、ひっくり返って鼻血を出したまま
Vサインを出している。

 とりあえず……よかった……。

【下が広葉樹の林で、木がクッションになった様です。
 しかし、直ぐ機体から離れた方がよいです。火災が起きるかも知れません】
 足元のおぼつかない二人を抱えてアリーナがヘリを降り、少し離れた所で二人を休ませた。

「この位距離をとれば大丈夫かしら。ここってどの辺なの?」
【当初目標座標に、あと五十kmほどの所です】
「それなら、あとは歩いて行けるか……」
【アリーナ。兵装センサに感あり! 七時の方向!】
「えっ!?」

 するとモルツが指摘した方角から、男が二人飛び出して来た。
「動くな!! 全員、両手を頭の上に高く上げろ。」

(人間だよね……山賊? 二人とも銃を持ってる。でもスフィーラなら……)
【ダメです。茂みにも複数名潜んでいる様です。
 下手に動くとJJとメランタリが危険です。
 それに敵の兵装が、本機のデータにありません】

 アリーナは両手を頭上高くかかげ、JJとメランタリにもそうする様指示した。

「何の目的でこっちに向かって来た? お前ら、エルフの犬、いや……猫か?」
 男がメランタリの顔をチラっと見ながらそう言った。

「あなた方は何ですか? 山賊? 
 私達はエルフに逆らって町から逃げて来た者です!
 ですから、金目の物は何も持っていません!!」
 アリーナが毅然とした態度でそう言っ放った。

「はっ。嘘つくにしてももう少しましなウソ付けや。
 訓練受けてない奴が、あんな飛ばし方出来る訳ねーだろ! 
 って、お前なんだその恰好。痴女か?」

「痴女じゃありません! 
 これは戦闘服で、普段着は……あー、ヘリの中だよ……」

「敵機!! 九時の方向!! エルフ軍の戦闘機の様です!!」
 森の中から誰かの声がした。

「あちゃー。もう追い付かれちゃったか。あのー……私達逃げないとならないの。
 見逃して下さらない?」アリーナがちょっと鼻にかかった声でそう言った。
「馬鹿野郎! そんな悠長な事言ってる場合か! 森の中に走り込め!! 
 総員退却!!」
 アリーナを痴女呼ばわりした男が、そう言って一目散に林の中に逃げていった。

 アリーナもJJもメランタリも、何がどうなっているのか分からず、ポカンとしていたら、低空を飛んできた戦闘機が上空を通過ざま、ポンと何かを落とした。
 そして……ズガガガガガーーンという衝撃音がして、ヘリが木っ端みじんに爆砕し、三人はその爆風で吹っ飛ばされた。

「くそっ。吹っ飛ぶの今日これで何回目だよ……」JJがまたぼやいている。
「ちょっと、スフィーラ。大丈夫!」
 メランタリが、そばで四つん這いになっていたアリーナに声をかけた。
「あっ……あっ……私の普段着ぃーーーーーー」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

アリーナ・エルリード・フラミス【主人公】


昔の王国の第一王女。転生当初はスフィーラと名乗る。


15歳の時、脳腫瘍が原因で夭折するが、父である国王により、

人格データを外部記憶に保管される。それが約260年後、

偶然、軍用セクサロイドS-F10RA-996(スフィーラ)

インストールされ、アリーナの記憶を持ったまま蘇った。


当初、スフィーラの事は、支援AIのモルツに教えてもらっていた。

Miritary Objects Relaytion Transfer System)


メランタリ・ブルーベイム 猫獣人少女


モンデルマの街の第二区画で店員をしていて、妹のコイマリと暮らしている。

美少女が好きで、モンデルマに迷い込んだスフィーラと友達になる。


実はけっこう肉食系。


JJ(ジェイジェイ) 本名不詳の多分15歳


モンデルマ第三区画のスラム街に住み、窃盗やひったくりを生業にしている人間の孤児。

自分の出自も全く不明だが、同じく孤児のまひるを、自分の妹として面倒みている。


あるトラブルがきっかけで、スフィーラと知り合う。


アルマン レジスタンス・ブランチ55のリーダー


モンデルマから逃げてきたアリーナ達と合流し、協力してエルフ軍に対抗しようとしている。

大戦経験者で、戦争末期、高射砲部隊の新兵だった。


ヨーシュア エルフ王国女王


すでに五百年以上エルフ王国を統治しているが、見た目は十代の少女と変わらず年齢不詳。

心優しい女王なのだが、国政を臣下に任せてしまっている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み