エルフ=くうり
文字数 3,076文字
「──ふむふむ。これは、とてつもなく珍しい事が起きてますね」
ユリクの声でも無く、セアーの声でも無い。第三者の声がユリク達のいる場所で一人歩きしていた。
程よい高さで、セアーとは違く落ち着きがあり大人っぽい声。
ハキハキと一文字一文字を喋る為か、鼓膜には優しくすんなり入り込む。
「しかし、この男性の方は人間? なのでしょうか。だとしても、そうじゃないとしても他種族と一夜を越すなんて初めて見ましたっ。ふむふむ、俄然興味が湧きます、湧き上がります!」
日の出もしてなく、川の音と虫の音だけが鳴り渡る暗い空間に月夜で光る青い瞳。それが一層して怪しさを引き立てる。
と言うか、人が寝ているテントを覗き込むと言うのは失礼が過ぎるのではないのだろうか。
「……おっと。それ所ではありませんでした。可哀想に一匹だけ取り残された魚を食べてあげなくては」
なんて、事を口にしながら何をするのかと思えば、ユリク達が残し、刺さったままの焼き魚を口いっぱいに頬張っりながら目を蕩けさせていた。
「ふむふむ。これはなかなか、おいひいです。たまりませんっ!! 病みつきになりそうです」
食べ終わると、まだ食べたりないのかユリクの仕掛けをガサガサと漁り始める謎の女性。
「流石にもう無いですねーっ。でももう眠いです。お魚は起きたら頂きましょう。僕も寝ます。寝ましょう」
『ふぁーぁああ』と独特な長い欠伸をすると何故か女性は二人が眠るテントの中へと入り込む。
そして、数分もしないうちに、静まり返る空間。
一体何しに来たのかすら検討がつかない。
──それから、数時間が過ぎ──
朝日が登りはじめると一番早く目覚めたのはユリクだった。
「セアー……お前、幾ら何でも寝相悪いだろ……って、ん? ん!?」
どうやら現状把握が全く出来ていないのか、目を何度も擦り目を細める。
意識が覚醒してゆく中、黒い瞳に写るのは、
白い髪の毛の少女では無く、薄紫色の髪をしているショートカットの女性。
特徴的な部分をあげれば、尖った耳・首に下げられた宝石のアクセサリー・前髪から見え隠れする額に付けられた緑色の小さい宝石・独創性がある紫色のローブ。
「ふぁあーぁあ……あっおはようです。 よく眠れましたかっ?」
「ん? ぁあ、まあキャンプは慣れて──じゃない! アンタ一体誰なんだっ?」
「ユリクさん、どうしたんですか? 朝から大声だしてっ」
一番最後に起きるのは、やはりセアーのようだ。
“ノソッ”っと半身を起こしセアーは、口に手を翳し声を籠らせながらユリクの方を見ながら口にする。
「ふむふむ。名前を呼び合う仲なのですねっ! っあ、僕はエルフの『くうり』といいます」
『エルフ』その発言にユリクは目を点にさせた。
それもそのはず、探すのが困難だと言われていた種族の名前が鼓膜を射たのだ。
その呆気なさにユリクは唖然と言う表情を強いられている。
「そんな、珍しいそうな表情しなくても……僕から言わせれば君達の方が凄い不思議でしかたないですし」
紫色色のローブの袖から手を出しユリクの頬を両手で挟むと青い瞳でユリクの瞳を見つめた。
「ちょ! ちょちょちょ!! まっ! なんだよ急にっ!!」
顔を赤らめ、目を泳がしながらアタフタするユリクを見て、エルフである、くうりは不思議そうな表情を浮かべる。
「なんで、そんなアタフタするのですかっ?? 顔の熱も熱いですねっ。これは、雄が必ず起こすという盛……発情期という奴ですか?」
「ンなわけあるか!!」
「えっ? ユリクさん、初上陸なんですか?」
「だから!! ンなわけあるか! ……って! 初上陸ってなんだよ!!」
くうりのペースだと言うべきか。完璧に慌ただしい朝を迎えたユリクとセアー。だが、意外と二人の表情は、くうりに対して嫌悪感を抱いているより、寧ろ緩んだ表情を浮かべているようにも見えた。
その証拠に、声の質というものからは嫌々感が全く伝わってこない。
そう、これはまるで、あのキールやラズと話しているかのような感じだ。
恐れることも警戒することも無く言葉を受け答えしているのだから。
「初上陸ではなく、発情期ですよっ? これは雄が──」
「得意げな表情で語ろうとするなっ!!」
軽快な突っ込みをユリクがいれても、くうりは、細い右人差し指を空に向けながら左目を瞑り得意げな表情を浮かべながら顔の横で“クルクル”回していた。
「えー? 動物の神秘ですよ?」
「だとしてもだ! 普通の会話の中でならまだしも、今の流れは俺が発情期だとか言う話──」
“グゥー”と、二人のやり取りの間に割って入った鈍く地味な音。それは、端に座るセアーはから聞こえてくる音。
詳しく言えば、セアーのお腹から聞こえてくる音だった。
恥ずかしいそうに、目を伏せ。自分のお腹を抑えるセアー。
しかし、それに続くかのようにユリクの隣でも空腹の音が鳴り響く。それは、申し訳ないかのように鳴ったセアーの音よりも。
豪快に・盛大にテントの中に響いた。
「はぁ……朝から元気だなお前達は。じゃあ朝飯にするかっ?」
頭を掻きながら、欠伸をしつつユリクは立ち上がる。
「ありがとうございますっ。昨日そんな食べれなかったもので……」
「ぁあ、確かに。二匹すら食べれなかったもんな、セアー」
「ふむふむ、一匹残っていたのはその為だったのですねっ」
「そうだ! 昨日の魚をほぐして炊き込みご飯でも作るかっ!!」
「あ、美味しいそうです!! 想像したらお腹がより空いてきましたっ!」
両手を“パンッ”と叩き。想像したのか、生唾を飲み込みながらセアーは、目を蕩けさせていた。
それとは反対に、くうりは、小さい声で昨日の行動を思い返すかのように自問自答をしている。
その二人を上から眺め、ユリクは自慢げに語り出す。
「まず、昨日の魚を燻す。そして山菜と一緒に米と炊くと、香ばしい香りが鼻を抜ける。口に含めば野菜の甘さ。燻した魚の苦味が混ざって絶妙な出汁の旨みを引き出すんだよなっ!!」
「ふむふ……む。僕はちょっと・だいぶ、お腹空いていないかもしれないです。なので、もう一眠りしますっ……決して起こさないでくださいです。絶対ですよ? 約束です。何があっても・何かが起こっていても」
「……お前……その約束は無理だっ」
その、くうりの何かを隠すような挙動不審の行動、言葉。
ユリクは何かを悟ったかのように冷たい視線を送り『はぁ』と長い溜息をついた。
「やっぱ、魚は止めて、もしかしたら野鳥に盗られているかもだし。山菜の炊き込みご飯にするかなっ」
すると、くうりの長く細い耳が“ピクリ”と動く。
どうやら、耳はかたむけているようだ。
それを横目にユリクは少し笑みを浮かべながら口を開く。
「でも、くうりは眠ったし。セアー、二人で食べるかっ」
「えっ? でも、くうりさんは良いんですか?」
「あいつ起こすなって言ったからなっ。仕方ないさ!」
真面目に気を遣うセアーに対してユリクは揶揄うようにわざとらしく残念そうな素振りをする。
「よし、セアー。行くかッ!!」
「え……。あっ、はいっ」
手を取り、二人がテントの外に出る中。
テントの中には寂しく、くうりのお腹の音だけが鳴っていた。
「しどいです……しどすぎるです……閏る閏るですっ──お腹すいて寝れませんっ」
ユリクの声でも無く、セアーの声でも無い。第三者の声がユリク達のいる場所で一人歩きしていた。
程よい高さで、セアーとは違く落ち着きがあり大人っぽい声。
ハキハキと一文字一文字を喋る為か、鼓膜には優しくすんなり入り込む。
「しかし、この男性の方は人間? なのでしょうか。だとしても、そうじゃないとしても他種族と一夜を越すなんて初めて見ましたっ。ふむふむ、俄然興味が湧きます、湧き上がります!」
日の出もしてなく、川の音と虫の音だけが鳴り渡る暗い空間に月夜で光る青い瞳。それが一層して怪しさを引き立てる。
と言うか、人が寝ているテントを覗き込むと言うのは失礼が過ぎるのではないのだろうか。
「……おっと。それ所ではありませんでした。可哀想に一匹だけ取り残された魚を食べてあげなくては」
なんて、事を口にしながら何をするのかと思えば、ユリク達が残し、刺さったままの焼き魚を口いっぱいに頬張っりながら目を蕩けさせていた。
「ふむふむ。これはなかなか、おいひいです。たまりませんっ!! 病みつきになりそうです」
食べ終わると、まだ食べたりないのかユリクの仕掛けをガサガサと漁り始める謎の女性。
「流石にもう無いですねーっ。でももう眠いです。お魚は起きたら頂きましょう。僕も寝ます。寝ましょう」
『ふぁーぁああ』と独特な長い欠伸をすると何故か女性は二人が眠るテントの中へと入り込む。
そして、数分もしないうちに、静まり返る空間。
一体何しに来たのかすら検討がつかない。
──それから、数時間が過ぎ──
朝日が登りはじめると一番早く目覚めたのはユリクだった。
「セアー……お前、幾ら何でも寝相悪いだろ……って、ん? ん!?」
どうやら現状把握が全く出来ていないのか、目を何度も擦り目を細める。
意識が覚醒してゆく中、黒い瞳に写るのは、
白い髪の毛の少女では無く、薄紫色の髪をしているショートカットの女性。
特徴的な部分をあげれば、尖った耳・首に下げられた宝石のアクセサリー・前髪から見え隠れする額に付けられた緑色の小さい宝石・独創性がある紫色のローブ。
「ふぁあーぁあ……あっおはようです。 よく眠れましたかっ?」
「ん? ぁあ、まあキャンプは慣れて──じゃない! アンタ一体誰なんだっ?」
「ユリクさん、どうしたんですか? 朝から大声だしてっ」
一番最後に起きるのは、やはりセアーのようだ。
“ノソッ”っと半身を起こしセアーは、口に手を翳し声を籠らせながらユリクの方を見ながら口にする。
「ふむふむ。名前を呼び合う仲なのですねっ! っあ、僕はエルフの『くうり』といいます」
『エルフ』その発言にユリクは目を点にさせた。
それもそのはず、探すのが困難だと言われていた種族の名前が鼓膜を射たのだ。
その呆気なさにユリクは唖然と言う表情を強いられている。
「そんな、珍しいそうな表情しなくても……僕から言わせれば君達の方が凄い不思議でしかたないですし」
紫色色のローブの袖から手を出しユリクの頬を両手で挟むと青い瞳でユリクの瞳を見つめた。
「ちょ! ちょちょちょ!! まっ! なんだよ急にっ!!」
顔を赤らめ、目を泳がしながらアタフタするユリクを見て、エルフである、くうりは不思議そうな表情を浮かべる。
「なんで、そんなアタフタするのですかっ?? 顔の熱も熱いですねっ。これは、雄が必ず起こすという盛……発情期という奴ですか?」
「ンなわけあるか!!」
「えっ? ユリクさん、初上陸なんですか?」
「だから!! ンなわけあるか! ……って! 初上陸ってなんだよ!!」
くうりのペースだと言うべきか。完璧に慌ただしい朝を迎えたユリクとセアー。だが、意外と二人の表情は、くうりに対して嫌悪感を抱いているより、寧ろ緩んだ表情を浮かべているようにも見えた。
その証拠に、声の質というものからは嫌々感が全く伝わってこない。
そう、これはまるで、あのキールやラズと話しているかのような感じだ。
恐れることも警戒することも無く言葉を受け答えしているのだから。
「初上陸ではなく、発情期ですよっ? これは雄が──」
「得意げな表情で語ろうとするなっ!!」
軽快な突っ込みをユリクがいれても、くうりは、細い右人差し指を空に向けながら左目を瞑り得意げな表情を浮かべながら顔の横で“クルクル”回していた。
「えー? 動物の神秘ですよ?」
「だとしてもだ! 普通の会話の中でならまだしも、今の流れは俺が発情期だとか言う話──」
“グゥー”と、二人のやり取りの間に割って入った鈍く地味な音。それは、端に座るセアーはから聞こえてくる音。
詳しく言えば、セアーのお腹から聞こえてくる音だった。
恥ずかしいそうに、目を伏せ。自分のお腹を抑えるセアー。
しかし、それに続くかのようにユリクの隣でも空腹の音が鳴り響く。それは、申し訳ないかのように鳴ったセアーの音よりも。
豪快に・盛大にテントの中に響いた。
「はぁ……朝から元気だなお前達は。じゃあ朝飯にするかっ?」
頭を掻きながら、欠伸をしつつユリクは立ち上がる。
「ありがとうございますっ。昨日そんな食べれなかったもので……」
「ぁあ、確かに。二匹すら食べれなかったもんな、セアー」
「ふむふむ、一匹残っていたのはその為だったのですねっ」
「そうだ! 昨日の魚をほぐして炊き込みご飯でも作るかっ!!」
「あ、美味しいそうです!! 想像したらお腹がより空いてきましたっ!」
両手を“パンッ”と叩き。想像したのか、生唾を飲み込みながらセアーは、目を蕩けさせていた。
それとは反対に、くうりは、小さい声で昨日の行動を思い返すかのように自問自答をしている。
その二人を上から眺め、ユリクは自慢げに語り出す。
「まず、昨日の魚を燻す。そして山菜と一緒に米と炊くと、香ばしい香りが鼻を抜ける。口に含めば野菜の甘さ。燻した魚の苦味が混ざって絶妙な出汁の旨みを引き出すんだよなっ!!」
「ふむふ……む。僕はちょっと・だいぶ、お腹空いていないかもしれないです。なので、もう一眠りしますっ……決して起こさないでくださいです。絶対ですよ? 約束です。何があっても・何かが起こっていても」
「……お前……その約束は無理だっ」
その、くうりの何かを隠すような挙動不審の行動、言葉。
ユリクは何かを悟ったかのように冷たい視線を送り『はぁ』と長い溜息をついた。
「やっぱ、魚は止めて、もしかしたら野鳥に盗られているかもだし。山菜の炊き込みご飯にするかなっ」
すると、くうりの長く細い耳が“ピクリ”と動く。
どうやら、耳はかたむけているようだ。
それを横目にユリクは少し笑みを浮かべながら口を開く。
「でも、くうりは眠ったし。セアー、二人で食べるかっ」
「えっ? でも、くうりさんは良いんですか?」
「あいつ起こすなって言ったからなっ。仕方ないさ!」
真面目に気を遣うセアーに対してユリクは揶揄うようにわざとらしく残念そうな素振りをする。
「よし、セアー。行くかッ!!」
「え……。あっ、はいっ」
手を取り、二人がテントの外に出る中。
テントの中には寂しく、くうりのお腹の音だけが鳴っていた。
「しどいです……しどすぎるです……閏る閏るですっ──お腹すいて寝れませんっ」