眠りを妨げせし悪魔は

文字数 3,573文字

「───今日は、昨日の悪天候……台風が嘘のように素晴らしい天気だ」

そんな言葉を並べるユリク。

まだ昨日の露が残る村外れの小さい丘。

そこに、自家製の網目が細かい藁でできた敷物の様なものをして大袈裟に"バサン"と音を立て横たわった。

見晴らしが良いこの丘で黒いTシャツと茶色いチノパンと言うのはやたら目立つ。



「こりゃまた気持ちがいい風だ事っ。このまま良い眠りが出来、且ついい暇つぶしができそうだっ……」



ビューっと吹く強い風は、美味しい空気を草木を揺らしながら運ぶ。

すると、同時に水を含んだ枯れた葉は重さと重なりヒラリ・ヒラリと舞いユリクのおでこへと着地をする。



「うわっ!! つっ──っめたい!! と言うかびっくりしたぁ……って落ち葉かよ。脅かしやがって」



清々しい気候に気を緩めていたユリクは落ち葉にしてやられたようだ。

正直言ってその大きい声は近所迷惑だと言いたい所だが。驚く事に、ユリクが居る場所を中心に辺りを見渡しても小さな村が一つあるぐらい。……よって、近所迷惑にはならないらしい── 。

「馬鹿くさい。何が寂しくて、一人でワーワーと」



眉を細め左手で眩しい太陽を遮るかのようにデコにつけると届くはずのない青々しい晴天へと右手をグッと伸ばす。



「───白い鳥……渡り鳥か何かかな、普通の鳥にしては大きいような気もしないでもない……。

にしても、いいよなこんな広い大空で何にも邪魔されることなく遮られることも無い。それどころか、自由に飛び回れるんだから。

それでも、アイツらには目的がある。やらなきゃいけない事がある。俺もそんな強い使命感に駆られた事をやってみたい……」



生き甲斐が欲しい。

誰もが一度は思い、思い詰め考える事。それは例外も無くユリクも同様に感じているようだ──。そう言った年頃なのかもしれない……。



「まっ無理かっ、そんなこと──。実際、俺何をしたいか何をどうしてどうなりたいかそれすら分からない見当たらない。

それに対して、何かしたいだなんて自己矛盾だよな……。

よしっ! 寝よう!! 昼寝とは行かずも朝寝と言うやつかなっ。今はまだ行動するのは早いし」



突き上げた、右手は自分の思いを潰すかのように握り拳を作り地面へと下ろし『はぁ……』

と溜息を一つ零し目を瞑った。



──自然が織り成す気候は、なんとも居心地がいい。夏日だというのに、草木を掻き分けて吹く風は涼しく暑いのではなく"ポカポカ"と暖かい。



息を吸い込むと、まるでミントを口にしているかのようにスーッと色々な優しい匂いと一緒に鼻を抜ける。

ユリクはそれを、いっぱい堪能しているかのように妬ましい程穏やかな寝顔。

その表情は平和の象徴を思わせる。しかし、コレはあくまで例えであって実際平和なのかどうかと聞かれれば言い切ることは難しい。



それはそうと──。



寝返りを、数回しても目覚めない深い眠りもいつかは何も無かったかのように目を覚ます。

そのキッカケは、人それぞれに違いない。だが今回に関しては、どうやらユリクの顔を陽から遮るかのように伸びる二つの影のようだ。



「……んっ……と? あんた達は一体どちらさん?」



タダでさえ細い目をさらに細め視界を定めるかのように目を擦る。その間抜けヅラは、明らかに寝起きの顔だろう。しかし、目の前の二人はそんな事はお構い無しらしい。



「そこで眠る若者よ!! 端的に問おう。此処いらで『第一級危険討伐対象』を見かけてはいないか!?」

相手を威圧したような物言いが低い声と重なってより一層圧迫感を感じらせる。

陽が当たれば眩く反射し目を背けたくなる程に白い重厚な鎧を羽織り肩幅ほどに足を広げ堂々と立つ。しかし、そのような……言うなれば厚着をした者が二人も近くに居られると圧迫感を感じるのだろう。

ユリクは気だるそうに座り込むと、距離を開けるかのように敷物の後ろまで下がった。



「──はぁーあっ……ふぅ。──えーっと、第一級危険討伐……だっけ? そんなものは知らない──。それはそうと、暑くないの? と言うか熱いでしょ。そんな、顔までスッポリ兜まで被ったんじゃ」



深いアクビと溜息をつき目の前の大人二人に怯みすらせずに、有無を答えた。

──それどころか、失礼であろう事すら尋ねる次第。



「我々は、首都エウプラーギアの先鋭。『フィリングギャルド騎士団』である。もし隠している事があれば我等が王クラディウスの名の元に誅を下さねばならない。本当に知らないのだな!?」



"ガチャガチャ"と姿勢を変える度に鋼と鋼が擦れ音が甲高くそれでいて耳に残るように地味にネットリと鳴る。

寝起きのユリクには、余計に耳障りなのか騎士団相手に"キリッ"と軽い威嚇をするような視線を送った。



「だから俺は、し────」



「坊主。俺達は、国の為に体張ってんだ。その騎士団相手にそんな目付きはいけないなー?」



ユリクの声に、割って入ってきた声の人物。

同じ騎士団員なのだろう。気を利かしてるのか一歩下がった騎士とまったく同じくある物がある──。それは、左胸の所に意向を象徴しているかのように彫られているもの。

──盾を背景に剣が二本交差している形を成した紋章が懇切丁寧に磨かれより目立っていた。



しかし、その男性には多少異なるものを感じざるを得ない。

それが何かと言えば、柔軟な物腰・堅苦しくない物の言い方を取り上げたくなる。

だが、それとは違うなにか。

白い鎧で尚、異彩を発色する真っ赤なマント。風でなびかれるそのマントに描かれている紋章、その紋章が左胸とは違う。

似てはいるが違う、意味合いが全く違うように感じる。

──盾を背景にその盾の左右を白と黒の蛇が噛みつき、手持の部分から刀身の先までトグロを巻いているのだ。正直、トグロの隙間から見える刀身が不気味さを引き立てる。





「だから!! そんな事言われたって、知らないものは知らないんだよ!! 騎士団も、第一級危険討伐対象も!! 人が気持ち良く寝てたのに。なんだよ、あんた達。上から見下したような言い方しやがって」



敷物を掌で"バン"と音を立て、再び睨みつける。先程よりもその黒い瞳の眼光は鋭さを増していた。



「貴様ッ!! 何て口の聞き方を!! 無礼にも程があるぞ!? それに我々をしら──」



「坊主? そーや此処はミーリュ街道。ここまで来るには検問があったはずだが、坊主はどうやってここに来た?? 」



急に、赤いマントをした騎士は座り込むユリクに目線を合わせる。

先程、軽い激を飛ばされた事に反省したのだろうか? 。すると、兜からうっすら茶色い瞳を覗かせユリクを写し諭すかのように語りかけてゆく。



「検問?? そんなの知らないよ俺。今までそんなの通ったことも無い」



「貴様ッ! まさか検問を掻い潜ってココに!? なんて奴なんだ」



「お前……さっきからゴタゴタ……うるっ……せーんだよなァ? 偉そうによ。元はと言えば誰のせいでこうなってんだよ……なぁ? 教えてくれよ本当によおッッッ!! 俺が今坊主と話してんだよ、割って入ってくんなよ……分かったか??」



声を震わし怒りを露わにしているだろうという事は予想できる。だが、それよりも空気がガラリと変わったかのように冷たく突き刺さる。それを肌で一番感じているのは、たじろぎ目を泳がしながら言葉に詰まってる騎士のようだ。



「ごめんな? 坊主。コイツには後でキツーーく言っとくからさ──。でだ、坊主はエウプラーギアには住んでないのかな?? 」



「ぁあ、エウプラーギアには住んでいない。俺が住んでいるのは、ここから数分歩いた所にある村『リューク』だよ」



そう言いながら視野で確認出来るほどの場所にある村を指さす。



「あー、なるほど。そーかい……リュークねぇ? 分かった分かった。そりゃそーだ。悪かったな坊主。しつこく聞いたりして邪魔したな──。俺達はもう出発するからよ」



立ち上がりユリクの頭を軽く撫で丘を重たそうな音を奏でながら下っていくのを目で追いながらユリクはホットしたかの表情する。



「しかし、さっきの気迫凄かったな。ラズさんに禁句を言ってしまった時以上だったような……」



「──────クククッ……名も無き村リュークねぇ……」



感想を述べているユリクを背に、左頬をつり上げ揶揄する姿は何故だか恐ろしい表情にすら思えてしまう。



「邪魔したな、って言われても完璧に目が覚めてしまったし。まぁ陽の高さもいい具合だし、そろそろ行くかなっ!! 」



元気よく起き上がり。

生き生きと敷物の様なものを"バサバサバサッ"と巻き左腕で挟むと力に従うように早い速度で丘をくだる。
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