第33話 防犯上もポイ捨てゴミは一掃しておくべき
文字数 3,786文字
前にも書いたが、早朝に娘の弁当を作らなくていい日曜は、のんびり散歩できる。
この日も俺は、国道まで遠出した。そのあたりは、なかなか行けないせいで、いつまでもゴミが残っていて気になっていたのだ。
通勤時、車で通りながら目をつけていた、でっかい自動車の底板がメインの獲物だ。相当にかさばることを覚悟していたのだが、拾ってみると、異様に軽く、簡単に曲げられる。
よって、無理やり折り曲げると、偶然拾った市指定ゴミ袋に詰め込むことができた。持って行ったゴミ袋もほぼ満タンになり、今回は予想通りの大漁であった。
とはいえ、さすがにゴミ袋二つと犬の糞バケツを持つのは疲れる。そのような事態が初めてなせいか、犬たち二匹も、でかいゴミ袋に怯えてなかなか素直に歩かない。
ようやく自宅近くまで帰って来たものの、癲癇持ちの方のモモが、ついに動かなくなってしまった。俺は仕方なく、ゴミ袋二つと犬糞バケツを片手に持ち、モモを小脇に抱えて歩き出した。
これ以上はもう、何も持てない。だが、あともう少しで自宅だ。そう思った時。なんと、自宅前を流れる水路内にレジ袋が浮いているのに気が付いた。
レジ袋には、パンパンにゴミが入っていて、そのせいで完全に水に浮いている。普段なら水位が低く、なかなか手が届かないのだが、すぐ下流の水門が閉まっていたせいで水位が高くなっていた。いつも持ち歩いている鎌を伸ばすと、簡単に引っ掛けられる距離。
もうさすがにやめておこうかとも思ったが、拾えるゴミを見逃すと、なんだかいつまでも後悔しそうだ。ほんの数瞬迷ったが、やはり回収することにした。
俺のポリシーは『迷ったならGO』なのである。
『やらずに後悔するより、やって後悔した方がマシ』なんてのは、色んな作品で聞くセリフだが、要するにそういうことだ。
回収だけは易々とできた。だが、結局三つに増えたゴミ袋 + 中型犬一頭を抱えて歩くのは、想像以上に大変だった。自宅まで百メートル程度だったおかげで、なんとか帰りつけたが、そうでなければ犬を連れ帰ってから、またゴミの回収に出直さねばならないところだった。
さて。散歩の後は餌やりだ。
あんなに怯え、歩くのを渋っていた割には、犬どもはのんきにも餌だけは綺麗に平らげた。
ようやくひと段落着いた俺は、今拾ってきたゴミの分別を始めた。
まずは、分別先の確保である。なにしろ、毎週それぞれのゴミの日に、それまで使っていた袋ごと捨ててしまう。つまり、燃えるゴミ用は紙袋。プラゴミ用はビニール袋。燃えないゴミ用は厚手で汚れた袋。というふうにしているわけだ。
今回は車の底板の入った指定袋を、そのまま『燃えないゴミ』に任命。軽くて隙間だらけだし、むこう二週間はこの袋で大丈夫だろう。
次に、地道に小さなゴミを拾い集めた方の袋の中身を広げ、燃えないゴミ、プラゴミ、燃えるゴミ、金属ゴミ、ペットボトルなどに分けていく。
それが終わったら、次は水路で拾ったレジ袋の分別だ。
その軽さから想像はついていたが、中身のほとんどはスナック菓子の包装であった。まあ、汚れてはいないから、洗わずにプラゴミに出来るのはありがたい。
次に出てきたのが、プリン○ルス×2とチッ○スター×1の空き箱である。一気食いしたにしては、入れてあるレジ袋が別だ。どうも何日分かのゴミをひとまとめにした様子。
そして、何故かおにぎりの包装が一個分だけ。これだけの大食漢でおにぎり一個は少なすぎるだろうなどと思っていると、グリーンメタリックな電子タバコの箱多数と、その吸い殻も大量に出てきた。
吸い殻が同梱されているのは珍しくないが、本数も箱の数も妙に多い。やはり、一日分ではないようだ。その証拠に、封を切っていないお手拭きが五つ、レジ袋もトータルで五つ入っていた。さらに、お手拭きはすべてセブン○レブン。ということは、これは五日分のゴミなのであろうと思われる。
特徴的なのは、レシートが一枚も入っていなかったことだ。これは実は、ポイ捨てゴミには
珍しい。数日分のはずなのに、中が妙にすっきりしていて生活感もなく、部屋から出してきたようにも思えない。
イメージされるのは、車内で食って溜まったゴミを、まとめてポイしたって感じだろうか。
そんなことを考えつつ分別を進めていくが、どうもまだ妙に重い。何かプラ包装でないものが入っているのかと、袋の底にたどり着いた俺は己の目を疑った。
「……財布やん」
それは、一見して男物とわかる、くたびれた革製の財布であった。
間抜けなポイ捨て犯が、自分の財布まで間違えて捨てたか? と最初は思った。
だが、中を見ると現金は一切入っていない。じゃあ、いらなくなった財布を捨てたのか?とも考えたが、カードポケットには、図書館の利用証や診察券だけでなく、クレジットカードやキャッシュカード、健康保険証までも入っている。
こんなものを意図して捨てるとは思えない。これはどうも様子がおかしい。
そこまで考えて、ハッと気づいた。
これは、盗まれた財布ではないか。
おそらく、足のつかない現金だけ抜き取り、カード類はゴミと一緒に川へ捨てたのだ。
もしかすると、拾得物を横領したのかも知れないが、どうやら財布の持ち主は、ポイ捨て犯とは別のように思える。
これは捨てるわけにはいかない。俺は、日曜の朝から、交番まで財布を届けに行ったのであった。
警官は親切に対応してくれて、やはり犯罪の可能性が高いと同意してくれたが、実は、俺はその前の週も、交番に拾得物を届けに行っていた。
この財布が捨ててあった水路が、毎日流れてくるコーヒー缶で埋め尽くされそうになったため、自宅前から数十メートル程度だが、掃除したのだ。その際に水底からキャッシュカードが見つかり、届けたのであった。
最初は、水路にカードを落とすなんて間抜けな人もいるもんだなどとお気楽なことを考えていたのだが、考えてみれば、そんな特殊な状況があり得るとは思えない。
敢えて想定するなら、水路で水生生物の捕獲などやっていて、ポケットから財布を落とし、財布は回収したものの、キャッシュカードが落ちたことに気づかなかった……というところか。
だが、この水路で網を振るう大人は、俺以外(笑)は目撃されていないし、だいたい財布を落としやすい服装でガサガサをやるバカはあまりいない。
そう考えると、そのキャッシュカードも、窃盗犯が不要なものを水路に捨てた可能性がある。
つまりそれは、我が家の近所に、日常的に窃盗を行う犯罪者が住んでいる可能性があることを意味するわけで、かなり憂慮すべき状況であると思われる。
この考えを交番で警察官に訴え、ぜひともきちんと捜査してほしい旨を伝えたが、翌々日に一回電話があったきりで、それから音沙汰がない。まあ、警察もヒマではないだろうし、この程度の事件で動きはしないのかも知れないが、どうにも気持ちが悪い。
しかも、気にして見ていると、更に下流にもう一枚、キャッシュカードらしきものが落ちている。これは警察から聴取があれば、その時に見せようと放置してあるのだが、回収して届けるべきかもしれない。
何にしても、俺がゴミ拾いをしていなければ、窃盗犯が近所にいる事も分からなかったわけだ。とりあえず、戸締りの徹底や、外に物を置かないなどの防衛を強化することにした。
できれば警察には、この犯人を逮捕してほしいものだが、このままでは無理そうだから、また証拠となるゴミが落ちていることを願おう。
それにしても、水路に流せばそれで証拠隠滅できた、などと犯人が思っているのだとすれば、俺の地元も舐められたものだ。それはつまり、木を隠すには森の中、ゴミを隠すにはゴミだらけの水路へ、と考えたということなのだから。
まあ、だからこそ証拠を回収できたわけだし、現金以外は被害者へ戻せたわけである。
何故、犯人が他の方法をとらなかったのかと言えば、別の手段で隠滅しようとした場合、発覚の可能性が高いだけでなく、身元がバレやすいからだろう。
たとえば、一般ゴミの袋には、すべて名前を書かなくてはならないし、名前を書かずに出せば回収されず、中身を改められる。
コンビニなどのゴミ箱に捨てれば、発見された場合に監視カメラ映像が残る。どっかで燃やそうにも、街中で焚火なんかしたら消防車がすっ飛んでくるし、休耕田や山林だと持ち主がすっ飛んでくる。つまり、ずっと持ち続けるか、どっかにポイ捨てするしか隠滅法が思いつかなかったのであろう。
『ポイ捨てゴミが多い』という状況は、その中に何が混じっていても分からないということでもある。
こうした犯罪の証拠もそうだが、簡単に処分できない毒物や危険物、医療廃棄物も、一緒くたに捨てられてしまう可能性がある。現実に、家電や粗大ごみなどのコストのかかるゴミを、便乗して捨ててしまうバカもよくいる。
ゴミのない環境を作っておく、ということは、投棄したものが目立つ環境になる、ということだ。そんなところに犯罪の証拠は捨てないだろうし、危険物や毒物などの、こっそり捨てたいものも捨てられないだろう。
自宅の周りのゴミ拾いは、誰か知らない他人のためではなく、自分の生活の安全を守るためにも、効果的なのだ。
防犯上も、ぜひともお勧めしたい。
この日も俺は、国道まで遠出した。そのあたりは、なかなか行けないせいで、いつまでもゴミが残っていて気になっていたのだ。
通勤時、車で通りながら目をつけていた、でっかい自動車の底板がメインの獲物だ。相当にかさばることを覚悟していたのだが、拾ってみると、異様に軽く、簡単に曲げられる。
よって、無理やり折り曲げると、偶然拾った市指定ゴミ袋に詰め込むことができた。持って行ったゴミ袋もほぼ満タンになり、今回は予想通りの大漁であった。
とはいえ、さすがにゴミ袋二つと犬の糞バケツを持つのは疲れる。そのような事態が初めてなせいか、犬たち二匹も、でかいゴミ袋に怯えてなかなか素直に歩かない。
ようやく自宅近くまで帰って来たものの、癲癇持ちの方のモモが、ついに動かなくなってしまった。俺は仕方なく、ゴミ袋二つと犬糞バケツを片手に持ち、モモを小脇に抱えて歩き出した。
これ以上はもう、何も持てない。だが、あともう少しで自宅だ。そう思った時。なんと、自宅前を流れる水路内にレジ袋が浮いているのに気が付いた。
レジ袋には、パンパンにゴミが入っていて、そのせいで完全に水に浮いている。普段なら水位が低く、なかなか手が届かないのだが、すぐ下流の水門が閉まっていたせいで水位が高くなっていた。いつも持ち歩いている鎌を伸ばすと、簡単に引っ掛けられる距離。
もうさすがにやめておこうかとも思ったが、拾えるゴミを見逃すと、なんだかいつまでも後悔しそうだ。ほんの数瞬迷ったが、やはり回収することにした。
俺のポリシーは『迷ったならGO』なのである。
『やらずに後悔するより、やって後悔した方がマシ』なんてのは、色んな作品で聞くセリフだが、要するにそういうことだ。
回収だけは易々とできた。だが、結局三つに増えたゴミ袋 + 中型犬一頭を抱えて歩くのは、想像以上に大変だった。自宅まで百メートル程度だったおかげで、なんとか帰りつけたが、そうでなければ犬を連れ帰ってから、またゴミの回収に出直さねばならないところだった。
さて。散歩の後は餌やりだ。
あんなに怯え、歩くのを渋っていた割には、犬どもはのんきにも餌だけは綺麗に平らげた。
ようやくひと段落着いた俺は、今拾ってきたゴミの分別を始めた。
まずは、分別先の確保である。なにしろ、毎週それぞれのゴミの日に、それまで使っていた袋ごと捨ててしまう。つまり、燃えるゴミ用は紙袋。プラゴミ用はビニール袋。燃えないゴミ用は厚手で汚れた袋。というふうにしているわけだ。
今回は車の底板の入った指定袋を、そのまま『燃えないゴミ』に任命。軽くて隙間だらけだし、むこう二週間はこの袋で大丈夫だろう。
次に、地道に小さなゴミを拾い集めた方の袋の中身を広げ、燃えないゴミ、プラゴミ、燃えるゴミ、金属ゴミ、ペットボトルなどに分けていく。
それが終わったら、次は水路で拾ったレジ袋の分別だ。
その軽さから想像はついていたが、中身のほとんどはスナック菓子の包装であった。まあ、汚れてはいないから、洗わずにプラゴミに出来るのはありがたい。
次に出てきたのが、プリン○ルス×2とチッ○スター×1の空き箱である。一気食いしたにしては、入れてあるレジ袋が別だ。どうも何日分かのゴミをひとまとめにした様子。
そして、何故かおにぎりの包装が一個分だけ。これだけの大食漢でおにぎり一個は少なすぎるだろうなどと思っていると、グリーンメタリックな電子タバコの箱多数と、その吸い殻も大量に出てきた。
吸い殻が同梱されているのは珍しくないが、本数も箱の数も妙に多い。やはり、一日分ではないようだ。その証拠に、封を切っていないお手拭きが五つ、レジ袋もトータルで五つ入っていた。さらに、お手拭きはすべてセブン○レブン。ということは、これは五日分のゴミなのであろうと思われる。
特徴的なのは、レシートが一枚も入っていなかったことだ。これは実は、ポイ捨てゴミには
珍しい。数日分のはずなのに、中が妙にすっきりしていて生活感もなく、部屋から出してきたようにも思えない。
イメージされるのは、車内で食って溜まったゴミを、まとめてポイしたって感じだろうか。
そんなことを考えつつ分別を進めていくが、どうもまだ妙に重い。何かプラ包装でないものが入っているのかと、袋の底にたどり着いた俺は己の目を疑った。
「……財布やん」
それは、一見して男物とわかる、くたびれた革製の財布であった。
間抜けなポイ捨て犯が、自分の財布まで間違えて捨てたか? と最初は思った。
だが、中を見ると現金は一切入っていない。じゃあ、いらなくなった財布を捨てたのか?とも考えたが、カードポケットには、図書館の利用証や診察券だけでなく、クレジットカードやキャッシュカード、健康保険証までも入っている。
こんなものを意図して捨てるとは思えない。これはどうも様子がおかしい。
そこまで考えて、ハッと気づいた。
これは、盗まれた財布ではないか。
おそらく、足のつかない現金だけ抜き取り、カード類はゴミと一緒に川へ捨てたのだ。
もしかすると、拾得物を横領したのかも知れないが、どうやら財布の持ち主は、ポイ捨て犯とは別のように思える。
これは捨てるわけにはいかない。俺は、日曜の朝から、交番まで財布を届けに行ったのであった。
警官は親切に対応してくれて、やはり犯罪の可能性が高いと同意してくれたが、実は、俺はその前の週も、交番に拾得物を届けに行っていた。
この財布が捨ててあった水路が、毎日流れてくるコーヒー缶で埋め尽くされそうになったため、自宅前から数十メートル程度だが、掃除したのだ。その際に水底からキャッシュカードが見つかり、届けたのであった。
最初は、水路にカードを落とすなんて間抜けな人もいるもんだなどとお気楽なことを考えていたのだが、考えてみれば、そんな特殊な状況があり得るとは思えない。
敢えて想定するなら、水路で水生生物の捕獲などやっていて、ポケットから財布を落とし、財布は回収したものの、キャッシュカードが落ちたことに気づかなかった……というところか。
だが、この水路で網を振るう大人は、俺以外(笑)は目撃されていないし、だいたい財布を落としやすい服装でガサガサをやるバカはあまりいない。
そう考えると、そのキャッシュカードも、窃盗犯が不要なものを水路に捨てた可能性がある。
つまりそれは、我が家の近所に、日常的に窃盗を行う犯罪者が住んでいる可能性があることを意味するわけで、かなり憂慮すべき状況であると思われる。
この考えを交番で警察官に訴え、ぜひともきちんと捜査してほしい旨を伝えたが、翌々日に一回電話があったきりで、それから音沙汰がない。まあ、警察もヒマではないだろうし、この程度の事件で動きはしないのかも知れないが、どうにも気持ちが悪い。
しかも、気にして見ていると、更に下流にもう一枚、キャッシュカードらしきものが落ちている。これは警察から聴取があれば、その時に見せようと放置してあるのだが、回収して届けるべきかもしれない。
何にしても、俺がゴミ拾いをしていなければ、窃盗犯が近所にいる事も分からなかったわけだ。とりあえず、戸締りの徹底や、外に物を置かないなどの防衛を強化することにした。
できれば警察には、この犯人を逮捕してほしいものだが、このままでは無理そうだから、また証拠となるゴミが落ちていることを願おう。
それにしても、水路に流せばそれで証拠隠滅できた、などと犯人が思っているのだとすれば、俺の地元も舐められたものだ。それはつまり、木を隠すには森の中、ゴミを隠すにはゴミだらけの水路へ、と考えたということなのだから。
まあ、だからこそ証拠を回収できたわけだし、現金以外は被害者へ戻せたわけである。
何故、犯人が他の方法をとらなかったのかと言えば、別の手段で隠滅しようとした場合、発覚の可能性が高いだけでなく、身元がバレやすいからだろう。
たとえば、一般ゴミの袋には、すべて名前を書かなくてはならないし、名前を書かずに出せば回収されず、中身を改められる。
コンビニなどのゴミ箱に捨てれば、発見された場合に監視カメラ映像が残る。どっかで燃やそうにも、街中で焚火なんかしたら消防車がすっ飛んでくるし、休耕田や山林だと持ち主がすっ飛んでくる。つまり、ずっと持ち続けるか、どっかにポイ捨てするしか隠滅法が思いつかなかったのであろう。
『ポイ捨てゴミが多い』という状況は、その中に何が混じっていても分からないということでもある。
こうした犯罪の証拠もそうだが、簡単に処分できない毒物や危険物、医療廃棄物も、一緒くたに捨てられてしまう可能性がある。現実に、家電や粗大ごみなどのコストのかかるゴミを、便乗して捨ててしまうバカもよくいる。
ゴミのない環境を作っておく、ということは、投棄したものが目立つ環境になる、ということだ。そんなところに犯罪の証拠は捨てないだろうし、危険物や毒物などの、こっそり捨てたいものも捨てられないだろう。
自宅の周りのゴミ拾いは、誰か知らない他人のためではなく、自分の生活の安全を守るためにも、効果的なのだ。
防犯上も、ぜひともお勧めしたい。