静香ルート①
文字数 856文字
僕は籠の中の鳥だ。
決して自分から抜け出すことはできない。
それは生まれる前から決まっていた事。今更どうすることもできない。
産まれてから死ぬまできっとこうしてあいつの操り人形として生きていくのだろう。ただ言われた事だけをする人形。
それは僕が東十条の一人息子として家に産まれたからには逃げ出すことは許されない。
せめて本当に僕が女の子であれば変わっていたのではないか。
そう思うようになった時にこの学校のプリンセス制度というものに誘われた。
それは一時の逃避にしか過ぎなかったけれどみんなで過ごす時間はすごく楽しかった。その反面、現実が重くのしかかる。
目を閉じて考えるのは彼女のことばかりが浮かぶ。ああ、思ったより僕はあいつのことが好きらしい。
……いや、訂正。好きじゃない、嫌いじゃないだけ。
* * * * * * * * * * * * * *
校門の前に1台の白いリムジンが止まった。
中から出てきたのは東十条静香様と、その従者である豊前ミカゲさん。
転入当初は戸惑ったが、毎日見る光景でもう当たり前になっていてもはや今日も凄いなあくらいの感想しかない。
東十条静香様。
世界中では知らない人は居ないであろう程に有名な東十条財閥の御曹司。
最初は怖いという印象を抱いていた。けれど、それは間違いだったとすぐに思った。
ただ、素直になれないだけなのだろう。
気付いた時にはああ、可愛いなと、そう思った。
そしてその可愛いという感情がいつしか恋心へと変わっていった。
静香様はいつもは気丈に振る舞っているけれど、時折寂しそうな表情をする。
その顔を見ていると胸がきゅうっと締め付けられる。
何故そんな表情をするんですか? そう聞きたかったけど、やめた。
人には踏み込んで欲しくないことが1つや2つは誰にだってある。そうやって踏み込むのではなく、その表情の原因を取り除いてあげたいと、私はそう思っている。