第32話 『儲けてんだから自分でやれ』だと店は無くなる

文字数 3,938文字

 ポイ捨てゴミは、コンビニやドラッグストアなどの店舗まわりで、比較的多く見られる。
 べつに店がゴミをばら撒いているわけではない。ばら撒いているのは利用者だ。
 コンビニで観察していると、道にポイ捨てどころか、買った店舗の駐車場で、やおら包装を解き、餓鬼のように貪り食らって、そのままポイ捨てする輩も多い。
 ひどい奴になると、よそで買った商品や、自宅から持ってきたものまで、そこで貪ってポイ捨てするようである。
 もちろん、大抵のコンビニは店の前にゴミ箱も設置されている。だから、大半の普通人は、そうして食べたものの包装やペットボトルは、ゴミ箱に捨てていくし、よそからのゴミは持ち帰って自宅で分別する。
 だが、常識を持たない一部のクズ人間は、駐車場に停車しつつ、その場で窓からポイ捨てする。あるいは、店の前でうんこ座りして飲食し、そこへそのまま放置して去る。
 ほんの十数メートル、いや、数メートル。ヘタすると数十センチ先にゴミ箱があるにもかかわらず、ゴミ箱へは捨てない。そこへ捨てねばならない、ということを理解するだけの知能がないのである。
 また、大型車が停まれるエリアが設定されている駐車場などでは、その敷地境界あたりがゴミの山になっていることも珍しくない。郊外型店舗で、大型車の停まれる広い駐車場では、どういうわけか部分的に舗装されていないことが往々にしてあって、そこにポイ捨てしたり立小便したりするクズトラッカーも多数いるわけだ。
 この無舗装エリア。
 べつにクズトラッカーのために、草ボーボーになっているワケじゃないだろうが、調べてみても、なんであんなエリアが作られているのかは不明だった。
 推測でしかないが、単純に必要な部分だけ舗装した残り部分、ってとこじゃないだろうか。
 コンビニの敷地周辺は、吸い殻も多い。車を止めて喫煙し、出発時に窓から投げ捨てていくのか、あるいは、走行中吸っていたタバコを、コンビニに入る前に窓からポイ捨てしているのかもしれない。
 この行動。どういう感覚なのか、そもそもタバコを吸わない俺にはさっぱり分からない。
 だが、結構な数いることは間違いなく、近所にあるセ○ン、ロ○ソン、ファ○マ、三系統のコンビニすべてで、近傍の路上には、他の場所より吸い殻が多い傾向が見られる。
 こうしてコンビニから発生したゴミ。敷地内に関しては、定期的に店員さんやオーナーが掃除しているようで、何日おきかに綺麗になっている。ただ、そこまで手が回らないのか、前述の敷地境界や未舗装エリアなどは、もっと間隔が開くか、まったく掃除していない店舗もある。だが、敷地外を掃除している奇特な店舗は、俺は寡聞にして知らない。
 べつにゴミは、敷地内にじっとしているわけではないし、屋外にしばらく放置されるわけだから、風で飛ばされ、雨で流され、車に飛ばされて敷地外にも出てくる。また、コンビニから出発しつつ、窓からポイ捨てするクズ人間も多いようで、空き缶やペットボトルなども路上によく落ちている。
 つまり、コンビニのある所とないところでは、明確にゴミの量が違うのである。
 俺の勤務先の隣にも、数年前にセブン○レブンが出来た。そしてそれ以来、レジ袋、おにぎりの包装、スナックの袋、ペットボトルなどのゴミが風で飛んできたり、窓からポイ捨てされたりするようになった。
 また、ドラッグストアでも、栄養ドリンクや常備薬、絆創膏などは、駐車場で使用した形跡が残っていることがある。おそらく、簡便かつ緊急性を伴うからであろう。
 もちろん、ドラッグストアにもペットボトル飲料やアイス、スナックも販売されていて、これらを貪った形跡が残っていることもある。
 その他、スーパーや量販店、ホムセンもゴミの発生源となり得る。だが、その商品ラインナップの性質上、道端や駐車場でいきなり利用してポイ捨てする利用者は少ないようだ。
 つまり、自宅に持ち帰って梱包を解き、使用して、初めてゴミが発生するわけで、電化製品や工具、農具の包装、ネギや油揚げの袋が、店舗駐車場やその周辺にポイ捨てされているのは、あまり見ないのだ。
 それと、これらどの商業店舗でも必ず落ちていて、もっとも多いのが、レシートである。
 レシートに混じって、割引券やチラシも落ちている。ポイントに応じて金券を発行する店舗もあるが、これもごくたまに落ちていて、これまでに五百円券を二回拾ったことがある。

 かように店舗まわりには、ゴミが多いわけだ。
 このゴミ、どうしたら減るのであろうか。
 『製造物責任法』ってやつにのっとり、メーカーが回収し、あるいは費用負担し、処分すべきなのであろうか。それとも、ポイ捨てされるような商品を、ポイ捨てされるようなやり方で販売した、店が悪いのだろうか。
 まあ、スジから言えばそうなのかも知れない。
 メーカーや店は、商品で利益を出しているのだから、それに関して最後まで責任を持つのは、道義的にも当然と言えば当然だ。
 だが、もしもそれを徹底するとどうなるか、考えてみたことがあるだろうか。
 今、多くのメーカーや店は、人手不足に陥っている。よって、店員さんの多くはオーバーワーク状態なのだ。そこへもってきて『働き方改革関連法』の施行である。
 残業を減らし、休日を増やさねばならない。
 余計な仕事もさせられない。
 バイトにまで、有給休暇や同一賃金を求めているわけだから、業務効率の低下は不可避である。
 従来の人員にやらせられないなら、新規に人材を雇うか、ゴミ拾い専用のバイトを雇うか、外注するか、くらいしか選択肢はない。
 要するに、企業としてはコストアップとなるわけだ。コストアップしても、企業を存続させるためにはどうするか。
 それには利益を増加させるしかなく、販売力が変わらないのであれば、これはもう商品単価に反映させる以外に、方法はないのである。
 その結果、高いモノを買わされることになるのは、消費者となるわけだ。
 それでも、売ってくれるならまだいい。単価をアップしても、販売量が減れば売り上げは上がらず、利益は増えない。コストと売り上げが見合わない、となれば、その商品は消えていく。利益が確保できず、店舗を維持するメリットが無くなれば、撤退もあり得る。

 では、行政にやらせるべきか? 店舗敷地内は仕方ないとしても、店舗周辺は行政の管轄ではないのか。
 むろん、それも正論だ。税金で作った道路だから、その管理は本来行政がやるべきである。
 つまり、道路の清掃も行政の仕事であるはずだ。
 だが、ちょっと郊外に行って、路面を観察してみてほしい。アスファルトのひび割れ、陥没、轍で抉れ、センターラインの消えかけ、ガードレールも曲がったまま、なんて道路がどれほどあると思うのか。
 行政もまた、人手不足、予算不足は同じだ。つまり、手が回り切っていないのである。
 清掃に振り向ける労力がなく、管轄道路の清掃ボランティアを募集している自治体もあるくらいなのだ。

 何が言いたいのか。
 これまでと同じサービスを受け続けたいなら、応援しなくてはダメだということだ。
 コンビニでも、ドラッグストアでも、ホムセンでも、存在するだけで、どれほど地域に貢献してくれているか、分かるだろうか。
 遠くまで行かずとも、食料が手に入る。
 生活用品が、嗜好品が、書籍が、文具が、医薬品が、衣類が、工具が、農機具が、苗が、あらゆるものが手に入る。振り込みもできる。荷物も送れる。
 老人も、子供も、どんな人間も、素性を改められることもなければ、差別されることもなく、平等にそのサービスを受けられる。
 人が集い、溢れる笑顔も、賑やかさも、夜を照らす明るさも、店舗が提供してくれている効果なのだ。
 その店舗があるから、近くのアパートやマンションを選ぶ人もいるだろう。
 その店舗にバイトや店員で働く人もいるだろう。
 店舗は、ただ金儲けをしているわけではない。
 何故、店舗が、ひいては企業が存続できるのかといえば、社会に必要とされているからなのである。社会に貢献しているから、存在できているのだ。
 その必要性とコストのバランスが釣り合わなくなれば、消えていくしかないのが企業であり、店舗だ。
 だったら、自分の身の回りの、自分が利用する店舗くらい、応援してやろうではないか。
 文句を言うくらい誰でもできるのだ。
 商品と代価は、等価である。
 税金と行政サービスも、等価である。
 商品に、過剰な品質、包装を求め、その上、ポイ捨てゴミの始末なんていう付加価値まで求めれば、代価は上がるに決まっている。
 行政サービスも同じ。
 なんでもかんでも『公共なんだから、役所がやれ』『税金ドロボー』なんぞと言って、自分で出来ることをやらないばかりか、ポイ捨てして町の美観を損ね、行政の手間を増やし続けるならば、税金は上がる一方である。
 どんなにちゃんと教育しても、一部に、程度の低い、視野の狭い、ろくでもない価値観を持つ、社会不適合で救いようのないクズ人間は、必ず少数発生する。
 そいつらに『ポイ捨てはやってはいけないことだ』と理解させるのは、ダンゴムシにピタゴラスの定理を理解させるよりも困難なのだ。
 だったら、まともな人間が、そいつらの面倒を見てやるしかない。
 そんな奴らの尻拭いだと思えば腹が立つ。
 儲けている奴らの尻拭いだと思っても腹が立つ。
 自分自身が、低コストで高品質な商品を買うために、手軽にサービスを享受するために、明るく清潔な街に住み続けるために、毎日一個でもいいから、ゴミを拾ってみてはどうだろう。
 好きな店舗や商品を、自分の住む街を、応援しよう。
 それは、簡単に出来ることなのだから。
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