第15話 暗渠のフタにゴミを詰めるヤツ

文字数 2,029文字

 日常的に水路にポイ捨てるバカ、というのがいるのは前項で書いた。これは動かしがたい事実なのだが、そういう彼らと同程度かそれ以上にバカなのが、水路のフタの隙間に、ゴミをねじ込んで捨てるバカである。
 彼等の情熱は、ポイ捨て犯の中でもトップクラスに熱いようだ。
 もし、水路のフタに隙間が無ければ、マンホールやグレーチングを探して、そこにねじ込むほどの執念。だが、そこまでやるなら何故、普通にゴミ箱に捨てないのか。
 ねじ込んだゴミは、奥まで押し込み、中へ落としてしまうのが、彼等の目標である。だが、押し込み切れなかった場合は、そのままゴミは隙間に残され、その犯行が露見することになる。もし、すべてを押し込み切ってしまえていたら、雨が降って流れ込み、暗渠から開削排水路に押し出されてくるまで、しばらくは誰の目にもつかないわけだ。
 しかし、彼等の残念な知能では、水路のフタの厚みと隙間の狭さ、そしてゴミの量から結果を予測することが出来ないようで、途中で押し込むのを諦めたように、詰まって止まっていることが多い。
 そうなると、ちょっと下を見て歩いている人なら、隙間に変なものが詰まっていることに気づく。
 だが、これを回収するのは、非常に厄介なミッションである。
 なまじ一生懸命押し込んであるものだから、指で引っ張ったくらいでは抜けないことが往々にしてある。無理に引っ張ると、一部だけ千切れてきて、残りは中に落下してしまう。
 それではと、その辺の枝などを差し込み、てこの原理で引っ張り出そうとしても、枝が折れるか、逆に押し込んでしまうかして、これまた回収できない。
 道具を使うにしても、犬糞用のスコップでは大きすぎ、ゴミ拾い用のトングでは素材がヤワすぎて、やはりうまく回収できない。
 だが、俺がいつも持ち歩いている鎌ならば、引っ掛けて引っ張り出すのに苦労はない。
鎌を持ち歩くのは、こういう時のためでもあるのだ。
 どうやらつま先で押し込んだ、とみられる程度の、しょうもない努力の跡が残っているゴミなのだが、やるのは簡単でも、それを綺麗にしようとすると、数倍の手間がかかるという好例だ。
 そんなものに、これだけ試行錯誤させられるとは、まったくアホらしいにもほどがあるが、このゴミの正体は、大抵はプラゴミを圧縮したものである。中心に吸い殻が巻かれていることもあるが、どっちにせよ自然界で分解するようなものではない。
 放っておくと何年でもそこに留まるであろうことは疑いなく、雨水の排水を阻害するわけだ。
 だからって、中に落としてしまえばいいわけでもないのは当然で、雨が降ると暗渠に水が流れ、本流へと押し流されて来るし、中で引っかかったりしようものなら、暗渠の中で水が堰き止められるという、厄介な事態に陥ることもある。
 そもそも、なんで暗渠になっているのか、なんでフタが付いているのかといえば、周囲からの落ち葉などが水路に入り込んで目詰まりすることを防ぎ、それと同時にフタの上は歩けるので、道幅を広く使える、というメリットがあるからだ。
 つまり、そういう目詰まりを起こさせたり、ゴミを入れて暗渠を詰まらせたりするのは、浸水災害を誘発するテロ行為なのだ。
 まあ、想像力の欠片もないポイ捨てバカには、分からないのかも知れないが。
 そんな真似をされるくらいなら、その辺に置いといてくれた方が、ずっと手間もかからないし、問題も起きにくい。もちろん、ポイ捨てしていいってわけではないのだが、隙間にゴミを詰め込む行為は、それをはるかに上回る悪事だということだ。
 また、この手のバカは、たぎる情熱のままに、いろんなところにゴミを詰め込む。
 ガードレールと柱の隙間や、鉄パイプ製の杭の中。電柱を支えるワイヤーにかぶっているトラ模様の保護具の隙間、電柱の下の方のネジ穴。散水栓のフタを開けた中。
 どれも、普段は確かに見えにくいが、いざ使うとなった時に迷惑極まりない。
 例えば、電柱の下の方のネジ穴は、作業員の人が持ってきた足場を取り付け、電柱に登るための穴であって、安全のため誰でも登れるようにはしていないだけだ。
 散水栓の蓋の中などは、本当にいざ使う、って段まで開けないから、中を見て愕然とすることもある。
 そんなに隙間が好きなら、ゴミは自分の着ている服と体の隙間にでもねじ込んで、持って帰ればいい、と思う。
 何度も言うが、見えなくなったからといって、無くなったわけではないのだ。
 隙間にねじ込み、その場限り見えなくしても、さらに厄介な現実となってもどってくる。
 捨てた人間はそれでもいいかも知れないが、他人に面倒をかけておいて、知らん顔をしていられる人間は、社会を構成する人間として価値がない。
 それ以外で、たとえどれだけ評価される仕事をしようとも、何人もの人が感動するような情報発信が出来ようとも、そこに意味などないのだ。
 何故ならその人間の本質は、薄っぺらい自分ファーストにすぎないからである。
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