第70話 夜伽を命じます
文字数 2,779文字
二日後、ミーシャは女王ヨーシュアの親書を携え、護衛二人を伴って人間部隊の駐屯地へ向かった。たかが近衛の新兵とは言えリゾン公爵の一人娘であり、自宅と王宮以外のどこへ行くにも護衛が付く。鬱陶しいがもう慣れてしまった。
王宮近くの空港から前線近くの基地までヘリで飛び、そこから車で駐屯地に着いた時、午後三時を回っていた。
「みんな集合!」
駐屯地で訓練をしていた人間の兵士達を、獣人の隊長が集めた。
わずかな時間でびしっと整列がなされ、人間達の練度が高い事にミーシャは驚いた。
(ふーん。これが人間……見てくれはほとんどエルフと変わんないけど、耳はとんがっていないし地黒だわね。それに寿命も全然短いのよね。ほんと、あの人なんかほとんど子供じゃない。それに……女の子もいるんだ)
エルフの場合、近衛以外で実際の軍務に女性が付く事はほとんどないためちょっと新鮮だ。
「それでは人間諸君の来訪に対し女王様から親書を頂戴したので、使者である近衛師団のミーシャ殿に朗読いただく」
獣人隊長に促されてミーシャは壇上にあがり、ヨーシュアの親書を読み上げた。
内容はまあ、いわゆる普通のご挨拶なのだが……なんか人間達がポカンとしてるわね。あれ? あっそうか! 彼らはエルフ語が分からない!?
ミーシャの朗読が終わったが、結局そのまま追訳される事もなく式典は終了してしまった。
(あー。これはちょっとまずいかも! お友達になる以前に女王様のお言葉さえちゃんと伝えられていないとなると、私まったく役立たずだわ)
そう考えたミーシャは気が気ではなくなり、あわてて声を発した。
「皆さんの中に、エルフ語が分かる方はおられますか!?」
「あの。少しでしたら……」そう言ったのはダルトンだった。
「ああ、あなた。今の陛下のお言葉が理解出来ましたか?」
「ええ、何となくですが……我々をねぎらっていただき感謝致します」
「ああよかった。これで私は役目が果たせました。それで……あなたお名前は?」
「ダルトンと申します。今回の人間部隊のリーダーをしております」
「まあ、責任者の方だとは。それに少しというよりかなり話せていますよ」
ダルトンは、以前サルワニの言葉が良くわからずスフィーラに助けてもらった事がきっかけでエルフ語を密かに学習していたのだ。
(ああ、彼が責任者なら好都合だわ。いろいろお話しても変な疑いは持たれない。
なんとかもっとお話する機会を作らなければ)
ミーシャがそんな事を考えていたら、護衛の二人が声をかけた。
「ミーシャ様。それでは宿所に参りましょう」
「えっ? 宿所って? 今日はここに宿泊ではないのですか?」
「いえ事前にご説明した通り、この先の街にホテルを取っております。
今日はそこでご一泊されて、明日王宮に戻る予定です」
(うわー、どうしよう。これじゃまだ子供のお使いレベルよミーシャ!)
「それでしたら、夕食はここで取りたく存じます。
私、人間が珍しくて……後学のためにももう少しお話がしたいわ」
「ですがミーシャ様。御父上からはあまりうろうろさせるなと」
「父上は関係ありません! 私は今日は女王様の命で来ています!
あの……うろうろせず宿にはちゃんと入りますから、多少遅くなっても……ねっ!」
「ふうっ」護衛二人が相談しているが、やがて口を開いた。
「それでは夕食だけですよ。その後、早々に宿に入っていただきますから」
こうしてミーシャはダルトンたちと夕食を共にする事となったが、急遽ミーシャの夕食を用意する事になり、獣人小隊のメンバーがホテルに取りに行ったりとバタバタした。
ミーシャはダルトンの向かい側に腰を掛け、ダルトンの側にはJJやタルサ達が並んだ。
だが、何をしゃべればいいのか? ミーシャは悩んだ。それと言うのも、父親直結の護衛が二人、すぐ後ろに張り付いていて迂闊な事はしゃべれない。
直接アンドロイドの事を聞いたりしたら、父親にダダ洩れだろう。
「あの……ダルトンさんでしたか。おいくつになられますの?」
「はあ。今年で二十八になります」
ああ、ミーシャ。何つまんない事聞いてるのよ! でも……えっ!?
二十八? 生まれたばっかりじゃない!
そっか。人間は二十歳で成人するんだっけ?
それで百年生きる者はほとんどいない……うわーはかないわー。
「ああそう。私は二百十四歳よ!」ああ、またこんなつまらない事を……。
人間、と言うより男性とこうして話す事自体に慣れていない事に気が付いて、ミーシャは動揺しまくりだった。
「なんかせわしないエルフさんだね。パルミラさんはもっと落ち着いてたよね」
タルサがそう言うとJJが慌ててタルサの口に手をやった。
「その名前はここで出しちゃだめだ! ミーティングの注意事項にあっただろ!?
サルワニ、パルミラは禁句だ!!」
「何よ、JJだって今言った!!」
ちょっと待ってよ。今この子たち何て言った?
ミーシャは突然、憑き物が落ちた様に冷静になった。
人間の言葉なので全部は分からないけど、確かに今、パルミラって……。
この子たち、先輩の事を知ってるの?
ミーシャは自分の心臓の鼓動が倍になった気がした。
「あの。あなた女の子よね。お名前は?」
ミーシャがタルサに話掛けたのをダルトンが通訳した。
「私はタルサと言います。このJJの彼女です」
ダルトンがミーシャにそのまま伝えた。
「へー。恋人同士で兵役に来てるんだ。やっぱり人生が短いと、どこでもつがわないとだめなのかな……いや、そうじゃなくて、あなた達、エルフの女性に知り合いがいるの?」
ダルトンも、つがいがどうこうというところは分からず、そこを省いて通訳した。
「いえ……何の事でしょう?」
三人ともすっとぼけているのは見え見えなのだが、確かにここでは話づらかろう。
でもこんなチャンスは見逃せない。
なんとかどこかでゆっくり話が出来ないものか。
(くそー。こういう時脳筋は不便よね。考えろ。考えろミーシャ!)
「ふう」ミーシャが意を決して後ろに立っている護衛の一人を呼び寄せ、その耳元で小声で何かを言った。
「なっ!? お嬢様。それはいくらなんでも……」
「私のたってのお願いです。お父様には絶対秘密ですよ!」
護衛達は困り切った顔で相談を始め、そして獣人隊長が呼び出された。
「ダルトン。ちょっと来い」
そう言って獣人隊長がダルトンを連れ廊下に出て行った。
「ダルトン。ミーシャ様が今宵、お前の夜伽をご希望だ」
「はいっ?」
「お付きが許可された以上、我々に拒否権はないぞ」
「はあ……」
いったいどういう事だ。俺ってそんなにエルフ受けするんだろうか?
いや……さっきの流れからすると、やっぱりあの話だよな……。
そう思いながらもちょっとエッチな期待もしつつ、ダルトンは獣人隊長に、ミーシャの宿まで送ってもらった。
王宮近くの空港から前線近くの基地までヘリで飛び、そこから車で駐屯地に着いた時、午後三時を回っていた。
「みんな集合!」
駐屯地で訓練をしていた人間の兵士達を、獣人の隊長が集めた。
わずかな時間でびしっと整列がなされ、人間達の練度が高い事にミーシャは驚いた。
(ふーん。これが人間……見てくれはほとんどエルフと変わんないけど、耳はとんがっていないし地黒だわね。それに寿命も全然短いのよね。ほんと、あの人なんかほとんど子供じゃない。それに……女の子もいるんだ)
エルフの場合、近衛以外で実際の軍務に女性が付く事はほとんどないためちょっと新鮮だ。
「それでは人間諸君の来訪に対し女王様から親書を頂戴したので、使者である近衛師団のミーシャ殿に朗読いただく」
獣人隊長に促されてミーシャは壇上にあがり、ヨーシュアの親書を読み上げた。
内容はまあ、いわゆる普通のご挨拶なのだが……なんか人間達がポカンとしてるわね。あれ? あっそうか! 彼らはエルフ語が分からない!?
ミーシャの朗読が終わったが、結局そのまま追訳される事もなく式典は終了してしまった。
(あー。これはちょっとまずいかも! お友達になる以前に女王様のお言葉さえちゃんと伝えられていないとなると、私まったく役立たずだわ)
そう考えたミーシャは気が気ではなくなり、あわてて声を発した。
「皆さんの中に、エルフ語が分かる方はおられますか!?」
「あの。少しでしたら……」そう言ったのはダルトンだった。
「ああ、あなた。今の陛下のお言葉が理解出来ましたか?」
「ええ、何となくですが……我々をねぎらっていただき感謝致します」
「ああよかった。これで私は役目が果たせました。それで……あなたお名前は?」
「ダルトンと申します。今回の人間部隊のリーダーをしております」
「まあ、責任者の方だとは。それに少しというよりかなり話せていますよ」
ダルトンは、以前サルワニの言葉が良くわからずスフィーラに助けてもらった事がきっかけでエルフ語を密かに学習していたのだ。
(ああ、彼が責任者なら好都合だわ。いろいろお話しても変な疑いは持たれない。
なんとかもっとお話する機会を作らなければ)
ミーシャがそんな事を考えていたら、護衛の二人が声をかけた。
「ミーシャ様。それでは宿所に参りましょう」
「えっ? 宿所って? 今日はここに宿泊ではないのですか?」
「いえ事前にご説明した通り、この先の街にホテルを取っております。
今日はそこでご一泊されて、明日王宮に戻る予定です」
(うわー、どうしよう。これじゃまだ子供のお使いレベルよミーシャ!)
「それでしたら、夕食はここで取りたく存じます。
私、人間が珍しくて……後学のためにももう少しお話がしたいわ」
「ですがミーシャ様。御父上からはあまりうろうろさせるなと」
「父上は関係ありません! 私は今日は女王様の命で来ています!
あの……うろうろせず宿にはちゃんと入りますから、多少遅くなっても……ねっ!」
「ふうっ」護衛二人が相談しているが、やがて口を開いた。
「それでは夕食だけですよ。その後、早々に宿に入っていただきますから」
こうしてミーシャはダルトンたちと夕食を共にする事となったが、急遽ミーシャの夕食を用意する事になり、獣人小隊のメンバーがホテルに取りに行ったりとバタバタした。
ミーシャはダルトンの向かい側に腰を掛け、ダルトンの側にはJJやタルサ達が並んだ。
だが、何をしゃべればいいのか? ミーシャは悩んだ。それと言うのも、父親直結の護衛が二人、すぐ後ろに張り付いていて迂闊な事はしゃべれない。
直接アンドロイドの事を聞いたりしたら、父親にダダ洩れだろう。
「あの……ダルトンさんでしたか。おいくつになられますの?」
「はあ。今年で二十八になります」
ああ、ミーシャ。何つまんない事聞いてるのよ! でも……えっ!?
二十八? 生まれたばっかりじゃない!
そっか。人間は二十歳で成人するんだっけ?
それで百年生きる者はほとんどいない……うわーはかないわー。
「ああそう。私は二百十四歳よ!」ああ、またこんなつまらない事を……。
人間、と言うより男性とこうして話す事自体に慣れていない事に気が付いて、ミーシャは動揺しまくりだった。
「なんかせわしないエルフさんだね。パルミラさんはもっと落ち着いてたよね」
タルサがそう言うとJJが慌ててタルサの口に手をやった。
「その名前はここで出しちゃだめだ! ミーティングの注意事項にあっただろ!?
サルワニ、パルミラは禁句だ!!」
「何よ、JJだって今言った!!」
ちょっと待ってよ。今この子たち何て言った?
ミーシャは突然、憑き物が落ちた様に冷静になった。
人間の言葉なので全部は分からないけど、確かに今、パルミラって……。
この子たち、先輩の事を知ってるの?
ミーシャは自分の心臓の鼓動が倍になった気がした。
「あの。あなた女の子よね。お名前は?」
ミーシャがタルサに話掛けたのをダルトンが通訳した。
「私はタルサと言います。このJJの彼女です」
ダルトンがミーシャにそのまま伝えた。
「へー。恋人同士で兵役に来てるんだ。やっぱり人生が短いと、どこでもつがわないとだめなのかな……いや、そうじゃなくて、あなた達、エルフの女性に知り合いがいるの?」
ダルトンも、つがいがどうこうというところは分からず、そこを省いて通訳した。
「いえ……何の事でしょう?」
三人ともすっとぼけているのは見え見えなのだが、確かにここでは話づらかろう。
でもこんなチャンスは見逃せない。
なんとかどこかでゆっくり話が出来ないものか。
(くそー。こういう時脳筋は不便よね。考えろ。考えろミーシャ!)
「ふう」ミーシャが意を決して後ろに立っている護衛の一人を呼び寄せ、その耳元で小声で何かを言った。
「なっ!? お嬢様。それはいくらなんでも……」
「私のたってのお願いです。お父様には絶対秘密ですよ!」
護衛達は困り切った顔で相談を始め、そして獣人隊長が呼び出された。
「ダルトン。ちょっと来い」
そう言って獣人隊長がダルトンを連れ廊下に出て行った。
「ダルトン。ミーシャ様が今宵、お前の夜伽をご希望だ」
「はいっ?」
「お付きが許可された以上、我々に拒否権はないぞ」
「はあ……」
いったいどういう事だ。俺ってそんなにエルフ受けするんだろうか?
いや……さっきの流れからすると、やっぱりあの話だよな……。
そう思いながらもちょっとエッチな期待もしつつ、ダルトンは獣人隊長に、ミーシャの宿まで送ってもらった。