あの日の楔
文字数 4,433文字
「これ、本当大丈夫なのか?」
ユリクが疑問に思うのも仕方ないと言える。
何故なら机の上で横たわるセアーは目を包帯で巻かれ、尚且つ痛みを我慢するために出たのか分からない大量の汗が服を濡らし、薄らと体のラインを晒していたのだから。
しかし、くうりは何故そのような事を言うのか分からないような表情を浮かべる。
「はい? 大丈夫じゃなかったら流石に僕言いますよぉ?」
「いや……そりゃあーそうかもだけどさ……」
サラッと言ってのけた正論にユリクは見事に論破され“タジタジ”に頬を掻く。
しかし、目を包帯で巻かれ、横たわる白髪の少女と言うのは些か異様な光景。
「ふむふむ、ユリ君は心配なのですねー??」
「心配……そう、心配なんだと思う。セアーも、くうり同様に人が犯したクソみたいな罪に行き場を無くしたんだ」
「罪?? これは、変わった見解をしますねっ。世間的には、ユリ君が罪人なのですよ?? 数は何よりもの正義であり法である。多数決と言うものがその塊でしょうに」
ユリクは、その罪人と言う言葉に滅多打ちにされ落ち込むこともなく、寧ろ、黙考しながらセアーを見つめてるようにも見える。
「数……数……そうだよ!! 数だよ!!」
「なっ、どうしたの? 急に。びっくりするじゃないか」
「くうり! 人間が勝手に言っている第一級危険討伐対象は何種族いるんだ?」
閃いたように自信に溢れた表情を浮かべ、くうりの細く狭い肩を両手で掴む。
そして、顔を近づけながら伝えた。が、あまりの突然な接近に顔を赤らめ目を伏せるのは、いくら大人ッぽくても、弟の代わりに子供ぶっても、その正体は女の子なのだろう。
「ち……ちかいなぁ……」
「っあ! ごめん……」
「──ばーか。……んと、種族だよねっ。僕を含め四種族かな?」
「それは、どう言う種族なんだ?」
「えっとですねー、僕達エルフ・末裔のセアーちゃん・鬼人・獣人。この四種族が第一級危険討伐対象として言われていますねっ」
想像するかのように、くうりが言った言葉を繰り返しに口ずさむが、数回言った所でごまかすように笑顔をつくる。
その、良く分からない行動、読めない発想に、くうりは振り回されながらもユリクを見つめていた。
「どんなのかは、分からないけど。俺達でそんな危険な事をしないと数で王に直々に訴えれば!!」
「ポカーンッ」
「自分で、唖然の意を表すな!! 俺が変な事を言ったみたいじゃねーか!!」
「いやいや、充分、変な事だよ? と言うか異人だよ、君はやっぱり。そんな発想をするなんて、どんな教えを叩き込まれてきたんだい?」
その、何気なく投げかけられた言葉にユリクは天を指差し、自分の教えに間違えがないと言う自信からなのか穏やかな表情を作り口を開く。
「命は平等! 優劣なく皆、大切!! 俺にとって家族みたいな存在の人に教えてもらったのさ」
「ふむふむ、その方も変わっていたんですねッ。でも、残念ながらそれは難しいんじゃないですか?? 他種族をも収集するなんて非現実的すぎますよっ」
ユリクの不安感を煽るような難しい表情を作り、くうりは席につく。
自信満々に提示した案を、現実的思考じゃないと否定され立ち尽くすユリクだったが、くうりを見つめて目に力を取り戻す。
そして、人差し指でただ一点、くうりを穿つ。
「くうり、お前だって俺達からしたら他種族だ。なのに助けてくれた。なら共存だって出来るんじゃねーのか!?」
「それは、君達が変わっていたから! 他の人とは違く、歩み寄っていたから助けようと思ったんだよ!! 何も知らないくせに簡単に言わないでよ!」
いつもは、冷静ある返しをする、くうりが目を血走らせ“ギッ”と鋭い目でユリクを睨み感情的に訴える。
その威圧感に、半歩たじろぎながらも強く踏み直しその目を睨み返す。
「何で、分かんねぇんだよ!! 俺がそうなら、他の連中だって全員が全員そうとは限らないだろ!?」
「もう、良いよ。君に何を言っても無駄だね……。」
「──なっ!?」
普段より大きい足音を立てながら冷たい風を作りながらユリクの横を通り抜け、部屋を出るくうり。
その、感情的な態度に思い悩むかのように、口を歪め顔を顰めながら頭をユリクは抱えていた。
「なんなんだよ。あんな剣幕で言わなくたって良いだろ……」
「……ユリクさん。違うんですッ」
「おまっ! 目が覚めていたのか?」
「はい、すいません。中々、話に入るタイミングが掴めなくて……」
目の包帯は取ろうとせず、体だけ起こし壁に寄り掛かるセアー。
痛みを紛らわす為か長い深呼吸をしながら、話を始めた。
「治療をしている時に教えてもらったのですが、此所には他のエルフが居ないの知っていますか?」
「うん、それは、さっき聞いた。第一級危険討伐対象で、激しくなったからだって」
「……疑問に思いませんか??」
「どう言う事だ??」
「此処は、隠れ家みたいな場所ですよ?? 滝に隠れた、見つからない場所。だから、皆さん此所に住んでたんですよね? なら、何故その隠れ家を出る必要があったのでしょうか?」
優しく、不思議と聞き入る事が出来る透き通った声。その声にユリクは、返す言葉もなく。壁に寄りかかり、ただセアーの言葉に耳を傾けていた。
「くうりさんは、以前、傷ついた検問担当の騎士を助けた事があるんですよ。当然、誰にも言わないと言う約束でこの街に連れてきたそうです。
彼は『こんな優しい種族だと知ればやめてくれるはず』だと、口を開く度に言っていたようです。
──ですが、事件は起きました。彼を帰して数日後、とあるエルフがこの森で彼を見つけると彼は仲間に『あの滝の裏に残虐で恐ろしい第一級危険討伐対象が居る』と。
そう、裏切られたんです、くうりさんは。そして、皆は恐れこの街を後にして、残ったのはくうりさんだけだと言う話です」
それは、酷い話だとしか言いようが無い。
だが、正義感が強いユリクは、その話を聞いても自分を責めることなく、それどころか、逆に疑問を抱くような表情を浮かべていた。
かと、思いきや、セアーに『わるい』とだけ、告げ。
くうりの後を追うかのように部屋を出る。
辺りを見渡す事もなく、ユリクは居場所が分かっているかのように歩き出す。
「やっぱり、此所に居たんだな」
その場所は、弟である、くうやが眠るフォレスト・レイ。
「なにかな?」
涙ぐむ声を誤魔化すかのように、濁し喋る。
「セアーから聞いた。……でも、少しおかしいと思うんだよ」
「ぁあ、聞いたんだ。で、何がおかしいんだい? 僕は裏切られた。それだけだよ」
「じゃあ、彼が言った後に騎士団が襲ってきた事は??」
「……無いけど、時間の問題でしょ。そんなもの」
呆れたように、理解を諦めているかのように冷たい返しをする、くうり。
投げやりな返しにユリクは歯を食いしばった。
少しの沈黙の中、聞いたことがない若々しい声が街に響き渡る。
「くうり!! 俺だよ!! いい加減応えてくれ!!」
「なんだ? この声」
「この時間になると、いつも木を通して呼ぶの。……彼が」
「木??」
「そう、非常時にいつでも知らせられる様に、強い意思で念じればこの街に聞こえる仕組みになっているの」
ユリクは、やっぱりと言わんばかりに溜息を付き。
そして、くうりの頭に手を乗せる。
「なぁ、彼がそれを仲間に話してどれぐらい経つ??」
「一年とちょっとかな」
「その間、この呼び声に応えた事は?」
「ある訳ないでしょ。裏切り者の話なんか」
「いいから! 一度ちゃんと話してみろ!! な?」
初めは頑なに嫌がっていた、くうりだったが。
一向に腰をおる気配が無いユリクに負け。
そして、フォレスト・レイに手を翳し目を瞑った。
その姿を見て、やっと満足そうな表情をユリクは浮かべる。
「──なにかな? ライズ」
「……ッ!! やっと応えてくれたッ。──久しぶり。……その、元気……だったか?」
変に緊張しているのか、若々しい声は、つっかえながら言葉に出す。
何ともぎこちない喋り方だ。
しかし、意外と、くうりは満更でもないようで、少し笑を浮かべているようにも見える。
「……うん。元気ッ」
「──そうか!! 良かった。ずっと伝えたい事があったんだ。と言うか謝りたい事が……。裏切ったように思われたのは仕方ない、けど実際は違うんだッ」
「違う??」
「そう、あの滝の裏に空洞があるのは、降水量が少なく、滝の水量が減った時に俺の仲間が気が付いて……何かがあるかもしれない。
とか言い出したんだ……だから、俺は行かせないために脅かすつもりで……。
別に、バラして手柄が欲しかった訳じゃないんだよ──それだけはわかって欲しくて」
触れていた手が“ピクリ”と動く。
「そんな事を伝える為に、毎日毎日……」
「そんな事じゃない。だから言ったじゃないか! 君達みたいな優しい種族が狙われるのはおかしいって。だから、他の皆にも謝っといてほしい」
「──わかったっ。伝えとくッ」
「くうりに、あの日、その話をされて、もう関わらないでと言われた時は本当辛かった。でも分かり合えて良かったよ。じゃ、また来てもいいよねッ? 話にさ? 長居すると怪しまれるしッ」
「うん……ありがとう……ライズ」
「──じゃあ、また明日!!」
嬉しいそうな声を出すライズに反し、肩を揺らし頬から雫を零すくうり。
一年の時を経て知らされる真実に自分を責めるかのように頭をフォレスト・レイに擦り付ける。
その姿に、ユリクはそっと頭を撫でる。
「一年以上も、経って来なかったのは、彼が脅しという驚異という存在で楔を打っていたからなんだよ」
「それはどう言う意味です……?」
既に意気消沈してしまった、くうりは弱々しい口調でユリクの言葉にそっと、応える。
ユリクが疑問に思うのも仕方ないと言える。
何故なら机の上で横たわるセアーは目を包帯で巻かれ、尚且つ痛みを我慢するために出たのか分からない大量の汗が服を濡らし、薄らと体のラインを晒していたのだから。
しかし、くうりは何故そのような事を言うのか分からないような表情を浮かべる。
「はい? 大丈夫じゃなかったら流石に僕言いますよぉ?」
「いや……そりゃあーそうかもだけどさ……」
サラッと言ってのけた正論にユリクは見事に論破され“タジタジ”に頬を掻く。
しかし、目を包帯で巻かれ、横たわる白髪の少女と言うのは些か異様な光景。
「ふむふむ、ユリ君は心配なのですねー??」
「心配……そう、心配なんだと思う。セアーも、くうり同様に人が犯したクソみたいな罪に行き場を無くしたんだ」
「罪?? これは、変わった見解をしますねっ。世間的には、ユリ君が罪人なのですよ?? 数は何よりもの正義であり法である。多数決と言うものがその塊でしょうに」
ユリクは、その罪人と言う言葉に滅多打ちにされ落ち込むこともなく、寧ろ、黙考しながらセアーを見つめてるようにも見える。
「数……数……そうだよ!! 数だよ!!」
「なっ、どうしたの? 急に。びっくりするじゃないか」
「くうり! 人間が勝手に言っている第一級危険討伐対象は何種族いるんだ?」
閃いたように自信に溢れた表情を浮かべ、くうりの細く狭い肩を両手で掴む。
そして、顔を近づけながら伝えた。が、あまりの突然な接近に顔を赤らめ目を伏せるのは、いくら大人ッぽくても、弟の代わりに子供ぶっても、その正体は女の子なのだろう。
「ち……ちかいなぁ……」
「っあ! ごめん……」
「──ばーか。……んと、種族だよねっ。僕を含め四種族かな?」
「それは、どう言う種族なんだ?」
「えっとですねー、僕達エルフ・末裔のセアーちゃん・鬼人・獣人。この四種族が第一級危険討伐対象として言われていますねっ」
想像するかのように、くうりが言った言葉を繰り返しに口ずさむが、数回言った所でごまかすように笑顔をつくる。
その、良く分からない行動、読めない発想に、くうりは振り回されながらもユリクを見つめていた。
「どんなのかは、分からないけど。俺達でそんな危険な事をしないと数で王に直々に訴えれば!!」
「ポカーンッ」
「自分で、唖然の意を表すな!! 俺が変な事を言ったみたいじゃねーか!!」
「いやいや、充分、変な事だよ? と言うか異人だよ、君はやっぱり。そんな発想をするなんて、どんな教えを叩き込まれてきたんだい?」
その、何気なく投げかけられた言葉にユリクは天を指差し、自分の教えに間違えがないと言う自信からなのか穏やかな表情を作り口を開く。
「命は平等! 優劣なく皆、大切!! 俺にとって家族みたいな存在の人に教えてもらったのさ」
「ふむふむ、その方も変わっていたんですねッ。でも、残念ながらそれは難しいんじゃないですか?? 他種族をも収集するなんて非現実的すぎますよっ」
ユリクの不安感を煽るような難しい表情を作り、くうりは席につく。
自信満々に提示した案を、現実的思考じゃないと否定され立ち尽くすユリクだったが、くうりを見つめて目に力を取り戻す。
そして、人差し指でただ一点、くうりを穿つ。
「くうり、お前だって俺達からしたら他種族だ。なのに助けてくれた。なら共存だって出来るんじゃねーのか!?」
「それは、君達が変わっていたから! 他の人とは違く、歩み寄っていたから助けようと思ったんだよ!! 何も知らないくせに簡単に言わないでよ!」
いつもは、冷静ある返しをする、くうりが目を血走らせ“ギッ”と鋭い目でユリクを睨み感情的に訴える。
その威圧感に、半歩たじろぎながらも強く踏み直しその目を睨み返す。
「何で、分かんねぇんだよ!! 俺がそうなら、他の連中だって全員が全員そうとは限らないだろ!?」
「もう、良いよ。君に何を言っても無駄だね……。」
「──なっ!?」
普段より大きい足音を立てながら冷たい風を作りながらユリクの横を通り抜け、部屋を出るくうり。
その、感情的な態度に思い悩むかのように、口を歪め顔を顰めながら頭をユリクは抱えていた。
「なんなんだよ。あんな剣幕で言わなくたって良いだろ……」
「……ユリクさん。違うんですッ」
「おまっ! 目が覚めていたのか?」
「はい、すいません。中々、話に入るタイミングが掴めなくて……」
目の包帯は取ろうとせず、体だけ起こし壁に寄り掛かるセアー。
痛みを紛らわす為か長い深呼吸をしながら、話を始めた。
「治療をしている時に教えてもらったのですが、此所には他のエルフが居ないの知っていますか?」
「うん、それは、さっき聞いた。第一級危険討伐対象で、激しくなったからだって」
「……疑問に思いませんか??」
「どう言う事だ??」
「此処は、隠れ家みたいな場所ですよ?? 滝に隠れた、見つからない場所。だから、皆さん此所に住んでたんですよね? なら、何故その隠れ家を出る必要があったのでしょうか?」
優しく、不思議と聞き入る事が出来る透き通った声。その声にユリクは、返す言葉もなく。壁に寄りかかり、ただセアーの言葉に耳を傾けていた。
「くうりさんは、以前、傷ついた検問担当の騎士を助けた事があるんですよ。当然、誰にも言わないと言う約束でこの街に連れてきたそうです。
彼は『こんな優しい種族だと知ればやめてくれるはず』だと、口を開く度に言っていたようです。
──ですが、事件は起きました。彼を帰して数日後、とあるエルフがこの森で彼を見つけると彼は仲間に『あの滝の裏に残虐で恐ろしい第一級危険討伐対象が居る』と。
そう、裏切られたんです、くうりさんは。そして、皆は恐れこの街を後にして、残ったのはくうりさんだけだと言う話です」
それは、酷い話だとしか言いようが無い。
だが、正義感が強いユリクは、その話を聞いても自分を責めることなく、それどころか、逆に疑問を抱くような表情を浮かべていた。
かと、思いきや、セアーに『わるい』とだけ、告げ。
くうりの後を追うかのように部屋を出る。
辺りを見渡す事もなく、ユリクは居場所が分かっているかのように歩き出す。
「やっぱり、此所に居たんだな」
その場所は、弟である、くうやが眠るフォレスト・レイ。
「なにかな?」
涙ぐむ声を誤魔化すかのように、濁し喋る。
「セアーから聞いた。……でも、少しおかしいと思うんだよ」
「ぁあ、聞いたんだ。で、何がおかしいんだい? 僕は裏切られた。それだけだよ」
「じゃあ、彼が言った後に騎士団が襲ってきた事は??」
「……無いけど、時間の問題でしょ。そんなもの」
呆れたように、理解を諦めているかのように冷たい返しをする、くうり。
投げやりな返しにユリクは歯を食いしばった。
少しの沈黙の中、聞いたことがない若々しい声が街に響き渡る。
「くうり!! 俺だよ!! いい加減応えてくれ!!」
「なんだ? この声」
「この時間になると、いつも木を通して呼ぶの。……彼が」
「木??」
「そう、非常時にいつでも知らせられる様に、強い意思で念じればこの街に聞こえる仕組みになっているの」
ユリクは、やっぱりと言わんばかりに溜息を付き。
そして、くうりの頭に手を乗せる。
「なぁ、彼がそれを仲間に話してどれぐらい経つ??」
「一年とちょっとかな」
「その間、この呼び声に応えた事は?」
「ある訳ないでしょ。裏切り者の話なんか」
「いいから! 一度ちゃんと話してみろ!! な?」
初めは頑なに嫌がっていた、くうりだったが。
一向に腰をおる気配が無いユリクに負け。
そして、フォレスト・レイに手を翳し目を瞑った。
その姿を見て、やっと満足そうな表情をユリクは浮かべる。
「──なにかな? ライズ」
「……ッ!! やっと応えてくれたッ。──久しぶり。……その、元気……だったか?」
変に緊張しているのか、若々しい声は、つっかえながら言葉に出す。
何ともぎこちない喋り方だ。
しかし、意外と、くうりは満更でもないようで、少し笑を浮かべているようにも見える。
「……うん。元気ッ」
「──そうか!! 良かった。ずっと伝えたい事があったんだ。と言うか謝りたい事が……。裏切ったように思われたのは仕方ない、けど実際は違うんだッ」
「違う??」
「そう、あの滝の裏に空洞があるのは、降水量が少なく、滝の水量が減った時に俺の仲間が気が付いて……何かがあるかもしれない。
とか言い出したんだ……だから、俺は行かせないために脅かすつもりで……。
別に、バラして手柄が欲しかった訳じゃないんだよ──それだけはわかって欲しくて」
触れていた手が“ピクリ”と動く。
「そんな事を伝える為に、毎日毎日……」
「そんな事じゃない。だから言ったじゃないか! 君達みたいな優しい種族が狙われるのはおかしいって。だから、他の皆にも謝っといてほしい」
「──わかったっ。伝えとくッ」
「くうりに、あの日、その話をされて、もう関わらないでと言われた時は本当辛かった。でも分かり合えて良かったよ。じゃ、また来てもいいよねッ? 話にさ? 長居すると怪しまれるしッ」
「うん……ありがとう……ライズ」
「──じゃあ、また明日!!」
嬉しいそうな声を出すライズに反し、肩を揺らし頬から雫を零すくうり。
一年の時を経て知らされる真実に自分を責めるかのように頭をフォレスト・レイに擦り付ける。
その姿に、ユリクはそっと頭を撫でる。
「一年以上も、経って来なかったのは、彼が脅しという驚異という存在で楔を打っていたからなんだよ」
「それはどう言う意味です……?」
既に意気消沈してしまった、くうりは弱々しい口調でユリクの言葉にそっと、応える。
「彼は、恐ろしい物と、第一級危険討伐対象と言う概念を詳しく知らないであろう仲間に植え付けた。多分それぐらいしか思い付かなかったんだよ、守る為には」
「守る為? 此処を?」
「ぁあ、そうだ。検問担当だと聞いたけど、それを巡回する騎士団に話したりすれば必ず目に付く。奴らは行動が早い、俺の村も、たった一晩で壊滅。だから、その話を聞いて俺は彼に悪意が無いと悟ったんだよ」
体験談があったからこそ、分かり得た事。
良くも悪くも、リュークと言う故郷を失った為に気がついた事。そして、それが二人の仲を取り留めたと言う事実。
そして、ユリクは力が抜けるように座り込んだくうりに後ろで優しい表情を浮かべ頷き。
そっと、背を向け、その場を後にした。