だが、少女と少年の距離は止まったまま10

文字数 2,949文字

村に入り、当たり前のように誰とも会う事は無く。

赤く丸い木の実がなる、高く太い木の付近で足を止める。風に運ばれる木ノ実の匂いは、優しく甘い。やはり、自然の恵みとは素晴らしいものだ。



しかし、ここで足を止める。と言うのは、どうやら村の中で一・二を争う小さい家。



──それがユリクが暮らす家と言うことになるが……。



小さい家。だけならまだしも、明らかにボロい建物だ。丸太で出来た壁は真っ直ぐしたものを使って無い為に。彼方此方に隙間が出来ている。

屋根はユリクの家と、もう1棟だけ藁の様で、音がやかましく。極論、外面は最悪的と言っても過言ではない。

女の子を連れてくるにしては、恥ずかしいものだ。



「──やっと、着いた。君、大丈夫? じゃないよな。ごめん・ごめん。じゃなくて、痛みとか平気?」



「ごめんなさい……平気です」



締りの悪いドアを、"ギィッ"と耳に残る嫌な音を出しながら開く。

部屋は、どうやら隙間風を防ぐためなのか。

工夫をこなし、藁を壁紙のように貼り込んでいた。



窓を開けて、清々しい風が二人の髪の毛を通り過ぎ、藁の壁を"ファサファサ"と靡く。



ユリクは、ゆっくりと膝を曲げ。藁の山に少女を寄りかからせると両目を左へとずらし。

恥ずかしいのか知らないが顎を触っていた。



「部屋ぁー。汚くてごめんな? 作業も、どちらかと言うと中でやる事が多くて。それに、リュークは自給自足がモットーだからさ。」



気を使わせない為に気を使ったのか、"ニコッ"と白い歯を出しわかり易く微笑むユリク。だが、少女は受け流すように天井を体育座りをしながら見つめていた。



とは言うものの、確かに藁が散らばり散らかっている。綺麗だと言えないのは事実。



その事にも触れてさえくれない少女は、正直何を考えているのか分からない。



上の空で、天井を見つめてるのか。それとも、何かを考えて天井を見つめてるのか。赤く淡い色をした瞳からは、読み取るのが難しい。





「……えっと君はほん──」



「貴方は、本当に私を助ける為。なのですか? その、言い方悪いかも知れませんが。私を安心させる為に、そう言った口ぶりなのではないのですか? 本当に此処は、単なる部屋で。牢獄とかでは無いのですか?」



思わず、ユリクは自分の言葉を喉の奥にしまい込む。そして、聞き入って、耳を疑う。



それもそのはずだろ。少女が言っている言葉が理解出来ないのだから。この件に関しての理解が出来ないのは、意味が分からない──と言う事に行き着く。



「ちょっと! いや。ちょっとまってくれ。さっきから、君は何を言っているんだ? 俺には理解できないし。それに、此処が牢獄? 確かに色々な物が散らばっている。──けどそんな、拷問器具とか穏やかじゃない物なんか置いてない。と言うか見てわかるだろ?」



自然と、身振り手振りが大きくなり。次第に声すらも大きくなる。

その声に、少女は"ビクッ"と肩を反応的に動かす。



「ごめんなさいっ……。」



「いや。ごめんなさい、とかではなく……何故、その様な物騒な言葉が君の口から出てくるのかが──分からない。だから、その理由をそれなら聞かせて欲しい」



「……えっと。あれ? 貴方は私の正体……と言うか何て呼ばれているか分からないのですか?」



初めて、キョトンとした表情を少女が浮かべるからに。どうやら、そこから二人は食い違っていたらしい。

命を、救った救われた。以前に解決すべき何かがあるようだ。



「正体が分からないって……まさか。重罪を犯したとか……いや。こんな幼い女の子が出来るはずが……。なら、何処かの貴族で。野党に襲われ家族と離れ離れになった──とか。それなら、家族の身を案じていた事に合点がいく」



一人で勝手に自問自答を始め。少女は置いて行かれたかのように、ユリクの方をただ向いていた。

答えを導き出す為に頑張るのは良いが。この時の回答者は間違いなく少女だ。



「もし、私の事も知らずに助けて頂いたのなら。逆に私は、此処にいる訳には行きません」



足に力を入れたのが藁の鳴る音でわかる。

少女は、この場を後にしようとしているのだろう。



「まってくれ。理由もわからないまま立ち去ろうとしないでくれ。それじゃあ、コッチがモヤモヤする」



「そうですか。もしかすると、忘れているだけかも知れませんし。──それなら、私の特徴を言ってみて下さい」



必死の願いを聞き入れたかのように、ふらつきながら立ち上がる。



まるで、人形のような可愛さ。その可愛い少女を、凝視して特徴を口にする。と言うのはユリクにとって、無理難題にも匹敵しそうな感じだ。



「──えっと。ンじゃ……言ってゆくよ? 特徴……特徴………赤みがかった白い髪の毛。肌色よりも、白い肌。その白さがより際立だせている、赤い瞳……とか?」



少女は、小さく頷く。どうやら特徴と呼べるものを見事言い当てたらしい。

満足そうにため息をつくが、腑に落ちない顔をする。



「特徴を言ったけれど。でもその特徴が、この場を立ち去る理由になるの?」



「……え?」



思わず凍り付いたかのように立ち尽くす。



「立ち去る理由になる。のではなく、充分過ぎるほどの理由ですよ? 足り過ぎています。間違いなく。確実にそれは、明白です……。」



「ごめん。まったく分からない。出来れば教えて欲しい」



「私は人間では、ありません。種類で言えば哺乳類ですが。──貴方達、人間は私達のことをこう呼んでいます。『第一級危険討伐対象』と」



ユリクは、今でも鮮明覚えている僅か数時間前の過去を思い出す。その言葉を思い返し、少女のセリフと照らし合わせる。



「でも、何で──こんな幼い女の子を騎士団の連中は追っていたんだ? 討伐対象って。こんな、女の子が? 何かの間違いじゃ……そもそも、討伐対象って何なんだ? わからねぇ」



思い巡らす。しかし、自分にソレに関しての知識がまるっきり無い。と言う答えに行き着くのには、対して時間がかかることはなかった。



「あの……どうかしましたか?」



ユリクを写す赤い瞳は、何処か遠くを見ているような感じがする。



「え……いや。何でもないんだけれど、君みたいな子が何で追われているのだろうって」



少女の表情は一変して鼻白む。

その顔からは緊迫した状態だと言うのが嫌でも伝わってくる程だ。



「私……追われている。なんか一言も言ってませんよね?? あの……会ったのですか? もしかして……」



「えっと……その。朝方に、さっき指さした丘で寝ている時に。騎士団だと、名乗る二人が君を……。でも、俺は本当に君を渡すつもりとか毛頭ない!! それだけは信じてくれ、信用させるに足りないけど……信頼してくれっ」



「それは……。私、此処には居られません。」



焦りを隠せないユリク。それは、裏切ったと思われる恐怖だろうか。

何故なら目の前に、写る少女は、気を張った言い方をしていても。素直な体は、震え、それを隠すように小さい足の指に力が入っている。

そう、今までにない程に怯えているのだから。



憂い顔を浮かべても、もはや届きそうにない。
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