第22話 酒の缶
文字数 2,716文字
何故、これが道路に落ちているのか? と疑問に思うポイ捨てゴミの一つが、ビールやチューハイの空き缶である。
公園のベンチとかなら、分からなくもないし、現実によくある。だが、車道ってどうよ?と思ってしまうのだ。
仮にポイ捨て犯が歩行者だとして、歩道を歩きながら酒を呑む感覚は、俺にはちょっと分からない。
つまみも食えないし、酔って歩くのは危険でもある。しかも、飲み終わったらゴミが出るし……ああ、だからポイ捨てしてんのか。
『用水路の中のゴミ』の項でも自宅前の水路を流れてくる空き缶について、真冬にチューハイなどであることから、徒歩とは考えにくい、と書いたが、実際、車窓から用水路にそううまく放り込めるかというと、それも難しいことに気づいた。
車窓から歩道を越えて水路までは、明らかに四メートル以上距離があるのだ。しかも中身の入っていない500mlアルミ缶である。走行中の車窓から放れば、風で流されてしまう。
車道側にもよく落ちているので、車窓から放って失敗したという見方もできるが、歩行者が、水路だろうと車道だろうと構わず投げ捨てていると考えれば、その説明もつく。
そして、このあたりの車道に落ちている頻度は、おおよそであるが、月に二、三個。だが水路に捨てられたものは、流されてしまうので、数は正確には分からない。
この水路を含めた自宅近くの空き缶、いったい、どのような状況で、何者が道端に酒の缶を捨てているのか? ちょっと推測してみよう。
まず、これは多数の人間が捨てているのではなく、おそらく近所にいる、約一名ではないか。
そのポイ捨てバカは、毎日買っているわけではなく、何かあった時の気晴らしに、酒を買い、呑みながら歩行しているのであろうと予想される。
これが一人である根拠は、近所に落ちている酒の缶の銘柄が、同じものがしばらく続くことにある。昨年の春までは、スーパー○ライの500ml缶ばかりだったのが、夏ごろに、例のスト○ングゼ○に変わり、秋口まで続いた。
それからは、原点回帰とばかりに氷○レ○ンチューハイの500ml缶に変わって、現在に至る。懐具合なのか、健康状態なのか、単にマイブームなのかは知らないが、この男は、数か月は同じ銘柄ばかり飲むようである。
俺の夕刻の帰宅時にはなかった缶が、朝の五時には落ちていることから、時間帯は夜。
たぶん、帰宅途中にコンビニで酒を買い、呑みながら帰ってきて、俺の自宅近くで、道路あるいは水路にポイ捨てしてるってのが、俺の推測だ。
つまり、徒歩でコンビニ近くの勤務先に通っているわけで、つまり、もしかして……あそこの職員か?……っとっと、いかんいかん。
どこであるか、については証拠も何もない。よって書かないでおくが、そこまで推理すれば、ご近所なだけに個人特定まで出来てしまうのが恐ろしい。外れてたら嫌なので、アクションを起こす気はないが。
これ以外にも、少し離れた基幹道にも、酒の缶は落ちている。
こっちに落ちている缶については、さすがにそこまで明瞭な推理は出来ないが、傾向がなくはない。
まず、ポイ捨て範囲は基幹道沿いで、脇道には酒の缶は落ちていない。銘柄も法則性が薄く、ビール、発泡酒、チューハイ、ハイボールなど多岐にわたる。こちらは交通量も多く、複数のポイ捨て犯である可能性がある。また、歩道を越えて農地にまで缶が落ちていることは少ないことから、どうもこっちは車からの投げ捨てであろうと思われる。
ペットボトルやコーヒー缶に混じって、栄養ドリンク、モン○ターエ○ジーの缶も頻繁に落ちていることから見て、犯人が同じなら学生とは思えない。また女性らしくもないので、定職についている成人の男どもではなかろうか、と思う。
酒の缶は、金曜、土曜の夜のうちに捨てられている傾向が強く、購入場所は、自宅近くのそれとは別のコンビニである可能性が高い。
このポイ捨て人間たちの行動を、自宅近くのヤツと同様に、退勤後に勤務先近くのコンビニに寄って買い物をし、呑みながら運転して帰っていく、と仮定してみる。
この基幹道、同じ並びにドラッグストアもあるのだが、たまにレジ袋に缶が入って落ちていることもあって、これがすべてそのコンビニの袋なので、購入店舗は間違っていないと思う。
金曜、土曜に多いのは、翌日が休みでウキウキしているからであり、一週間頑張った自分への、ご褒美のつもりではないかと考える。
コンビニでそんなもん買うあたり、じつに独身男らしい。近くに安いドラッグストアがあるのに何故か? といえば、おそらく、いっしょにコンビニ弁当も買い込んでいて、ついでに酒を買い、帰宅するまでに我慢できずに呑んでいるのではなかろうか。
まあ、そこらへんどうしようとそいつの勝手なのだが、車からのポイ捨てだとすれば、運転しながら呑んだということになる。同乗者が助手席の窓から捨てたのでもなければ、飲酒運転であり、言うまでもなく犯罪である。
もちろん、ポイ捨ても犯罪だから、二つも罪を重ねた許しがたい極悪人ということになる。
こいつら……と敢えて複数形で書かせていただく……が、酒を買っていると思われるコンビニの近くには、勤務先と推測できる物流倉庫群がある。
その倉庫群のまわりも俺の散歩コース、というかゴミ拾いコースなのだが、その倉庫裏の路地には、休憩時間に食い散らかしたと思われる菓子やおにぎりのプラ包装、吸い殻が集中してポイ捨てされている場所がある。
そのマナーの悪さはひどいもので、最初に発見した時は、綺麗にするのに三十分以上掛かった。会社としても、喫煙所を設定するでもなく、ゴミ箱を置くでもなく、公道にポイ捨てするに任せているというわけで、従業員だけでなく、雇用側もしつけの悪いクズ人間の集まりであるのは明白だ。
この裏路地のひどさからの推測にすぎないが、ここの従業員達こそが、この飲酒運転ポイ捨て犯ではないか、と俺は推理している。
むろん、自宅近所の件と同じで、証拠は何もない。だが、倉庫の周りにポイ捨てしているのが、そこの従業員であることは間違いないので、推理が間違っていても、べつに悪いことをしたとは思わない。
ここまで推理したからには、証拠を押さえ、確証をとりたいとも思う。とはいえ、金曜土曜の夕方から夜にかけて、複数人で、コンビニで張り込みでもしない限りは無理だろう。
寒いし、ウザいし、協力してくれそうな奇特な人もいないからだ。
ここ数年、毎日ゴミを拾い、そのゴミを分析し、ゴミをポイ捨てる奴を推測してきたが、一度も現場を押さえたことはない。どうやったら彼等と遭遇できるのであろうか。