決意の朝に

文字数 1,840文字

鼓膜に優しく鳥達の囀りが届き。空が微かに灯り薄い青色さを浮かべる。



それは、一日の始まりを……ユリク達の初まりを知らせる鐘。



二人は、家に入る事もせずに先に眠るキールとラズの傍で一夜を越した。



赤いレンガに寄り掛かり、泣き疲れたように眠っていたユリク。

それを宥めるかのようにおおらかな表情を浮かべながら眠っていたセアー。



二人は気がついているか、いないかは分からないが、互いに互いを支えるかのように寄り掛かりながら朝を迎えたのだ。



──そう、二人だけの朝を迎え入れたのだ。ラズと、キールの命を賭してまで作り上げた朝を。



「……気がついたら寝てしまってたな」



深い欠伸をしながら左腕を上げ伸びながらユリクは重たそうに瞼を開ける。



その振動にセアーも反応し目を擦り、ボーッと正面を向いたまま動かない。どうやら、朝は弱いようだ。



「起きているか? セアー。俺は、ちょっと自分の部屋に行って準備……ん?」



ユリクがセアーの方を向いたであろう理由。それは、シャツを掴み、淡い瞳がユリクを向いていたからだろう。



『あのっ』と、言いにくそうに言葉を籠らせるとユリクは『ふぅ』と息をついて左目を瞑って笑顔を作った。



「まぁ、顔とか洗わなきゃ行けないし。一緒に行くかッ?」



「はいっ。一緒に行きますっ」



そう答えると、ユリクはセアーに手を差し伸べ、力いっぱいに引っ張りあげた。



しかし、二人して洋服すら血が飛び散り。それだけでも、昨日の事を知らない人がこの格好を見たら悲惨だった事が想像出来てしまうんじゃないかと思えてしまう。



特に、セアーの服は白いが為に赤い血がより目立っている。



「えっと、持って行くのは仕掛けと着替えだなっ。セアーは、どうする? サイズはでかいかもしれないけど。それでも俺のにしておくか?」





『いいえ』とセアーは首を横に振る。



「せっかく、ラズさんが仕立て直してくれたんです。捨てる事なんかできません」



「そうか。ありがとう。ならせめて、目立たないように上からこれを着ておけっ」



ユリクは、自分の着替えである黒いTシャツをセアーの頭に被せる。



それを、重ね着し、互いに準備を終えると家の裏にある井戸に向かった。



そこで、透き通った冷たい水を引き上げて歯を磨き顔を洗い。いつもと変わらない朝を過ごす。



静かな村で……。



「凄い冷たい水ですねっ」



「ん? ぁあ、地下水脈から取っているからなぁ。冷たいし、美味しい天然水だから飲んでみなっ?」



セアーは、言われるがまま口から水を垂らしながら顔と同じくらいあるデカイおたまで“ゴックゴック”と目を瞑りながらいっぱい飲んでいた。



余りの飲みっぷりにユリクは思わず穏やかにほほ笑む。



「──美味いかっ?」



「はいっ! こんな美味しいの飲んだのは久々です」



「……そうかっ。それは良かったよっ。……じゃあ、お別れを言ってから向かおうか」



久々。と言うのはきっと、囚われていた時の事もいれて話しているのだろう。



それ程に酷い扱いをされたのかと思うと、少しも表情を曇らせること無く。『美味しい』と答え、あどけない笑顔を作るセアーは強い女の子なのかもしれない。





再び二人は、キールとラズが眠る赤いレンガの前までやってくると膝をつき目を瞑る。



「おやっさん。ラズさん。俺は忘れはしない。昨日の出来事、そして昨日以前の出来事……思い出。また、村に戻ってきた時は一緒に……」



「…………」



互いに手を編み誓いをたて、瞼を開く。



「じゃあ、行くか。また、いつくるか分からないしさっ」



ユリクの声は昨日と比べ物にならない程。強い芯を感じれる。

まるで、頼り甲斐のある声。ぶれること無く、ただ目的を見据えているような強い芯を。



『ありがとうございます……』と、逆に後ろめたいような表情をセアーは作りながら答える。



その表情を見て、ユリクはセアーが感じているものを分かっているかのように理由を尋ねることもなく『気にするな』と間を少し開け云うた。



ユリクはラズが云っていた裏にある緑色をしたデカめのリュックを背負い込むと、刀を腰にぶら下げる。



「そうやぁ、この藁だけセアーがもっといてくれ」



「わかりましたっ。もってますっ」



外壁も何も無い、何処からが入口出口なのかも分からない村を出て振り返るとユリクは一度深々と頭を下げた。



誰も遺ならない名も無き村リュークに。
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