新しい土地『ハーレスト』へ

文字数 3,914文字

ユリクは、再び二人が待つ部屋に戻る。

すると、二人は何故か笑顔で話していた。が、それよりも気になる事が、目に付く事、違和感がこの部屋の中にあったのだ。それは、ユリクの視線が教えてくれる。そう、セアーの包帯が取れていた。


「おかえりなさい、ユリクさん。そして初めましてユリクさんッ。やっと、貴方を見ることが出来ました」

「セアー……目が見えているのか?」

確かに、目が見えていなかった頃に比べて、セアーの今の瞳の色は赤い瞳と言うよりも深紅色とも言うべきだ。

そして、その深紅の瞳は少し潤んでいた。

「見えています。ユリクさんの黒い髪の毛・黒い瞳・高い背・唖然とした表情。見えています、しっかりと」

しかし、それは同時に別れを意味するもの。
ユリクはどんな言葉を用いて彼女を説得するのだろうか。

今となれば考える時間、そのものが無くなってしまったのだから。

ユリクは、気持ちを切り替えるかのように頬を両手で叩き“キリッ”と目付きに鋭さを戻す。

睨んでるようにも見えるが、これは彼なりの真剣な表情なのだろう。


その表情をセアーは暖かい深紅の瞳で写す。


「──良かった。……それで、大事な話があるんだ。俺と一緒に来てくれないか??」


「ですからそれは……」


案の定、セアーの口からは決まっていたかのような言葉が生まれ出てきた。が、くうりはセアーの肩を叩く。まるで、『話を聞いてあげて』とでも言うかのような表情にセアーは頷く。


「俺、さっきも言った通り。この人が勝手に作った秩序を変えると決めた。

『この世界をあるべき姿、皆が平等に生きれる世界に戻す!! その為になら俺は破滅の歌すら綴ってみせる』

しかし、それは人である俺一人じゃ何も出来ないんだ。だから、力を貸して欲しい」


「じゃあ、僕も一ついいかな? 君は本当に人間なのかい? これは、思考的問題ではなくてね?」

「何を言い出すんだ? 俺は人間。俺を育ててくれたのも人間!」


「……そう。まぁ、僕の想像も君と一緒について行けば分かるしねっ。……いいよ、僕は君に力を貸そうじゃないか」

ユリクの目を見つめ、くうりは賛同の意を表明した。しかし、その表明に驚いた表情を浮かべるのは他でもないユリク。

「──良く分からないけれど……と言うか、くうりにはライズが居るだろ!? この街だって」


「ユリ君が世界を変えることが出来たら散り散りになった皆も戻ってこれるし、ライズともちゃんと話せる。

君も言ったじゃないか、『俺のような考えの奴が他にも居る』って、それは事実だったし。それなら僕も希望を持つことにするよ」

「……私は…………」

思い悩むような辛い表情を、浮かべるセアー。

くうりは下を向いてしまったセアーの小さい顔を両手で挟むと“グイッ”と上にあげて目を見つめる。

「セアーちゃん。君は、あんな楽しそうに話していたじゃないか。建前はどうでも良い、君自身はどうしたいのさ? 最悪な状況を考える前に、君自身はどうしたくて、どうなりたいのさ」

セアーは目を泳がしながらも震えた唇をそっと開く。

「……私は、皆と居たいです……でも私と居ることで皆さんが傷つくのなら……」

“バチンっ”次は高い音をたてながら、再びセアーの顔を挟み直す。

「だーから! 建前はいいの!! 僕も狙われてるのは一緒。リスクは変わらないんだよ!? どうしたいの!?」

「私は……わた……しは……皆と居たいです!! ……でも怖いのも事実なんです」

ここに来て初めて大きい声で感情を露わにしたセアー。

それをみてユリクはセアーのもとに近寄る。

「俺は死なない。今は弱い俺だけど二人が託してくれたコレをちゃんと扱えるようになって二人を護るよ。

セアーが言ったように、俺はおやっさん・ラズさんを誇りに思う、こうやって繋げてくれたんだ……だから、一緒に行こう……セアー」

すると、腑に落ちないかのような表情を浮かべながら“ズイッ”と二人の間に顔を入れると、しかめっ面を浮かべながらくうりがユリクを睨む。

「何か、勘違いしているようだけど、僕はなかなか頼りに足る働きをすると思うのだけれど? もっと信じて頼ってくれて構わない。信頼してよねっ……それにセアーちゃんだって」

しかし、それは説得力がある。

もし、くうりが使う自然の力を守る為に使えたのならそれは心強いものではないだろうか。

ユリクも確かにと言わんばかりに大きく頷く。

「とりあえず、今後の方針を決めよう」

「そうですねっ」

「決めようって、君は何処に誰が居るか分かっているの??」

「それは……」

頼りないユリクの返答に、くうりは深い溜息をつく。予定は未定とはこの事を言うのだろう。

「君は何も知らないんだね。じゃーまずは領土とかそう言った話をしようかッ」

さすが、豊富な知識を持ったエルフとでも言うべきか。

そこに立ち尽くすユリクなんかよりも力強い声からは凄い頼り甲斐があるというもの。


「まずはね、ここ、ルクサンブルクの森は霊峰・リリーカと繋がっているんだ」

「そう言えば、おやっさんが、この川は北の方から流れてきていると前に言っていた。つまりは、そう言った事だったのか。なら、此処が大陸リアラって事なのか?」

「違うんだなっ。僕達が住む世界の大陸、それが『イミタシオン大陸』その大陸に住む五種族が僕達。そして、それを分ける為に生まれたであろう物が領土と言うわけだねッ。

つまりは、リアラは領土。地名と言うべきかな? まぁ、これだけ大きい土地だと大陸と言いたくなるのも分からないでもないけどねっ」


狭い部屋の突き当たりから突き当たりまでを往復しながら得意げに知識を披露する。

それを目で追う二人の表情は想像を頑張っているようにも見える。


「中央に、構えるのが人間。王都エウプラーギアだね。あそこに、殆どの人が住んでると言っても過言ではない。それ程に大きい街なのさっ! ……って、全部話すと長くなるから。ユリ君はまず、鬼人と獣人どちらに会いたいの?」

「……どちらって……えっと……じゃあ、獣人??」

「ユリ君、今確実に思い付きで言ったでしょ??」

「私も、それは思いました……」

「おい!! この状況で責めるなよ! 全くの無知識なんだから!!」


二人の冷ややかな対応に軽快な突っ込みをいれると、やっと力が抜けたのか椅子に座る。


「まぁ確かに、それはそうだねっ! じゃーまずは南の領土『ハーレスト』に向かおう」

新たに出来た目的にユリクはホットしたのか、それとも離れ離れになる事がなくなり嬉しかったのか、表情は強ばっていた話始めに比べ穏やかになっていた。


「よし! 分かった!! そうと決まれば明日に備えて寝──」

「はあ……あのね、ユリ君? 君は二つ返事で了承したけれど、ことの重大性が分かっているのかな??」

「事の重大性??」

思わず、情けない表情を浮かべるユリク。
それを見て、くうりは頭を抱える。

「あのね? ユリ君。僕達は狙われている存在なんだよ? それが領土から領土に移動をするとなれば当然、中央を拠点としているエウプラーギアの騎士団に見つかりかねないという事。

となれば否応なしに戦わなきゃいけない。それがどう言う事か分かっているのかい?

話して分かるのなら、こんな事にだってなっていない事を忘れないで考えてみて」

「それは……」

「命をかけると言う事ですよ? ユリクさん。本当に良いのですか? ユリクさんがここまでする必要なんか無いんですよ?」

それは、揺るぎない事実だろう。第一級危険討伐対象と行動すると言う事は、それ程のリスクがある。言い方を変えれば彼女達はそのリスクの中で生きているのだ。

そして、力と言う武力を行使してきた場合は、ユリク達もまた、それ相応、あるいはそれ以上の力を行使しなければならないという事。

この状況で冗談を言ってるわけもなく、ユリクを射抜く青い瞳は真剣そのもの。

「ユリ君、君に人の命を奪うと言う事が。本当の意味で破滅の歌を綴る事ができるの??」

「人の命を……」

やっと、事の重大性を思い知り打ちのめされたかのように遠い目をしながら、ただ呆然とするユリク。

そして、何かを確認するかのように二人の顔をユリクは眺める。そして、立ち上がり口を開く。

「殺し合いは避けたい。なるだけ人の目につかないように行動して、バレたらバレた時考えよう」

「ユリ君……君の考えは甘々だよ。そんな事じゃ誰一人として守る事なんか出来やしないと僕は思うよ」

そのあまりにも重たい言葉は、冷や汗をかき、上手い具合に言ってのけたと言わんばかりの表情をガッツポーズをしているユリクの鼓膜を穿つ。

その言葉に、ユリクは現実に引き戻されたかのように口を半開きに固まる。

「それで──」

「分かってる。それでもやらなきゃ駄目なんだ。
おやっさんは俺に言った『何をすべきか、自分が何を優先すべきか。そして強い意志をもて』って。

それに託してくれた、格差なく平等に考えられる気持ちを大切にしろ……と。

それが壊す事により生じる事なら俺は悩まない……と言えば嘘になるかもしれない。でも、意思は変わらない。

──この世界を変えたいんだ」


「はあ……分かったよ。僕は自然と対話ができる。今まで、君達に見付からずに行動出来たのも君達を避けて来れたのもそのお陰。だけれど最悪な状況は考えておかなきゃ駄目だからね?」

「……ありがとう」


「じゃ、明日出発をしよう。場所は、確か地図を僕持っていたから何とかなるはずだし! 今日はもう終わりにして、明日また話そう」

二人は、くうりの意見に賛同するかのように頷く。

「じゃ、この部屋はセアーちゃんがつかって?
僕は違う部屋を使うからッ! ユリ君も、適当に部屋をつかっていいからっ!」

そうして、三人は明日に向けて解散をした。
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