第54話 残留思念?

文字数 2,449文字

 警備のローテーションに手を加え、三十分ほど仮領主邸の周囲の警戒が手薄になる様に手配した。そしてランダイスにリモート接続されたマーダーⅡがゆっくりと仮領主邸に侵入を開始する。
 午前零時。女王も側近達も警備は兵に任せてぐっすり就寝中のはずだ。
 ランダイスはなんの苦労もなく、女王の寝室の前にたどり着いた。

 心なしか、緊張で全身が武者震いしている様に思える。
 はは、機械なのにな……。
 しっかりしろランダイス。ちょっと驚かすだけだ。決して乱暴してはならんぞ。
 自分で自分にそう言い聞かせるが、女王に夜這いをかけるという極度の緊張で、心臓が爆発しそうだ。

 深く深呼吸をして、部屋に侵入する。
 おお、この機械。こんなに暗くても良く見えるじゃないか。
 女王様のベッドは……あれだな。
 ランダイスがそっと近づく。

 ああ、女王様のご尊顔をこんなに近くで拝する事が出来るとは……
 なんとも気高く、美しく……そして可愛らしい寝顔だ。
 
 ぐっすりお眠りの様で、起こすのが可哀そうな気もしたが、いやいや目的を達成せねば。ランダイスはそう思って、そっと女王の頬を人差し指でツンツンした。

「ん……あっ、あれ?」どうやら眼を覚まされた様だ。
 ちょっとまだ寝ぼけられているのか、ボーっとあたりを見渡されている。
 そしてやにわに、マーダーⅡと眼があった。

(それ!! きゃーっと一発叫んでください!!)
 ランダイスはそう願った。それで今回の目的は達成だ!

 しかし……女王は、叫ぶ事もせず、じーっとマーダーⅡの顔を眺めている。
「あれ……この間の子ではないですね? あなた、レジスタンスの方?」

(何? 陛下は一体何をおっしゃっている? この間って……)
 ランダイスは混乱した。

「ねえあなたは何をしにいらしたの? 何か私に伝えたい事があったの?
 この間の子が言っていた……サルワニ、パルミラって一体……」

 あああ……ランダイスの脳みそが振り切れた。

「違う! 私はあなたを襲いに来たのです。
 さあ、驚いて下さい! 恐れて下さい! 
 そうでなければ私はあなたを押し倒しますよ!」

「……まあ怖い。でも、それがあなた方の筋書きなのですね。
 分かりました。私もあなた達人間と少し話がしたいのです。
 どこかあなたの都合の良い場所まで連れて行って下さらない?」

「う、う、うっ……うわー!!!!!」
 マーダーⅡが、いきなり女王に飛び掛かり馬乗りになった。

 ◇◇◇

「うわ! ダメダメダメ!! ストップ! STOP!!」
 ザカールが力任せにランダイスをリモートのコンソールから引き離した。
「まったく、このおっさん何してるんだ。
 本当に女王様押し倒してどうするつもりなんだよ!」

 ランダイスはしばらくボーとしていたが、ほどなく我に返っって周りを見ると、ザカールがあわててあちこちの機械をいじっている。

「あっ! おいザカール少尉。女王様は? マーダーⅡはどうなったんだ」
「どうもこうもない!!
 あんたを強制パージしたらこっちからの回線が切れちまった。
 くそっ! 無線が届く所まで近づかないと制御が戻らん!!」
「えーーーっ!! それじゃ女王様は?」
「今頃、マーダーⅡに八つ裂きにされているかもしれん……」

 ◇◇◇

「おい、起きろスフィーラ。様子がおかしい!」
 寝ているところをいきなり耳元で怒鳴られてアリーナはおどろいて眼を覚ましたが、ベッドのすぐ脇にトーマスが立っていた。

「ちょっと! 何、レディーの寝込み襲ってんのよ!」
「襲っちゃいない。起こしただけだ。仮領主邸の様子がおかしいんだ。
 今僧兵を密かに向かわせているが、俺達も出撃するので支度しろ!」
「分かりました!! それじゃ、専用装備に着替えるから出てってもらえる?」

 アリーナは専用装備の上に僧兵の衣装をまとい、トーマスといっしょに仮領主邸に向かった。

「なんだこれは……警備が全然手薄じゃないか!」トーマスが呆れた様に言う。
 そこへ先に現場確認に行っていた僧兵が戻って来た。
「トーマス司教。賊が女王様を人質に、寝室に立てこもっている様です!!」

「いくぞ!!」
 トーマスとアリーナは顔を見合わせて、仮領主邸に突入していった。

 ◇◇◇

「あの……どうされたのですか? 私が何か気に障る様な事でも?」
 いきなり自分に飛びついてきて押し倒し、さっきまで饒舌にしゃべっていたと思ったら、いきなりだんまりになった人間の男に、女王ヨーシュアははじめて恐怖を感じた。

(この人、本当に暴漢!?)

 マーダーⅡは、ランダイスとのLinkは切れたものの、まだ遠隔のスレーブモードで動作しており、接続が切れる直前のランダイスの意識記憶をループさせていた。

 そしてマーダーⅡは、ヨーシュアを抑え込んだままゆっくりと自分の着衣を取り、男性セクサロイドの象徴たる部分を明らわにした。
「ひっ!!」ヨーシュアが声にならない悲鳴を上げる。
 
 そして、マーダーⅡの手がヨーシュアの着衣に掛かった時、外から駆け付けたアリーナがマーダーⅡに思い切り体当たりして、マーダーⅡは壁まで吹っ飛んだ。

「女王様。ご無事ですか!?」
 トーマスがヨーシュアに駆け寄り、身を挺してかばった。

「トーマス。あなたは女王を連れて早く逃げて。こいつは私の仇敵だから……」
「ああスフィーラ。それじゃ、後は任せたぞ」
 トーマスはそう言って、ヨーシュアを伴って廊下に出ていった。

【アリーナ、注意してください。S-M01LYは前回遭遇時より、人格AIの精度と支援AIとのLinkに向上が見られます。それに今のあなたは膝が完全ではありません】

「なるほど、少しは進化したって事ね。
 このポンコツ!! この間吹っ飛んだ訳じゃなかったの!?
 それにしても、何を変態不審者みたいな事やってんのよ!
 下半身丸出しじゃない!! 
 メランタリの事ももちろんだけれど、あんたみたいな女の敵。絶対許さないから!!」

 腹の底から怒りが沸き上がってきて、アリーナはマーダーⅡに決着をつけるべく、啖呵を切った。
 
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登場人物紹介

アリーナ・エルリード・フラミス【主人公】


昔の王国の第一王女。転生当初はスフィーラと名乗る。


15歳の時、脳腫瘍が原因で夭折するが、父である国王により、

人格データを外部記憶に保管される。それが約260年後、

偶然、軍用セクサロイドS-F10RA-996(スフィーラ)

インストールされ、アリーナの記憶を持ったまま蘇った。


当初、スフィーラの事は、支援AIのモルツに教えてもらっていた。

Miritary Objects Relaytion Transfer System)


メランタリ・ブルーベイム 猫獣人少女


モンデルマの街の第二区画で店員をしていて、妹のコイマリと暮らしている。

美少女が好きで、モンデルマに迷い込んだスフィーラと友達になる。


実はけっこう肉食系。


JJ(ジェイジェイ) 本名不詳の多分15歳


モンデルマ第三区画のスラム街に住み、窃盗やひったくりを生業にしている人間の孤児。

自分の出自も全く不明だが、同じく孤児のまひるを、自分の妹として面倒みている。


あるトラブルがきっかけで、スフィーラと知り合う。


アルマン レジスタンス・ブランチ55のリーダー


モンデルマから逃げてきたアリーナ達と合流し、協力してエルフ軍に対抗しようとしている。

大戦経験者で、戦争末期、高射砲部隊の新兵だった。


ヨーシュア エルフ王国女王


すでに五百年以上エルフ王国を統治しているが、見た目は十代の少女と変わらず年齢不詳。

心優しい女王なのだが、国政を臣下に任せてしまっている。

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