各々の想い『ユリク』
文字数 1,561文字
って、適当に部屋を使えって言われても、昔は誰かが住んでた家だろ? そんな、もし女性が住んでるとか考えたら無闇矢鱈に部屋に入れるかっつーの。
ともあれ、くうりには救われたな。多分、あそこで付いて行くと言ってくれなかったらココまで話は進まなかっただろう。
もしかしたら、くうりはそうなる事を見越して言ったのか。何はともあれ話が纏まって良かった。
「と言うか、くうりは気になる事を言っていたな……確か、そう、俺が人かどうとかって」
何故、そんな事を疑問に思ったのだろうか。
あの時は、そんな事すら必死のあまり聞き流していたけれど、冷静に考えてみたら不思議でしかない。
アイツは何を知っているんだ? いや、何を俺に見たと言うんだ。
「人じゃないオーラを感じたとか?」
そんな事あるわけないか。俺には自然の力を扱える能力もなにもない。人並みよりも筋肉があるぐらい。
だから、そんな第一級危険討伐対象と呼ばれかねないような力なんかないはず。
「あれ? でも、ならなんで力を持たないセアーが狙われているんだ」
人と対して変わらないセアーを狙う意味が何処にあると言うのだろうか。
俺は、何も知らなすぎる。良くも悪くもリュークで過ごしていた時は関わりすら持つ必要が無かったせいだろう。
でも、その時俺は、おやっさんも似たような事を言っていた気がした。
「俺が知らない、世界が知らない何かがそこにあるのかもしれない」
なんて、そんな推測たてたって、くうりのように冴えてる訳じゃないし。当たる訳がないかっ。
まぁ、そんな難しい話よりも今は喜ぼう。
セアーの目に再び光が宿った事を。新しい一日を目で感じる事が出来るようになったんだ。
それは、喜ばしい事。
当初の目的は家族に会わすために霊峰・リリーカに向かうはずだったけれど……。
「って、俺が悔やんでどうする!!」
俺は強くならなきゃならない。命を守れる強い男に。魔境種に怯え臆するようじゃ話にならない。
おやっさんのように、強くありたい。
「おやっさん……ラズさん」
空の上から見守っていてくれ。俺が決めた道、おやっさん達が説き続けてくれた俺の強い意志を。
そして、誇れるような男に俺がなってやる。
名も無き村リュークでの生活は正しかったんだって、あのおやっさんの弟に分からせてやる。
これからの長い旅路は、前途多難になる事は必須。でもそうなる価値がそこにある筈なんだ、
だから、俺は突き進む。自分が信じた道をひたすらに。
と言うか──。
「寝付けるか!! と言うか結局、滝に居る俺ってどうなんだろうか……」
今頃、あいつらは布団に入り寝ているんだろうな、羨ましい限りだ。
それに唇がまだ“ヒリヒリ”するし、良くくうりはあんな辛い食べ物を休むこと無く、しかも美味しそうな表情浮かべながら食べれたよな。
俺は、もうゴメンだ。
でも、そう、何だかんだ、あの二人って仲が良いよな。家族の事も相談していたようだし、さっきだって俺が部屋に戻ったら笑っていたし。
セアーに抱きついたり……同性の特権というヤツか。
「ちょっぴり羨ましいじゃねーか」
別に、抱きつきたい訳じゃない、そう。ほら、俺にも同性の仲間と言うかなんと言うか……。
「って、何自分でフォローしてんだよ。恥ずかしすぎだろっ!!」
って、こんな事を考えられるのも皆が俺と一緒に来てくれると言ったからなんだよな。
明日からは新しい一日が俺にも始まる。
あの日、丘で渡り鳥を羨ましいと思った。
あの渡り鳥のように俺にも生き甲斐や目的が欲しいと。
セアーと出逢い、知り合い、そこに困難が生じた……。でも、生き甲斐、それが俺にも出来たんだ。彼女に出逢ったお陰で。
自由に、自分の意志を信じて目的に向かって羽ばたく。そう、渡り鳥にはなれたんだ、なら次は羽ばたく番。
「頑張るぞ、俺っ! ……ヘーックションッ!!」
誰か俺の噂してやがるな……。