作戦会議・Ⅰ
文字数 1,712文字
「それって、その期間のシルフィスキスカさんの頑張り次第で、フェイクを真実に持って行けるって事じゃないですか!」
両手を併せてピョンと跳ぶピルカ。
「だろう? やっぱりそうだよな」
鼻から息を吐くシルフィス。
挨拶に行くのはサザがタイミングを見計らって段取りをしてくれるとの事で、その前に里内で何回かデートをして、周囲に披露する事を約束してくれた。
「その期間がチャンスだ。だから是非その『頑張る方向』を、ノスリ家の女性陣に指南頂きたい」
「任せて下さい!」
「だぁああ――――!! だからその話を、何でわざわざ執務室でやる訳っ!?」
丸机で髪を逆立てるリリ。
「だって今度こそ、立ち聞きされたら困る内容だもの。ここなら壁が石だしご婦人は近寄らないし」
見習いの少年はとっくに避難して、掛け持ちの外仕事に出ている。
大机のホルズは……
さっきから机に向いて書き物をしていたが、顔を上げてその紙を「ホイ」とシルフィスに突き出した。
「この間ヘイムダルがうちに来て挨拶した、古式ゆかしい文言だ。あそこん家の親父はトンでもなく頑固で手強いが…… まぁ頑張れ」
***
「問題は二人とも口下手って事ね。デートプランは慎重に練らなければ」
「爪を見せて下さい。相手は意外と手先を見て来ますよ。ポラン、ヤスリを取って」
「それから絶対『ヘイムダル』禁止です」
お茶会メンバーノスリ家三人に囲まれて、あれこれ構われるシルフィス。
「こ、こんな事をする必要があるのか?」
「好感度は積み重ねだけれど嫌われるのは一瞬です。その一瞬のハードルを上げておく作業を怠ってはなりません」
「自分の為に慣れない事をしてくれただけで、女の子はキュンとなるんです」
「だから何でそれを執務室でやるのよ!」
丸机ごと隅に追いやられて悲鳴を上げるリリ。
「だって極秘だもの。ここでそんな策略をやっているなんて、誰も思わないでしょ」
「もぉっ、ホルズさん、何とか言って下さい!」
「ぁん~~?」
椅子に寄っかかって、愉しそうに眺めていたホルズ。
「すまんすまん、面白かったからつい。おぉいお前ら、それ、いつまでかかる? ぼちぼち切り上げろ、シルフィスだって仕事があるんだ」
「「はぁい」」
(まったく……)と、仕事に戻りかけるリリの傍らに、コトンとお茶のカップが置かれる。
「すみませんでした」
小声で謝るのは、ノスリ家の、確かポランという娘。
「こんな事滅多になくて、羽目をはずしてしまいました。これからは気を付けます」
「い、いえ、善意でやってるのは分かるから。でも仕事場だし、一応、ね」
言いながらお茶をすするリリ。
何これおいしい…… 同じ茶葉なのに??
「そうですね、私達、お勤めした事がないので、仕事場という物にちょっと憧れていました」
「え、そういう物なの?」
「はい、そういう物です」
「貴女達が朝早くから家族の為にやっている水の仕事や火のお仕事も、あたしは掛け替えのないお勤めだと思っているんだけれど…… 変かな」
ポランは目をパチパチと瞬いた。
「変じゃないと思います」
***
さて、と、ピルカ達が道具をまとめて帰りかけた時、執務室の入り口がそっと開いて、小花帽子と大きな瞳が覗いた。
「プリムラ?」
今回の作戦はノスリ家一員のプリムラにも共有されていたが、彼女は最近執務室で思いっきりそそうをしたので、来るのを遠慮していた。
今も罰悪そうに、小声でピルカを手招きする。
「帰る所だった?」
「うん。どうしたの?」
「あの、サザについて、ちょっと気になる噂をパティとペギーが喋っていたので。伝えに来た方がいいかなと」
ピルカは眉を動かした。
口が軽いパティとペギーには今回の事を話していないが、あの二人はお行儀が悪い分、自分達には知り得ないアングラな情報を拾って来たりする。
「そう、じゃあ、帰る道々、小声で教えて」
「ちょっと待て! 今、サザの名前を口にしたか?」
部屋の奥から、耳敏いシルフィス。
「まぁ、聞いておいた方がいいんじゃないかぁ?」
両手を頭の後ろで組んで、ニヤニヤしながらリリを見るホルズ。
「い、いいわよ、ここでどうぞ」
興味ない素振りをしながら、髪をかきあげて耳を出すリリ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
(ログインが必要です)