第88話 本懐

文字数 2,455文字

 飛行戦艦がもう手が届きそうなくらい大きく見えて来た。

「攻撃開始まであと一分!」ターレス要塞内にアナウンスが響き渡り、
 ダルトンは緊張のあまり握りしめた手が汗でビシャビシャなのに気づき、ズボンで軽く拭った。

「攻撃開始!」
 そのアナウンスとともに、飛行戦艦の真下から花火の様な火の玉がひょろひょろと上昇し、べしゃっと飛行戦艦の下部にくっついた。

 双眼鏡でそれを見ていたザカールが声をあげた。
「よっしゃ。ちゃんとくっつく!」
 そして飛行戦艦がゆっくり要塞に前進してくるが、一秒置きに火の玉が真下から発射され、次々と飛行戦艦の下部にへばりついていった。

「それ、そのまま進んで来い!」ダルトンは強く念じた。

 ◇◇◇

「敵の攻撃を確認。いや……不発の様です」
 飛行戦艦のブリッジで戦術指揮官が下方からの攻撃を認めたが、どれも届きはするが爆発も何も起こらない。いや多少は爆発しているのかもしれないが、全然気にならない程度なのだろう。

 だが、さっきから断続的に同じ様な攻撃が続いている。
 念のため報告しようと、戦術指揮官はリゾン公爵の所に向かった。

「何だ? 敵は花火か何かを使っているのか? いよいよ弾切れか」
 攻撃されている様な音も衝撃も何もない。リゾン公爵は勝利を疑っていなかった。
「いかがいたしましょう。攻撃ドローンを出しますか?」
「いや、このまま本拠地を叩いてしまえば立ち枯れるだろう。
 こちらも補給が心もとない身の上だ。つまらん攻撃は避けろ」
「はっ!」

 ◇◇◇

 JJは、頭の上のコモのすき間から上空の様子をしかと伺っていた。
 見ていると順調に味方の弾がヒットしている様だが、別に敵は攻撃ドローンを出してくる気配もない。
 まああんなへなちょこ弾だったら、俺でも無視するかもな。

 そうしていたら、直ぐ眼の前まで順番が回って来た様だ。
 隣に籠っていたタルサが発射を終えたと思ったら、自分の手元が緑に点滅した。

「そいやっ!」JJが思い切り紐を引っ張ると、ポンっと音がして打ち上げ花火の様な火球が上昇していった。

「ふう。作戦終了!」

 ◇◇◇

「いやー、大したもんだ。半分当たればいいかと思ってたのに、七割方あたってますよ。あれならもうすぐ効果出て来るんじゃないかな?」
 ザカールが嬉しそうにそう言った。

「でも、あれが落ちて来て、下にいる奴らは大丈夫なのか?」
「大丈夫です。この要塞を過ぎてから降下していく計算ですから」
「そうか……って、おい。それじゃ、この真上に来た時はまだ浮いていて、爆弾落とせるんじゃねえのか?」ダルトンが怒りながらそう言った。
「あっ!!」ザカールが間抜けな声を発した。

「くそ!」ダルトンが慌ててマイクのスイッチを入れた。
「総員に告ぐ。総員直ちに要塞から退去。繰り返す総員直ちに要塞から退去。
 飛行戦艦の爆撃ラインを避け要塞から離れて散開せよ。繰り返す……」

 とたんに要塞内がハチの巣をつついた様になった。
 しかし、ほとんどの動けるものはたこつぼに入っていたし、負傷者などは予め別の避難場所に移してあったため大きな混乱はなかった。

「それじゃ、俺達も逃げるぞ!」
 ダルトンがそう言ってザカールを引っ張っていった。

 ◇◇◇

 再び、飛行戦艦のブリッジ。

「まもなく爆撃ポイントを通過。弾薬格納庫ハッチオープン」
 戦術指揮官が、爆撃準備を始めた。

 ブリッジでは、リゾン公爵とワイオールがターレス要塞を眺めていた。
「ふん。このクソ要塞が。魔導教会が抑えている時から気に入らんかった。
 今日で灰塵に帰してやるわい!」
「おお閣下。ご覧ください。
 要塞から人間共が蜘蛛の子を散らす様に逃げておりますぞ!」
 ワイオールが嬉しそうにそれを指さしていた。
「なんだ。まだ逃げていない者がいたのか。ほとほと人間というのは知能が低いな」

「爆撃開始十秒前!」戦術士官の声がブリッジに響く。

 しかしそれと同時に機械的な音声が警報音と共にブリッジに流れた。
「ピー。警告。反重力ユニットの出力低下を確認。高度が維持出来ません。
 至急不時着に備えて下さい」

「何だ? 一体何が起こったのだ」ワイオールが慌てて戦術士官に問いただす。
「分かりませんが、いったん格納庫を閉じます!」
「これは、この間のミサイルか。だがいつ撃たれた?」
 そうしたやりとりをしている間にも、みるみる高度が下がってきているのが分かり、そして目の前にターレス要塞がぐんぐん迫ってきている。

「おい! これでは要塞に突っ込むぞ!!」リゾン公爵が大声で叫んだ。
「とにかくみんな、後方に下がれ!!」ブリッジ内に絶叫が響いた。

 ◇◇◇

 あわてて要塞を走り出て、一目散に距離をとるためダッシュしたダルトンとザカールだったが、かなり離れて振り返るともう目の前まで飛行戦艦が落下してきていた。

「おいザカール! あれだと、あのまま要塞に突っ込むんじゃないか?
 お前要塞越えてから落下するって言ってたよな!?」
 ダルトンがザカールの襟首をつかんで、怒鳴っている。

「イヤー、予測より皆さんの命中精度が良すぎたんですよ。
 それで早く落っこちだしちゃったんだと思います」
「なんだと……ばっかやろう……
 要塞吹っ飛んだら俺達どこで寝泊まりするんだよ……」

 しかしダルトンの願いもむなしく、飛行戦艦はターレス要塞の上部構造に激突し、
要塞の高さ十m以上のところが、そのまま持っていかれた。
 そして飛行戦艦自体は、そのまま要塞を通りすぎて徐々に降下し、二百mほど行き過ぎた所で不時着した。

 たこつぼに入っていた連中も集まってきて、呆然とその様子を眺めていた。

「はは……JJ。やったよ。落ちたよ。私達、勝ったんだよ!」
 タルサがJJに思い切り飛びついてきて唇にキスをした。
「うわ。こらタルサ、いきなり飛びつくな。肩が痛てえだろ……でも、そうだな……俺達がやったんだよな、これ」
 JJもやり遂げた実感が腹の底からひしひしと沸いてきた様な感じがした。

 ダルトンの声が聞こえる。
「よっしゃ、野郎共。乗り込んで制圧するぞ!!」
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登場人物紹介

アリーナ・エルリード・フラミス【主人公】


昔の王国の第一王女。転生当初はスフィーラと名乗る。


15歳の時、脳腫瘍が原因で夭折するが、父である国王により、

人格データを外部記憶に保管される。それが約260年後、

偶然、軍用セクサロイドS-F10RA-996(スフィーラ)

インストールされ、アリーナの記憶を持ったまま蘇った。


当初、スフィーラの事は、支援AIのモルツに教えてもらっていた。

Miritary Objects Relaytion Transfer System)


メランタリ・ブルーベイム 猫獣人少女


モンデルマの街の第二区画で店員をしていて、妹のコイマリと暮らしている。

美少女が好きで、モンデルマに迷い込んだスフィーラと友達になる。


実はけっこう肉食系。


JJ(ジェイジェイ) 本名不詳の多分15歳


モンデルマ第三区画のスラム街に住み、窃盗やひったくりを生業にしている人間の孤児。

自分の出自も全く不明だが、同じく孤児のまひるを、自分の妹として面倒みている。


あるトラブルがきっかけで、スフィーラと知り合う。


アルマン レジスタンス・ブランチ55のリーダー


モンデルマから逃げてきたアリーナ達と合流し、協力してエルフ軍に対抗しようとしている。

大戦経験者で、戦争末期、高射砲部隊の新兵だった。


ヨーシュア エルフ王国女王


すでに五百年以上エルフ王国を統治しているが、見た目は十代の少女と変わらず年齢不詳。

心優しい女王なのだが、国政を臣下に任せてしまっている。

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