第8話:プロパーの厚遇とその訳

文字数 1,622文字

 売上目標は、新人の伊藤で月間580万円、課長クラスでは1千万円超える。交際費も年1千万円使うという話も聞いた程だ。それだけプロパーの各病院、医院での営業競争は、熾烈を極めた。その接待も信じられない程、規模、費用が大きい。伊藤は、これにまず、圧倒されて営業所でもゴルフ、テニス、麻雀の上手な先輩に接待の仕方の基礎を学んだ。

 新人の最初の接待は、藤島所長か斉藤課長と一緒と言うのが常だった。人によっては、大きな市場の病院で、どの先生がキードクターか調べた。その先生に取り入る一番有効な方法を探るこ事から、人間関係構築が始まると言っても過言ではなかった。伊藤は、学術知識を利用して正攻法で説明するのは、得意だったが、接待は、全く自信がなかった。

 そのため2才先輩の池内先輩に、相談する事が増えた。すると、彼は、自分の得意な事を最低1つ、できれば2つ身につける事。また現在流行している事について理解して話に乗っていけるだけの知識を持つ事が最低条件。そして売上増のコツは、有力な先生の懐に入る事だと教えられた。その後も月に1、2回、飲みに連れていかれプロパーの営業ノウハウを教えてもらった。

1つ目は、可愛いがってもらえるプロパーになる事。2つ目は、能力が高く多趣味のプロパーになる事。3つ目は、常にターゲット・ドクターの最新情報を握っておく事。4つ目は、仲の良い看護婦、事務員を調べ有力情報を得るためには交際費も使う事。最後、ライバルメーカーの動きを常に把握しておくことを教えてもらった。

 もし、自分の売り上げ年間目標が6000万円とした場合、月50万円を他社に奪われれば、年間600万円の減少になり、それは、自分の年収の10%を奪われ年収60万円減をライバルに奪われると考えろと言われた。また、自分の実力以上に背伸びすると、すぐに足下を見られるから絶対無理するなと言われた。

 少しでも困ったら、俺か、上司の斉藤課長、所長に相談して解決するようにしろ1人で判断して、去って行った敏腕プロパーも多いと先輩から真剣な顔で言われた。これらの話は、実践的で、実に役立った。この池内先輩のアドバイス通り自分の計画は、先に課長、所長に聞いてからする様に心がけた。そういう点で自分の課の課長も若いプロパーの顔を見て心の中を察するのが実に上手だった。

 そうして半年が過ぎて徐々に仕事にもなれてきた時、営業会議の席で、自分の課の斉藤課長から営業所で決めた調査事項について提出が遅い時、烈火のごとく怒られた。お前、仕事をなめてると他社に出し抜かれて、売り上げを下げ、お払い箱になるぞと営業会議で叱責された。しかし、その晩、飲みに連れて行かれて、昔、将来有望だったプロパーが自己判断で自滅した事件の話をしてくれた。

 営業成績を上げるのには、何年もの努力と情報を常に掴む事が最低条件、失敗すると自分の業績が下がるのは早い。それを取り返すのには、以前の努力の4倍かかる。だからアンテナが大事で業績を下げない事に気をつけ、常にアンテナの感度を良くしておけと説得された。なるほど、この業界、課長で年収1千万円を超え所長では2千万円近い理由がよくわかった。

 しかし、伊藤光一は、生来、おばさん達に、素直で可愛いと言われて、育って、いつの間にか、女性に可愛がられる感じに育った。そのため営業活動を頑張ってサービス品のタオルやカレンダー少し渡すだけでライバルメーカーの情報をもらえるようになった。そのために失敗を未然に防げたり良いチャンスをもらったりすることが増えた。

 そこで先輩に言われた落としたいドクターの取り巻きの女性達に入り込めという話の意味が実感としてわかった。そのためボールペン、メモ用紙、高級タオル、カレンダーなどを情報源となり得る女性達に、最初に配る様にした。そうすると相手さんの弱点も教えてくれたり自分の実力では知り得ない貴重な情報を取ることができるようになっていった。
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