第27話 いや持って帰れっつってんだろが

文字数 2,956文字


 名古屋まで、自分で運転して出張してきた。
 コロナ禍のせいで、ここ一年、自分の所属する業界の会合が開催されていなかったので、約一年ぶりの出張である。参加は少人数、ホテルでの開催で会議室貸し切りなどの条件を確認はしたが、それでも少々心配だったので、少しでも接触機会を無くすため、自動車で行ったわけだ。
 こんな時期に、そこまでして行かんでもいいんちゃうか? と思われるかも知れないが、一年も他地区と情報交換していないと、全国的な流れが見えず、経営戦略を立てづらい。
 喩えるならば、街灯のない夜道を、ライトとナビだけを頼りに移動しているような感覚。
 周囲の雰囲気も分からなければ、自分がもっとも効率のいい道筋を通っているかどうかも分からない。立ち寄った店が、ベストの選択かどうかも判断がつかない、というわけだ。
 リモート会議でいいんじゃねえか? という考えもある。そりゃまあ、やらないよりはましだとは思うが、アレって何人参加していても、一対一になりやすく、その他の人はただの観客になってしまうケースが多いのだ。
 また司会者の力量によっても、随分ちがう。明石家さんまのように、参加者にまんべんなくしゃべらせ、うまく場をまわす司会者なら、収穫も多く、参加する意義もあるが、へたくそな司会者だと、必要事項だけ決めて終わりってこともある。
 そんなんだったら、わざわざリモートにしなくても、FAXかメールでいい。
 さて。
 今回は久しぶりに、同業者やメーカーさんの近況を聞き、新製品や人事戦略、新事業への取り組みなど、様々なヒントをいただいた。
 霧の中を歩いているような感覚から、少し抜け出したようである。

 出張はまずまず成功だったわけだが、久しぶりに長距離を運転するにあたって、ふと、あることに注目して高速道路を走ってみた。
 むろん、このエッセイのテーマである「ポイ捨てゴミ」だ。
 「高速道路に、ゴミなんて大して落ちてないだろ」と、思われる方も多いのではないだろうか。いわゆる「落下物」は大変危険なものだから、道路管理事務所が回収するはずだし、ノンストップの車窓からゴミを投げれば、ヘタをすると後続車にぶつかって事故を誘発する。まさか、そんなバカはそう多くはいないだろう、と思うかもしれない。
 だが、高速道の路上にも、ゴミは無数に投げ捨てられている。
 さすがに、走行レーンには落ちていないものの、道路わきのガードレールの下、排水溝、植え込みの中などに、点々とポイ捨てゴミが確認できた。
 特に目立つのが、ペットボトルと空き缶だ。おそらくだが、プラ包装やマスクなどの軽いゴミは、高速で走る車の起こす風で、飛んで行ってしまうのではないか。缶やペットボトルは、転がりはするものの、飛びはしないから残っているのであろう。
 こうしたゴミも、どこにでもあるわけではなく、高密度に捨てられている区域もあれば、ほとんど見かけない区域もあった。
 その違いのひとつは、捨てやすいかどうかであるとみた。
 同じ名神高速道でも、区間によっては、路側帯が広かったり、中央分離帯が草に覆われていたりしているところがある。見るからに、投げ捨てた缶やペットボトルが跳ね返りにくそうで、つまり投げ捨てやすそうな場所は、ゴミが多かった。
 だが、明らかに投げ捨てにくそうな場所、例えば路側帯も狭く、すべてコンクリで固められている上に、上り坂でカーブ、などという場所に、集中的にペットボトルばかり落ちているのも確認できた。
 そして不思議なことに、そこに落ちているペットボトルには、ほとんど中身が入っていたのである。
 それも、すべて外の包装が外されており、すべての中身がウーロン茶か日本茶のようなものだと確認できる。俺は、しばらくその現象が理解できず、考えた。
 何故、中身の入ったお茶のボトルを捨てるのか? 捨てにくい場所に、それも満タンに近いものをいくつも。
 つまり、複数の人間が、車窓からお茶のボトルを捨てたくなる何かがあったということになる。
 しばらく考えつつ走るうちに、赤いキャップのペットボトルに、お茶が入って捨てられているのを発見して、俺はすべてを理解した。
 お茶ではないのだ。
 赤いキャップのペットボトルは、コーラに特有のものである。
 赤いキャップのお茶のボトルは存在しない。そりゃあ、自分でお茶を空きボトルに詰めれば、そういうものも作れようが、コーラの空きボトルに、どうしてわざわざお茶を詰めて捨てる必要があるものか。
 だがそう、お茶ではないとすれば、すべてに説明がつく。
 これはすべて、捨てた奴らの尿なのである。
 何故、捨てにくい場所にいくつも落ちていたのか? それは、渋滞が起きたことがあるかどうかに違いない。
 いくらなんでも、高速走行中に空きボトルに用を足すのは難しい。
 どれほど貧相な持ちモノでも、ペットボトルの飲み口よりも細いアレはなかなか無いだろう。
 こぼさないようにするのは至難の業であるはず。下手をすると事故りかねない。
 いくらなんでも命は惜しかろう。
 漏らすと事故るとなら、漏らす方をとるだろうし、走れるならば、PAかSAを目指した方が楽だ。
 だが、渋滞中ならどうか? いつ終わるともしれない渋滞の中、もよおしてしまったドライバーが取れる手段は少ない。車を止めて立小便しようにも、いつ動き出すか分からないし、高速道に降りること自体、法で禁じられてもいる。
 現実問題として、漏らすかボトルにするかしか選択肢はないだろう。
 で、し終わった後、ボトルを路側帯に投げ捨てるわけだ。
 ペットボトルの項でも書いたが、考えてみれば、俺は既に、同じものを地元の国道で発見していた。地元は車の数自体が少ない。よって、豪雪時でもなければ、渋滞など起きないわけだが、名神高速ともなると、いつでもどこでも渋滞は起きうる。
 だが、まさかこれほどの量が、これほど目立つ状態で放置されているとは思わなかった。
 そのつもりで見てみると、集中的に落ちている場所だけではない。名古屋近く一宮JCTあたりでも、北陸道に入ってからでも、数は少ないが、点々と尿ボトルは落ちていた。
 ポイ捨てするようなクズ人間の思考を、脳内シミュレートしたくもないが、尿をしてすぐ捨てるヤツもいれば、渋滞が解消してしばらく走ってから捨てるヤツもいるってことかも知れない。
 何度も通った道で、今頃になってようやく気付いた俺だが、皆さんはご存じだっただろうか? これってもしかして、常識レベル?
 ロックフェスで、トイレに行く時間の惜しいバカどものせいで、似たような中身のボトルが飛び交う、という話は聞いたことがあるのだが。

 俺の言いたいことは、常に一つだ。
 ポイ捨てするな。である。
 渋滞中に、トイレに行けず、限界を感じたなら、ペットボトルにするな、とは言わん。
 それは仕方のないことだ。
 だが、その辺にポイ捨てするな。
 持って帰れ。
 自宅で始末しろ。
 あんなもん、高速道の路側帯に延々と飾っておくな。
 高速道は危険だから、誰もあんなもの片付けられない。日光で劣化し、完全にペットボトルが風化しきるまで、お前の尿は路傍に展示され続けているのだ。
 まさに、日本の恥さらし。
 マナーがいい国民? ふざけるな。

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