第九幕 妖花詭計(Ⅲ) ~剣鬼襲来
文字数 3,987文字
その数日後からヴィオレッタ達は、足繫くオルタンスの家に通うようになった。基本的には勢力への勧誘が訪問目的なのだが、それには拘らずにオルタンスが一度断ると決してそれ以上重ねては申し入れて来なかった。その後はお茶を飲みながら雑談したり世間話をするだけで帰っていく。
最初は頑なだったオルタンスも元々特に人嫌いという訳では無い為、やはりこのような僻地に一人住まいしていて人恋しく感じていたのか、次第に少しずつだがヴィオレッタ達に心を開いてくれるようになってきた。
しかしやはり父親に対する恐怖だけはどうにもならないのか、勧誘の誘いにだけは絶対に応じる事がなかった。
そんな日がしばらく続いた後の事……
「あら? もうこんな時間だわ。じゃあそろそろお暇するわね。楽しかったわ、オルタンス」
「あ……」
いつも通り訪ねてきては勧誘もそこそこに世間話に花を咲かせて、時間になって立ち上がるヴィオレッタ達。オルタンスは彼女達が帰る事を察して何か言いたげに腰を浮かせるが……
「い、いえ、何でもありません。……さようなら」
「ええ、また来るわね、オルタンス」
「…………」
オルタンスは家から立ち去っていくヴィオレッタ達の背中を見つめながら、じっと何かを考え込んでいた。
****
「……ねぇ、ヴィオレッタ。こんな事していて何の意味が? 例え彼女と友誼を結んだ所で、彼女が父親への恐怖を克服できない限り推挙は不可能よ」
森の間道。帰路の最中にファティマが疑問をぶつけてくる。ずっと聞きたくて我慢していたがもう限界という事のようだ。
ヴィオレッタは解っているという風に頷く。
「ええ、その通りね、ファティマ。……私の予想ではそろそろのはずなんだけど」
「……? 一体何の――」
意味深な言葉に反応してファティマが問い詰めようとした時だった。
「――っ!?」
護衛として先頭を歩いていたキーアが突然立ち止まった。そして剣の柄に手を掛けて、鋭い視線で前方の間道の先を見据える。
「キ、キーア? どうしたの? まさか賊でも……」
「……お二人とも下がっていて下さい。何か……来ます!」
「……!」
キーアの声は真剣そのもので、額には冷や汗すら掻いていた。ただの数人の賊相手に彼女がこんな様子になるはずがない。ファティマは急に不安になって後ろに下がりながら辺りを見渡す。
間を置かず、キーアが見据える先の間道の向こうから姿を現したモノは……
「ぬふふ……ここで張っていれば捕捉できると思っていたぞ。お前がマリウス軍の軍師とやらだな? こんな僻地に少人数で不用心な事じゃな」
「……!」
鎧兜にその両手には二振りの剣 を携えた老剣士 。その姿を認めたファティマが目を瞠る。
「あ……そんな、まさか……ギュ、ギュスタヴ!?」
それはまさにガレス軍の将の1人にして、オルタンスの父親でもあるギュスタヴ・ボドワン・アザールその人であった!
「そ、そんな……何でこんな所に……!?」
「こんな所? ふふふ……かつて処分 し損なった『失敗作』が隠れ潜んでおる場所に儂が出向くのは、むしろ極めて自然な事じゃろう?」
「……っ!」
ファティマが絶句する。何故今まで見つからなかったオルタンスの居場所を、よりによってこのタイミングでギュスタヴが発見したのか……。
ファティマはオルタンスの情報を集めるに当たって、その漏洩には細心の注意を払っていた。勿論ヴィオレッタやキーアが迂闊に情報を悟らせる愚を犯すはずもない。軍師であるヴィオレッタがハルファルを訪れているのも、あくまで戦争に備えての視察という名目で不自然はないはずだった。
混乱するファティマだが、何故か全く動揺していないヴィオレッタの冷静な声が彼女を現実に引き戻す。
「……あくまで自分の娘を殺すつもり?」
「当然じゃ。あれは『失敗作』のがらくた じゃからな。処分するつもりだったがらくたがいつまでも残っておるのは目障りじゃろうが」
一切の躊躇なく事も無げに首肯するギュスタヴ。
「ひ、酷い……実の娘をがらくただなんて……」
その非情な宣言に強く反応したのはキーアであった。恐らく優しかったのだろう自らの死別した父親と重ねて、オルタンスに同情しているのかも知れない。
「……最早完全に修羅の道に堕ちたのね」
ヴィオレッタが悲し気な口調でかぶりを振った。だがそれらの反応は狂った老剣鬼の心には何ら響かなかったらしい。ギュスタヴは口の端を吊り上げながら双剣を構える。
「ぐふふ……がらくたの処分。そのついでにお前らを皆殺しにすれば、マリウスの奴への報復も出来て一石二鳥じゃなぁ?」
「……っ! 皆さん、下がって!」
キーアが剣を構えてヴィオレッタ達を後ろに庇う。それを見たギュスタヴが嘲笑う。
「まさかお前如きが儂の相手になると本気で思ってはいまいな?」
「く……」
言い返せずにキーアは歯噛みした。詰めてくる圧力だけで後ずさりし膝が折れそうになる。剣を交える以前の問題だ。
(な、何て圧力……! 本当の化け物だわ! でも、私がやらないと、ヴィオレッタ様達が……!)
こんな所で軍師であるヴィオレッタを喪う訳には行かない。勿論次席軍師であるファティマも同様だ。否、戦力云々以前に、恩人である彼女達を死なせる訳には絶対に行かない。
「う、うおおぉぉぉぉぉっ!!!」
死を覚悟したキーアは自らを鼓舞するように気合の掛け声を上げると、一気呵成にギュスタヴに斬りかかった!
刺し違える覚悟を決めたその捨て身とも言える一撃は、彼女にとっても過去最高の速さ、正確さを持ってギュスタヴの首筋を斬り裂く――
「ふん!」
「……っ!」
――寸前で無情にも弾かれてしまう。捨て身の一撃を受けられたキーアは大きく体勢を崩すが、ギュスタヴは何故か反撃してこない。
「がらくた処分の前の準備運動 じゃ。好きなだけ斬りかかってこい。もしかしたら奇跡が起きて儂に刃が届くかも知れんぞ?」
「……!!」
キーアが目を見開く。そして相手の言った言葉が理解できるにつれて、その普段は穏やかで物静かな面貌が屈辱と怒りに染まる。
「な……めるなぁっ!」
怒号と共に飛び掛かる。それからしばらくキーアの『攻撃』が続いた。斬り下ろし、斬り上げ、薙ぎ払い、一閃突き……自らの培った技術の全てを、目の前の悪鬼を殺す為に叩きつける。
そして……その全てが虚しく弾かれ躱された。それも余裕を以ってだ。
「そ、そんな……はぁ……はぁ……!」
肩で大きく息を乱し全身汗まみれで疲労にふらつくキーアは、対照的に息一つ乱していないギュスタヴの姿に絶望する。
かつてソニア達が手もなくあしらわれたという話を聞いて、自分ならもう少し上手く戦える、そんな無様は晒さないと内心で密かに自負していたのだ。その結果がこの目の前の残酷な現実だ。
「くく……気が済んだか? ではそろそろ終わりにしておくか」
「……っ!」
(――来る!)
そう思ってなけなしの力を振り絞って剣を構え直した瞬間ギュスタヴの姿が消え、一瞬の後にキーアの目の前に出現 していた。
(速―――)
キーアに出来た事は、ただ本能によって反射的に剣を掲げる事だけだった。次の瞬間剣に凄まじい衝撃が加えられ、腕どころか身体全体が痺れてしまう。剣を手放さなかったのは奇跡に近い。だが、
「ほっ!」
「……ぅぁっ!」
二刀を操るギュスタヴのもう一方の剣が振るわれると、最早握っている事さえ覚束なかった剣はあっさりと手から弾き飛ばされた。
丸腰になったキーアはそのままよろよろと後ろに下がって、大きな木の幹に背中が当たる。そしてそのまま崩れ落ちて地面に尻もちを着いてしまう。
「さて、まず一人……」
ギュスタヴが剣を垂らしながらゆっくりとキーアに歩み寄っていく。キーアは全身の力が抜けてしまって立てないようだ。抗う術はない。
「キ、キーア! く……!」
キーアの危機に青ざめたファティマが唇を噛み締めて護身用の短剣を抜く。だがヴィオレッタが素早く制止する。
「やめなさい、ファティマ! 無駄死にするだけよ」
「で、でもこのままじゃキーアが……!」
無駄なのは解っているが、だからと言ってキーアが殺されるのを黙って見ていろというのか。ファティマは信じられないような面持ちでヴィオレッタを見やる。そして彼女の表情を見てギョッとした。
人を殺せそうな程の目でギュスタヴを睨み付け、その唇は余りに強く噛み締めすぎて血が滲んでいた。
「ヴィ、ヴィオレッタ? あなた……」
思わず問い掛けようとした時、遂にギュスタヴがキーアに止めを刺さんと剣を引き絞る。
「終わりじゃ!」
「……っ!」
キーアは思わず目を閉じ、自らの身体に突き刺さるだろう凶器の痛みを想像して硬直する。しかし……
――ヒュンッ!
ヴィオレッタ達を通り過ぎてギュスタヴ目掛けて飛来する……一本の矢 がそれを阻害した!
「んん!? 何じゃ?」
ギュスタヴは咄嗟に剣を掲げてその矢を弾いた。九死に一生を得たキーアは慌てて這いつくばるようにして距離を取るが、ギュスタヴはもう彼女の事など見ていなかった。いや、ギュスタヴだけではなく、ファティマも、そしてヴィオレッタもだ。
間道の反対側……即ちヴィオレッタ達がやってきた方向から姿を現したのは、鎧兜を身に纏って弓を構えた、完全武装の1人の女性 であった。それが誰なのか即座に解ったファティマが目を瞠る。
「あ……う、嘘……」
「……ようやく 、来たわね……!」
絞り出すようなヴィオレッタの声。彼等の視線の先にいるその女性は走って駆け寄ってくると、弓を放り投げヴィオレッタ達を庇うように立ちはだかりその腰に佩いたて二本の剣 を抜いた。
「はぁ……はぁ……父上 、いや、ギュスタヴッ!! それ以上の狼藉は許さない!」
大声を張り上げるのは、ギュスタヴの娘であり父親を心底から怖れていたはずのオルタンスであった!
最初は頑なだったオルタンスも元々特に人嫌いという訳では無い為、やはりこのような僻地に一人住まいしていて人恋しく感じていたのか、次第に少しずつだがヴィオレッタ達に心を開いてくれるようになってきた。
しかしやはり父親に対する恐怖だけはどうにもならないのか、勧誘の誘いにだけは絶対に応じる事がなかった。
そんな日がしばらく続いた後の事……
「あら? もうこんな時間だわ。じゃあそろそろお暇するわね。楽しかったわ、オルタンス」
「あ……」
いつも通り訪ねてきては勧誘もそこそこに世間話に花を咲かせて、時間になって立ち上がるヴィオレッタ達。オルタンスは彼女達が帰る事を察して何か言いたげに腰を浮かせるが……
「い、いえ、何でもありません。……さようなら」
「ええ、また来るわね、オルタンス」
「…………」
オルタンスは家から立ち去っていくヴィオレッタ達の背中を見つめながら、じっと何かを考え込んでいた。
****
「……ねぇ、ヴィオレッタ。こんな事していて何の意味が? 例え彼女と友誼を結んだ所で、彼女が父親への恐怖を克服できない限り推挙は不可能よ」
森の間道。帰路の最中にファティマが疑問をぶつけてくる。ずっと聞きたくて我慢していたがもう限界という事のようだ。
ヴィオレッタは解っているという風に頷く。
「ええ、その通りね、ファティマ。……私の予想ではそろそろのはずなんだけど」
「……? 一体何の――」
意味深な言葉に反応してファティマが問い詰めようとした時だった。
「――っ!?」
護衛として先頭を歩いていたキーアが突然立ち止まった。そして剣の柄に手を掛けて、鋭い視線で前方の間道の先を見据える。
「キ、キーア? どうしたの? まさか賊でも……」
「……お二人とも下がっていて下さい。何か……来ます!」
「……!」
キーアの声は真剣そのもので、額には冷や汗すら掻いていた。ただの数人の賊相手に彼女がこんな様子になるはずがない。ファティマは急に不安になって後ろに下がりながら辺りを見渡す。
間を置かず、キーアが見据える先の間道の向こうから姿を現したモノは……
「ぬふふ……ここで張っていれば捕捉できると思っていたぞ。お前がマリウス軍の軍師とやらだな? こんな僻地に少人数で不用心な事じゃな」
「……!」
鎧兜にその両手には
「あ……そんな、まさか……ギュ、ギュスタヴ!?」
それはまさにガレス軍の将の1人にして、オルタンスの父親でもあるギュスタヴ・ボドワン・アザールその人であった!
「そ、そんな……何でこんな所に……!?」
「こんな所? ふふふ……かつて
「……っ!」
ファティマが絶句する。何故今まで見つからなかったオルタンスの居場所を、よりによってこのタイミングでギュスタヴが発見したのか……。
ファティマはオルタンスの情報を集めるに当たって、その漏洩には細心の注意を払っていた。勿論ヴィオレッタやキーアが迂闊に情報を悟らせる愚を犯すはずもない。軍師であるヴィオレッタがハルファルを訪れているのも、あくまで戦争に備えての視察という名目で不自然はないはずだった。
混乱するファティマだが、何故か全く動揺していないヴィオレッタの冷静な声が彼女を現実に引き戻す。
「……あくまで自分の娘を殺すつもり?」
「当然じゃ。あれは『失敗作』の
一切の躊躇なく事も無げに首肯するギュスタヴ。
「ひ、酷い……実の娘をがらくただなんて……」
その非情な宣言に強く反応したのはキーアであった。恐らく優しかったのだろう自らの死別した父親と重ねて、オルタンスに同情しているのかも知れない。
「……最早完全に修羅の道に堕ちたのね」
ヴィオレッタが悲し気な口調でかぶりを振った。だがそれらの反応は狂った老剣鬼の心には何ら響かなかったらしい。ギュスタヴは口の端を吊り上げながら双剣を構える。
「ぐふふ……がらくたの処分。そのついでにお前らを皆殺しにすれば、マリウスの奴への報復も出来て一石二鳥じゃなぁ?」
「……っ! 皆さん、下がって!」
キーアが剣を構えてヴィオレッタ達を後ろに庇う。それを見たギュスタヴが嘲笑う。
「まさかお前如きが儂の相手になると本気で思ってはいまいな?」
「く……」
言い返せずにキーアは歯噛みした。詰めてくる圧力だけで後ずさりし膝が折れそうになる。剣を交える以前の問題だ。
(な、何て圧力……! 本当の化け物だわ! でも、私がやらないと、ヴィオレッタ様達が……!)
こんな所で軍師であるヴィオレッタを喪う訳には行かない。勿論次席軍師であるファティマも同様だ。否、戦力云々以前に、恩人である彼女達を死なせる訳には絶対に行かない。
「う、うおおぉぉぉぉぉっ!!!」
死を覚悟したキーアは自らを鼓舞するように気合の掛け声を上げると、一気呵成にギュスタヴに斬りかかった!
刺し違える覚悟を決めたその捨て身とも言える一撃は、彼女にとっても過去最高の速さ、正確さを持ってギュスタヴの首筋を斬り裂く――
「ふん!」
「……っ!」
――寸前で無情にも弾かれてしまう。捨て身の一撃を受けられたキーアは大きく体勢を崩すが、ギュスタヴは何故か反撃してこない。
「がらくた処分の前の
「……!!」
キーアが目を見開く。そして相手の言った言葉が理解できるにつれて、その普段は穏やかで物静かな面貌が屈辱と怒りに染まる。
「な……めるなぁっ!」
怒号と共に飛び掛かる。それからしばらくキーアの『攻撃』が続いた。斬り下ろし、斬り上げ、薙ぎ払い、一閃突き……自らの培った技術の全てを、目の前の悪鬼を殺す為に叩きつける。
そして……その全てが虚しく弾かれ躱された。それも余裕を以ってだ。
「そ、そんな……はぁ……はぁ……!」
肩で大きく息を乱し全身汗まみれで疲労にふらつくキーアは、対照的に息一つ乱していないギュスタヴの姿に絶望する。
かつてソニア達が手もなくあしらわれたという話を聞いて、自分ならもう少し上手く戦える、そんな無様は晒さないと内心で密かに自負していたのだ。その結果がこの目の前の残酷な現実だ。
「くく……気が済んだか? ではそろそろ終わりにしておくか」
「……っ!」
(――来る!)
そう思ってなけなしの力を振り絞って剣を構え直した瞬間ギュスタヴの姿が消え、一瞬の後にキーアの目の前に
(速―――)
キーアに出来た事は、ただ本能によって反射的に剣を掲げる事だけだった。次の瞬間剣に凄まじい衝撃が加えられ、腕どころか身体全体が痺れてしまう。剣を手放さなかったのは奇跡に近い。だが、
「ほっ!」
「……ぅぁっ!」
二刀を操るギュスタヴのもう一方の剣が振るわれると、最早握っている事さえ覚束なかった剣はあっさりと手から弾き飛ばされた。
丸腰になったキーアはそのままよろよろと後ろに下がって、大きな木の幹に背中が当たる。そしてそのまま崩れ落ちて地面に尻もちを着いてしまう。
「さて、まず一人……」
ギュスタヴが剣を垂らしながらゆっくりとキーアに歩み寄っていく。キーアは全身の力が抜けてしまって立てないようだ。抗う術はない。
「キ、キーア! く……!」
キーアの危機に青ざめたファティマが唇を噛み締めて護身用の短剣を抜く。だがヴィオレッタが素早く制止する。
「やめなさい、ファティマ! 無駄死にするだけよ」
「で、でもこのままじゃキーアが……!」
無駄なのは解っているが、だからと言ってキーアが殺されるのを黙って見ていろというのか。ファティマは信じられないような面持ちでヴィオレッタを見やる。そして彼女の表情を見てギョッとした。
人を殺せそうな程の目でギュスタヴを睨み付け、その唇は余りに強く噛み締めすぎて血が滲んでいた。
「ヴィ、ヴィオレッタ? あなた……」
思わず問い掛けようとした時、遂にギュスタヴがキーアに止めを刺さんと剣を引き絞る。
「終わりじゃ!」
「……っ!」
キーアは思わず目を閉じ、自らの身体に突き刺さるだろう凶器の痛みを想像して硬直する。しかし……
――ヒュンッ!
ヴィオレッタ達を通り過ぎてギュスタヴ目掛けて飛来する……
「んん!? 何じゃ?」
ギュスタヴは咄嗟に剣を掲げてその矢を弾いた。九死に一生を得たキーアは慌てて這いつくばるようにして距離を取るが、ギュスタヴはもう彼女の事など見ていなかった。いや、ギュスタヴだけではなく、ファティマも、そしてヴィオレッタもだ。
間道の反対側……即ちヴィオレッタ達がやってきた方向から姿を現したのは、鎧兜を身に纏って弓を構えた、完全武装の1人の
「あ……う、嘘……」
「……
絞り出すようなヴィオレッタの声。彼等の視線の先にいるその女性は走って駆け寄ってくると、弓を放り投げヴィオレッタ達を庇うように立ちはだかりその腰に佩いたて
「はぁ……はぁ……
大声を張り上げるのは、ギュスタヴの娘であり父親を心底から怖れていたはずのオルタンスであった!