三人の時間は動き出す

文字数 2,543文字

「ごちそーさんっ!」



「ごちそうさまですッ」



「ごちそうさまでしたッ! ユリクさん、本当に美味しかったです」



満足な顔をした三人。



しかし、行動は三者三葉のようだ。



狼のように鋭い目をもったユリクは、褒め言葉に満足するかのように鼻を擦り。



ハムスターの様に愛くるしい表情や、目をしたセアーは目を瞑り。ゆとりに溢れた表情でお腹を“ポンポン”と叩き。



猫なような、くうりはまだ残っていないか確かめるかのように飯盒炊爨後を漁る。



その点を考えれば野良猫のようだが、野良猫のように逞しい生態をしているとは残念ながら思う事が出来ない。

と言うよりも、サイズが合っていない“ダボッ”と些かしすぎているローブのせいもあるのだろう。



「いやぁ、しかし。くうりが、あそこまで食について語るとは、思わなかったよなっ」



「確かにッ。私は残念ながら、色合いとかは想像になりますが。くうりさんが言ったように想像すると、余計に美味しい気分になりましたっ!」



「ぼぶわ、おぼっば──」



「口に含んで喋るなッ!! 手にご飯粒付けるなっ!」



呆れながらも笑うユリク。

注意されているのに、とかを考えてだろうか、遠慮気味に笑うセアー。

何で、注意されているのか把握出来ていないかの様に“ポカーン”とする、くうり。



実際、三人の心境がどのようなものか。そればかりは分かりかねるけれど、声や表情を見る限りは悪い意味の類は感じられない。





「しかし、本当にくうりは飯が好きなんだなッ」



「ご飯が好きって訳ではないですよっ? 僕は美味しい物が好きなんですっ。大好きなんですッ」



「お前、食ったばかりなのに腹を鳴らしながら何を言ってる……」



「でも、エルフの方ってこんな愉快な方なんですねっ」



「ンー……僕は、多分皆とは違うんだよッ。──と言うよりも、君達が想像している『エルフ』って言うのが本来あるべき姿なんだと……思うかなッ」



それは、変わり者……他とは違った考えを持っていると言う事なのだろうか。





別の言い方をすれば、特別だと言う事。



二人の目の前にいる少女……よりも大人びた顔をする彼女は、そう言った人物なのだろう。





だが、もしかしたら。変わり者だからこそ、ユリク達の前にすんなり入り込み溶け込んでいたのかも知れない。



「じゃあ、逆に他はどんな奴らなんだ?」



「他ッ? 簡単に言えば内気……引き篭もりと言えばいいですかねっ? 違う言葉を探すなら、外と干渉したがらないのですよっ!」



「それは、それで寂しいですよねっ……」



「寂しいッて? セアーちゃんは、面白い事を言いますねぇ?」



まるで、傷心し憂いているかのような表情を浮かべるセアーは本当に優しい女の子なのだろう。



それに対して、胡散臭い笑みを浮かべながら、くうりはセアーの文言に答える。



「面白いッて! セアーは、くうりを気遣って言ったんだぞっ?!」



「やれやれ。根本的に違うみたいだ。僕が言っているのは、伝えたいのは危険性・リスクの話なんだよ」



強く先走りするユリクの言葉に対し、くうりは静かに一歩、二歩下がった喋り方を続けた。



「僕はね、そこはかとなく今のセアーちゃんが置かれている状況が分かるんだ。君は干渉してしまったが故に視力を失ったんじゃないのかな?」



「それは……」



「でも、今はそんな話を此処で話す事もないでしょうっ。僕の家で話すべきだと提案させてもらうよっ」



目を合わす事も出来ずに、ユリクはくうりの発言に言い返す語彙が備わってないかのように沈黙を作った。



セアーは、不安そうな表情を眉をハの字にしながら、二人の顔をまるで伺うように“キョロキョロ”と顔を横に振る。



さっきまでの穏やかな空気が一変し、張り詰めた空気になってしまったのだから仕方がないのがもしれない。



くうりは一人立ち上がり、おどけた表情をつくる。そして、片目を瞑りながら川の流れと逆の方向を指さした。



「家って、良いのかッ? その……干渉したがらないんだろっ?」

ユリクなりに、気を使ったのだろう。くうりが発言していた事を思い出すかのように顎を擦る。そして、遠慮気味に断りやすさを含むような言い方をした。



「その話も、後で聞くからっ。今はこの場を後にしよう」



「あの、くうりさん。──ありがとうございますっ」



小さい声で、そっと頭を下げ、セアーはくうりに対して感謝の意を表す。しかし、その時の『ありがとう』とは何を指して言っているのか。そればかりは、きっとセアーにしか分からないだろう。もしくは、くうりを含め二人にしか……。何故なら、二人には共通点があり、それにユリクは含まれては居ないのだから。



「僕は、感謝される様な言葉は言っていないですよッ! だから、そんな切ない顔はやめて下さいっ。……ねっ? では、しゅっぱーつ!!」



くうりは、右手を高らかに拳を突き上げ、満遍な笑みで狼煙をあげた。



「まて! 片付けとか、準備がっ!!」



慌ただしいく体を動かしユリクが掃除をする中。



くうりは、セアーの頭に手でそっと触れる。



テント等を片付ける“ガチャガチャ”と言う音と自然が織り成す音のみが辺りを包む。



それは、そう。実に静かで、少し寂しい時間だった。



それから、数十分が過ぎた頃。



ユリクが二人の前に立ち塞がり両手を前に差し出す。



その力強い表情からは、まるで信用を勝ち得ようとしているかのようにも見えて来る。



「ふむふむ。やはり、ユリ君は変わっていますねっ?」



そう言うと、セアーの細い腕を掴み、ユリクの手に掴ませ同時に立ち上がった。



急に引き上げた事に対してびっくりしたのか『ひゃあっ!!』と高く震え可愛らしい声をあげたセアー。

しかし、これはもしかしたら、ちょっとした変化かもしれない。



竦み上がるだけだったセアーが、人形では無くちゃんと生き物らしく表情を作るようになってきたのだから。



「変わってなんかいないさっ、俺は俺。それ以上も以下もないんだよ。偽る必要も欺く必要も無い」



「それもそうですねッ! では行きますかッ!! 僕だけが住まう街『べレーゼ』に!」

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