第十四幕 真紅の麗武人(Ⅳ) ~対決! 賊王ドラメレク
文字数 3,714文字
「ば、馬鹿な! 何故来た!? あれ程来るなと言ったのにっ!」
腰を抜かしてへたり込んだ体勢のままアーデルハイドが目を剥いて怒鳴る。マリウスはこんな場合ながら、彼女が自分の名前を憶えていてくれた事に歓喜した。
「貴女 の憎しみに満ちた顔が気になりまして……。あんな顔は凛として美しい貴女には似合いません」
「…………は?」
アーデルハイドの目が点になる。一瞬何を言われたのか解らないといった様子の彼女だったが、次の瞬間にはその顔が真っ赤に染まる。
「な、何を言っているんだ、あなたは!? こんな時にっ!!」
その叫びは至極尤もだが、マリウスは肩を竦めただけだった。
「こんな時だからこそですよ。……貴女の顔を憎しみで曇らせる、その原因 を取り除かせて下さい」
「な……ま、まさか、ドラメレクと戦う気か!? 無茶だ! 今すぐ逃げるんだっ!」
血相を変えるアーデルハイド。マリウスは苦笑した。
「逃げる気なら最初からここまで来ていませんよ。まあ、見ていてください」
「あ……」
何か言い掛けるアーデルハイドに構わず踵を返すマリウス。取り囲んでいる山賊たちは突然の闖入者に、やはり呆気に取られている様子であった。だが事態を把握すると、連中の醜い貌が怒りで更に酷い事になる。
「んだ、てめぇはぁ!? こんな所で白馬の王子様気取りかよ!? 馬鹿が! やっちまえっ!!」
賊の1人の叫びに呼応して、5人ほどの山賊が刀や斧などを手に襲い掛かってくる。山中の余り開けた場所ではないので、それ以上の人数になると思うように動けなくなるのだ。
「……ふっ!!」
マリウスは剣を構えると恐ろしいまでの速さで踏み込む。武器を振りかぶったばかりの先頭の賊が驚愕に目を見開く暇もあればこそ、一突きでその胸を刺し貫いていた。
その早業と躊躇いの無さに残りの賊が怯む。その隙を逃さずマリウスは彼等の懐に飛び込み、縦に横に鋭い剣閃を走らせる。
「うぎゃっ!」「ぎぇっ!!」
賊達から無様な悲鳴と血しぶきが上がる。
「ぬがあぁぁぁっ!!」
あっという間に1人になった言い出しっぺの男が、やぶれかぶれに持っている斧を振り下ろしてくる。しかし容易くそれを躱したマリウスは、カウンターで剣を一閃。男の首が胴体と泣き別れになって飛んだ。
「「「……!」」」
仲間をあっさりと斬り殺したマリウスの技量に他の山賊たちが動揺するのが解った。
「さ、どうする? 次に死にたい人からどんどん出てくるといいよ?」
返り血の撥ねた姿でニッコリと笑うマリウスの姿に、山賊達は浮足立つ。ここにいるだけでも100人近くの人数がいるので、マリウスが疲れ果てるまで延々と仕掛け続ければ確かに討ち取る事は出来るだろう。
だが今のマリウスの強さを見る限り、最初に掛かっていった何十人かの者達は確実に死ぬ事になる。それが解っていて、敢えて前に出ようとする者はいなかった。所詮はならず者の集まりだ。こんな所で死ぬ覚悟のある者など誰一人いない。
「…………」
山賊たちの視線は自然と自分達のボス……即ちドラメレクの方に集中する。それを受けたからか、或いは単に部下達では相手にならぬと踏んだからか、ドラメレク自身が腰の蛮刀を抜き放ちながら進み出てくる。
マリウスは心の中で自分の作戦が上手く行った事を確信した。後は自分の腕次第だ。
「ふん……そこそこは出来るようだな。何者だ? 帝国や諸侯に仕える正規の武人ではあるまい」
マリウスの剣の腕をそれなりに脅威と認めたのか、ドラメレクがアーデルハイドに対していた時よりも真剣な口調で問い掛けてくる。マリウスはドラメレクから視線を外さずに肩を竦めた。
「あなたが【賊王】ドラメレクですか。私はマリウス・シン・ノールズと申します。あなたに彼女を殺させる訳には行かないので、こうしてやって参りました。まあ別に覚えなくて結構ですよ? あなたはどうせここで死にますから」
ドラメレクの太い眉がピクッと吊り上がる。
「ほぅ……戦場で女を口説くような軟派男が俺に勝てるつもりか?」
「ええ、勝てるつもりですよ。時間が勿体ないからさっさと始めませんか? ……それとも女性相手でないと怖くて戦えませんか?」
ドラメレクが肩を震わせる。笑っているようだが、その目は全く笑っていなかった。
「くくく……すぐに後悔する事になる……ぞっ!」
「……!」
一瞬でドラメレクの巨体がマリウスの眼前に踏み込んできた。どちらかというと細身で華奢な印象さえあるマリウスに比べて、縦も横もそして筋肉の厚みもドラメレクの方がずっと大きい。だというのにその速度は先のマリウスの踏み込みにも劣らない素早さだった。
「むんっ!」
剛腕から振るわれる薙ぎ払い。勿論マリウスは正面から受けるような愚は犯さない。その軌道と蛮刀の長さから攻撃範囲を見切って、一歩下がりながらギリギリの線で回避する。
これまで相対してきた敵や、道場の門下生達とは桁違いの速度と威力。マリウスは初めて自身にとって『強敵』と言える相手と戦っている事を自覚した。
今度は下段からの斬り上げが唸りを上げて迫る。それもすんでの所で躱すが、物凄い風圧と共に前髪に掠り、前髪の先端が斬り払われてハラハラと地面に落ちる。
このまま押されていると、後ろにいるアーデルハイドを巻き込んでしまう怖れがある。それを避ける為には自分からも前に出て行かなくてはならない。
「ふっ!!」
斬り上げを躱した体勢から反動を付けて前に踏み込む。そのまま裂帛の気合と共に剣を薙ぎ払う。
「……!」
ドラメレクの表情が一瞬驚愕に歪むが、恐ろしい反射神経で強引に身体を後ろへ反らせる。その為マリウスの剣は相手の胴を薙ぎ払うには至らず、胸に横一直線の切り傷を付けたに留まった。絶対的な首領が初めて傷付く姿に山賊たちが動揺の声を上げる。
(く……浅かったか……!)
だがマリウスは内心で舌打ちした。これまでの相手であれば今ので確実に決まっていたはずだ。やはり手強い。
「貴様ぁっ!!」
傷をつけられたドラメレクが怒りに燃えながら蛮刀を振り下ろしてくる。一撃でも貰ったら一溜まりもない剛撃。マリウスは驚異的な集中力で、やはり紙一重でそれを躱す。
「ぬぅぅぅんっ!!」
ドラメレクはそのまま蛮刀を縦横無尽に振り回しながら連撃を仕掛けてくる。当然一撃でもまともに入ったら死は免れない。その死の斬撃が幾度もマリウスの髪を、服を掠る。だが……
「……馬鹿なっ!」
ドラメレクが呻く。マリウスは致命傷を負うことなく、全ての斬撃を躱しきったのだ。
これまでにない強敵とのせめぎ合いは彼に計り知れない程の経験と集中力を与え、何度も振るわれる事で身体が覚え込んだドラメレクの斬撃の軌道を完全に見切る事に成功したのだ。
流石に攻め疲れたのか、ドラメレクが肩で息をしながら驚愕している。マリウスはあちこち服や軽鎧をボロボロにしながらも、息を乱す事無く立っていた。
「……き、貴様……一体何者だ!?」
ドラメレクの知識としても、これほどの驚異的な技量を誇る武人は帝国中を探しても数える程しかいないはずだ。だがマリウスは肩を竦めるだけだった。
「先程名乗ったでしょう。マリウス・シン・ノールズ。ただのしがない浪人ですよ」
「……っ!」
その返答に或いは侮辱されたと思ったのか、ドラメレクの顔が赤黒く染まる。
「おのれぇぇぇっ!!」
怒りをエネルギーに変えたのか、蛮刀を両手で構えて凄まじい勢いで斬りかかってくる。マリウスは剣を水平に構えて冷静にそれを迎え撃つ。そして……
「はぁっ!!」
気合と共に剣を一閃。2人の身体が武器を振り抜いた姿勢で交錯する。
「…………」
山賊たちもアーデルハイドも……皆が固唾を飲んで見守る中、片方の身体がゆっくりと傾 ぐ。
「……がはっ!!」
血反吐を吐いたドラメレクが崩れ落ちる。
「か、頭ぁっ!?」
山賊たちから動揺の悲鳴が上がる。マリウスの予測では、統率者が倒れる姿を見た賊達は算を乱して逃走していくはずだった。だがここで一点だけその予測と外れる事態が起きた。
「ちぃっ! てめぇら、頭を守れっ! 引き上げるぞ!」
「……!」
山賊たちの何人かが矢を射かけてくる。マリウスは咄嗟にそれらを躱し、アーデルハイドを巻き込みそうな物に関しては全て斬り払った。
だがその隙に山賊の何人かがドラメレクに駆け寄り、その身体を抱え上げて運んでいった。そしてそれを確認すると大慌てで退却していった。
賊にしては見上げた忠誠心だった。いや、もしかしたらドラメレクの求心力が消えて散り散りになる事を厭うたのかも知れない。良くも悪くも自分達がこの稼業でやっていくには、優れたリーダーが必要だという事を本能的に理解しているのだろう。
「……逃がしたか。いや、でも……」
(さっきまでの綱渡りな状況を考えたら、奴等を無事に撃退できたってだけで満足しておくべきかな……)
あまり欲張りすぎると碌な事にならない。マリウスは敵の気配が完全に消えた事を確認して、ふぅっと緊張を解いて剣を収めた。そして……未だに地べたに尻餅を着いた姿勢のままで固まっているアーデルハイドの方を振り返った。
腰を抜かしてへたり込んだ体勢のままアーデルハイドが目を剥いて怒鳴る。マリウスはこんな場合ながら、彼女が自分の名前を憶えていてくれた事に歓喜した。
「
「…………は?」
アーデルハイドの目が点になる。一瞬何を言われたのか解らないといった様子の彼女だったが、次の瞬間にはその顔が真っ赤に染まる。
「な、何を言っているんだ、あなたは!? こんな時にっ!!」
その叫びは至極尤もだが、マリウスは肩を竦めただけだった。
「こんな時だからこそですよ。……貴女の顔を憎しみで曇らせる、その
「な……ま、まさか、ドラメレクと戦う気か!? 無茶だ! 今すぐ逃げるんだっ!」
血相を変えるアーデルハイド。マリウスは苦笑した。
「逃げる気なら最初からここまで来ていませんよ。まあ、見ていてください」
「あ……」
何か言い掛けるアーデルハイドに構わず踵を返すマリウス。取り囲んでいる山賊たちは突然の闖入者に、やはり呆気に取られている様子であった。だが事態を把握すると、連中の醜い貌が怒りで更に酷い事になる。
「んだ、てめぇはぁ!? こんな所で白馬の王子様気取りかよ!? 馬鹿が! やっちまえっ!!」
賊の1人の叫びに呼応して、5人ほどの山賊が刀や斧などを手に襲い掛かってくる。山中の余り開けた場所ではないので、それ以上の人数になると思うように動けなくなるのだ。
「……ふっ!!」
マリウスは剣を構えると恐ろしいまでの速さで踏み込む。武器を振りかぶったばかりの先頭の賊が驚愕に目を見開く暇もあればこそ、一突きでその胸を刺し貫いていた。
その早業と躊躇いの無さに残りの賊が怯む。その隙を逃さずマリウスは彼等の懐に飛び込み、縦に横に鋭い剣閃を走らせる。
「うぎゃっ!」「ぎぇっ!!」
賊達から無様な悲鳴と血しぶきが上がる。
「ぬがあぁぁぁっ!!」
あっという間に1人になった言い出しっぺの男が、やぶれかぶれに持っている斧を振り下ろしてくる。しかし容易くそれを躱したマリウスは、カウンターで剣を一閃。男の首が胴体と泣き別れになって飛んだ。
「「「……!」」」
仲間をあっさりと斬り殺したマリウスの技量に他の山賊たちが動揺するのが解った。
「さ、どうする? 次に死にたい人からどんどん出てくるといいよ?」
返り血の撥ねた姿でニッコリと笑うマリウスの姿に、山賊達は浮足立つ。ここにいるだけでも100人近くの人数がいるので、マリウスが疲れ果てるまで延々と仕掛け続ければ確かに討ち取る事は出来るだろう。
だが今のマリウスの強さを見る限り、最初に掛かっていった何十人かの者達は確実に死ぬ事になる。それが解っていて、敢えて前に出ようとする者はいなかった。所詮はならず者の集まりだ。こんな所で死ぬ覚悟のある者など誰一人いない。
「…………」
山賊たちの視線は自然と自分達のボス……即ちドラメレクの方に集中する。それを受けたからか、或いは単に部下達では相手にならぬと踏んだからか、ドラメレク自身が腰の蛮刀を抜き放ちながら進み出てくる。
マリウスは心の中で自分の作戦が上手く行った事を確信した。後は自分の腕次第だ。
「ふん……そこそこは出来るようだな。何者だ? 帝国や諸侯に仕える正規の武人ではあるまい」
マリウスの剣の腕をそれなりに脅威と認めたのか、ドラメレクがアーデルハイドに対していた時よりも真剣な口調で問い掛けてくる。マリウスはドラメレクから視線を外さずに肩を竦めた。
「あなたが【賊王】ドラメレクですか。私はマリウス・シン・ノールズと申します。あなたに彼女を殺させる訳には行かないので、こうしてやって参りました。まあ別に覚えなくて結構ですよ? あなたはどうせここで死にますから」
ドラメレクの太い眉がピクッと吊り上がる。
「ほぅ……戦場で女を口説くような軟派男が俺に勝てるつもりか?」
「ええ、勝てるつもりですよ。時間が勿体ないからさっさと始めませんか? ……それとも女性相手でないと怖くて戦えませんか?」
ドラメレクが肩を震わせる。笑っているようだが、その目は全く笑っていなかった。
「くくく……すぐに後悔する事になる……ぞっ!」
「……!」
一瞬でドラメレクの巨体がマリウスの眼前に踏み込んできた。どちらかというと細身で華奢な印象さえあるマリウスに比べて、縦も横もそして筋肉の厚みもドラメレクの方がずっと大きい。だというのにその速度は先のマリウスの踏み込みにも劣らない素早さだった。
「むんっ!」
剛腕から振るわれる薙ぎ払い。勿論マリウスは正面から受けるような愚は犯さない。その軌道と蛮刀の長さから攻撃範囲を見切って、一歩下がりながらギリギリの線で回避する。
これまで相対してきた敵や、道場の門下生達とは桁違いの速度と威力。マリウスは初めて自身にとって『強敵』と言える相手と戦っている事を自覚した。
今度は下段からの斬り上げが唸りを上げて迫る。それもすんでの所で躱すが、物凄い風圧と共に前髪に掠り、前髪の先端が斬り払われてハラハラと地面に落ちる。
このまま押されていると、後ろにいるアーデルハイドを巻き込んでしまう怖れがある。それを避ける為には自分からも前に出て行かなくてはならない。
「ふっ!!」
斬り上げを躱した体勢から反動を付けて前に踏み込む。そのまま裂帛の気合と共に剣を薙ぎ払う。
「……!」
ドラメレクの表情が一瞬驚愕に歪むが、恐ろしい反射神経で強引に身体を後ろへ反らせる。その為マリウスの剣は相手の胴を薙ぎ払うには至らず、胸に横一直線の切り傷を付けたに留まった。絶対的な首領が初めて傷付く姿に山賊たちが動揺の声を上げる。
(く……浅かったか……!)
だがマリウスは内心で舌打ちした。これまでの相手であれば今ので確実に決まっていたはずだ。やはり手強い。
「貴様ぁっ!!」
傷をつけられたドラメレクが怒りに燃えながら蛮刀を振り下ろしてくる。一撃でも貰ったら一溜まりもない剛撃。マリウスは驚異的な集中力で、やはり紙一重でそれを躱す。
「ぬぅぅぅんっ!!」
ドラメレクはそのまま蛮刀を縦横無尽に振り回しながら連撃を仕掛けてくる。当然一撃でもまともに入ったら死は免れない。その死の斬撃が幾度もマリウスの髪を、服を掠る。だが……
「……馬鹿なっ!」
ドラメレクが呻く。マリウスは致命傷を負うことなく、全ての斬撃を躱しきったのだ。
これまでにない強敵とのせめぎ合いは彼に計り知れない程の経験と集中力を与え、何度も振るわれる事で身体が覚え込んだドラメレクの斬撃の軌道を完全に見切る事に成功したのだ。
流石に攻め疲れたのか、ドラメレクが肩で息をしながら驚愕している。マリウスはあちこち服や軽鎧をボロボロにしながらも、息を乱す事無く立っていた。
「……き、貴様……一体何者だ!?」
ドラメレクの知識としても、これほどの驚異的な技量を誇る武人は帝国中を探しても数える程しかいないはずだ。だがマリウスは肩を竦めるだけだった。
「先程名乗ったでしょう。マリウス・シン・ノールズ。ただのしがない浪人ですよ」
「……っ!」
その返答に或いは侮辱されたと思ったのか、ドラメレクの顔が赤黒く染まる。
「おのれぇぇぇっ!!」
怒りをエネルギーに変えたのか、蛮刀を両手で構えて凄まじい勢いで斬りかかってくる。マリウスは剣を水平に構えて冷静にそれを迎え撃つ。そして……
「はぁっ!!」
気合と共に剣を一閃。2人の身体が武器を振り抜いた姿勢で交錯する。
「…………」
山賊たちもアーデルハイドも……皆が固唾を飲んで見守る中、片方の身体がゆっくりと
「……がはっ!!」
血反吐を吐いたドラメレクが崩れ落ちる。
「か、頭ぁっ!?」
山賊たちから動揺の悲鳴が上がる。マリウスの予測では、統率者が倒れる姿を見た賊達は算を乱して逃走していくはずだった。だがここで一点だけその予測と外れる事態が起きた。
「ちぃっ! てめぇら、頭を守れっ! 引き上げるぞ!」
「……!」
山賊たちの何人かが矢を射かけてくる。マリウスは咄嗟にそれらを躱し、アーデルハイドを巻き込みそうな物に関しては全て斬り払った。
だがその隙に山賊の何人かがドラメレクに駆け寄り、その身体を抱え上げて運んでいった。そしてそれを確認すると大慌てで退却していった。
賊にしては見上げた忠誠心だった。いや、もしかしたらドラメレクの求心力が消えて散り散りになる事を厭うたのかも知れない。良くも悪くも自分達がこの稼業でやっていくには、優れたリーダーが必要だという事を本能的に理解しているのだろう。
「……逃がしたか。いや、でも……」
(さっきまでの綱渡りな状況を考えたら、奴等を無事に撃退できたってだけで満足しておくべきかな……)
あまり欲張りすぎると碌な事にならない。マリウスは敵の気配が完全に消えた事を確認して、ふぅっと緊張を解いて剣を収めた。そして……未だに地べたに尻餅を着いた姿勢のままで固まっているアーデルハイドの方を振り返った。