第38話 予期せぬ襲撃
文字数 2,834文字
そして、一週間後の朝。
十数名の護衛兵士と、数名の書記官・文官を引き連れ、パルミラは軍のヘリでモンデルマを発った。
途中で休憩と給電を兼ねて一度着陸し、再び1A要塞に向かい飛び立って、レジスタンスが指示した地点に午後三時過ぎに到着した。
パルミラはヘリを降りて周りを見渡すが……例のアンドロイドはいない様だ。
大層な美少女と聞いていたので、一目見てみたかったのだが……まあいい。
周りはむさくるしい男の人間兵ばかりで、手にした銃は皆パルミラの方を向いている。
「ようこそ1A要塞へ。パルミラ公ですね?
私がここのリーダー、アルマンと申します」
「はじめましてアルマン殿。わたしがモンデルマの新領主パルミラです。今回の交渉は私が責任者となります。是非実りある会見と致したく存じますので、宜しくお願い致します」
「こちらこそ……お手柔らかにお願いしますね」
そうしてアルマンは、パルミラ一行を案内して、要塞内部に入っていった。
◇◇◇
エルフの交渉団が要塞内に入った事は、瞬時に全員に伝わったが、余計な者が余計な事をしない様、交渉に直接関係のないものは、エルフ一行が宿泊し会談が行われる北西区画に近づく事を厳しく禁止されていた。
アリーナも北西付近には近付かない様に言われており、むしろ不測の事態が起こってサルワニ達に何かあると大変なので、有事にエルフの人質達を守れる様にと、ダルトン小隊と共に、エルフの独房の入り口付近の護衛で詰めていた。
久しぶりにJJと同じミッションなので彼に話掛けようかとも思ったのだが、タルサがべったりとJJに張り付いていて声をかける隙がない。
(仕方ないか。川で頑張れって言っちゃったし……。
でも、ほんと仲良さそうだよね。ちょっと妬けるわー)
「おい、熊殺し。いいのか? JJ取られちまうぞ」
ダルトンが余計な事を言う。
「取られるって……そう言う関係じゃないですから」
「はは、まったく。相変わら素直じゃねーな。
まっ、俺で良ければいつでも乳揉んでやんぞ」
「ダルトン。せくはらー!」
その時、奥の独房の方で大きな声がした。
「どうした!」ダルトンが叫ぶ。
「いえ。独房のサルワニが突然暴れ始めたんです。
エルフの交渉団がこの要塞に来てて、交渉は明日だって言ったら……」
「馬鹿野郎! あいつに会見の事話したのか!? 箝口令引いてあっただろ?」
「すいません。交渉団が要塞に入ったからもう大丈夫かと思って……」
「ったく。馬鹿野郎が。
でも何だー? 今までおとなしくしていて。交渉団が来て里心でもついたのか?
あんなに早口でわめいたって、エルフ語は判からんって……」
「……違うわ、ダルトン。彼はこう言っている。
『パルミラが危ない! 早く助けに行かないと』って」
アリーナがスフィーラの言語トランスインタプリタを起動して直訳した。
「どういう事だ?」
「分からない。でも、ここはサルワニの話をちゃんと聞いた方がよさそうかも」
「ちっ。お前とサルワニは会わせるなってアルマンに言われてたんだが……。
今、ちゃんとエルフ語通訳出来そうなのは……お前だけか」
◇◇◇
「サルワニさん。落ち着いて! いったいどういう事なの!?」
アリーナが独房の前に立ち、その後ろで、ダルトンやJJ、タルサ達が銃をサルワニに向けて構えている。
「お前は……女アンドロイド!
なぜお前がここに……それに、もう修理が終わって歩けるのか?」
「そんな事、どうでもいいから!!
何をそんなに慌てているのか教えて頂戴!」
「あ、ああ。パルミラが交渉団の代表でここに来ているのは事実か?」
「そうよ。私も直接会ってないけど、そう聞いてるわ」
「だめだ。ここにあいつがいてはいけない。
ここに来る様に仕向けたのは軍部だろう?
あいつは口封じで暗殺されてしまう……」
「えっ? どういう事よ。私達はそんな事しないわよ!!」
「……お前達じゃない……交渉団の奴らがパルミラを襲いかねんのだ。
そしてそれは、お前達人間のせいにされる……」
「もう。全く脈絡がないじゃない。被害妄想もいい加減にしてよね!」
「違う。違うんだ女アンドロイド……」
「あー。スフィーラでいいから。私の名前」
「ス、スフィーラ。私はここに来てお前達人間の実情を知った。
多分、パルミラもそうなのだろう。そしてそれは、あちらの世界で女王様が知っているこの国の様子とはかなり違っている。
そしてエルフの国に、そのギャップを女王様に知られたくない奴がいるのだ!
女王様と直接つながりがあるパルミラが邪魔なのだ。
そうでなければ、わざわざ敵陣にパルミラを宿泊させる意味が分からない!!
だから……」
「俺、アルマンに知らせてくる!」
そう言ってJJがその場からダッシュで駆けていった。
「ああ。手を貸してくれるのか?」それを見てサルワニが言った。
「……別に、エルフが憎い事に変わりはないけど、新領主さんが悪い人だっていう確証はないし……会話が出来るなら、会話をすべきだわ。
だから、後は……任せなさい」
そう言ってアリーナ達は、サルワニの前から立ち去った。
◇◇◇
まさか自分の護衛の兵士が寝こみを襲ってくるとは思わなかった。
パルミラが近衛上がりの強者 でなければ、最初の一撃で致命傷を食らったに違いない。
だがこの狭い部屋に歩兵五人がなだれ込んで来て、自分に銃を向けている。
もはやこれまでか……そう思っていたところで、後ろから大勢の人の声が聞こえ、パンパンという銃声と共に人間兵が部屋になだれ込んできた。
(ちっ! 人間達まで……みんなグルか?)
一瞬そう思ったが、部屋に入って来た人間達が自分を襲ったエルフの護衛兵に飛びついているのをみて、パルミラは自分が助かった事を理解した。
「おーい。御領主様。無事かい? ひゃー。よかったよかった。間に合ったか」
そう言いながらアルマンが部屋に入ってきた。
自分を襲った兵士達は、すべて人間達に拘束され部屋から引きずり出された。
「これは一体……」呆然とするパルミラに、アルマンが告げた。
「あんたの婚約者さんに感謝するんだな。
あんたが危ないって、独房で叫び続けていたんだとさ。
それで、申し訳ない……お付きの文官さん達はみんなお陀仏だ」
「ああっ……」パルミラはその場に崩れ落ちた。
「なぜ……どうしてこんな事が……」
「サルワニさんには心あたりがある様だが……まあ、今日はもう遅い。
最強の護衛を付けてやるから、とりあえず休んでくれ。話は明日だ。
おーい熊殺し。それじゃ頼んだぞー」
アルマンがそう言って退室し、代わりに長い黒髪の美少女が部屋に入ってきた。
「あ、あなたが熊殺し?」
「あのー。その呼び方はやめて下さい。私の事はスフィーラとお呼び下さい。
もう敵はいないと思いますが、今夜は念のため私がここにおりますので、
安心してお休み下さい」
「でも、あなただって女の子じゃ……」
「はは。大丈夫です。私、アンドロイドですから!」
十数名の護衛兵士と、数名の書記官・文官を引き連れ、パルミラは軍のヘリでモンデルマを発った。
途中で休憩と給電を兼ねて一度着陸し、再び1A要塞に向かい飛び立って、レジスタンスが指示した地点に午後三時過ぎに到着した。
パルミラはヘリを降りて周りを見渡すが……例のアンドロイドはいない様だ。
大層な美少女と聞いていたので、一目見てみたかったのだが……まあいい。
周りはむさくるしい男の人間兵ばかりで、手にした銃は皆パルミラの方を向いている。
「ようこそ1A要塞へ。パルミラ公ですね?
私がここのリーダー、アルマンと申します」
「はじめましてアルマン殿。わたしがモンデルマの新領主パルミラです。今回の交渉は私が責任者となります。是非実りある会見と致したく存じますので、宜しくお願い致します」
「こちらこそ……お手柔らかにお願いしますね」
そうしてアルマンは、パルミラ一行を案内して、要塞内部に入っていった。
◇◇◇
エルフの交渉団が要塞内に入った事は、瞬時に全員に伝わったが、余計な者が余計な事をしない様、交渉に直接関係のないものは、エルフ一行が宿泊し会談が行われる北西区画に近づく事を厳しく禁止されていた。
アリーナも北西付近には近付かない様に言われており、むしろ不測の事態が起こってサルワニ達に何かあると大変なので、有事にエルフの人質達を守れる様にと、ダルトン小隊と共に、エルフの独房の入り口付近の護衛で詰めていた。
久しぶりにJJと同じミッションなので彼に話掛けようかとも思ったのだが、タルサがべったりとJJに張り付いていて声をかける隙がない。
(仕方ないか。川で頑張れって言っちゃったし……。
でも、ほんと仲良さそうだよね。ちょっと妬けるわー)
「おい、熊殺し。いいのか? JJ取られちまうぞ」
ダルトンが余計な事を言う。
「取られるって……そう言う関係じゃないですから」
「はは、まったく。相変わら素直じゃねーな。
まっ、俺で良ければいつでも乳揉んでやんぞ」
「ダルトン。せくはらー!」
その時、奥の独房の方で大きな声がした。
「どうした!」ダルトンが叫ぶ。
「いえ。独房のサルワニが突然暴れ始めたんです。
エルフの交渉団がこの要塞に来てて、交渉は明日だって言ったら……」
「馬鹿野郎! あいつに会見の事話したのか!? 箝口令引いてあっただろ?」
「すいません。交渉団が要塞に入ったからもう大丈夫かと思って……」
「ったく。馬鹿野郎が。
でも何だー? 今までおとなしくしていて。交渉団が来て里心でもついたのか?
あんなに早口でわめいたって、エルフ語は判からんって……」
「……違うわ、ダルトン。彼はこう言っている。
『パルミラが危ない! 早く助けに行かないと』って」
アリーナがスフィーラの言語トランスインタプリタを起動して直訳した。
「どういう事だ?」
「分からない。でも、ここはサルワニの話をちゃんと聞いた方がよさそうかも」
「ちっ。お前とサルワニは会わせるなってアルマンに言われてたんだが……。
今、ちゃんとエルフ語通訳出来そうなのは……お前だけか」
◇◇◇
「サルワニさん。落ち着いて! いったいどういう事なの!?」
アリーナが独房の前に立ち、その後ろで、ダルトンやJJ、タルサ達が銃をサルワニに向けて構えている。
「お前は……女アンドロイド!
なぜお前がここに……それに、もう修理が終わって歩けるのか?」
「そんな事、どうでもいいから!!
何をそんなに慌てているのか教えて頂戴!」
「あ、ああ。パルミラが交渉団の代表でここに来ているのは事実か?」
「そうよ。私も直接会ってないけど、そう聞いてるわ」
「だめだ。ここにあいつがいてはいけない。
ここに来る様に仕向けたのは軍部だろう?
あいつは口封じで暗殺されてしまう……」
「えっ? どういう事よ。私達はそんな事しないわよ!!」
「……お前達じゃない……交渉団の奴らがパルミラを襲いかねんのだ。
そしてそれは、お前達人間のせいにされる……」
「もう。全く脈絡がないじゃない。被害妄想もいい加減にしてよね!」
「違う。違うんだ女アンドロイド……」
「あー。スフィーラでいいから。私の名前」
「ス、スフィーラ。私はここに来てお前達人間の実情を知った。
多分、パルミラもそうなのだろう。そしてそれは、あちらの世界で女王様が知っているこの国の様子とはかなり違っている。
そしてエルフの国に、そのギャップを女王様に知られたくない奴がいるのだ!
女王様と直接つながりがあるパルミラが邪魔なのだ。
そうでなければ、わざわざ敵陣にパルミラを宿泊させる意味が分からない!!
だから……」
「俺、アルマンに知らせてくる!」
そう言ってJJがその場からダッシュで駆けていった。
「ああ。手を貸してくれるのか?」それを見てサルワニが言った。
「……別に、エルフが憎い事に変わりはないけど、新領主さんが悪い人だっていう確証はないし……会話が出来るなら、会話をすべきだわ。
だから、後は……任せなさい」
そう言ってアリーナ達は、サルワニの前から立ち去った。
◇◇◇
まさか自分の護衛の兵士が寝こみを襲ってくるとは思わなかった。
パルミラが近衛上がりの
だがこの狭い部屋に歩兵五人がなだれ込んで来て、自分に銃を向けている。
もはやこれまでか……そう思っていたところで、後ろから大勢の人の声が聞こえ、パンパンという銃声と共に人間兵が部屋になだれ込んできた。
(ちっ! 人間達まで……みんなグルか?)
一瞬そう思ったが、部屋に入って来た人間達が自分を襲ったエルフの護衛兵に飛びついているのをみて、パルミラは自分が助かった事を理解した。
「おーい。御領主様。無事かい? ひゃー。よかったよかった。間に合ったか」
そう言いながらアルマンが部屋に入ってきた。
自分を襲った兵士達は、すべて人間達に拘束され部屋から引きずり出された。
「これは一体……」呆然とするパルミラに、アルマンが告げた。
「あんたの婚約者さんに感謝するんだな。
あんたが危ないって、独房で叫び続けていたんだとさ。
それで、申し訳ない……お付きの文官さん達はみんなお陀仏だ」
「ああっ……」パルミラはその場に崩れ落ちた。
「なぜ……どうしてこんな事が……」
「サルワニさんには心あたりがある様だが……まあ、今日はもう遅い。
最強の護衛を付けてやるから、とりあえず休んでくれ。話は明日だ。
おーい熊殺し。それじゃ頼んだぞー」
アルマンがそう言って退室し、代わりに長い黒髪の美少女が部屋に入ってきた。
「あ、あなたが熊殺し?」
「あのー。その呼び方はやめて下さい。私の事はスフィーラとお呼び下さい。
もう敵はいないと思いますが、今夜は念のため私がここにおりますので、
安心してお休み下さい」
「でも、あなただって女の子じゃ……」
「はは。大丈夫です。私、アンドロイドですから!」