第79話 エルフの国へ
文字数 3,618文字
「それは本当なのか?」
ターレス要塞でダルトンは、各都市のエルフ領主が軍と協同で、勝手に都市内の人間から徴兵を始めたとの報告を受けた。
もし事実であれば、完全に話が違う。本来ならこのターレス要塞のレジスタンスが窓口になって、あちらへの一万人規模の傭兵派遣を取り仕切るはずだ。
「すぐに魔導教会と連絡を取って、事実確認と今後の対応策の協議だ」
翌日、トーマスがやって来て言った。
「だめだ、話にならん。試験派兵部隊が帰国時に不正を行ったので、当初、魔導教会と取り決めた傭兵での派兵案は白紙に戻し、エルフ国独自で徴兵を行うと連絡があった。それだけじゃなくて、北の大ゲートも再開を準備している様だ。
どうやらエルフ国側も、本気でこちらとやり合う気の様だな」
「ですが、ゲートは魔導教会管理なのでは?」ダルトンが尋ねる。
「すまない。旧王都近くの通常ゲートはまだこちらで押さえれらているが、大ゲートまではマンパワー的にも魔導教会が抑えきれていない状況で、現地の技術者やスタッフごと先に軍に抑えられてしまった様だ。しかも、つい最近まで動かしていた事もあって、今度の稼働はひと月ぐらいで再開出来てしまう見込みだ」
「そうなると、強制的に徴兵された人間達を通常ゲートで足止めも出来ないって事ですね」
「そうだ。それに、直ぐにも飛行戦艦が飛んで来るだろう」
急遽、要塞内のレジスタンス達で作戦会議が持たれた。
そこに、アリーナ、JJも同席している。
「だからダルトン。お前がエルフの情婦なんかを連れてくるからこんな事になったんだ! すぐにあのエルフの娘を返して、元の傭兵案に戻す様、エルフ側と話合いを持て!」
一部の幹部が、ダルトンがミーシャをこちらに連れて来た事を強く非難した。
しかしダルトンは慌てる様子も見せず、ゆっくり立ち上がって言った。
「確かに俺の一存で、ミーシャを連れて来た事は問題があったかもしれない。しかし、よく考えてくれ。あっちではすでに親人間派の女王ヨーシュアが拉致されて、リゾン公爵が実権を握っているんだ。仮に予定通り話が進んで最初は傭兵派遣でうまくいってる様に見えても、後から無理難題をふっかけて来たに違いない。今の状況は所詮、遅かれ早かれだ! むしろミーシャがこちらに来て魔導教会が腰を上げた事で、あちらさんも焦っていると見るべきだろう。そうでなきゃ、いきなりエルフ領主経由で徴兵をかけたり、急遽飛行戦艦を送り込もうとしたりはすまい」
その意見に多くの幹部達が賛同し、ミーシャの件は結局不問とされた。
「それでどう動く?」その場の皆の衆目がダルトンに注がれる。
その様子を会議室の隅で見ていたアリーナが、隣に座っていたJJに漏らした。
「なんかダルトン。アルマンみたいだね」
「まったくだぜ。ほんと、いつの間にかリーダーっぽくなっちまった」
やがてダルトンが口を開いた。
「すでにみんな了解していると思うが、魔導教会が表だってエルフ国に反旗を翻すのは女王を確保してからだ。
それまで彼らは、ゲートにも飛行戦艦にも手出しは出来ない。
なので当面俺達が主導で奴らに対抗していく。
まず女王の救出だが……ちょっとここでの詳細は差し控えるが、アリーナ主体で作戦を組む。魔導教会があっちの世界への侵入を手引きしてくれる。
それから、強制徴兵と飛行戦艦の件なんだが……俺達で、北のゲートを破壊するぞ!! それさえぶっ壊しちまえば、魔導教会はすぐに修理はしないだろう?
そうなりゃ飛行戦艦はこっちに来られねえし、徴兵された連中もそう簡単にあっちには行けねえ」
その言葉に、場内が騒然とした。
「女王の件はアリーナに任せるのがいいと思うが、彼女がそっちに行ってしまって、ゲートの破壊は……我々で出来るのか?」
その場の幹部達が口々にそう言った。
「出来ると思います!」タスカムがそう言って立ち上がった。
「あの旧王都でゲートが爆発した時、自分はすぐそばで見ていました。
まあ直接ゲートに衝撃を加えたのは暴走したエルフ軍のアンドロイドですが、そんな難しい話ではなくて、ぶん殴ったら吹っ飛んだんです。
ですからそれなりの物理ダメージを与えればいいのではないでしょうか!?」
タスカムの意見にダルトンが付け加えた。
「予め魔導教会に、どのくらいの力でぶっ叩けばいいのか聞いておいた。
最初は最高機密だって渋ってたが教えてくれたよ。
俺達の手持ちの兵器で可能だ!
まあ、それを北のゲートまで持ってって、ブチ込むのが大変なんだがな」
おおー!! 歓声が上がった。
「すんません!!」挙手をしたのはJJだ。
「あの。うまく行けばいいんですけど、万一ゲート破壊や女王救出がうまく行かなかった場合の対策も必要だと思うんすけど……」
「おー、JJお前も成長したな。
まあそうなった場合、当面最大の脅威は飛行戦艦だ。
その対策も考えとか無きゃならねえ」ダルトンがそう言った。
「でも、HAMMはもう無いんだろ?」JJが言った。
「だな。今それの替わりになるもんが無いか、魔導教会側とちょっと談判中なのは確かだが……やっぱり、ゲート吹っ飛ばす事に全力を傾けようぜ!」
「まったく、しょうがねえな。出たとこ勝負はアルマンとちっともかわらねえや。
でもダルトン隊長。俺は賛成だ!!
こうなったら全力で大ゲート吹っ飛ばしてやろうぜ!」
JJの言葉に、周りの者たちも歓声を上げた。
◇◇◇
「それじゃ、私は手伝えないけど、大ゲートの件、頑張ってね」
アリーナがダルトンやJJ達に挨拶をした。
すでにサルワニとミーシャが、魔導教会の手引きでエルフ国内に潜入し情報収集を開始しており、それに合流するためアリーナとメリッサ、そしてあちらで行動しやすいタスカム率いる獣人部隊が、トーマスとともに旧王都近くのゲートからエルフ国に赴く。
「お前こそ、折れた所は応急処置だけなんだろ? あんまり無茶すんじゃねえぞ」
「まあ、走った位で折れたりしないよね? メリッサ」
「一応、瞬間接着剤とハンダゴテは持ったけど……
やっぱり無茶はしないほうがいいかも……」
そういいながらメリッサが笑った。
JJがアリーナに右手を差し出して言った。
「いよいよだな。俺達の悲願、絶対遂げて見せようぜ。
そんで……ちゃんと生きてまた会おうな」
「うん……」
アリーナもJJの手を取って、固く握手を交わした。
はは。もしかしてJJと手をつないだの初めてじゃないかしら?
心臓なんてあるはずないのに、こんなに胸がドキドキしてる……
でも向こうで戦闘になって、またLowBtteryになったら……
ううん。もう考えない。
私は王室の第一王女として、自分が出来る事をやるだけよアリーナ。
アリーナは、JJ達に別れを告げ、ゲートに向かうトラックに飛び乗った。
◇◇◇
アリーナとメリッサは僧兵のマントを頭からかぶり、トーマスに続いてゲートをくぐったが何も咎められなかった。ちょっと前に知ったのだが、トーマスは魔導教会のトップ3にはいる司教で、軍であっても並みの兵士程度では彼に逆らう事は出来ないとの事だった。
あんな朴念仁でも偉くなれるんだ……アリーナはちょっとそう思ったが、まあ最近は彼なりに良いところもあるかとはちょっと思っている。
でも、真面目だけど本当に不器用だよね。
タスカム達も魔導教会の傭兵という事で身分証を作ってもらっており、問題なくゲートを通過し、一同はエルフ国側のゲートから少し離れた街はずれの教会に入った。
「へー。魔導教会の施設ってこっちにもあるんですね」
アリーナの問いに、トーマスが呆れた様に言う。
「何を言っている。エルフの国の一般市民はほとんど我々の信者だ。
女王様だってそうなのだが、いろいろあってほとんどの貴族や政府関係者は違う。
まあ教会と政府の確執は、一般の国民にはあまり関係だないのだがな」
「えー。それなら、こちらの信者さん達で一斉に決起すれば、リゾン公爵や貴族なんで眼じゃないんじゃない?」
「お前な……」トーマスがさらに哀れみの眼でアリーナの顔を眺めた。
「そんなクーデタ―みたいな事をして上を排除したら、その後誰が国を運営していくのだ? 信心だけでは国政は出来んのだぞ。
まあ、今回はあっちがクーデタ―を起こした様なものなのだが……多少利害の食い違いはあっても、今まで教会と国はそれなりにうまくやって来たんだ。
お前も王女ならその位は理解しろ。いや、元王女か……」
「はは……すいません」
「すでにサルワニとミーシャは城下に入って、現地の信者達と調査を開始している。
それにサルワニは、昔の軍の知り合いも頼って動いている。
この後、私は彼らと合流するが、お前が大っぴらに城下をうろつく事は出来んので、当面ここで待機してもらうが、いざとなったらすぐに動ける様に準備だけはしておいてくれ」
「了解しましたー」とアリーナは微笑んだ。
ターレス要塞でダルトンは、各都市のエルフ領主が軍と協同で、勝手に都市内の人間から徴兵を始めたとの報告を受けた。
もし事実であれば、完全に話が違う。本来ならこのターレス要塞のレジスタンスが窓口になって、あちらへの一万人規模の傭兵派遣を取り仕切るはずだ。
「すぐに魔導教会と連絡を取って、事実確認と今後の対応策の協議だ」
翌日、トーマスがやって来て言った。
「だめだ、話にならん。試験派兵部隊が帰国時に不正を行ったので、当初、魔導教会と取り決めた傭兵での派兵案は白紙に戻し、エルフ国独自で徴兵を行うと連絡があった。それだけじゃなくて、北の大ゲートも再開を準備している様だ。
どうやらエルフ国側も、本気でこちらとやり合う気の様だな」
「ですが、ゲートは魔導教会管理なのでは?」ダルトンが尋ねる。
「すまない。旧王都近くの通常ゲートはまだこちらで押さえれらているが、大ゲートまではマンパワー的にも魔導教会が抑えきれていない状況で、現地の技術者やスタッフごと先に軍に抑えられてしまった様だ。しかも、つい最近まで動かしていた事もあって、今度の稼働はひと月ぐらいで再開出来てしまう見込みだ」
「そうなると、強制的に徴兵された人間達を通常ゲートで足止めも出来ないって事ですね」
「そうだ。それに、直ぐにも飛行戦艦が飛んで来るだろう」
急遽、要塞内のレジスタンス達で作戦会議が持たれた。
そこに、アリーナ、JJも同席している。
「だからダルトン。お前がエルフの情婦なんかを連れてくるからこんな事になったんだ! すぐにあのエルフの娘を返して、元の傭兵案に戻す様、エルフ側と話合いを持て!」
一部の幹部が、ダルトンがミーシャをこちらに連れて来た事を強く非難した。
しかしダルトンは慌てる様子も見せず、ゆっくり立ち上がって言った。
「確かに俺の一存で、ミーシャを連れて来た事は問題があったかもしれない。しかし、よく考えてくれ。あっちではすでに親人間派の女王ヨーシュアが拉致されて、リゾン公爵が実権を握っているんだ。仮に予定通り話が進んで最初は傭兵派遣でうまくいってる様に見えても、後から無理難題をふっかけて来たに違いない。今の状況は所詮、遅かれ早かれだ! むしろミーシャがこちらに来て魔導教会が腰を上げた事で、あちらさんも焦っていると見るべきだろう。そうでなきゃ、いきなりエルフ領主経由で徴兵をかけたり、急遽飛行戦艦を送り込もうとしたりはすまい」
その意見に多くの幹部達が賛同し、ミーシャの件は結局不問とされた。
「それでどう動く?」その場の皆の衆目がダルトンに注がれる。
その様子を会議室の隅で見ていたアリーナが、隣に座っていたJJに漏らした。
「なんかダルトン。アルマンみたいだね」
「まったくだぜ。ほんと、いつの間にかリーダーっぽくなっちまった」
やがてダルトンが口を開いた。
「すでにみんな了解していると思うが、魔導教会が表だってエルフ国に反旗を翻すのは女王を確保してからだ。
それまで彼らは、ゲートにも飛行戦艦にも手出しは出来ない。
なので当面俺達が主導で奴らに対抗していく。
まず女王の救出だが……ちょっとここでの詳細は差し控えるが、アリーナ主体で作戦を組む。魔導教会があっちの世界への侵入を手引きしてくれる。
それから、強制徴兵と飛行戦艦の件なんだが……俺達で、北のゲートを破壊するぞ!! それさえぶっ壊しちまえば、魔導教会はすぐに修理はしないだろう?
そうなりゃ飛行戦艦はこっちに来られねえし、徴兵された連中もそう簡単にあっちには行けねえ」
その言葉に、場内が騒然とした。
「女王の件はアリーナに任せるのがいいと思うが、彼女がそっちに行ってしまって、ゲートの破壊は……我々で出来るのか?」
その場の幹部達が口々にそう言った。
「出来ると思います!」タスカムがそう言って立ち上がった。
「あの旧王都でゲートが爆発した時、自分はすぐそばで見ていました。
まあ直接ゲートに衝撃を加えたのは暴走したエルフ軍のアンドロイドですが、そんな難しい話ではなくて、ぶん殴ったら吹っ飛んだんです。
ですからそれなりの物理ダメージを与えればいいのではないでしょうか!?」
タスカムの意見にダルトンが付け加えた。
「予め魔導教会に、どのくらいの力でぶっ叩けばいいのか聞いておいた。
最初は最高機密だって渋ってたが教えてくれたよ。
俺達の手持ちの兵器で可能だ!
まあ、それを北のゲートまで持ってって、ブチ込むのが大変なんだがな」
おおー!! 歓声が上がった。
「すんません!!」挙手をしたのはJJだ。
「あの。うまく行けばいいんですけど、万一ゲート破壊や女王救出がうまく行かなかった場合の対策も必要だと思うんすけど……」
「おー、JJお前も成長したな。
まあそうなった場合、当面最大の脅威は飛行戦艦だ。
その対策も考えとか無きゃならねえ」ダルトンがそう言った。
「でも、HAMMはもう無いんだろ?」JJが言った。
「だな。今それの替わりになるもんが無いか、魔導教会側とちょっと談判中なのは確かだが……やっぱり、ゲート吹っ飛ばす事に全力を傾けようぜ!」
「まったく、しょうがねえな。出たとこ勝負はアルマンとちっともかわらねえや。
でもダルトン隊長。俺は賛成だ!!
こうなったら全力で大ゲート吹っ飛ばしてやろうぜ!」
JJの言葉に、周りの者たちも歓声を上げた。
◇◇◇
「それじゃ、私は手伝えないけど、大ゲートの件、頑張ってね」
アリーナがダルトンやJJ達に挨拶をした。
すでにサルワニとミーシャが、魔導教会の手引きでエルフ国内に潜入し情報収集を開始しており、それに合流するためアリーナとメリッサ、そしてあちらで行動しやすいタスカム率いる獣人部隊が、トーマスとともに旧王都近くのゲートからエルフ国に赴く。
「お前こそ、折れた所は応急処置だけなんだろ? あんまり無茶すんじゃねえぞ」
「まあ、走った位で折れたりしないよね? メリッサ」
「一応、瞬間接着剤とハンダゴテは持ったけど……
やっぱり無茶はしないほうがいいかも……」
そういいながらメリッサが笑った。
JJがアリーナに右手を差し出して言った。
「いよいよだな。俺達の悲願、絶対遂げて見せようぜ。
そんで……ちゃんと生きてまた会おうな」
「うん……」
アリーナもJJの手を取って、固く握手を交わした。
はは。もしかしてJJと手をつないだの初めてじゃないかしら?
心臓なんてあるはずないのに、こんなに胸がドキドキしてる……
でも向こうで戦闘になって、またLowBtteryになったら……
ううん。もう考えない。
私は王室の第一王女として、自分が出来る事をやるだけよアリーナ。
アリーナは、JJ達に別れを告げ、ゲートに向かうトラックに飛び乗った。
◇◇◇
アリーナとメリッサは僧兵のマントを頭からかぶり、トーマスに続いてゲートをくぐったが何も咎められなかった。ちょっと前に知ったのだが、トーマスは魔導教会のトップ3にはいる司教で、軍であっても並みの兵士程度では彼に逆らう事は出来ないとの事だった。
あんな朴念仁でも偉くなれるんだ……アリーナはちょっとそう思ったが、まあ最近は彼なりに良いところもあるかとはちょっと思っている。
でも、真面目だけど本当に不器用だよね。
タスカム達も魔導教会の傭兵という事で身分証を作ってもらっており、問題なくゲートを通過し、一同はエルフ国側のゲートから少し離れた街はずれの教会に入った。
「へー。魔導教会の施設ってこっちにもあるんですね」
アリーナの問いに、トーマスが呆れた様に言う。
「何を言っている。エルフの国の一般市民はほとんど我々の信者だ。
女王様だってそうなのだが、いろいろあってほとんどの貴族や政府関係者は違う。
まあ教会と政府の確執は、一般の国民にはあまり関係だないのだがな」
「えー。それなら、こちらの信者さん達で一斉に決起すれば、リゾン公爵や貴族なんで眼じゃないんじゃない?」
「お前な……」トーマスがさらに哀れみの眼でアリーナの顔を眺めた。
「そんなクーデタ―みたいな事をして上を排除したら、その後誰が国を運営していくのだ? 信心だけでは国政は出来んのだぞ。
まあ、今回はあっちがクーデタ―を起こした様なものなのだが……多少利害の食い違いはあっても、今まで教会と国はそれなりにうまくやって来たんだ。
お前も王女ならその位は理解しろ。いや、元王女か……」
「はは……すいません」
「すでにサルワニとミーシャは城下に入って、現地の信者達と調査を開始している。
それにサルワニは、昔の軍の知り合いも頼って動いている。
この後、私は彼らと合流するが、お前が大っぴらに城下をうろつく事は出来んので、当面ここで待機してもらうが、いざとなったらすぐに動ける様に準備だけはしておいてくれ」
「了解しましたー」とアリーナは微笑んだ。