記憶と決意
文字数 2,338文字
それから、長い時間に渡り、くうりはユリクの質問に答え続けた。
キールが言っていた、知識が豊富と言う話。
なぜ干渉したがらないか云々。
しかし、返ってくる言葉は単純そのものだった。
『自分達に知識がある訳じゃない。長い時を生きてきた自然から教わる事』や『欲深い生き物はその知識を欲する。そして自然の秩序を破壊しかねない』と言う事。
付け加えるかのように、くうりは『もし、君が僕の想像以下だったら姿を現すことはなかったです』と、言ってのけたのだ。
何故、第一級危険討伐対象と言われながら、姿を見たものが少ない。と言う疑問、それもどうやら対話でナントでもなるらしい。
「君達には、壁がないんだ。だから僕も力を貸してあげたくなったのさ。これは、まぁ同情として捉えてもらって構わない」
「同情……?」
「そう、これはユリ君にではなく。勝手に第一級危険討伐対象と祭り上げられたセアーちゃんにね?」
種族は違えど同じ境遇の、くうりだからこそ出来る事なのだろう。
狙われる側だからこそ、何とかしてあげたい、と思う気持ち。
危険を顧みず、セアーを助けると言った、くうりはやはり変わり者なのかもしれない。
「じゃあ、ユリ君は外に出てくれるかな?」
「外ッ?」
「なんだい? ユリ君は、セアーちゃんの悶える顔が観たいと言うんだねっ??」
「いや……そう言う訳じゃないけどッ……」
「なら、街でも見回ってきなよっ! この哀れで救われない街をさっ」
初めて見せる、目を細め口を紡ぎ傷心しきったような顔。
その意図が分からないかのように、ユリクは言われるがまま家を渋々後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──しかし、部屋を出ろと言われたのは良いが。見回れと言われても、見て回る場所と言うか見たい場所なんかないんだよな……。
辺りは見晴らしがいいとまでは言えないが、遮るものはなく、見通せない訳でもないし。
「まぁ……歩いてみるかッ」
セアーは大丈夫だろうか? 悶える、と言う事は激痛なんだよな。目を治す為に生じる痛み……か。想像しただけでも鳥肌がたってしまう。
だけれど、その事に関して俺は無力なのも分かっている──そんな事は分かりきっている。
それでも何かをしてあげたい、と思う気持ちは自惚れと言うものなのだろうか。
でも……そうだな、ただ一つ出来る事。それがあるとしたら、やはり家族の元へセアーの故郷へ連れてゆくぐらいなら俺でも……。
「家族……か」
俺は、数年前。正確には、おやっさんに、リュークで育てられる前の記憶が無い。
気が付いたら俺はそこに居て、気が付いたら息をしていた。
当初は、吐きそうになるぐらい考え込んだ。事故・事件……そして、捨てられたんではないかと。
だけれど、それも日が経つにつれて俺の思考から薄れていったのも事実。
だって……そう、それ程までにリュークは暖かかった。
もしかしたら、俺にそう言った過去があるからこそセアーを家族の元に帰したいと言う気持ちが何よりも強いのかもしれないな。
「そう言えば、リュークにはもう一人、住んでた人が居た」
名前は、そう……確か、確か、風……風葉さん。
あの人は今、何処で何をしているのだろうか。
そんな事を考え、何かを思い、思い返し見上げた天井は高く。俺の悩みなんかちっぽけ何じゃないかって気持ちにすらなってくる。
深い溜息を付いても、天井に届く前に消えてゆく。
俺の、俺一人の感情なんか、自然の前じゃ何の意味もなさないんだろうな。
「まぁ、そんな考えが出来るのも一人だからこそかっ」
くうりは、哀れで救われない街だと言っていた事を俺は思い出し、部屋を出た当初の目的を思い出す。
この空間が暖かいのは、光石が発する熱と流れ落ちる滝が絶妙なバランスを生み出しているのだろうな。
そして、滝壺から地脈に水が行き渡りフォレスト・レイが枯れることなく育っている。
「……暖かい木、なんて初めて触った」
その暖かさは不思議で、それでいて、何処か懐かしい。
まるで、包み込まれるかのような温もりが手のひらの神経を通して感じる。
「落ち着──」
──あれ? 俺は、余りの暖かさに軽い眠りをしてしまったのか。どれぐらい寝てしまったのだろうか? と言うか、くうり達は終わったのかな。
って、待て待て……声が聞こえる一人や二人じゃない。小さい子供や大人の声。
色んな人の声が……。エルフの人達が帰って来たのか?
これって、まずい状況なんじゃないか?
干渉したがらない種族なのに、俺達が居るって言うのは。
くうりが、怒られてしまうんじゃ……。
しかし、まだ気が付かれていないようだし、くうりが、来るまで木陰に隠れていれば、やり過ごせるかもしれない。
にしても、一体何を話しているのだろうか。慌ただしいと言うか、妙な緊迫感を感じざるを得ない。
だけど、声のする場所に近寄るのは凄い勇気がいる。そして、そんな勇気を俺は持ち合わせていない。
「けど、耳を凝らした所で、雑音が凄くて聞き取れない」
痛ッ!! ヤバイ。確実にヤバイ。バレたのか? バレて怒っているのか? この痛みはエルフからの攻撃に違いない。
どうすればいい? 謝るべきか。いや、べきとか言ってる場合じゃない。
謝るしか道は無いだろ、俺には。
「あのッ!! 何もする気はないんです!!」
「あれれ? ユリ君。フォレスト・レイの根元で寝て、何をしているのですか?」
目の前に、俺の瞳に映る覗き込むように座る彼女。その心配そうに見つめる表情で俺は悟った。
「……夢……だったのか」
キールが言っていた、知識が豊富と言う話。
なぜ干渉したがらないか云々。
しかし、返ってくる言葉は単純そのものだった。
『自分達に知識がある訳じゃない。長い時を生きてきた自然から教わる事』や『欲深い生き物はその知識を欲する。そして自然の秩序を破壊しかねない』と言う事。
付け加えるかのように、くうりは『もし、君が僕の想像以下だったら姿を現すことはなかったです』と、言ってのけたのだ。
何故、第一級危険討伐対象と言われながら、姿を見たものが少ない。と言う疑問、それもどうやら対話でナントでもなるらしい。
「君達には、壁がないんだ。だから僕も力を貸してあげたくなったのさ。これは、まぁ同情として捉えてもらって構わない」
「同情……?」
「そう、これはユリ君にではなく。勝手に第一級危険討伐対象と祭り上げられたセアーちゃんにね?」
種族は違えど同じ境遇の、くうりだからこそ出来る事なのだろう。
狙われる側だからこそ、何とかしてあげたい、と思う気持ち。
危険を顧みず、セアーを助けると言った、くうりはやはり変わり者なのかもしれない。
「じゃあ、ユリ君は外に出てくれるかな?」
「外ッ?」
「なんだい? ユリ君は、セアーちゃんの悶える顔が観たいと言うんだねっ??」
「いや……そう言う訳じゃないけどッ……」
「なら、街でも見回ってきなよっ! この哀れで救われない街をさっ」
初めて見せる、目を細め口を紡ぎ傷心しきったような顔。
その意図が分からないかのように、ユリクは言われるがまま家を渋々後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──しかし、部屋を出ろと言われたのは良いが。見回れと言われても、見て回る場所と言うか見たい場所なんかないんだよな……。
辺りは見晴らしがいいとまでは言えないが、遮るものはなく、見通せない訳でもないし。
「まぁ……歩いてみるかッ」
セアーは大丈夫だろうか? 悶える、と言う事は激痛なんだよな。目を治す為に生じる痛み……か。想像しただけでも鳥肌がたってしまう。
だけれど、その事に関して俺は無力なのも分かっている──そんな事は分かりきっている。
それでも何かをしてあげたい、と思う気持ちは自惚れと言うものなのだろうか。
でも……そうだな、ただ一つ出来る事。それがあるとしたら、やはり家族の元へセアーの故郷へ連れてゆくぐらいなら俺でも……。
「家族……か」
俺は、数年前。正確には、おやっさんに、リュークで育てられる前の記憶が無い。
気が付いたら俺はそこに居て、気が付いたら息をしていた。
当初は、吐きそうになるぐらい考え込んだ。事故・事件……そして、捨てられたんではないかと。
だけれど、それも日が経つにつれて俺の思考から薄れていったのも事実。
だって……そう、それ程までにリュークは暖かかった。
もしかしたら、俺にそう言った過去があるからこそセアーを家族の元に帰したいと言う気持ちが何よりも強いのかもしれないな。
「そう言えば、リュークにはもう一人、住んでた人が居た」
名前は、そう……確か、確か、風……風葉さん。
あの人は今、何処で何をしているのだろうか。
そんな事を考え、何かを思い、思い返し見上げた天井は高く。俺の悩みなんかちっぽけ何じゃないかって気持ちにすらなってくる。
深い溜息を付いても、天井に届く前に消えてゆく。
俺の、俺一人の感情なんか、自然の前じゃ何の意味もなさないんだろうな。
「まぁ、そんな考えが出来るのも一人だからこそかっ」
くうりは、哀れで救われない街だと言っていた事を俺は思い出し、部屋を出た当初の目的を思い出す。
この空間が暖かいのは、光石が発する熱と流れ落ちる滝が絶妙なバランスを生み出しているのだろうな。
そして、滝壺から地脈に水が行き渡りフォレスト・レイが枯れることなく育っている。
「……暖かい木、なんて初めて触った」
その暖かさは不思議で、それでいて、何処か懐かしい。
まるで、包み込まれるかのような温もりが手のひらの神経を通して感じる。
「落ち着──」
──あれ? 俺は、余りの暖かさに軽い眠りをしてしまったのか。どれぐらい寝てしまったのだろうか? と言うか、くうり達は終わったのかな。
って、待て待て……声が聞こえる一人や二人じゃない。小さい子供や大人の声。
色んな人の声が……。エルフの人達が帰って来たのか?
これって、まずい状況なんじゃないか?
干渉したがらない種族なのに、俺達が居るって言うのは。
くうりが、怒られてしまうんじゃ……。
しかし、まだ気が付かれていないようだし、くうりが、来るまで木陰に隠れていれば、やり過ごせるかもしれない。
にしても、一体何を話しているのだろうか。慌ただしいと言うか、妙な緊迫感を感じざるを得ない。
だけど、声のする場所に近寄るのは凄い勇気がいる。そして、そんな勇気を俺は持ち合わせていない。
「けど、耳を凝らした所で、雑音が凄くて聞き取れない」
痛ッ!! ヤバイ。確実にヤバイ。バレたのか? バレて怒っているのか? この痛みはエルフからの攻撃に違いない。
どうすればいい? 謝るべきか。いや、べきとか言ってる場合じゃない。
謝るしか道は無いだろ、俺には。
「あのッ!! 何もする気はないんです!!」
「あれれ? ユリ君。フォレスト・レイの根元で寝て、何をしているのですか?」
目の前に、俺の瞳に映る覗き込むように座る彼女。その心配そうに見つめる表情で俺は悟った。
「……夢……だったのか」