第8話 傘
文字数 2,348文字
雨の日の散歩は憂鬱だが、傘もじつは、拾ったものだけでまかなっている。
もちろん、ふだんの出かける時は、普通に購入した傘を使用しているが、お散歩ゴミ拾いの時に使用している傘は、お散歩ゴミ拾いで拾った傘なのだ。
それも、数か月に一度、順調に代替わりして新しくなっている。
「それ、落とし物じゃねえのか?」と、思われるかも知れないが、そんなことはない。きちんと?ポイ捨てしてあるものを、拾ってきているのである。
もちろん強風の後には、壊れたビニール傘が多数ポイ捨てされている。骨の折れたヤツ、柄が無いヤツ、開きっぱなしで閉まらないヤツ、ビリビリに裂けたヤツ……
そりゃもう様々な傘が落ちているわけだが、強風なんか吹かなくとも、傘はかなりの確率でポイ捨てされている。それが落とし物でないと分かるのは、必ずどっかに『難』があるからである。
例えば、最近代替わりして捨てた大人用の黒い傘は、持ち手の曲がった部分が折れて真直ぐになってしまっていた。たったそれだけのことだったが、実際に使用してみるとなんとも使いにくい。
持ち手がカーブしているつもりで扱うもんだから、なんとなく保持しにくく、手が疲れるのだ。この傘、休耕田の泥に突き刺してあったから、捨てたのは歩行者。たぶん、男子中高生ではないかと思われる。
これに替わる新しい傘として拾ったのは、これまた黒い傘。中学校の校庭脇のフェンスにぶら下げてあった。この傘、難はほとんどなく、基本的にどこも破損していない。
ゆえに、持ち主が現れないかと、一か月ほど放置してみた。
だが、いっこうに回収する人もなく、散歩のたびに確認し、あるなあ、と思っていたのだが、大雨の降ったある日、雨が溜まってパンパンに膨らんでいたので、さすがにもういいだろう、と回収したのである。
開いてみると、内側が錆び始めてもいたし、まあ、捨ててあったという認識でいいと思う。
ふたつ前の傘は、透明のビニール傘だったが、骨が二本折れていた上に、やはり休耕田に投げ捨ててあったから、落とし物ではないと確信している。
更にもうひとつ前の傘は、女物っぽいおしゃれな傘で、先端の尖った部分が無かった。
どうしてこうも傘のポイ捨てが多いのかというと、壊れた傘は、処分しにくい、というのが大きな理由ではなかろうかと思う。
傘は基本、骨と柄と布からできているわけだが、これを一般家庭ゴミとして捨てようとすると、大変苦労するのだ。
ゴミ回収車は、市指定のゴミ袋に入り切っていれば『燃えないゴミ』として持って行ってくれる。しかし、まず傘の柄は微妙に長い。よって、折るか切るかして短くする必要がある。
だが、柄だけを折ろうとすると、骨が邪魔をする。
ちょっと意味は違うが、まるで毛利家の『三本の矢』のようなもの。細い骨も傘一本分集まって束ねられれば、おいそれとは折れなくなるのだ。
そこで広げたままで柄を折ろうとすると、広がった骨がクッションになって、これまた邪魔になる。それでも何とかへし折って、今度は骨を一本ずつ折っていくわけだが、今度は可動式になっている構造が力を受け流し、折れにくい。
おそらくこれは偶然ではなく、風や雨、衝撃などで簡単には使用不能にならないよう工夫を凝らし、試行錯誤の末に、メーカーさんが作り上げた構造なのだと思う。
そりゃあ、使用する時は壊れてくれちゃ困るわけだし、たとえ壊れたとしても、自宅に着くまでは、雨を防いでほしいわけで、その素晴らしい技術の賜物には、何度救われたか知れないわけだが、いざ、いらないとなったらこんな壊しにくい物品も他にない。
ただの金属製ですら、このように処理しにくい傘だが、最近拾った壊れ傘など、えらく黒い骨だと思ったら、なんとカーボンファイバー製だった。
へし折ってみて初めてカーボンだと分かったのだが、カーボンファイバーは危険なのだ。釣り竿などでもそうなのだが、折ると細かくササラ状になって刺さりやすくなる。
間違って手指に刺さろうものなら、抜けなくて往生するのである。
それ以外には、樹脂製の骨で、どんなに曲げても折れず、放っておくと元通りになるって代物にも出会った。
結局、カーボン製のヤツは、厚手のビニール製の肥料袋に、折らないように捻じ曲げて入れ、樹脂製のヤツは、ペンチで一本一本骨を切って捨てた。しかし、あんまり丈夫な骨なので、素材として数本とっておいた。何に使うか決めてはいないのだが。
この分別の大変さ。まだ、その辺に落ちている傘はマシな方で、川の中に沈んでいたり、休耕地で半分泥に埋もれていたりするものは、隅々まで泥や土が入り込んでいて、本当に処理が面倒くさい。ただ細かくして袋に詰めるだけなのだが、全身に泥が撥ねる覚悟が必要なのだ。
しかも、傘すべてに言えることだが、どんなに折り曲げ、分解しても、指定ゴミ袋を突き破りやすいのだ。指定ゴミ袋は、燃焼しても問題ないよう、石灰を混ぜてあったりして、強度がイマイチな袋が多い。ステーションを目の前にして、中身がぞろっと出てきたりすると、早朝の路上で一人でパニクらなくてはならない。
傘をポイ捨てする輩は、問答無用で悪なのだが、俺は傘メーカーにも一言、言いたい。
頼むから、壊れて処分する時のことも、考えて作ってくれ。
丈夫でかつ壊しやすい、なんて相反するものを作るのは、そりゃあ大変だとは思う。だが実際、厄介極まりないのだ。カーボンファイバーとか、無駄に強力な樹脂の骨もやめてくれ。
もし可能なら、リサイクルできる材料か、自然に帰る材料で作ってくれ。
それか、自治体のゴミ袋に長尺用のものを作ってくれ。傘をそのまま入れられるようなヤツだ。
壊れた傘は、着々と環境を破壊していっているのだから。
もちろん、ふだんの出かける時は、普通に購入した傘を使用しているが、お散歩ゴミ拾いの時に使用している傘は、お散歩ゴミ拾いで拾った傘なのだ。
それも、数か月に一度、順調に代替わりして新しくなっている。
「それ、落とし物じゃねえのか?」と、思われるかも知れないが、そんなことはない。きちんと?ポイ捨てしてあるものを、拾ってきているのである。
もちろん強風の後には、壊れたビニール傘が多数ポイ捨てされている。骨の折れたヤツ、柄が無いヤツ、開きっぱなしで閉まらないヤツ、ビリビリに裂けたヤツ……
そりゃもう様々な傘が落ちているわけだが、強風なんか吹かなくとも、傘はかなりの確率でポイ捨てされている。それが落とし物でないと分かるのは、必ずどっかに『難』があるからである。
例えば、最近代替わりして捨てた大人用の黒い傘は、持ち手の曲がった部分が折れて真直ぐになってしまっていた。たったそれだけのことだったが、実際に使用してみるとなんとも使いにくい。
持ち手がカーブしているつもりで扱うもんだから、なんとなく保持しにくく、手が疲れるのだ。この傘、休耕田の泥に突き刺してあったから、捨てたのは歩行者。たぶん、男子中高生ではないかと思われる。
これに替わる新しい傘として拾ったのは、これまた黒い傘。中学校の校庭脇のフェンスにぶら下げてあった。この傘、難はほとんどなく、基本的にどこも破損していない。
ゆえに、持ち主が現れないかと、一か月ほど放置してみた。
だが、いっこうに回収する人もなく、散歩のたびに確認し、あるなあ、と思っていたのだが、大雨の降ったある日、雨が溜まってパンパンに膨らんでいたので、さすがにもういいだろう、と回収したのである。
開いてみると、内側が錆び始めてもいたし、まあ、捨ててあったという認識でいいと思う。
ふたつ前の傘は、透明のビニール傘だったが、骨が二本折れていた上に、やはり休耕田に投げ捨ててあったから、落とし物ではないと確信している。
更にもうひとつ前の傘は、女物っぽいおしゃれな傘で、先端の尖った部分が無かった。
どうしてこうも傘のポイ捨てが多いのかというと、壊れた傘は、処分しにくい、というのが大きな理由ではなかろうかと思う。
傘は基本、骨と柄と布からできているわけだが、これを一般家庭ゴミとして捨てようとすると、大変苦労するのだ。
ゴミ回収車は、市指定のゴミ袋に入り切っていれば『燃えないゴミ』として持って行ってくれる。しかし、まず傘の柄は微妙に長い。よって、折るか切るかして短くする必要がある。
だが、柄だけを折ろうとすると、骨が邪魔をする。
ちょっと意味は違うが、まるで毛利家の『三本の矢』のようなもの。細い骨も傘一本分集まって束ねられれば、おいそれとは折れなくなるのだ。
そこで広げたままで柄を折ろうとすると、広がった骨がクッションになって、これまた邪魔になる。それでも何とかへし折って、今度は骨を一本ずつ折っていくわけだが、今度は可動式になっている構造が力を受け流し、折れにくい。
おそらくこれは偶然ではなく、風や雨、衝撃などで簡単には使用不能にならないよう工夫を凝らし、試行錯誤の末に、メーカーさんが作り上げた構造なのだと思う。
そりゃあ、使用する時は壊れてくれちゃ困るわけだし、たとえ壊れたとしても、自宅に着くまでは、雨を防いでほしいわけで、その素晴らしい技術の賜物には、何度救われたか知れないわけだが、いざ、いらないとなったらこんな壊しにくい物品も他にない。
ただの金属製ですら、このように処理しにくい傘だが、最近拾った壊れ傘など、えらく黒い骨だと思ったら、なんとカーボンファイバー製だった。
へし折ってみて初めてカーボンだと分かったのだが、カーボンファイバーは危険なのだ。釣り竿などでもそうなのだが、折ると細かくササラ状になって刺さりやすくなる。
間違って手指に刺さろうものなら、抜けなくて往生するのである。
それ以外には、樹脂製の骨で、どんなに曲げても折れず、放っておくと元通りになるって代物にも出会った。
結局、カーボン製のヤツは、厚手のビニール製の肥料袋に、折らないように捻じ曲げて入れ、樹脂製のヤツは、ペンチで一本一本骨を切って捨てた。しかし、あんまり丈夫な骨なので、素材として数本とっておいた。何に使うか決めてはいないのだが。
この分別の大変さ。まだ、その辺に落ちている傘はマシな方で、川の中に沈んでいたり、休耕地で半分泥に埋もれていたりするものは、隅々まで泥や土が入り込んでいて、本当に処理が面倒くさい。ただ細かくして袋に詰めるだけなのだが、全身に泥が撥ねる覚悟が必要なのだ。
しかも、傘すべてに言えることだが、どんなに折り曲げ、分解しても、指定ゴミ袋を突き破りやすいのだ。指定ゴミ袋は、燃焼しても問題ないよう、石灰を混ぜてあったりして、強度がイマイチな袋が多い。ステーションを目の前にして、中身がぞろっと出てきたりすると、早朝の路上で一人でパニクらなくてはならない。
傘をポイ捨てする輩は、問答無用で悪なのだが、俺は傘メーカーにも一言、言いたい。
頼むから、壊れて処分する時のことも、考えて作ってくれ。
丈夫でかつ壊しやすい、なんて相反するものを作るのは、そりゃあ大変だとは思う。だが実際、厄介極まりないのだ。カーボンファイバーとか、無駄に強力な樹脂の骨もやめてくれ。
もし可能なら、リサイクルできる材料か、自然に帰る材料で作ってくれ。
それか、自治体のゴミ袋に長尺用のものを作ってくれ。傘をそのまま入れられるようなヤツだ。
壊れた傘は、着々と環境を破壊していっているのだから。