各々の想いと真実

文字数 5,494文字

まるで、セアーと居る事によって魔境種と出会す。その様な口振りにユリクは思わずキールを見つめ。わかりやすい困惑の表情を浮かべる。



そして、そう感じたからこそ。そのまま問うたのだろう。──が、しかしキールはその問に対して違うと答える。

 

『お前は、あの娘。セアーをどうしてやりたい?──どうなりたい?』と、質問を変えるかのように、話を切り替えた。



「助けたい。──家族の元に帰してあげたい。……ただそれだけだよ」



困惑していたものの、やはりその気持ちだけは揺るがない信念のような熱い気持ちが伝わってくる。



その眼差しにキールは、溜息を付き。二つ分の席を飛び越え。ユリクの頭を『かっこいいな』と呟き力強い撫で方をした。



「なら、話そう。魔境種をしっていた理由を、この村の真相を……いつからセアー達が第一級危険討伐対象と呼ばれるようになったかを」



立ち上がり、"カツカツ"と音を立て歩き。グルリと回りユリクの正面の席に座る。ここからが、まるで本題だと言うかの様に重たい空気。その空気に、ユリクは思わず生唾を音を立て飲み込む。



『キールちゃん。準備が出来たわよっ』と、再び。その、重い空気を壊すかのような声が響く。二人は当然のように声がする方向を向く。



すると、キールは満足気な表情を浮かべ。ユリクはまるで、言い表せない何かを見ているかのような表情を浮かべる。



目を見開き、口を"ポカリ"と開ける様は情けない顔だ。



しかし、それも分からないでも無い。何故なら、セアーがそこに居る。詳しく言えば、より綺麗に・より可愛く見えてしまうセアーがその場に居たのだから。



ボロボロだったはずの白いワンピースは作り直したのだろうか、綺麗になっていて。それにより腰のラインがより一層際立ち、丈も膝上。そこから覗かせる血色のいい白く細い脚。その為なのか、大人顔負けの色っぽさを出している様に見える。





艶やかな髪も丁寧に梳かしていて。尚且つ、サイドには小さい赤と青のリボンが付けられ、あどけなく目を伏せるセアーは、可愛らしさが増していた。



どうやら、靴もちゃんと変わっているようだ。



その姿で、"モジモジ"されて。挙げ句の果てには『どうですか……?』と顔を赤らめられながら言われる始末。

気の利いた言葉一つかける事の出来なかったユリクの顔は、セアー以上に赤く暑そうだ。



そのお洒落さに比べ。ここに居る三人は、黒いTシャツと茶色いチノパンの二人・白いタンクトップと茶色いチノパンの一人。



──花で例えるのなら、白い百合と土に塗れた汚い雑草だ。



役者は揃った……とでも言うべきか。キールは一旦目を瞑り。ラズはセアーを連れてユリクの隣に座る。



『では……』と、キールが薄らと瞼を開き口を開く。



「俺が魔境種を知っている理由。──それは、俺が元エウプラーギアの騎士団……フィリング・ギャルド騎士団、団長だったんだよ」



その発言に、『ちょっとまてよ!!』と荒げ立ち上がると。驚きの表情を隠せずにいた。

セアーはと言うと、ラズの太い指をただただ握りながら下を向く。



「おやっさん、もしかしてセアーを……アイツらみたいに捕らえるつもりなのか!!?」



「あいつら? ユリク、騎士団の奴らに会ったのか?? それに俺は『元』だ。捕らえる気はない。むしろ……まぁ、黙って聞いとけ」



「会ったよ。今日の朝に……セアーを探しているようだった」



とりあえず、ユリクは落ち着きを取り戻したのか、椅子に再び座るり。指を握るセアーは直にそれを、感じているのか。心配そうにラズの方を向くと『ごめんね』と謝り頭を撫でる。



「──五年前……。今の時期とは異なり吐息が白く濁る季節。セアー達……第一級危険討伐対象『アウラ』を初の公開処刑をしたのは。してしまったのは俺なんだ」



「それって、どう言う事だ? 殺した……のか? セアーの仲間達を。それに!! そんな報せを、セアーがいる前でするんだよ。する必要ないだろ!!」



「落ち着きなさい、ユリクちゃん。声を震わし怒っているのわ分かるわ。だけれど、今この話をするって事はセアーちゃんのこれからに繋がるものなの。……そして、ユリクちゃんにもね? セアーちゃんも、ごめんね。こんな話をして……」



一番、辛いはずのセアーは何故か静かに耳を傾け。それとは真逆に血走る瞳でキールに、怒りを露わにする。



「六年前……俺は北の大陸『リアラ』に聳える。桜と金木犀が咲き散る『霊峰・リリーカ』に騎士団を率いて向かった。国の威信だ、逆らう理由も疑問に抱く理由もある訳が無い。──ここからでも晴れていれば見えていたろ? 高い天をも貫くかのようにデカイ山。それが霊峰リリーカ」



『六年前……』と、小さい声でセアーは思い当たる節があったのか。力を落とす。

その微かな声を聞いたであろうユリク。彼は横目で怒ると言うより落胆した少女を見つめ。

代弁するかのように『六年前に』と繰り返した。



「その時に、何があったんだ? と言うか。その──リリーカに何があるって言うんだ?」



「リリーカには、彼女達アウラが住んでいると言われていた。と言うよりも──初めて、その時知ったんだ。今でも覚えている、王クラディウスの命令



『北に聳える霊峰リリーカ。そこに住まうアウラ一族は我々人類に害をなす暗躍をしていると言う情報を聞いた。



情報を聴くべく、真相をその手にする為にもキール=ユリウス団長の元。先遣隊を送り性別は問わぬ。捕らえてくるのだ』と言う発言。王が言うだけで、俺は疑う必要も無く。寧ろ、その様な考えを働かせるアウラに対して怒りをもっていたぐらいだ」



しかし、その発言は正直普通で当たり前に違いない。誰にも責められる必要もなく、罵られる言葉すら見当たらない。何故なら、国の為にキールは動いたのだから。国を護るという方針を守っていたに過ぎない。



だが、それでも。その言葉を鵜呑みに、ユリクは出来ないようだ。

表情は強張り、笑を浮かべるすきもなく。ただ一点、キールのみを見つめ微動だにせず。握る拳は震え、歯を食いしばる。



「そして、俺達は六年前に女性と小さい子供を捕らえ。一年間の尋問を終え、第一級危険討伐対象と国王は命名し。国民の前で死罪……斬首を行った。



──言い訳するつもりは無い。ただ、これだけは考えて欲しい。何故、俺がエウプラーギアを離れ。この村リュークに居るのかを」



『キールちゃんわね』と先に口を開いたのはラズだった。仲が悪くなりそうな光景が見るに堪えなかったのか。優しく諭すかのように。



「追放されたの……国を追われたのよ。人権も剥奪されてね、だからキールちゃんは戻る事は出来ないの。



それが答えよ、ユリクちゃん?



彼は抗議したの、どうして彼女達が第一級危険討伐対象になるのかと……たった1人で。自分の罪を知ってしまったから。悪意を感じる事の出来ない二人を殺めたんだもの。



──しかし、それを王は許さなかった。非国民と称しキールちゃんを、追放したの。



そして、この小さい村リュークを作り。償いとしてある掟を作ったの。『命は平等』と言う、エウプラーギアの掟には相反する決まり……楔を」



皮肉としか言い様がない。犠牲の元で成り立ってしまった村・掟。

その根源となるものが、セアーの一族だったと言う事実。それは少なからず彼女に苦しい思いをさせているに違いない。



目の前には仲間を殺めた人がおり、その殺めた仲間である人に命を救われたのだから。



だがセアーはあれ以来、一切口を開かず。表情すら変えもしない。

ユリクはユリクで返す言葉もないかのように目を伏せ黙り込む。



「俺は、正当化するつもりは無い。これから告げる事は、もっと過酷で酷い言葉だ。ユリク……これはお前も同じく、セアーと等しく同じ言葉を言わなきゃならない。──それは、ユリクの家でセアーが言っていた事。この村から出て行け。と言う事」



「なんだよそれ……。ふざけるなよ……? どう言う事だよ!! 散々かっこよく、命は平等だとか言いながら。実際掘り返せば居られるのは迷惑って事かよ!? この子の、セアーの仲間の命を奪っといて迷惑がってんじゃねーよ!! 死にに行けと言ってる様なもんじゃねーかっ!」



立ち上がり、堪らずユリクはキールの胸ぐらを掴み、目を見開き大きな口を開く。

近い距離で聞く、その大きい声は悲しみと怒りで出来ているようにも感じる。



『違うと……おもいます』と、服を引っ張りユリクの予想を否定したのは他でもないセアーだった。



「──そう。違うのよ? ユリクちゃん。彼は少なからず喜んでいたの……いいえ。誇りにも感じている様に思えたわ。



貴方が、第一級危険討伐対象と言われるセアーちゃんを助けた事を私に知らせに来た時はね。凄い報われた表情をしていたの。自分が、作った掟の元でユリクちゃんが躊躇も無く命を救ったんだもの。



嬉しくない訳がないわ。息子同然の貴方が、自分じゃ成し得なかった不可能を可能にしたんだから」



その話を聞いて、力が緩むユリクの手を優しく包むかの様に掴む手。その大きい手に全ての感情が篭っているかのように、暖かく。そして寂しく震えているようだった。



「ここも、少なからず。騎士団が来てもおかしくはないんだ。それに、あの丘に姿を見せた……と言う事は、その可能性を限りなく可に近づける。



だからこそ、お前達はこの村を出なきゃならない。俺が出来なかった、考えも付かなかった事をやってのけたから。



だからこそ言えるんだ……ユリク。その娘を救いたいんだろ? なら、まず。『エルフ』を探すんだ」



「エルフ……? って一体なんなんだ?」

「エルフとは、セアーと同様に第一級危険討伐対象と言われている種族だ。彼らは高い知識と強い魔力を兼ね備えていると云われている。



そして、エルフが住んで居ると言われているのが。俺達がお世話になっている森『ルクサンブルク』



──見た所、セアーは目が見えないんだろ? 彼等ならもしかしたら治してくれるかも知れない」





キールは必死そのものに見える。自分がしてしまった事に対する罪悪がここまで人を変えてしまう。項垂れる事も無く、セアーの身を考えているのだと……そう感じざるを得ない。



四人の空間を静かに淡い光を放つランタンの熱のみが優しく包む中。

それでも、ユリクの鋭い視線はキールを冷たく貫く。



覚悟はしていた……であろうキール。しかし、長年一緒に居た息子同然のユリクに睨まれ。大丈夫な筈はないだろう。



辛い感情を写し出すかの様にランタンに照らされて右目は少し光って見える。



それでも、キールは目を背けることなく。頼みの綱である、ユリクを見つめていた。



「──俺は今まで、そのエルフと言うやつに会ったことが無い。ここに暮らし始めて四年、一度たりとも会った事が無い。それに、目を治してくれる保証とかあるのか? 」





「エルフ達は、戦いを好まない。と言われている、閉鎖的な種族だと。その高い知識、膨大な魔力。それが有るが故なのだろうが……騎士団をやっていた頃から、今に至るまで俺も会った事は無い。



これもあくまで伝承みたいなものだ。目に関しても絶対だとは言えない。可か不可も分からない単なる可能性。だが、どちらにしろ騎士団の連中が目を光らせる街道を行くのは無謀だ。



ここから北……ルクサンブルクの川をつたって行け。そうすればリリーカの着くはずだ。簡単な道程ではない……エルフに出会えなければ。出会った所で治してもらえなければ、目が見えるよりも前途多難だ。



だが、ユリク? お前は俺に言ったよな。強い意思を持ち、セアーを助けると。それなら進むしかない……前へ」



一度目を閉じ、キールはいつもの力強い目つきでユリクを見つめ直す。何かを感じたのか、ユリクもまた、強ばった顔を緩めるとキールの目を見つめる。



「分かった。おやっさんが、してしまった罪を俺が償ってやる。家族として、仲間として。さっきまで考えていた以上に、セアーを考え。そして家族の元に……! だけど……とりあえず今日は疲れた。部屋に戻って、また明日話そう」





『そうだな』と、一息つくとキールは眉を緩め天井を見上げた。何も無い赤いレンガで出来た天井を。



"ガタン"と言う椅子を引く音が響き。解散するかのように皆一緒に扉へと向かう。そして四人分の色々な足音だけが、賑わいを見せる。



「しかし、貴方良く殴られなかったわね? 私冷や冷やしていたのよ? それに、貴方はついて行かなくて良いの? 戦力的に」



「俺も一発は覚悟していたんだけどな。──少なからずユリクには隠し事をしていたのだから。それに、俺は行けない。散々命を奪ってきた。この、左目の傷の時だって……それを自分の都合で今更……と言うか、ラズさんの話はしてなかったな」



「そうね。貴方は甘えず、自分の罪に縛られて生きていくべきね。最期まで……。それと、私の事は平気よ。セアーちゃんに話したもの」



扉を押し開けると、陽はすっかり沈みかけ。茜色だった空は薄暗い青色をしている。──が、四人はそんな他愛ない会話すら、する事を許されなかった。



何故なら待ちくたびれたと、言わんばかりに怪しい笑を浮べた一人と凄い剣幕で睨む一人が扉の前で立って居たのだから。



「アンタらは、朝方の……」
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