第82話 噛んじゃった!

文字数 2,325文字

 アリーナはトーマスから女王の居場所判明の報を受け、僧兵達の案内で城下の聖クレシェンド教会でサルワニ達と合流した。

「へえ、最上階に隠し部屋か。
 さすが軍の病院というか……それでどっから入るの?」
 アリーナが気安く言うので、サルワニが諫めた。

「簡単に言うな。守備隊もそうだが病院なので手荒な事は出来ん。関係ない患者もたくさんいるからな。できれば空から入って上だけかき回して離脱したいが……」
「ヘリとか航空機は使えるの?」
「無理だな。城下での飛行管制はかなりきつくて、無許可でヘタに飛べば対空ミサイルで撃墜されかねん」
「えー。そんな事して、下が民家だったらどうするのよ?」
「まあ、そういう国だと思ってくれ」
「…………」

「そうなると下から登って飛び降りるか」
「いや、ちょっと待て。お前の思考回路はおかしくないか?
 下には重火器だけでなく、かなりの数のキャンセラー部隊が展開していて、いくらお前でも今の状態でそんなに魔法をつかったら……メトラックが泣くぞ」
「はは、サルワニさん。心配してくれてありがとう。
 でもね……実はキャンセラーはもう魔法でなくても大丈夫そうなんだ」
「どういう事だ?」

 アリーナがメリッサに目配せすると、メリッサがちょっと大きめの段ボール箱を机の上に乗せた。
「これは?」サルワニが不思議そうに尋ねる。

「じゃじゃーん。キャンセラーカン……痛て……噛んじゃった!
キャンセラーキャンセラー!!」舌を噛んだアリーナがゆっくり言い直した。
「これは、エルフ軍のキャンセラーが出す電磁波を無効化する電磁波を出す機械です。メトラックの置き土産よ!」メリッサがそう説明した。

「なんですって!?」サルワニとトーマスが驚いた。
「まだ試作段階で完全ではないけれど、十m以上はなれたキャンセラーならほぼ無効化出来ます。理論上はね。ですが、まあいつも通りというか……まだ実戦では試していません」メリッサがそう説明しながら涙ぐんだ。

「なんと……十m以内の敵なら魔法を一瞬だけ使えばスフィーラの能力で排除できますね。これをあの少年が……アリーナ。いいスタッフを持ったな」
 サルワニの言葉に、アリーナもちょっと目に涙を浮かべながら言った。
「はい。むっつりスケベの陰キャオタクでしたが……
 私の事を思ってくれていた大切な友人です」

「白兵戦が出来るのであれば、こちらが断然有利だ。あちらも病院内で派手にドンパチは出来まい。あとはどうやって脱出するかだな」
 トーマスがそう言うと、アリーナが口を開いた。

「あの。その事なんですが……できれば女王様とパルミラさんをまとめて助けたいんですが……だめですかね」
「いや。気を使ってくれるのはうれしいが、パルミラより女王様優先でいい。
 それはあいつもよく分かっているはずだ」サルワニが言う。
「別にサルワニさんに気を使った訳ではないです。パルミラさんは、メランタリが命に代えて守った大事な友人です。助けられるのなら当然助けるまでです!」
「そうか……ありがとう。友人と言ってくれるのだな。
 それなら私も友人の為に命を懸けるしかあるまい」
「ちょっとサルワニさん。なんか無茶な事考えてます?」
 アリーナがちょっと不審顔をする。

「いやいや君ほどではないが、私もヘリの操縦は得意でね。
 病院スレスレに飛べば、軍もまさか対空ミサイルを撃っては来るまい」
「あー、やっぱりそんな事か。でも……もしも病院の屋上までヘリを持って来ていただけるのであれば、あとは私が操縦すればいいので、ありかも知れません!」

「まったく君たちは、いつも出たとこ勝負なんだな」
 トーマスが呆れ顔でそう言った。
「だってそれしか手段思いつかないし……
 まあ、出たとこ勝負は昔の上官の得意技なんです」
 アリーナがそう言って笑った。

 ◇◇◇

「それじゃ、専用装備は一応直しておいたけど強度は完全じゃないから、おっぱいポロリはご愛敬よ。それでキャンセラーキャンセラーだけど、貴方とは別電源にしたから作動時間には気を付けてね。私はミーシャさんやタスカムさん達と後から追いかけるから」
 メリッサがそう言いながらキャンセラーキャンセラーが入ったリュックを背負わせてくれた。あとは、ポロリにならない様気を付けなきゃ。

 深夜。病院近くの公園で、トーマスから最新情報の連絡を受けた。
「病院敷地内及び周辺の歩兵二百。戦車二。入口に重火器四。そして各フロアにも歩兵がいる。十四階、十五階の状況は不明だが、フロアの大きさからして他の階と大差はないだろう」
「サルワニさんは?」
「もう待機している」
「分かったわ。それじゃ、ミッションスタート!!」

 そう言ってアリーナが夜の街に駆け出して行った。
 もう深夜で、街中は人も車も通りはまばらだ。

 病院の傍まで行って様子を伺うが、確かにトーマスの報告通りの様だ。
「モルツ。このまま頭越しに建物に取り付けないかな?」
【出来なくはありませんが、少なくとも戦車と重火器は排除しないと後続に危険が生じます】
「やっぱそうか。メトラック……省エネ出来そうに無くてごめんね」
 そう言って、アリーナは、病院の正面玄関から突っ込んでいった。

 ◇◇◇

 少し離れた高台から、トーマスが戦況を確認していた。
「やれやれ。本当に真正面から突っ込んでいやがる。
 まさにお転婆姫だな。だが……大した度胸だ」
 そしてトーマスが手にしていた通信機のスイッチを入れた。
「今、戦車も重火器も無力化して、外の歩兵もあらかた片付いた。
 まもなく後続の支援部隊を病院に突入させる。そちらも離陸準備を頼む」

「了解」
 城下から少し離れた魔導教会が管理する森の中で、ヘリの操縦席にいたサルワニが、そう言いながら離陸準備を始めた。


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登場人物紹介

アリーナ・エルリード・フラミス【主人公】


昔の王国の第一王女。転生当初はスフィーラと名乗る。


15歳の時、脳腫瘍が原因で夭折するが、父である国王により、

人格データを外部記憶に保管される。それが約260年後、

偶然、軍用セクサロイドS-F10RA-996(スフィーラ)

インストールされ、アリーナの記憶を持ったまま蘇った。


当初、スフィーラの事は、支援AIのモルツに教えてもらっていた。

Miritary Objects Relaytion Transfer System)


メランタリ・ブルーベイム 猫獣人少女


モンデルマの街の第二区画で店員をしていて、妹のコイマリと暮らしている。

美少女が好きで、モンデルマに迷い込んだスフィーラと友達になる。


実はけっこう肉食系。


JJ(ジェイジェイ) 本名不詳の多分15歳


モンデルマ第三区画のスラム街に住み、窃盗やひったくりを生業にしている人間の孤児。

自分の出自も全く不明だが、同じく孤児のまひるを、自分の妹として面倒みている。


あるトラブルがきっかけで、スフィーラと知り合う。


アルマン レジスタンス・ブランチ55のリーダー


モンデルマから逃げてきたアリーナ達と合流し、協力してエルフ軍に対抗しようとしている。

大戦経験者で、戦争末期、高射砲部隊の新兵だった。


ヨーシュア エルフ王国女王


すでに五百年以上エルフ王国を統治しているが、見た目は十代の少女と変わらず年齢不詳。

心優しい女王なのだが、国政を臣下に任せてしまっている。

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