第58話 ラストエリクサー
文字数 3,140文字
「まったく、今更振り出しに戻るとかありかよ」JJがぼやく。
「すまねえな。6Cへ撤退する際、持って歩く訳にはいかなくて……いつかは取りに帰ろうと思ってたんだ」アルマンがトラックを運転しながらそう言った。
「でも本当にあるんですか? 飛行戦艦用の秘密兵器」
タルサがアルマンに尋ねる。
「ああ。お前達に話した事は無いと思うが……ダルトンにはちょこっと話したか。
大戦末期、俺は高射砲部隊の新兵でな。あの巨大レンガがいっつも空から爆弾大サービスしてくれててな。でもこっちの対空砲やミサイルは効果がなくってさ。
もうボロボロ。それがさ、終戦の一ヵ月前だぜ。
HAMM っちゅうのが配備されたんだ。
そいつは、歩兵が携行できるサイズなんだが、当たり所によっては一発で飛行戦艦を落とせるっちゅう触れ込みだったんだわ。
でも、結局実戦で使われた形跡はなく、そのままお蔵入り。
まあ俺は持ち前の盗人根性で、終戦時のどさくさに一基くすねたっちゅう訳だ」
「へー。それで本当に戦艦落とせるの?」タルサがしつこく聞いてくる。
「俺にも原理は分からんのだが、なんでも飛行戦艦の浮力を邪魔するもんらしい。
それに、さっきも言った様に実戦での実績がないから本当にどれだけのもんかは、正直分からん」アルマンはそうは言ったものの、彼がこの兵器に賭けている様にJJには感じられた。
「だが、今の俺達にはそうそう手札があるわけじゃねえしな。使えそうなもんは、親でも使わねえと……」ダルトンがそう言って、アルマンを支持した。
「アルマン隊長。どうやら南西方面への飛行戦艦の空爆が始まった様です」タスカムが無線傍受しながらそう言った。
「ああ。急がねえとな」
レジスタンスに合流しようとしたJJが、スフィーラやメランタリと最初にたどり着いたのが、アルマンが仕切っていたレジスタンスの55ブランチだ。そこに到着した際、アジト自体はエルフ軍によって破壊されていたが、アルマンは少しも慌てず、二百mほど離れた山中の地面を掘り返した。
「ほら、こいつだ」
木箱が出て来て、それを開けると油紙に包まれた兵器が数点出て来た。
「おやまあ。よくもこんなものを後生大事に隠してましたね」
タスカムが感心する。
「なーに。秘密兵器ってのは、本当に最後の最後に使うもんだ。
使わねえで死んじまうのは……なんだっけ? ラストエリクサー症候群?」
アルマンがおどけていう。
「なんすかそれ?」JJもタルサもそんなの聞いた事がないと言う。
「まあ、お前らはRPGゲームとかした事ないよな……」
「なんすかそれ?」再び、JJとタルサがハモった。
「いやいや、それだと使わないでラスボスに勝たないと……」
タスカムが失笑していた。
「これはなんすか?」JJがリュックのようなものを取り上げて言った。
「あー。それは迂闊に変な所引っ張るな。すっ飛んでくぞ。それは火龍といってな……まあ、使う時教えるわ。それで、そうそう。それがHAMM」
「一発しかねえじゃん」
「文句言うな。かっぱらうだけで大変だったんだぞ」
そしてそれらの秘密兵器? を積み込んで、アルマン達は急ぎ新たな活動拠点となるはずの、南のターレス戦略要塞を目指した。
◇◇◇
「こんばんわー」アリーナが第三区画の交番にそっと入っていく。
「うん? なんだよこんな遅くに……ってあれ、お前さん前に会ってるよな?」
「あー覚えててくれたんだ。私、美人だからねー」
「自分で言ってろよ……あー思い出した。JJの王国紙幣娼婦!
だが、ここいらはもう立ちんぼ一切禁止だからな!!
……そういやJJこないだ来たけど、お前まさかJJ追っかけて来たのか?」
「えっ?」JJを追いかけて来たと言われ、アリーナはちょっとドキっとしてしまった。そうか、JJもここに寄ったんだ。
「いやだわ、違うわよ。ちょっとお巡りさんにご相談があって」
「屋根なら貸さねえぞ!」
「えっ!? なんで知ってんのよ!」
「なんだよ図星かよ。JJもこないだそんな事言ってたんだ。
ほんとお前ら似た者同志というか……で、どんな事情だよ。
JJにはマイタリ婆さんの居所教えたけどな」
「あ! マイタリ婆さん元気なんだ……」
「元気かどうかは知らねえけどな。
すきま風ピューピューの掘立小屋で一人で住んでるのさ。場所教えようか?」
「あー。私はそれでいいんだけれど……お巡りさん相変わらずいい人だよね。
だから命は助けてあげる。おとなしく私のいう事聞いてくれないかな?」
「お前……何言ってやがる?」
獣人の巡査はゆっくり手を腰の拳銃に回そうとした。
しかし、次の瞬間。
いつの間にか後ろに回り込んでいたトーマスに組み伏せられた。
「スフィーラ。回りくどいぞ。女王様がお風邪を召してしまう。
こんなのは縛り上げておけばいい」
「んんんっ!?」トーマスに首を抑えられて、巡査は声が出せない。
「やめて! この人はいいお巡りさんなんだって!
お巡りさん、今のこの人の話聞いてた?
という訳で女王様がお待ちなの。あなた、もう戻れないわよ」
「んんーーっ」
…………
「いや、事情は分かったけど……いいのかい? 女王様が留置場で?」
巡査が恐縮しまくってそう言った。
「あそこが一番暖かいんでしょ? 本人も初めての経験だって喜んでるみたいだし、いいんじゃない? それで、お巡りさんのお名前は?」
アリーナが高飛車に言う。
「おれはコタロウ。見ての通りのうだつの上がらない平巡査さ。
にしても、何て事に巻き込んでくれたんだい……やっとの思いで警察に就職したってのに。これで俺もおしまいだな」
「何を言っている。女王様がご無事に帰国出来れば、お前は報償ものだぞ」
トーマスがそう言った。
「ほんとかよ?」コタロウ巡査が言う。
「報償欲しかったら、ちゃんと私達の役に立ってよね」
またアリーナが高飛車に言う。
「くそっ。お前最初からいけ好かない女だったよな」
コタロウ巡査は、定期連絡も異常なしと報告してくれ、アリーナ達への協力を惜しまない様であった。そして夜半。聖ドミナント教会が火災で焼け落ち、ヨーシュア女王が巻き込まれ安否不明と報道されている事を教えてくれた。
「おい。これで、ほんとに報償貰えるのかよ? 俺何かヤバイ事にまきこまれてんじゃねえの?」コタロウ巡査が顔を真っ青にして震えていたら、ヨーシュアが仮眠から覚めて留置場から出て来た。
「ご迷惑をおかけしてすいません。無事、国に帰ったらあなたのご助力には必ず報いますから。でもこれでは、直ぐに帰るという訳にはいかなそうですね。でもどうして軍が……」
そういうヨーシュアにアリーナが声をかけた。
「あの女王様。サルワニさんとパルミラさんがその理由を一番良く知っていて、あなたにお話するといってゲートをくぐられたのですが……何も聞いてはいないのですか?」
アリーナの言葉に、ヨーシュアは確信を得た様に言った。
「やはり、その事が関係しているのですね」
「えっ? やはりって……という事は、二人からお話は聞いていて、それでこちらに視察にいらしたのですか?」
「いいえ。帰って来たと報告は受けましたが、パルミラ達とは一言も話しておりませんし、会ってもおりません。なぜそれをと聞かれますと困るのですが……先日、聖ドミナント教会の沐浴場で、突然あなた位の年の人間の男の子が入って来て……私、人間の言葉はわからなかったのですが、二人の名前を言った様な気がして。
以来、ずっと気にはなっていたのです」
「えーー!? 沐浴場に入った? もしかしてそれってJJ?
あいつ、女王の沐浴を覗くとは……けしからん!!」
そしてアリーナは、モンデルマの件とサルワニ、パルミラの件を、順にヨーシュアに話して聞かせた。
「すまねえな。6Cへ撤退する際、持って歩く訳にはいかなくて……いつかは取りに帰ろうと思ってたんだ」アルマンがトラックを運転しながらそう言った。
「でも本当にあるんですか? 飛行戦艦用の秘密兵器」
タルサがアルマンに尋ねる。
「ああ。お前達に話した事は無いと思うが……ダルトンにはちょこっと話したか。
大戦末期、俺は高射砲部隊の新兵でな。あの巨大レンガがいっつも空から爆弾大サービスしてくれててな。でもこっちの対空砲やミサイルは効果がなくってさ。
もうボロボロ。それがさ、終戦の一ヵ月前だぜ。
そいつは、歩兵が携行できるサイズなんだが、当たり所によっては一発で飛行戦艦を落とせるっちゅう触れ込みだったんだわ。
でも、結局実戦で使われた形跡はなく、そのままお蔵入り。
まあ俺は持ち前の盗人根性で、終戦時のどさくさに一基くすねたっちゅう訳だ」
「へー。それで本当に戦艦落とせるの?」タルサがしつこく聞いてくる。
「俺にも原理は分からんのだが、なんでも飛行戦艦の浮力を邪魔するもんらしい。
それに、さっきも言った様に実戦での実績がないから本当にどれだけのもんかは、正直分からん」アルマンはそうは言ったものの、彼がこの兵器に賭けている様にJJには感じられた。
「だが、今の俺達にはそうそう手札があるわけじゃねえしな。使えそうなもんは、親でも使わねえと……」ダルトンがそう言って、アルマンを支持した。
「アルマン隊長。どうやら南西方面への飛行戦艦の空爆が始まった様です」タスカムが無線傍受しながらそう言った。
「ああ。急がねえとな」
レジスタンスに合流しようとしたJJが、スフィーラやメランタリと最初にたどり着いたのが、アルマンが仕切っていたレジスタンスの55ブランチだ。そこに到着した際、アジト自体はエルフ軍によって破壊されていたが、アルマンは少しも慌てず、二百mほど離れた山中の地面を掘り返した。
「ほら、こいつだ」
木箱が出て来て、それを開けると油紙に包まれた兵器が数点出て来た。
「おやまあ。よくもこんなものを後生大事に隠してましたね」
タスカムが感心する。
「なーに。秘密兵器ってのは、本当に最後の最後に使うもんだ。
使わねえで死んじまうのは……なんだっけ? ラストエリクサー症候群?」
アルマンがおどけていう。
「なんすかそれ?」JJもタルサもそんなの聞いた事がないと言う。
「まあ、お前らはRPGゲームとかした事ないよな……」
「なんすかそれ?」再び、JJとタルサがハモった。
「いやいや、それだと使わないでラスボスに勝たないと……」
タスカムが失笑していた。
「これはなんすか?」JJがリュックのようなものを取り上げて言った。
「あー。それは迂闊に変な所引っ張るな。すっ飛んでくぞ。それは火龍といってな……まあ、使う時教えるわ。それで、そうそう。それがHAMM」
「一発しかねえじゃん」
「文句言うな。かっぱらうだけで大変だったんだぞ」
そしてそれらの秘密兵器? を積み込んで、アルマン達は急ぎ新たな活動拠点となるはずの、南のターレス戦略要塞を目指した。
◇◇◇
「こんばんわー」アリーナが第三区画の交番にそっと入っていく。
「うん? なんだよこんな遅くに……ってあれ、お前さん前に会ってるよな?」
「あー覚えててくれたんだ。私、美人だからねー」
「自分で言ってろよ……あー思い出した。JJの王国紙幣娼婦!
だが、ここいらはもう立ちんぼ一切禁止だからな!!
……そういやJJこないだ来たけど、お前まさかJJ追っかけて来たのか?」
「えっ?」JJを追いかけて来たと言われ、アリーナはちょっとドキっとしてしまった。そうか、JJもここに寄ったんだ。
「いやだわ、違うわよ。ちょっとお巡りさんにご相談があって」
「屋根なら貸さねえぞ!」
「えっ!? なんで知ってんのよ!」
「なんだよ図星かよ。JJもこないだそんな事言ってたんだ。
ほんとお前ら似た者同志というか……で、どんな事情だよ。
JJにはマイタリ婆さんの居所教えたけどな」
「あ! マイタリ婆さん元気なんだ……」
「元気かどうかは知らねえけどな。
すきま風ピューピューの掘立小屋で一人で住んでるのさ。場所教えようか?」
「あー。私はそれでいいんだけれど……お巡りさん相変わらずいい人だよね。
だから命は助けてあげる。おとなしく私のいう事聞いてくれないかな?」
「お前……何言ってやがる?」
獣人の巡査はゆっくり手を腰の拳銃に回そうとした。
しかし、次の瞬間。
いつの間にか後ろに回り込んでいたトーマスに組み伏せられた。
「スフィーラ。回りくどいぞ。女王様がお風邪を召してしまう。
こんなのは縛り上げておけばいい」
「んんんっ!?」トーマスに首を抑えられて、巡査は声が出せない。
「やめて! この人はいいお巡りさんなんだって!
お巡りさん、今のこの人の話聞いてた?
という訳で女王様がお待ちなの。あなた、もう戻れないわよ」
「んんーーっ」
…………
「いや、事情は分かったけど……いいのかい? 女王様が留置場で?」
巡査が恐縮しまくってそう言った。
「あそこが一番暖かいんでしょ? 本人も初めての経験だって喜んでるみたいだし、いいんじゃない? それで、お巡りさんのお名前は?」
アリーナが高飛車に言う。
「おれはコタロウ。見ての通りのうだつの上がらない平巡査さ。
にしても、何て事に巻き込んでくれたんだい……やっとの思いで警察に就職したってのに。これで俺もおしまいだな」
「何を言っている。女王様がご無事に帰国出来れば、お前は報償ものだぞ」
トーマスがそう言った。
「ほんとかよ?」コタロウ巡査が言う。
「報償欲しかったら、ちゃんと私達の役に立ってよね」
またアリーナが高飛車に言う。
「くそっ。お前最初からいけ好かない女だったよな」
コタロウ巡査は、定期連絡も異常なしと報告してくれ、アリーナ達への協力を惜しまない様であった。そして夜半。聖ドミナント教会が火災で焼け落ち、ヨーシュア女王が巻き込まれ安否不明と報道されている事を教えてくれた。
「おい。これで、ほんとに報償貰えるのかよ? 俺何かヤバイ事にまきこまれてんじゃねえの?」コタロウ巡査が顔を真っ青にして震えていたら、ヨーシュアが仮眠から覚めて留置場から出て来た。
「ご迷惑をおかけしてすいません。無事、国に帰ったらあなたのご助力には必ず報いますから。でもこれでは、直ぐに帰るという訳にはいかなそうですね。でもどうして軍が……」
そういうヨーシュアにアリーナが声をかけた。
「あの女王様。サルワニさんとパルミラさんがその理由を一番良く知っていて、あなたにお話するといってゲートをくぐられたのですが……何も聞いてはいないのですか?」
アリーナの言葉に、ヨーシュアは確信を得た様に言った。
「やはり、その事が関係しているのですね」
「えっ? やはりって……という事は、二人からお話は聞いていて、それでこちらに視察にいらしたのですか?」
「いいえ。帰って来たと報告は受けましたが、パルミラ達とは一言も話しておりませんし、会ってもおりません。なぜそれをと聞かれますと困るのですが……先日、聖ドミナント教会の沐浴場で、突然あなた位の年の人間の男の子が入って来て……私、人間の言葉はわからなかったのですが、二人の名前を言った様な気がして。
以来、ずっと気にはなっていたのです」
「えーー!? 沐浴場に入った? もしかしてそれってJJ?
あいつ、女王の沐浴を覗くとは……けしからん!!」
そしてアリーナは、モンデルマの件とサルワニ、パルミラの件を、順にヨーシュアに話して聞かせた。