ミカゲルート①
文字数 1,278文字
分かっています。
私がいくらお化粧をして可愛いお洋服を着てブラジャーを付けて言葉を真似てみても本物の女の子にはなれないことなど。
分かっています。自分が男であることなど。分かっています。彼女に対する私の気持ちなど、理解しているのです。
けれど怖いのです。
その気持ちを認めてしまうと自分が本当に男の子になってしまう気がするのです。
どうやら私は人生における究極の選択を迫られているようです。
女の子でいたい、けれど彼女に認めて貰うため男でありたいと思う。
これって、いけないことなんでしょうか。
百合の一線を越えてしまったのでしょうか。
豊前ミカゲさん。
校内でその存在を知らないくらいの美人な彼。
その黒髪に誰もが振り返り、男をみな虜にする。弓道部で的を射ている時を見かけたが、的と一緒に私の心も射抜かれたような思いになった。
凛としていて、美しい。花に例えるならば静かに咲く可憐な撫子の花。
そんなミカゲさんの裏の姿を私は知っている。
少女趣味で乙女ちっくな思考でとても可愛いミカゲさん。彼といるとすごく楽しい。私はいつからかミカゲさんのことが大好きになっていた。
静香様は、私が記憶もないほど幼い頃からの主人で、私は静香様を本当に尊敬している。私は、孤児でまだ右も左も分からない時に施設に預けられた。
今でも本当の両親の顔も見たことがないけれど、そういうものだと思って生きている。
虚無だけが渦巻いて生きている心地がしなかった私に手を差し伸べてくれたのが静香様だ。本当に優しくしてくれて、どれだけ感謝しても感謝しきれない思いでいっぱいだ。
だから、静香様の言っていることは正しい。けれど私の彼女のことを想うこの気持ちは、何なのだろう。私は初めて感じる己の感情に戸惑うことしかできないでいた。