生殺与奪01
文字数 2,558文字
「──なんだ? 殺すとか言った割には後退りしかしねーな? カーツよ」
ユリクや、皆と距離を取るかのようにカーツと距離を詰める。
しかし、戦いの手練であるカーツも無闇矢鱈には斬りかかって来る事は無いようだ。
と、言うよりも互いに鞘から刀身を出してすらいない状況。
「なぁーに。焦る必要は無い。これから、これからぁー。と言うか、何だ? その剣。まるで『鬼人』が用いる武器みたいじゃねーか」
だが、確かにカーツが携える剣。もう一人が携える剣とは異なる物だ。
騎士ならば統一性があるもののはず。しかし、キールが持っているものは剣では無く刀。
カーツが違和感に思うのも仕方がない。
「これか? まぁ、これは俺のじゃなく……。俺が貰ったのをモデルにラズさんが叩いたものさ」
感触を確かめるかのように、持ち手を親指でさする。
その満足したような表情を見たカーツはより強く睨みつけた。
「……またか。──また、あのオカマ野郎ラディが邪魔をしたのか。終わっても尚、邪魔を……」
「お前が、今何を思い出し・何を感じ・何を見出し。その嫌悪感で満ちた表情を浮かべてるのかは知らない。だけれど、俺はラズさんに感謝をしている。しても、しきれない感謝をな」
「おい……黙れよ? 誰もお前の言葉なんか聞いちゃいねーんだよ。……ぁあーもういいや。皆殺しだ、捕らえるのも止めた。アウラなんか、まだまだ居るんだ」
カーツは、剣の持ち手を"ギリッ"と強く握ると勢い良く振り抜く。
その両刃は薄暗い中でも些細な光を取り零すことなく怪しく反射している。
構えと言うのも、剣の刃を正面に持って縦に構える訳ではなく。
力を抜くかのように手を下に降ろし。隙がある様な感じがする。
隙があるようとは言ったものの。実際隙があるか? と聞かれれば答えは否。
「相変わらず、お前は下段の構えが好きだな。少しは変わったのかと思ってたけどよ」
キールは、カーツの構えを見ては懐かしむように言葉を発した。
そして、鞘から刀を抜く。
──その美しい刀身は焼きがしっかり施されており。剣先は細く光すら斬っているかのようだ。
カーツを正面に刀を両手に持ち構える。
すると、この計り知れない緊張感の中で二人は口角を上にあげる。
「亡霊のくせに兄貴と変わらない威圧感じゃねーか。だが、所詮は亡霊。俺が劣る訳がない」
「変わらない……か。そして、その変わらない亡霊。俺は昔と同様に先に行かせてもらうぜ!!」
剣先を、カーツに向けると一歩を踏み込む。──そう、走り込み斬りかかるのでは無く。
体制を低くして飛び掛ったのだ。
そのスピードは早く。地面に何回も足を付くことなく土埃を立て、カーツの間合いに入り込む。
しかし、カーツはキールの刃先を近い距離で瞳に写した瞬間。剣で弾き返す訳ではなく、バックステップをしたのだ。そして、その反動をバネにするかのように膝を曲げると。
その勢いに乗せ斬りかかった。
しかし、キールはその横に振り切り込まれる方向と一緒の方向に体を回わす。
向き合っていた二人の体は一瞬の内に背を向けあ合う形へとなっていた。
「やはり、そう簡単には取らせてはくれねぇかぁー」
「はぁ……はぁ。ったりめーだ。言ったろ、俺はこの後狩りがあんっ──だよっ!!」
息もさほど上がっていないカーツに比べ。
キールは苦しそうな表情を時折浮かべる。
たった二撃の攻防で、ここまで著しい変化が現れる。と言う事は、この殺り取りがそれ程に気力と体力を必要とすると言う事なのだろうか。
カーツは、一歩踏み出し。その脚を軸に回転際に剣を振るった。
それを紙一重で脇へと避けると再び二人は向き合う。
「どうしたんだ? 流石に現役との鍛錬の差ってやつか??……いいや。それだけじゃないな──お前。魔境種と一戦交えたか?」
「はぁはぁ。お前は何を言ってやがる? 魔境種なんか知らねーな」
「隠す必要もないだろ。団員を率いているのは今や俺だぞ? 魔境種と対峙するのだって普通だ。その黒ずんだ脇腹の傷、間違いなく忌痕」
紙一重で交わした際に、キールの服は裂けてしまっていた。
そしてその隙間から覗かす黒い切り傷みたいなものを見てカーツは『ヒャハハハ』と、半笑いをする。
「しかしまぁ、まさか。魔境種の攻撃を食らうほどに腕が鈍っているとは。……いやまぁ、亡霊だから仕方ないとしても。情けない……お前は、魔境種に成りたいのか?」
「魔境種に成るだって? 何を馬鹿馬鹿しい事を。俺がそんなものになる訳ないだろうが」
「その傷は傷じゃない。言わば魔境種の因子だ。器を探し乗り移る為の。当然、形なんか合うわけない。だから最終的に魔境種になってしまう。そして、その乗り移ろうとした魔境種は『魔』そのものになる」
「そんな事は知っている。だから魔境種が一向に減りはしない。負の螺旋って事ぐらいな、そしてそれを治すには……その部分の血を抜かなきゃいけない……そんな事ぐらい分からないはずがないだろ」
哀れみ蔑むような瞳でカーツは、笑を零し声を踊らせる。
心配するかのような口調でないソレはもはや人情すら感じない。
しかし、そんな事を気にもしないかのようにキールは淡々に声を出す。
先程まで、息が上がっていたキールだが。この一連のやり取りのお陰なのか呼吸のテンポを取り戻していた。
だが、何故かカーツの目はキールでは無くその後を写し。
下唇を血が垂れるほど噛み締める。
「あの……くっそ野郎。ここまで来て、まだ俺達の邪魔をするってーのか。騎士団を馬鹿にしやがって……先に殺す……コロス! コロス!」
空気が一変した、それしか例えようがない。
重たい空気──と言うよりも冷たい空気。
まるでカーツを中心に渦が巻いているかのように魂ごと引き寄せられる感覚。
今までとはまるっきり違うものだ。
殺意の如くに光る眼光。
自分の血がついた歯をむきだしに笑う禍々しい形相。
足の爪先から、頭のてっぺんまで覆う恐ろ強い程に赤く黒いオーラ。
髪の毛は揺らぎ。剣先まで揺蕩う覇気。
『しね……』とカーツは口元を歪ませ。呟いた。
ユリクや、皆と距離を取るかのようにカーツと距離を詰める。
しかし、戦いの手練であるカーツも無闇矢鱈には斬りかかって来る事は無いようだ。
と、言うよりも互いに鞘から刀身を出してすらいない状況。
「なぁーに。焦る必要は無い。これから、これからぁー。と言うか、何だ? その剣。まるで『鬼人』が用いる武器みたいじゃねーか」
だが、確かにカーツが携える剣。もう一人が携える剣とは異なる物だ。
騎士ならば統一性があるもののはず。しかし、キールが持っているものは剣では無く刀。
カーツが違和感に思うのも仕方がない。
「これか? まぁ、これは俺のじゃなく……。俺が貰ったのをモデルにラズさんが叩いたものさ」
感触を確かめるかのように、持ち手を親指でさする。
その満足したような表情を見たカーツはより強く睨みつけた。
「……またか。──また、あのオカマ野郎ラディが邪魔をしたのか。終わっても尚、邪魔を……」
「お前が、今何を思い出し・何を感じ・何を見出し。その嫌悪感で満ちた表情を浮かべてるのかは知らない。だけれど、俺はラズさんに感謝をしている。しても、しきれない感謝をな」
「おい……黙れよ? 誰もお前の言葉なんか聞いちゃいねーんだよ。……ぁあーもういいや。皆殺しだ、捕らえるのも止めた。アウラなんか、まだまだ居るんだ」
カーツは、剣の持ち手を"ギリッ"と強く握ると勢い良く振り抜く。
その両刃は薄暗い中でも些細な光を取り零すことなく怪しく反射している。
構えと言うのも、剣の刃を正面に持って縦に構える訳ではなく。
力を抜くかのように手を下に降ろし。隙がある様な感じがする。
隙があるようとは言ったものの。実際隙があるか? と聞かれれば答えは否。
「相変わらず、お前は下段の構えが好きだな。少しは変わったのかと思ってたけどよ」
キールは、カーツの構えを見ては懐かしむように言葉を発した。
そして、鞘から刀を抜く。
──その美しい刀身は焼きがしっかり施されており。剣先は細く光すら斬っているかのようだ。
カーツを正面に刀を両手に持ち構える。
すると、この計り知れない緊張感の中で二人は口角を上にあげる。
「亡霊のくせに兄貴と変わらない威圧感じゃねーか。だが、所詮は亡霊。俺が劣る訳がない」
「変わらない……か。そして、その変わらない亡霊。俺は昔と同様に先に行かせてもらうぜ!!」
剣先を、カーツに向けると一歩を踏み込む。──そう、走り込み斬りかかるのでは無く。
体制を低くして飛び掛ったのだ。
そのスピードは早く。地面に何回も足を付くことなく土埃を立て、カーツの間合いに入り込む。
しかし、カーツはキールの刃先を近い距離で瞳に写した瞬間。剣で弾き返す訳ではなく、バックステップをしたのだ。そして、その反動をバネにするかのように膝を曲げると。
その勢いに乗せ斬りかかった。
しかし、キールはその横に振り切り込まれる方向と一緒の方向に体を回わす。
向き合っていた二人の体は一瞬の内に背を向けあ合う形へとなっていた。
「やはり、そう簡単には取らせてはくれねぇかぁー」
「はぁ……はぁ。ったりめーだ。言ったろ、俺はこの後狩りがあんっ──だよっ!!」
息もさほど上がっていないカーツに比べ。
キールは苦しそうな表情を時折浮かべる。
たった二撃の攻防で、ここまで著しい変化が現れる。と言う事は、この殺り取りがそれ程に気力と体力を必要とすると言う事なのだろうか。
カーツは、一歩踏み出し。その脚を軸に回転際に剣を振るった。
それを紙一重で脇へと避けると再び二人は向き合う。
「どうしたんだ? 流石に現役との鍛錬の差ってやつか??……いいや。それだけじゃないな──お前。魔境種と一戦交えたか?」
「はぁはぁ。お前は何を言ってやがる? 魔境種なんか知らねーな」
「隠す必要もないだろ。団員を率いているのは今や俺だぞ? 魔境種と対峙するのだって普通だ。その黒ずんだ脇腹の傷、間違いなく忌痕」
紙一重で交わした際に、キールの服は裂けてしまっていた。
そしてその隙間から覗かす黒い切り傷みたいなものを見てカーツは『ヒャハハハ』と、半笑いをする。
「しかしまぁ、まさか。魔境種の攻撃を食らうほどに腕が鈍っているとは。……いやまぁ、亡霊だから仕方ないとしても。情けない……お前は、魔境種に成りたいのか?」
「魔境種に成るだって? 何を馬鹿馬鹿しい事を。俺がそんなものになる訳ないだろうが」
「その傷は傷じゃない。言わば魔境種の因子だ。器を探し乗り移る為の。当然、形なんか合うわけない。だから最終的に魔境種になってしまう。そして、その乗り移ろうとした魔境種は『魔』そのものになる」
「そんな事は知っている。だから魔境種が一向に減りはしない。負の螺旋って事ぐらいな、そしてそれを治すには……その部分の血を抜かなきゃいけない……そんな事ぐらい分からないはずがないだろ」
哀れみ蔑むような瞳でカーツは、笑を零し声を踊らせる。
心配するかのような口調でないソレはもはや人情すら感じない。
しかし、そんな事を気にもしないかのようにキールは淡々に声を出す。
先程まで、息が上がっていたキールだが。この一連のやり取りのお陰なのか呼吸のテンポを取り戻していた。
だが、何故かカーツの目はキールでは無くその後を写し。
下唇を血が垂れるほど噛み締める。
「あの……くっそ野郎。ここまで来て、まだ俺達の邪魔をするってーのか。騎士団を馬鹿にしやがって……先に殺す……コロス! コロス!」
空気が一変した、それしか例えようがない。
重たい空気──と言うよりも冷たい空気。
まるでカーツを中心に渦が巻いているかのように魂ごと引き寄せられる感覚。
今までとはまるっきり違うものだ。
殺意の如くに光る眼光。
自分の血がついた歯をむきだしに笑う禍々しい形相。
足の爪先から、頭のてっぺんまで覆う恐ろ強い程に赤く黒いオーラ。
髪の毛は揺らぎ。剣先まで揺蕩う覇気。
『しね……』とカーツは口元を歪ませ。呟いた。