第11話 衣類

文字数 2,158文字

『ゴミ拾い』は、誰にも後ろ指さされることのない行動だ。
 ただ、一点だけ気を付けるべき点があって、それは『拾う対象が、本当にゴミかどうか』である。
 毎日ゴミ拾いをしていると、落とし物かな? と思うものも結構あって、判断に迷う。
 なんか木材っぽいのが落ちている、と思ってよく観察すると、日曜大工の途中や片付け忘れだったり、大きなゴミだなと思ったら、明らかに子供が遊んだ跡で、おもちゃやスコップが一緒に置かれていたりする。
 その他、ただポツンと落ちているものでも、マスコットやキーホルダー、封を切っていないスナック菓子、ベーコン、ピーマン、パン、タバコ一箱なども拾ったことがある。
 ベーコンは、わざとらしく中学校の校門前に置かれていて、子供のいたずらか、もしくはもっと悪質な、SNSで場所を特定しようとする罠の可能性もある。
 まあ、俺は基本SNSに画像はあげないから、そのまま生ゴミ処理機行きでにしたが。
 スナック菓子は頻度が高く、空のペットボトルやおにぎりの包みとともにコンビニのレジ袋に入って捨てられていることが多い。
 この場合おそらく、ポイ捨ては確信犯だろう。しかし、封を切っていないスナック菓子は、食べ忘れだと思われる。こういう場合は、ざまあみろと思いつつ、やはり中身は生ゴミ処理機行きだ。封を切ってなくとも、さすがに食わない。
 マスコットやキーホルダーは、破損していることが多いが、基本、拾わずに隅によけて置く。
 数日そのままなら、ゴミとして回収するわけだ。
 こうした落とし物っぽいモノの中でも、どうすべきかの判断にもっとも悩むのが『衣類』である。
 衣類は特に冬場に多く、『片っぽだけの手袋』が、もっとも頻度が高い。それも子供用が八割近くを占めていて、週に二、三個見かけることもある。
 春から秋にかけては、衣類は余り落ちていないが、強風の後には洗濯ものが落ちていることがあるし、猛暑の頃にはタオルもある。
 そもそも道に落ちているから、泥でなんだか分からないほどになっていたり、車に踏まれて破れ、ぐっちゃぐちゃになっていたりする場合もある。茂みの中や側溝から、どう見てもかなり前に落としたと分かるものが発見されることもあって、そういうのは、もうそのままゴミとして回収することにしている。
 だが、中には落としたばかりと見える、割ときれいな状態のものもある。
 明らかに手編みと分かる、乳児用の可愛い手袋もあって、これをゴミにはできないな、と思ってしまう。
 そういう場合、俺は、出来る限り汚れを払い、踏まれたり破損したりしないように、目立つ場所に引っ掛けておくようにしている。
 するとまあ、一週間以内には八割がた消えているから、持ち主の元に帰ったのだと思うようにしているわけだ。実際のところは分からないが。
 置く場所は、歩道のポール上や、街路樹の下枝、押しボタン式信号のボタンの上、ガードレールの杭の上など、そこを通ればまず目が行くような場所を選ぶ。
 やってみれば分かると思うが、これは、ちょっと気を遣う作業であって、どこでもいいわけではない。
 同じガードレール上でも、歩行者から死角になるような場所だと、見つけてもらえないかも知れないし、不安定な場所だと風で飛んでまた落ちてしまう。
 また、大事なのは落とし主が気づきやすいことである。
 目立つように、と高い場所を選ぶ人もいるようだが、落とし物を探す人は、目線が下を向いているのだ。よって、あまり高い場所だと気づかないこともある。やはり、せいぜい大人の腰から下、高くても肩くらいまでにしておきたい。
 派手な色のものなら、どこに置いても見つかりやすいだろうが、地味な色のものだと、街路樹の枝などに掛けたのでは、まぎれてしまって見つからないこともあり得る。
 せっかくの善意で目立たせようとしたのに、隠す結果になるのでは、やった自分も手袋も浮かばれないので、気を付けたい。
 さて。
 そうまでしても見つけてもらえなかったり、また、そもそもぐっちゃぐちゃでダメだな、という場合でも、よほど汚くなければ、一度洗濯してみることにしている。
 これは、祖父の住んでいた家が空き家になっていて、そこに全自動洗濯機があるから出来る事であって、さすがに手洗いする根性はないし、自宅の洗濯機でそれをやれば、まず妻に殺される。
 だが、そうして洗濯してみると、意外に綺麗になって使えるものも出てくるわけだ。
 こうして執筆している今、ひざ掛けに使っている小さな毛布は、雪の中で車に踏まれていたものだし、野外採集の時に手拭きに使っている黒いスポーツタオルは、近所の県立高校前の植え込みに、三か月放っておかれた落とし物である。
 もちろん、洗濯して初めて破損してしまっていることが分かることもあるし、汚れが取れなければ、雑巾として使うしかないこともある。だが、それにしたって、そのままゴミにするようりは、有効活用したほうがいいだろう。
 人の肌に触れるものだし、捨ててあったものだから、まあ、気持ち悪いという思いも正直言ってあるが、まあ、それも使いようだと思う。
 ゴミは、不要だからゴミなのだ。誰かが必要としたら、もうその時点でゴミではなくなる。
 その時、なんとなく気持ちよくなる。
 そんなことはないだろうか?
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