おかえり
文字数 911文字
騒動の翌朝には、リリは目の下に隈を作りながらも丸机に復帰し、出勤して来る全員に頭を下げた。
「いやプリムラに絡まれたんだろ、お互い相手が悪かったんだって」
メンバーの大部分はそう言って軽く流してくれた。
見習いの少年だけは、「一歩も入れちゃいけなかったんだ」と、珍しく文句を言った。
リリが昨日やり掛けていた手紙の判読は、夜中に出勤して明け方に仕上げた。
ユゥジーンとシルフィスは外でひたすら家財の修復に勤め、朝にはほぼいつも通りの執務室が復元されていた。
ほとんど寝ていない三人だったが、その日はきちんと出勤して仕事に飛んで行った。
長殿は夕べ帰還してすぐプリムラの両親を訪ね、逆に恐縮された。
執務室内に残った澱みの浄化を行った後、明けやらぬ内にまた別の所用へと発って行く。本当に忙しくてどうしようもないヒトだが、出掛ける前にユゥジーンの、そしてシルフィスの手をしっかりと握って行った。
***
そんな事があってから、シルフィスへの女性関係のひやかしが無くなった。
というか自粛された。
里人の平均的な噂は、シルフィスが煩わしがって適当な女の子の名前を口にした為、勘違いした女の子がリリに絡みに行き、仕事の邪魔をされたリリが暴発した……といった所だ。
若い娘達の間では、プリムラ可哀想シルフィスが悪い! という空気になっている。
何にしても、この男に女性関係は振っちゃダメだ変な風にこじれちまう、という認識が共有された。
「見ろよ、あの並んで歩くシルエット。あれで二人とも女の子NGなんだぜ」
ホルズが執務室の窓から、坂を登って来る若者二人を眺めてボヤいていると、見習いの少年が隣に来た。
「だったらあの足の長さを半分分けて欲しいです」
ユゥジーンは『リリ一直線ドン引き男』だが、今回新たにシルフィスに、『無自覚女難振り撒き男』の烙印が押された。もっとも本人達は気にしていないからノーダメージだ。
「もしかしたら結構名コンビになるかもな」
部屋の隅の丸机で、やっと元気の戻って来たリリがクスリと笑う。
若者二人が連れ立って御簾をくぐり、室内三人の「おかえり」という声が珍しく揃った。
~鳳仙花・了~
表紙その2
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