第34話 プロファイリングしきれないゴミがあってだな

文字数 3,940文字


※いつも汚い話だが、今回は特に汚いので閲覧注意。

 ゴールデンウィーク。
 息子は大学生で県外。娘は受験生で遊ぶ暇なし。
 コロナ禍でなくても遠出する理由はなく、今朝も今朝とてぶらぶらと、国道近辺まで遠出してゴミ拾いに精を出した。
 相変わらずペットボトルだのスナック菓子の包装だの、いろいろ落ちている通りであるが、その日はそのゴミの中に、不可解なものが混じっていた。
 サイズは一リットルクラスの普通のペットボトルなのだが、ラベルが紙で貼りつけてあって、『ハーバリウム専用オイル』の文字。
 は? ハーバリウムて……あの、透明なガラス瓶に、乾燥した花を入れ、オイル漬けにした観賞用のアレ??
 それを、水田沿いの県道上で、作った?
 それともまさか、食用でない油を、ここで一気飲みした??
 ていうか、十メートルほど先にもう一本。二本も落ちてるやん。
 当然ながら、周囲を見回しても、ハーバリウムはどこにもない。
 ここで何が起きた?????
 ゴミ拾いの楽しみの一つは、拾ったゴミに残された情報から、様々なストーリーを読み取り、ポイ捨て人間の間抜けな人生に思いをはせ、バカにしたり哀れんだりすることなのだが、今回はちょっと意表を突かれ、呆けてしまった。
 俺のプロファイリングが当たっているとは限らないし、べつに当たっている必要もないわけだが、想像もつかないゴミに出会うと、自分の想像力の限界を感じてしまう。
 こうしたプロファイリングしきれないゴミはたまにあって、そのたびに頭を抱える。
 だが、考えようによっては、こうした謎のゴミから学ぶ意表の突き方は、創作にも生かせる可能性があるので、良しとしておく次第である。

 いくつか事例を上げてみよう。
 まずひとつ目は、休耕田に落ちていた、シャンプーと柔軟剤の空き容器である。
 一瞬、子供が持ち出して遊んだのかと思ったが、シャンプーの容器はまだしも、柔軟剤の容器は、増量版の詰め替え用で、持ち歩いて面白いものではない。しかも、中にはしっかり柔軟剤が残っていたから、水を入れて遊んでたってわけでもなさそう。
 何で、わざわざこんなとこまで持ってきて、ポイ捨てせねばならなかったのか???
 考え出すと夜も眠れない。

 二つ目は、歩行者専用道にパーティ用の特大寿司容器(持ち帰り用)。
 明らかに十人前以上の、ス○ローのセットと思われる容器で、当然ながら、寿司は一個も残っていなかったが、奇妙なことに、醬油だけはすべて手つかずで残っていた。
 歩行者専用道には桜の木もなく、花見の季節でもない。っていうか、季節は忘れもしない12月初めで、クソ寒かったから、外で宴会したとも思えないし、クリスマスのタイミングでもない。
 飲み物の痕跡も、他の食い物のゴミもなく、ただ空の寿司桶と多数の醬油だけが歩道のど真ん中に置かれている状況は、一種異様な雰囲気であった。
 この謎は、いまだに解明できていない。っていうか、今後解明できるとも思えないが。
 
 三つ目は、農業用水路に残っていた釣りの痕跡である。
 いや、釣りの痕跡自体はあってもいい。そこは農業用水路ではあるが、幅は四メートル以上、水量も多く、コイやフナが泳いでいるのが、橋の上から確認できるような水路なのだ。
 釣って釣れなくはないだろう。
 ただ、残っていたその仕掛けが『餌木』だったのだ。
 『餌木』は、イカ専用のルアーである。まあ、たまにタコがかかることもあるらしいが、形状が特殊で、他の魚はまず釣れない。
 間違ってもコイやフナは釣れないし、餌木でナマズやブラックバスを釣ったという話も、聞かない。そもそも、水深50センチくらいのこの水路で、餌木でいったい何を狙ったのだろうか?? 狭すぎて、投げる練習にもなりはしないと思うのだが。

 四つ目は、べつに不思議なものでもないのだが、片っぽだけの手袋である。
 そんなもの、誰しもよく見かける普通の落とし物だと思われるかも知れない。だが、これが不思議なことに、今のところすべて右手なのである。
 俺はセコいから、手袋を拾うと、とっておいて洗濯機で洗う。そんで、片っぽであろうと散歩時や作業時に使用しているわけだが、それがどうも右手ばかり集まってくるのだ。
 もちろん、両手分がいっぺんに落ちていたり、それが損傷なく綺麗だったりすることもあるが、そういう場合には、踏まれないよう、目立つ場所に置いて、落とし主が見つけやすいようにしておくのでノーカンだ。
 拾って洗うのは、ぐっちゃぐちゃに踏まれ、泥だか布だか分からなくなっていたり、側溝の目皿に流れ着き、その上に落ち葉が堆積しているような手袋である。
 そういうのを拾い集め、洗って干してみて、初めて『右手ばかり』であることに気づいたわけだ。人間は右手袋を落とす習性でもあるのか、あるいは俺に向けられた何かの呪いなのか分からんが、使えないことおびただしい。
 結局、左手は軍手か革手を使い、右手はちょっと汚れたらさっさと捨てるようにして消費しているが、一冬分なのでまだあと数枚ある。

 五つ目。これが本題というか、どう考えてもさっぱり分からないゴミなのだが……
 『尿』の入ったビニール袋だ
 またしても尿の話で、正直すまんことだが、事実なので仕方がない。
 さて。この『尿袋』。単独で道端に落ちているわけではない。
 これも毎度の話になるが、自宅前を流れる農業排水路に流れてくる、ゴミの大量に入ったレジ袋に同梱されているのである。
 まず最初に言っておくが、この『尿袋ポイ捨て犯』は、前項で書いた『財布泥棒ポイ捨て犯』とは別人と思われる。
 理由は、タバコの銘柄が違うこと、プリングルスとチップスターも入っているが、それ以外のスナック包装も多数入っていること、そして財布泥棒のゴミにはなかった生活感が溢れていることだ。
 もっとも特徴的なのが、コンビニを全く利用していない節があること。
 まず、レジ袋がコンビニのものではない。牛丼の松○の持ち帰り用の袋ばかりで、そうでない場合は、市販の透明ビニールになっている。
 そして、お手拭きがほとんど入っていない。たまに入っていても、コンビニのお手拭きのように店名は入っていない。レシート類も一切入っておらず、スナック類は一度に同じものが消費されていることから、ドラッグストアなどでまとめ買いをしていると思われる。
 食品ゴミがほとんど『チーズ系』であることも特徴の一つ。
 チー○ビットばかり四袋も入っていたり、牛丼の松○のゴミもいわゆる『チー牛』だったりする。その他、チーズの雰囲気のただよう食品ゴミが多数。
 どうも、そうしたしつこい味の食品が好きらしく。油系、こってり系、肉系中心の食品ゴミばかりだ。
 そして、コイツにもっとも怒りを感じるのは、それらがどれもこれも、大量に食い残してあることである。
 中には、ほとんど手を付けていない牛丼や、わざわざトッピングを買っておいて手を付けていないものまである。水に浸かって腐敗した、脂まみれの弁当やテイクアウトの丼は、妙な酸味を伴った腐臭を放っており、いつも吐き気を催しつつ分別処分している。
 何でそこまでして分別するのか、まとめて燃えないゴミでもいいんじゃないか、と思われるかも知れないが、どうしてもゴミの中から、犯人の手がかりを見つけ出したいのである。
 しかし、前述の通り、レシート類は一切なし。領収書や請求書、メモやDMなど個人特定に結び付きそうなものも、今のところ何一つ発見できていない。
 ただ、市販の痛み止め湿布や胃腸薬の包装など、市販薬のゴミが必ず入っていて、どうやら、相当不健康なヤツだということは分かった。ていうか、食べすぎ飲みすぎ用の胃腸薬買うくらいなら、チー牛とか食うな。
 また、驚かれるだろうが、茶色に染めた長い髪の毛と、使用済み生理用品が入っていることから、このポイ捨て犯は女性であることが推測される。しかも、コンドームの包装が入っていることもあるので、そういう相手のいる比較的若い女性、あるいはバカップルというところまではプロファイリング出来る。

 そして、そのゴミ袋の中に必ず混じっているのが、件の『尿袋』である。
 透明な小さなビニールに、しっかり密封され、尿とティッシュペーパーらしきものが入れられている袋だ。
 何のつもりでこんな袋を入れておくのか分からないが、一回分の尿にしては量が少ない。
 おそらくだが、やった尿の一部をこの様な尿袋にして捨てているのだと思われる。
 また、その流れてくる頻度からして、どうも毎日捨てているわけでもなさそうだ。
 つまり、ゴミをすべてポイ捨てしているわけではなく、尿袋が発生した時に限ってそれを入れたゴミ袋ごと、水路にポイ捨てしていると考えて良いように思う。
 ゴミの様子から、大変不健康で、いくつか持病を持っていることが推測できるので、もしかすると、尿検査キットみたいなものがあって、そのために尿袋を作っている可能性もある。
 だが、一度だけだが、液状化した大きい方の便がビニールに入って、単独で捨てられていたこともあって、こうなると検査用とも思えない。
 とはいえ、何か特殊なそういう趣味を持つ女、というのも不自然だ。どんな性癖があろうとも、こんなマネをして、何か面白いとも思えない。
 毎回汚い話ばかりのこのエッセイだが、今回は特に大変不快な内容で申し訳なかった。
 だが、この謎を解かないことには犯人に迫ることもできないので、包み隠さず公開させていただいた次第である。
 もし、我慢して最後までお読みいただいた方の中で、このような『尿袋』の理由をご存じの方がおられたら、是非ともお教えいただきたい。
 よろしくお願いいたします。

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