初めて出会った場所に

文字数 3,273文字

「ユリクさん。ですが、そのエルフと言う方達が何処にいるのか分かるのですかっ?」



素朴な疑問を投げかけるセアーに対し、空を見上げ頭を掻きながら『いいや』と答える。

その困った表情からは、既に行き詰まっている様にも、そんな事を俺に聞かれても。の様なものにも見て取れる。



「手掛かりと呼べるものが何一つ無いからな。と言うか、あの森の名前自体初めて知ったようなものだし」



「そうなんですね。──でも、急がなくても平気ですからっ気を悪くしないでくださいね」



さり気なく気を使う事に対してユリクは、更に気を使ったのか『家族に早く会いたいだろ?』と返すとユリクの人差し指を握る手がピクリと動く。



「……えっと。はいっ!逢いたいですねっ。ですが、自分達を優先で構いませんからっ!」





「……セアー?……。んー! そうだなっ。とりあえずは、目を治す事だけを考えよう!! 」



人気が無い街道を森に向かって歩いて行く。



デカイリュックには何が入っているのか、時々鉄が、擦れる音が“ガッチャンガッチャン”と鈍く高い音を鳴らす。



「とりあえず、ルクサンブルクに着いたら川を目指そう」



「川……ですかっ?」



「ぁあ、川だ。セアーと俺が出逢った場所。そして、唯一開けた場所だから。そこで暖を取る段取りをしよう」





以前、セアーを背負いながら通り過ぎた丘を再び通り過ぎ。

二人は四本の脚で初めてルクサンブルクの森の中へと入る。



相変わらず生い茂る木々は陽の光さえも遮り“ジット”とした薄暗い空気を作り。

動物が揺らす木々や鳴き声が単なる森を怪しい森へと変え。ひんやりと過ぎ去る風は身体を震わせてゆく。



「さっきまで暖かかったのに、ここは、涼しいと言うより寒いです」



「まぁ、川も近いし。高低差ある木々が生い茂っているから、陽もそんな通さないんだよ」





さり気ない会話が続く中、足を止めることなく獣道を進み行くと次第に、穏やかなせせらぎが鼓膜を叩く。



昨日の猛々しい音とは全くもって違う音にユリクは肩を撫でる。



「もうスグ着くからなっ」



前回此処に着いた時よりも間違いなく早いスピードで辿り着いていた。

何がユリクをここまでつき動かしたかは分からないが、しかし何事も無いからこそ柔らかい表情のままでいれたのだろう。



「着くって、私達が出会ったと言う場所でしょうか?」



「そうだよ。セアーが流れ着いた場所。──そして、どうやら今回は魔境種にも出会さずにすんだみたいだな」



──四尺程の野草を掻き分け視界に入る川を見て、ユリクは小さく頷く。



中心部まで透き通ったと、までは行かないが流れは穏やか。



足が浸かる程度の場所ならば透き通るぐらいまで、落着きを取り戻していた。



それに、川を挟み込むように生える木々を通り抜け射す暖かい陽射しは安心というものをくれる気さえもする。



「よしっ。此処いらでいいかッ!」



気合いの入った大きい声と共に“ドサリ”とリュックを置く。



すると、サックを開きテントを取り出すし。セアーに座っていてくれと促す。



静かにセアーが座る中、慣れた手つきでテントを一人で組み立ててゆく。



まるで、それを見ているかのようにセアーはユリクの方を見ていた。



「ユリクさん、でもこんなゴツゴツした石の中休めるのですか?」



「ん? 大丈夫だよ。こんな風にっ……っと」



そう言うと、何やら石と石がぶつかり合う音が鳴り響く。



「えっと……何をしているんです?」



「ぁあ、そっか。これはな? 大きい石だけをまず、取り除きます」



「取り除きます?」



「そして次は足をすべらします。すると、なんと石は平等に間に敷き詰まるのです」



先程の音は、どうやら整地をしていたようだ。

そして、見事に住みやすいとは、いかずも平らな足元が完成していた。だが、これじゃ終わらないと言わんばかりに持ってきた藁を数枚敷いてゆく。



こればかりは流石と言うべきだろうか。





「セアー。ちょっとこっちに来てごらん?」



得意げな顔。ドヤ顔のようなものを作り上げ、セアーの手を引くと、完成したテントの中へと座らせた。



「……あれっ? そんなに痛くないです」



驚いた表情を浮かべるセアーを横目にユリクはニヤリとほほ笑む。



「だろっ? これはなっ、網目が細かい分弾力が生まれるから藁のお陰で余り気にならなくな?んだよっ」





「凄いですっ! 良くこんな事思いつきましたねッ」



「これはな、リュークのモットーなんだ。自給自足、だからこそ創意工夫が大事。っても、これは、おやっさんに教えて貰ったんだけどな? 言わば形見みたいなものさ」



いつかの日を懐かしむかのように、小石を川に投げながら語るユリク。



すると、何かを思い出したかのように『暗くならない内に』と繰り返しながら、空洞を作りつつ藁を丸め始めた。





「次は、何をやっているんですかッ?」



「ん? これは魚を捕る仕掛けさ。此処の川魚は隙間に入り隠れて流れて来る虫とかを食べる習性があるのさっ! だからそれを活かすって理由よっ!」



「これも、創意工夫ってやつなんですねっ!」



「本当は、昨日試すつもりだったんだけど流れが酷すぎて出来なかったんだよねっ」



ユリクは三重程丸めた藁の先端を太めの藁一本で入口を狭めると紐で繋ぎ、後ろの部分は完璧に閉ざし中に石を数個詰めて川に投げ込む。

と、同時に紐を掴み流れとは逆の方向へと歩き出した。



遠くなる足音に不安になったのか、か細い声を大きいくだし、ユリクの名前を呼ぶ。



「ぁあ、わりぃわりぃ。位置調整していたんだよっ」



「ふむっ? 位置調整っ??」



「そう、位置調整。流れと同じ方向に狭めた入口が向いていたら意味がない。虫は流れてやってくる。と、なると当然奴らは流れとは逆方向に顔を向けているんだから。」



“パンッパンッ”と手を叩き、一段落したかのように深呼吸をするとユリクはセアーの隣へ座り込む。



「ユリクさんは物知りなんですねっ」



「物知り? と言うか自分達が生きて行く為だったからな。食材を調達するのだって自分達でやるしかなかったしさ」

 

それからという物、数個に渡り仕掛けを設置して以来。特に行動もすること無く時間だけが過ぎていき。



辺りは青々しい空が照らしていたのが一変し、薄暗い空が辺りに暗闇を作ろうとしていた。



「よっし!! じゃあ仕掛けでも見てくるかなっ!!」



自信満々に、立ち上がり早歩きで仕掛けまで行くと、早い速度で仕掛けを手繰り寄せてゆく。



“バシャンバシャン”と仕掛けが上がる音に期待を隠せていないのは。体育座りをしながら前後に体を揺らし鼻歌を奏でているセアーもだろう。



数度に渡り鳴っていた水揚げの音もなくなり、次第に足音がセアーに近くなる。



「ユリクさん、どうですか? 捕れましたか?」



しかし、ユリクは黙り込み返事をする事はなかった。



「あの……ユリクさん? 今日はたまたまですよっ。きっと明──ひゃぁああっ」



セアーの震え弱々しい悲鳴が響く中、ユリクは笑いを堪えるかのように肩を揺らす。



「なぁ? ビックリしたか? 俺が捕れない訳がないだろっ? ホレっ!」



そう言うと、セアーの小さい手に魚を乗せた。

しかし。それもなかなかの大きさで、両手からはみ出る程のサイズ。

その、“ピチャピチャ”と暴れ跳ねる魚に慌てふためくセアーを見て、再び肩を揺らし満足気な表情を浮かべる。



「ビックリしたじゃないですかっ!」



「アハハ、良かった。初めてちゃんとしたリアクションを見れた気がするよっ。──よし、火を起こすかなっ!──」



どうやら、ユリクなりに気を使っていたようだ。



石で山を作り、火を焚べるとまるで生きているかのように揺れ燃ゆる。



暗闇に光る赤い炎は美しく熱気を放ち、“パキパチ”と静寂に切なく鳴り響く。



そして長い夜は深け更けていった──。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色