第23話:伊藤が、久光先生の診察を受ける

文字数 1,845文字

「すると同席した池内先生が、久光先生は、そういう訳で、ムンテラが上手になったのですねと、しみじみと言った」。

「久光先生が精神科医は、上手でなければ失格だと、笑顔を浮かべて話した」。
「しかし、柔和な笑顔で話しながら、目は真剣だった」。
「ムンテラとは、ドイツ語の『ムント・テラピー』から派生した略語で、医師から患者さん、又は家族に、現在の病状や今後の治療方針などを説明する事を指す」。
かつて、臨床では医師が患者の治療方針を決定すると、医師が患者にムンテラを行い、患者はその方針に従うかたちが多かった

精神神経科では、患者さんにムンテラで、信頼を勝ち得なければ、治療の段階に入れない。つまり、診療開始できないという事でムンテラできることは精神神経科の医者の最低条件と言われた。
「池内先生が、にやけた顔で恋のムンテラが上手だから、数人のタイプの違う美女と仲が良いと笑った」。

 その年も冬と8月以外、毎月、池内先生と大学から来る久光先生を伊藤のおごりで飲み会をした。業績は、順調で、今年4月から、2人、新潟営業所に増員され、伊藤にも1人のプロパー3年目の男が、部下としてついた。そして10年間もプロパーをやってると、毎年、新潟大学や他大学の派遣の先生が1年交代で来るので、新潟大学の先生の知り合いの先生も増えた。

 やがて夏が終わり9月を迎えた頃、伊藤が疲れやすくなり、池内先生からも顔色が悪いぞと言われ、俺が検診してやるから1週間入院して調べた方が良いぞと言われた。そこで、会社に事情を話し1週間休暇をとって、入院して脳の検査、心電図、血圧、体重、身長、GOT,GPT、LDH、ビリルビン、総コレステロール、レントゲン写真、癌のマーカー、便、痰、血液、尿など多くの項目を調べることにした。

 一方株投資では、1988年10月8日の早朝、証券会社の担当者から電話で住友電工株の気配値2000円と言われ、全株売りを指示。すると2回の分割で株数が1.21倍の36300株になっていて、すぐ売れ、売却後、税引き後利益6500万円となった。

 10月14日の早朝、証券会社の担当者から電話でNEC株の気配値2600円と言われ、全株売りを指示。すると3回の分割で株数が1.21倍の36300株になっていて、すぐ売れ、売却後、税引き後利益8400万円となり、住友電工株との税引き利益合計1億5千万円となった。

「10月15日、池内先生の診察を受けると胃か十二指腸潰瘍の疑いがあると言われプロパー業務は、過度に神経を使うからストレスが多い」。
「それで胃や十二指腸潰瘍、精神神経の病気になって倒れる者もいると言った」。
「縁起でもない話だが、昨年、優秀なプロパーさんが運転中に脳梗塞になり意識を失い八箇峠の山道から車が落ちて亡くなったと告げた」。

「胃潰瘍と十二指腸潰瘍、精神のうつ症状でプロパーを廃業せざるを得なくなった人も数人知ってると言い、彼らは、いずれも優秀なプロパーだったと語った」。
「精神科の久光先生の診察を受けたら良いと言われ、ハイと答えた」。
「その後、久光先生に検査の話をすると11月になると患者さん少ないから11月の第2水曜日、11日の9時に外来へ来なさいと言われた」。

「伊藤が内科の奥の精神科の診療室に入り久光先生に挨拶し、答案用紙の様なものを渡され、これを書いてと言われた」。
「15分位で書き終え、提出。それを見て、特に何も言わなかった」。
「次に、私の質問に、ハイ、イイエで、答えてと言われ矢継ぎ早に質問された」。
「それをラジカセに録音、1時間近くかかり、一休みしましょうと言い、珈琲、紅茶、お茶でも飲んで一休みしてOKと言われた」。

 「また診察室に呼ばれ、胸やけ、胃や腸の痛み、便や痰に血が混じった事はないかと聞かれ、下痢、軟便、まれに便と痰に血が混じる事もあると正直に回答」。
「やはりそうですか、知らず知らずのうちに随分とストレスが溜まり、体を蝕んでますねと、ズバリと言われた」。
「血が混じるのは、何回位と聞かれ週に1回。下痢、軟便はと聞かれ頻繁で、胃と腸の薬を服用してると回答」。

「胃と腸の薬を飲んでも効かないでしょうと言われ、そうですと答えた」。
「めまい、耳鳴り、動悸は、と聞かれ、結構ありますと答えた」。
「すると、まずいですねと、柔和な顔で、やさしく話してくれた」。
「今年の冬休みは、自分が、安らげるところ、例えば、海辺とか、温泉地とか神社、お寺へ行って最低1週間、気ままに過ごすべきだと言った」。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み