第76話 見え見えの罠
文字数 2,888文字
同じ頃、旧王都進駐軍本部。
「という事は、その公爵様のお嬢様をひっ捕まえると言うのが今回の作戦なんですか?」ザカールがランダイスに尋ねた。
「ああ。お嬢様を捕獲連行するのは表向きで、そうなると十中八九、例の女アンドロイドが出てくるだろう。それを始末するのが本当の目的だ」
ランダイスが説明する。
「それじゃあ、いよいよサルワニさんとの合同作戦っていう事ですよね。
あー頭痛い」
「なーに。アンドロイドは、マーダーⅡが始末してしまって構わない。
サルワニが人間を裏切っている事が奴らに分かればいいんだよ。
だからわざと大っぴらに奴の店を広げてやろうじゃないか」
「また変な事企まないで下さいよ。
本部長の思考回路は本当にちょっと怪しいんですから」
「何言ってる。その思考回路をマーダーⅡに組込んだのはお前だろ!」
「はは。それで本部長。お嬢様はどこにおいでで?」
「ターレスには何人か間者を入れてある。
それによると今は女アンドロイドと一緒にターレスに居る様だ」
「どうします。マーダーⅡを行かせますか?」
「いや、お嬢様にケガをさせるのはまずいんで、まずは女アンドロイドと離れた所を狙ってさらい、それをエサにしてサルワニとお前が待ち構えている所に来てもらう」
そして数時間後、ランダイスの所にターレス内のスパイから連絡があった。
「どうやら、女アンドロイドがお嬢様を残してターレスを離れた様だ」
◇◇◇
アリーナはメリッサ、メトラックを連れ、トーマスと共に西の森の教会に戻って行った。女王奪還の作戦も魔導教会主導で練られるという事で、お任せするしかないだろう。
ミーシャは、女王奪還作戦までターレス要塞に匿ってもらう事になった。
だが周りは人間だらけで、エルフの自分には何とも居ずらい。しかし魔導教会としても、まだリゾン公の娘を匿まっているという事は公にしたくはないとの事で仕方がなかったのだ。
他の人間とはほとんど言葉も通じないので、ダルトンのそばにばかりまとわりついていたのだが、どうやら自分は周りからダルトンの情婦の様に思われている事にそれとなく気がついた。そうよね……あんなところで夜伽を命じちゃったし……。
でも、それならいっその事……
そう思ったミーシャは、ダルトンが一人の時を見計らって気持ちを打ち明けた。
「あのダルトンさん。私とお付き合いしてくれませんか?」
「はい? それって……もしかして男女の仲って事ですか?」
「他に何がありますの! お仕事の上ではもうお付き合いしています」
「……いや、すいません。あまりに突然で、喜びのあまり心臓が止まりそうです。
ですが、ちょっとお時間を下さい。これでもこの基地内でそれなりの地位におりますので、勝手にはい分かりましたと、エルフ高官のお嬢様とお付き合いする訳にも参りませんので……」
そう言われては致し方ない。
ミーシャは勇気を出した自分を褒めながら自室に戻った。
そして夜半近く。
そろそろ寝ようかと支度を始めたら、部屋の戸がノックされ守備兵がダルトンからのメッセージだと封書を渡してくれた。
もしかして昼間のお返事!?
ミーシャが慌てて封書を開封すると、一通の手紙が入っており汚い文字のエルフ語で書かれていた。
『今夜1:00。基地はずれの倉庫47でお待ち申し上げます。 ダルトン』
やだ! ミーシャ、これって……逢引きのお誘い? 基地はずれの倉庫だなんて、なんて大胆な……でも……一番いい下着はどれだっけ?
そしてシャワーも浴びて精一杯のおしゃれをし、ミーシャはルンルン気分で倉庫47に向かった。
「ダルトンさーん。どこですかー」
真っ暗な倉庫に足を踏み入れ、ミーシャは小声でダルトンを探す。
もう、電気のスイッチどこかしら。こっちが壁かな?
そう思って後ろを向いたその時、いきなり後ろから羽交い絞めにされ、口をふさがれた。
「んーーー!!」暴れようとするが、ものすごい力で押さえつけれており動く事も出来ず、そのまま目隠しされ手足も縛られて、大きな袋をかぶせられた。
(くそっ。もしかしてオヤジの手が回ったの?)
声も出せず身動き一つとれぬまま、ミーシャはターレス要塞から連れ出された。
◇◇◇
ミーシャが突然いなくなり、ターレス要塞はパニックになっていた。
最初から裏切っていたのだろうと言う者もいたが、ダルトンが部屋を調べて怪しいエルフ語の手紙を発見し、多分罠にはまって連れ出されたのだろうと推測された。もしリゾン公爵の手のものの仕業なら、もうエルフ国に連れ戻されてしまっているかもしれない。ひどい目にあわされていない事を祈るしかないか。
ダルトンがそう考えていたら、魔導教会から進駐軍本部発のメッセージを傍受したと連絡が来た。
『進駐軍本部長発令 ミーシャ・リゾン・パレメンツイン。スパイ罪の容疑で銃殺。
執行は明後日 十六時。旧王都南ドームラスの森処刑広場。余計な妨害が入らぬ様、警戒を厳にせよ』
「なんだって! ミーシャさんが銃殺? 偉いさんの娘じゃねえのかよ!?」
JJが驚いている。
「いやー。なんか罠臭くないかこれ。こんなのわざわざ平文で全軍に流すか?
だがこのまま放ってはおけないよな。魔導教会は何て言って来ている?」
ダルトンが半信半疑ながら部下に確認する。
「はい。スフィーラが向かったそうです」
「ああ。熊殺しなら大丈夫かな……いや、まさかそっちが狙いか?
……くそJJ。俺達も出撃準備するぞ!!」
◇◇◇
「おい、ザカール!! お前、なんて発令を人の名前で流してんだよ!
リゾン公のお耳にでも入ってみろ……どうなる事か」
「いやいや、せっかくの罠なんだからこれくらい大袈裟にやらないと。
どうせ処刑なんてしませんから、ちゃんと上には説明しておいて下さい。
でもこれで、魔導教会もレジスタンスも血眼になって助けに来るんじゃないですか? 当然やつも……。
すでにサルワニさんには現地に陣取って貰っています。ですが私のマーダーⅡが負けるまでは手を出すなって言ってありますんで、せいぜい彼が裏切り者だって人間に分かる様に宣伝して下さいね」
翌日。ランダイスとザカールは、処刑場が一望できる高台にやって来た。
そこにはすでに数日前からサルワニが、12mm対アンドロイド速射砲部隊を展開して待ち構えていた。
「サルワニ少佐。お久しぶりですな」
「ランダイス大佐こそ、お元気そうで何よりです。
しかし何ですか? この芝居がかった作戦は?」
「ああ、まあ気になさらないで下さい。あのザカール少尉の兵器テストが主目的ですので、少佐はいざという時にだけご助力いただければ有難い」
「それにしては我々が少々目立ちすぎています。これは、まあ。私が人間を裏切ったというアピールなんでしょうが、これでは女アンドロイドも近寄ってこないのでは?
それに私はザカール少尉の兵器の詳細を知らされておりません」
「それは後程お分かりになりますよ」そう言いながらザカールが近づいてきた。
「少佐もここで高見の見物をなさっていて下さい。
多分少佐の出番は回ってこないと思いますよ」
「という事は、その公爵様のお嬢様をひっ捕まえると言うのが今回の作戦なんですか?」ザカールがランダイスに尋ねた。
「ああ。お嬢様を捕獲連行するのは表向きで、そうなると十中八九、例の女アンドロイドが出てくるだろう。それを始末するのが本当の目的だ」
ランダイスが説明する。
「それじゃあ、いよいよサルワニさんとの合同作戦っていう事ですよね。
あー頭痛い」
「なーに。アンドロイドは、マーダーⅡが始末してしまって構わない。
サルワニが人間を裏切っている事が奴らに分かればいいんだよ。
だからわざと大っぴらに奴の店を広げてやろうじゃないか」
「また変な事企まないで下さいよ。
本部長の思考回路は本当にちょっと怪しいんですから」
「何言ってる。その思考回路をマーダーⅡに組込んだのはお前だろ!」
「はは。それで本部長。お嬢様はどこにおいでで?」
「ターレスには何人か間者を入れてある。
それによると今は女アンドロイドと一緒にターレスに居る様だ」
「どうします。マーダーⅡを行かせますか?」
「いや、お嬢様にケガをさせるのはまずいんで、まずは女アンドロイドと離れた所を狙ってさらい、それをエサにしてサルワニとお前が待ち構えている所に来てもらう」
そして数時間後、ランダイスの所にターレス内のスパイから連絡があった。
「どうやら、女アンドロイドがお嬢様を残してターレスを離れた様だ」
◇◇◇
アリーナはメリッサ、メトラックを連れ、トーマスと共に西の森の教会に戻って行った。女王奪還の作戦も魔導教会主導で練られるという事で、お任せするしかないだろう。
ミーシャは、女王奪還作戦までターレス要塞に匿ってもらう事になった。
だが周りは人間だらけで、エルフの自分には何とも居ずらい。しかし魔導教会としても、まだリゾン公の娘を匿まっているという事は公にしたくはないとの事で仕方がなかったのだ。
他の人間とはほとんど言葉も通じないので、ダルトンのそばにばかりまとわりついていたのだが、どうやら自分は周りからダルトンの情婦の様に思われている事にそれとなく気がついた。そうよね……あんなところで夜伽を命じちゃったし……。
でも、それならいっその事……
そう思ったミーシャは、ダルトンが一人の時を見計らって気持ちを打ち明けた。
「あのダルトンさん。私とお付き合いしてくれませんか?」
「はい? それって……もしかして男女の仲って事ですか?」
「他に何がありますの! お仕事の上ではもうお付き合いしています」
「……いや、すいません。あまりに突然で、喜びのあまり心臓が止まりそうです。
ですが、ちょっとお時間を下さい。これでもこの基地内でそれなりの地位におりますので、勝手にはい分かりましたと、エルフ高官のお嬢様とお付き合いする訳にも参りませんので……」
そう言われては致し方ない。
ミーシャは勇気を出した自分を褒めながら自室に戻った。
そして夜半近く。
そろそろ寝ようかと支度を始めたら、部屋の戸がノックされ守備兵がダルトンからのメッセージだと封書を渡してくれた。
もしかして昼間のお返事!?
ミーシャが慌てて封書を開封すると、一通の手紙が入っており汚い文字のエルフ語で書かれていた。
『今夜1:00。基地はずれの倉庫47でお待ち申し上げます。 ダルトン』
やだ! ミーシャ、これって……逢引きのお誘い? 基地はずれの倉庫だなんて、なんて大胆な……でも……一番いい下着はどれだっけ?
そしてシャワーも浴びて精一杯のおしゃれをし、ミーシャはルンルン気分で倉庫47に向かった。
「ダルトンさーん。どこですかー」
真っ暗な倉庫に足を踏み入れ、ミーシャは小声でダルトンを探す。
もう、電気のスイッチどこかしら。こっちが壁かな?
そう思って後ろを向いたその時、いきなり後ろから羽交い絞めにされ、口をふさがれた。
「んーーー!!」暴れようとするが、ものすごい力で押さえつけれており動く事も出来ず、そのまま目隠しされ手足も縛られて、大きな袋をかぶせられた。
(くそっ。もしかしてオヤジの手が回ったの?)
声も出せず身動き一つとれぬまま、ミーシャはターレス要塞から連れ出された。
◇◇◇
ミーシャが突然いなくなり、ターレス要塞はパニックになっていた。
最初から裏切っていたのだろうと言う者もいたが、ダルトンが部屋を調べて怪しいエルフ語の手紙を発見し、多分罠にはまって連れ出されたのだろうと推測された。もしリゾン公爵の手のものの仕業なら、もうエルフ国に連れ戻されてしまっているかもしれない。ひどい目にあわされていない事を祈るしかないか。
ダルトンがそう考えていたら、魔導教会から進駐軍本部発のメッセージを傍受したと連絡が来た。
『進駐軍本部長発令 ミーシャ・リゾン・パレメンツイン。スパイ罪の容疑で銃殺。
執行は明後日 十六時。旧王都南ドームラスの森処刑広場。余計な妨害が入らぬ様、警戒を厳にせよ』
「なんだって! ミーシャさんが銃殺? 偉いさんの娘じゃねえのかよ!?」
JJが驚いている。
「いやー。なんか罠臭くないかこれ。こんなのわざわざ平文で全軍に流すか?
だがこのまま放ってはおけないよな。魔導教会は何て言って来ている?」
ダルトンが半信半疑ながら部下に確認する。
「はい。スフィーラが向かったそうです」
「ああ。熊殺しなら大丈夫かな……いや、まさかそっちが狙いか?
……くそJJ。俺達も出撃準備するぞ!!」
◇◇◇
「おい、ザカール!! お前、なんて発令を人の名前で流してんだよ!
リゾン公のお耳にでも入ってみろ……どうなる事か」
「いやいや、せっかくの罠なんだからこれくらい大袈裟にやらないと。
どうせ処刑なんてしませんから、ちゃんと上には説明しておいて下さい。
でもこれで、魔導教会もレジスタンスも血眼になって助けに来るんじゃないですか? 当然やつも……。
すでにサルワニさんには現地に陣取って貰っています。ですが私のマーダーⅡが負けるまでは手を出すなって言ってありますんで、せいぜい彼が裏切り者だって人間に分かる様に宣伝して下さいね」
翌日。ランダイスとザカールは、処刑場が一望できる高台にやって来た。
そこにはすでに数日前からサルワニが、12mm対アンドロイド速射砲部隊を展開して待ち構えていた。
「サルワニ少佐。お久しぶりですな」
「ランダイス大佐こそ、お元気そうで何よりです。
しかし何ですか? この芝居がかった作戦は?」
「ああ、まあ気になさらないで下さい。あのザカール少尉の兵器テストが主目的ですので、少佐はいざという時にだけご助力いただければ有難い」
「それにしては我々が少々目立ちすぎています。これは、まあ。私が人間を裏切ったというアピールなんでしょうが、これでは女アンドロイドも近寄ってこないのでは?
それに私はザカール少尉の兵器の詳細を知らされておりません」
「それは後程お分かりになりますよ」そう言いながらザカールが近づいてきた。
「少佐もここで高見の見物をなさっていて下さい。
多分少佐の出番は回ってこないと思いますよ」