第60話 集結

文字数 3,248文字

 アリーナが魔導教会管理のターレス戦略要塞を目指して出発した頃、秘密兵器を回収したアルマン達一行も同じくそこを目指していた。

「今日、十時過ぎに北方山脈のアジトが飛行戦艦に空爆されました。これでレジスタンスの主要拠点はほとんどやられましたね」
 あちこちに散っているレジスタンス達と無線で連絡を取り合いながら、タスカムが状況を報告した。すでにアルマンから、ターレス戦略要塞に移動する様、各地に指示は出ていたが、どれだけのレジスタンスが空爆を逃れて向かえているのかは分からない。だが、アルマン達に先行して北方山脈のアジトを発った者たちも含め、もうかなりの数がターレス戦略要塞にたどり着いているだろう。
 
「どうやら飛行戦艦が南に進路を向けた様です。
 レジスタンス達が参集しているのがバレたんでしょうね」
 タスカムがアルマンに報告する。
「だとすると……そのまま向かってもらうのはやっぱり困るな。
 よし! 俺達は、この秘密兵器で途中で飛行戦艦の足止めを試みるぞ!」
 アルマンがそう叫んだ。

「ちょっと待って下さい! この人数であれに当たるんですか?」
 ダルトンやJJがびっくりして尋ねた。
「いや、まー。実際にやるのは俺一人かな。どうせHAMMは一発だけだし。
 お前達は先に逃げてくれ」アルマンがそう言った。

「何言ってんですか! やるならチームでやりましょうよ! 
 でもそんなの。要塞にたどり着いてから、そこにいる連中と連携してあたったほうがよくありませんか?
 だいたいアルマン。なんでそんなに一人で気合入れてるんですか?」
 ダルトンが不思議そうに聞く。

「ああ……おれはあいつに……あの飛行戦艦に一矢報いなきゃ気が収まらんのだ。
 上官も仲間も周辺の町や村も……そして家族も、みんなあいつにやられちまったんだ。それに要塞近くまであいつを近づけたら、万一HAMMでうまくいかない時にリカバリーが効かない。だからぶっ放すのは早い方がいい!」
「であればなおさらです。ひとりで死にに行くような事はさせませんよ。
 我々はレジスタンスです。ちゃんと作戦を立てて、生きて仲間と合流しますよ!」
 ダルトンがそう言った。

「ああ、そうだな……」アルマンは上を向いて眼頭を押さえた。

 ◇◇◇

 旧王都からはるか西の森にあるひなびた教会。
 エルフの女王、ヨーシュアはトーマスに案内され、奥の一室に通された。
 そしてそこにはかなり高齢と思われる老エルフが座っていた。

 私がこの方を知っている? 
 ヨーシュアは眼を凝らしてじっと老エルフの顔を眺めた。

「あの……もしかして……お師匠様ですか?」
「ああ、ヨーシュア。久方ぶりじゃの。無事で何よりじゃった」
「あ……やはり最後の大魔導士ウイルヘイズ様! もうとっくにお亡くなりになったと伺っておりましたのに……戦時下で自由に動く事が出来ず、弔問にもうかがえず大変心残りだったのですが……ああ、まさかご存命でいらしたとは」
 
「だましていてすまなんだな。失われた魔法を探すためには、この人間の国に潜伏するしかないと考え、まあ半分軍もだましながらこちらで暮らしておったのだよ。
 戦時下でむやみに軍と衝突するのもはばかられたし、軍はもはや魔法の復活は不要という立場だったしな」
 じじい様はそうヨーシュアに説明し、そして続けた。
「それでな。この度、ようやく魔法の存在にたどり着いたんじゃ! 
 お前も会ったのじゃろ? 髪の色以外、あの姫様そっくりのアンドロイドに。
 だからもう軍に遠慮する事もないと思い、人間達に表立って加担する事にした」
「あ、それってスフィーラさん? 
 姫様って……ああっ、やはりお師匠様もそう思われましたか」

 そこへじじい様の側近が近づいて来て言った。
「ご隠居様。ご指示通り、先ほど軍に対して、この度の女王様の一連の事件についての非難声明を出しました。合わせて今回のレジスタンスへの空爆を一方的な虐殺行為であるとして、ターレス戦略要塞を彼らの避難所として開放した事を通達しました」
 
「うむ、それでよい。もうリゾンのハナタレに好き勝手させんでもよい。
 魔法さえ復活すれば、エルフ国の栄光は復活出来るはずじゃ。
 それで、スフィーラはどうした?」じじい様がそばにいたトーマスに問う。

「あー、いやー。申し訳ございませんご隠居様。女王様のご意向もあって、彼女にはターレス要塞のレジスタンス支援に行ってもらいました」
 トーマスがものすごく小さくなってそう言った。

「なんじゃと!? あの子が失われればまた振り出しじゃぞ……じゃが、まあ。致し方ないか。あの気性ではだめだと言っても、這ってでも向かったじゃろうしな」
 じじい様が呆れた様にそう言った。

「お師匠様。大丈夫です! 彼女はちゃんと帰って来てくれますよ」
 ヨーシュアが明るく微笑みながらそう言った。

 ◇◇◇

【民間周波数での報道を傍受。魔導教会がターレス要塞をレジスタンスの避難所として開放した事が告知されました。それに伴い、飛行戦艦がその攻撃に向かう事が決まった様です。飛行戦艦の推定要塞到着時刻まであと三十時間】
「あら、間に合ったじゃない! こっちはあと半日くらいで着くのよね?」

 そしてその日の夜、アリーナはターレス戦略要塞に到着した。
 要塞の周囲には、元々配置されていたと思われる僧兵達が立っていて、身体検査をしながらレジスタンス達の受け入れを行っていた。

「結構な数が来ているわね。知ってるメンツ探さなきゃ」
 中に入るとホールの様な所に通され、そこでは、逃げ込んできたレジスタンス達が思い思いの恰好で休息していた。

「スフィーラ!!」呼び止められてそちらを見ると、メリッサだ!
「あー、メリッサ。無事でよかったよー」
 アリーナがそう言ってメリッサに駆け寄る。

「もう! それはこっちのセリフよ。無事なら無事でちゃんと知らせてよ!
 みんなもう滅茶苦茶心配してて……JJなんか見る影もなかったんだから!」
 メリッサの言葉に、アリーナの心は曇った。

「あ……じゃあ、JJはメランタリの事も……」
「うん……」メリッサが力なく言った。
「そっか。それでJJやダルトン達は? モンデルマに行ったんでしょ?」

「ええそうよ。でも、まだここにはたどり着いていないの。なんでもアルマンが、飛行戦艦に対策するって言って、隠してあった兵器を55ブランチに回収しに寄っててね。ダルトンやJJ達もいっしょなの」
「そうなんだ……無茶しなきゃいいけど。でもここなら安全だし……」
「それがね。どうも雲行きが怪しくてね。魔導教会が動いてくれているんだけど、軍はそれを無視してここを空爆するかもしれないって事で、さっきあちこちのレジスタンス部隊の幹部達が集まって、対抗する手段の相談を始めたところよ」

 そこへメトラックが近づいて来て、そこにアリーナがいるのに気付いた様で、ちらりと顔を見たが、気にする素振りも見せず言った。
「メリッサさん。どうやらアルマンさんは先手を打って、飛行戦艦がここに近づく前に、回収した兵器で勝負をかけるみたいです。そう連絡があったらしく、さっき幹部会の人から聞きました」
「そんな!? 数人で何しようって言うのよ!」メリッサの顔が曇った。

「アルマン達の位置は分かる? 私、支援に行って来る!!」
 アリーナがそう言って立ち上がった。

「あれ? 膝は大丈夫なんですか? タスカムさんから、膝やっちゃってるのをそのまま置いてきたって聞いてたんですけど?」
 メトラックがそっけなくそう言った。
「あー、万全じゃないけど、一応歩けるくらいにはナノマシンで回復したわ」
「それじゃ……僕が一緒に行きます! 僕はあなたのメカニックですから。
 車借りられるか聞いてきますね!!」
 そう言ってメトラックがその場を離れた。

「あれ? メトラック、何か雰囲気変わった?」アリーナがメリッサに尋ねた。
「ええ。あなたがいなくて、見る影が無かったのはJJだけじゃないのよ!」
 メリッサはそう言ってほほ笑んだ。

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登場人物紹介

アリーナ・エルリード・フラミス【主人公】


昔の王国の第一王女。転生当初はスフィーラと名乗る。


15歳の時、脳腫瘍が原因で夭折するが、父である国王により、

人格データを外部記憶に保管される。それが約260年後、

偶然、軍用セクサロイドS-F10RA-996(スフィーラ)

インストールされ、アリーナの記憶を持ったまま蘇った。


当初、スフィーラの事は、支援AIのモルツに教えてもらっていた。

Miritary Objects Relaytion Transfer System)


メランタリ・ブルーベイム 猫獣人少女


モンデルマの街の第二区画で店員をしていて、妹のコイマリと暮らしている。

美少女が好きで、モンデルマに迷い込んだスフィーラと友達になる。


実はけっこう肉食系。


JJ(ジェイジェイ) 本名不詳の多分15歳


モンデルマ第三区画のスラム街に住み、窃盗やひったくりを生業にしている人間の孤児。

自分の出自も全く不明だが、同じく孤児のまひるを、自分の妹として面倒みている。


あるトラブルがきっかけで、スフィーラと知り合う。


アルマン レジスタンス・ブランチ55のリーダー


モンデルマから逃げてきたアリーナ達と合流し、協力してエルフ軍に対抗しようとしている。

大戦経験者で、戦争末期、高射砲部隊の新兵だった。


ヨーシュア エルフ王国女王


すでに五百年以上エルフ王国を統治しているが、見た目は十代の少女と変わらず年齢不詳。

心優しい女王なのだが、国政を臣下に任せてしまっている。

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