第５話　レシート・明細書

　落ちている数でいうと、吸い殻の次くらいに多いのがレシートかも知れない。
　これは、我が家の周辺にドラッグストアとコンビニ、そしてスーパーもあることが、大きく影響しているとは思う。
　意図的に捨てたものも多そうだが、いつの間にか落とした、という場合も同じくらい多いように思う。
　レシートのポイ捨てゴミは、店舗の出入り口近くの路上に多く、八時くらいで閉まるスーパーよりも、夜十時過ぎまでやっているドラッグストアが多く、二十四時間空いているコンビニ周辺は、それよりさらに多い。
　レシートの紙は基本、生分解するようだし、雨にでも濡れて踏まれ続けると跡形もなくなる。だが、落ち葉や落枝のような自然物とは違うから、その辺に捨てていいものではない。
　白くて目立つものだから、俺も積極的に拾う。
　雨で路面が濡れて、ピッタリ張り付いてしまうと非常に取りにくいのだが、俺は鎌も持ち歩いているので、それで引っ掻くと簡単に取れる。
　鎌など持ち歩いて何にするのかというと、べつに草刈りしながら歩くわけではない。
　手の届かない場所……主に農地などに落ちたゴミをとる時に、手の延長として使うのだ。
　ゴミ拾い用のトングもあるにはあるが、けっこうヤワで、少し重いゴミは持ち上がらないし、半分埋もれたゴミを掘り出したりもできない。なによりかさばるので、持ち歩くのをやめた。
　鎌なら、手の届かない場所のペットボトルや空き缶でもビニールでも、突き刺して回収できるし、水を吸った段ボールやビニール袋も引き寄せられる。
　たまにアスファルトやブロックの隙間などから、ムラサキシキブやカエデ、サンショウ、ナンテンなど、庭木の実が落ちて芽生えたような苗木を発見して回収する時にも使う。
　どうせ放っておいても乾燥して枯れるか、除草剤で枯れるか、引っこ抜かれるかだから、もらっても問題なかろうというわけだ。
　これらをポットに植えて大きくし、庭に植えたり、勤務先に植えたりするのだ。
　少し話が逸れた。
　ところでじつは、首題のレシートや明細書の類は、拾っていて面白いものの一つだ。
　状態がいいと、俺は必ずそれを読む。どこで何をいくつ買ったか、現金で買ったか、電子マネーか、クレジットか、何時ごろ買ったか、店のポイントはどれだけ溜まっているか、そいつのプライバシーが丸わかりだ。
　ＡＴＭの明細書なんかだと、取引額や名前、取引銀行も分かるし、領収書や請求書みたいなものなら、もっと詳しいことが分かったりもする。
　だからどうなのか、といえば、べつにそれ以上どうする気もないが、レジ袋に弁当やペットボトル、スナック菓子のゴミと混じって、レシートとＡＴＭ明細書などが入っていると、そいつの生活が透けて見えて面白いのだ。
　たとえば以前、コンビニ袋に甘いドリンクのボトル、唐揚げ弁当の空き箱、スナック菓子の包み紙、ビールの空き缶に加えて、病院の利用明細と、調剤薬局の説明書が入っているのを拾ったことがあるが、処方されていたのはなんとインスリンであった。
　つまり、そいつはけっこう重度の糖尿病であるにも関わらず、節制する気はない患者なのだろう、ということが分かるわけだ。
　他にも、午前四時にコンビニで避妊具のみを買っていたり、ポイントが数千円分溜まっているのに使っていなかったり、ご時世を反映してドラッグストアでマスクを大量に買い込んでいたり、なかなかに面白い。
　時間外に金を一万円だけおろしている奴とかもいて、１パーセントも手数料払ってコイツバカじゃねえの、などとあざ笑いつつ散歩している。
　まあ、べつにだからどう、ということではない。
　俺のような悪趣味な奴もいるので、レシートや明細書は落とさないように気を付けた方がいい、ということだ。
　それに、確定申告するなら何が経費で申告できるか分からないので、取っておくに越したことはない。ドラッグストアで買った薬品は、医療費控除の対象になるし。
　めんどくさがっていると損をする、ということでもある。