第27話 野町宿の信覚寺住職

文字数 1,566文字

秋月城址の次が野町宿らしい。街道の途中に、大己貴神社(おおなむち)があるというのでナビを設定し、到着した。日本最古の神社と謂れ、掲示板は「神功皇后が新羅との戦いの為、各地の豪族に命令し、多くの兵士を集めさせた。朝倉地区の「熊鷲」は、大和朝廷の命令に従わなかった。皇后軍は福岡の香椎宮から進軍し熊鷲を征伐した。大己貴神社は皇后により建立された」と掲示板は語る。
この後、私は神功皇后について興味を持った。福岡北部地域に神功皇后にまつわる神社が、それぞれの伝承を持っており、跡をたどっていけば、一つの物語が出来ることを発見した。千八百年前の出来事など、分からんと、一蹴されたが、いつかこの物語を面白いものにしたいと思っている。文章力がないのか、今一つ読んでくれる人が少ないのが残念である。
 脱線したので元の野町宿捜しの場面に戻る。道行く地元の人に聞くと
「分かりません」という。物知りのようなおとーさんが居られたので、場所を確認したところ、
「此処は野町ではなく筑前町弥永です。秋月街道をこのまま直進し、渡った橋を右折し四キロ先に筑前町野町の信号機がある」と、分かりやすく親切に教えてくれた。
 田圃の真ん中に十字路の信号機があり「野町」と表示されていた。街道の両サイドに家は並んでいるが、人気が無い。道沿いの大きな家から出てきた女性に尋ねた。すると
「ここは野町ですが、宿場は聞いたことがありません」と断言する。地元であるはずだが、全く興味がないのだろうか。向かいの煉瓦塀の家は無人であり、両側には家が並び宿場らしき面影はある。事前に調べた時、信覚寺というのがあるはずだ。
 地区住居表示板があり、信覚寺が載っていた。通りから少し入った所に、信覚寺があった。古い寺院であるが、玄関は新しく改築されたようだ。呼び鈴を押すと、愛想の良い女性の声が
「分かりました。玄関の方へ参ります」と応対してくれた。まことに品の良い老紳士が、女性とともに現れた。
「私は住職で、十七代目の当主でございます」という。三代目とか五代目というのは、宿場の中に末裔として、住んでおられるのはお会いしたことがある。三十才で一代と計算すると、ざっと五百年間も引き続きこの寺を治め続けていることにおなる。まあ、時には後継ぎがいなくて、養子になることもあるだろうが、お寺や神社というのは、代々世襲で大昔からの歴史があるのだろう。
 住職がこの地区の説明をしてくれた。
「嘉麻市の山を越えると、筑前町野町です。野町までが筑前の国になります。その先から筑後の国になるのです。国境となる野町は、関所が設置されていた所です」という。入出国審査をする関所が設けられ、黒田藩の武士が担当していた。
「周りは田畑しかなく、係官の侍たちに農業の許可がおり、年貢米は取られないらしく、金持ちの武士が多かった」と特殊事情を語ってくれた。
「この寺も二百五十年前火事がありまして、過去帳も燃えてしまいました。窃盗団がこの寺に放火し、地元中が消火活動の為集まってきました。盗賊は、火事の隙を狙い、人の居なくなった金持ちの家に泥棒に入り、金品を盗みまくったのです」と住職が当時の状況を悔しそうに明かす。娘さんが、次の宿場である松崎の道順を書き、メモを渡してくれた。気のきく娘さんである。
 信覚寺は、浄土真宗本願寺の中興の祖蓮如上人と共に、親鸞聖人の御真影を守護していた徳法師が筑前の国に下向し、五百年前に草庵を結んだのに始まる。住職はその末裔の方らしかった。
 「虚往実帰」が表玄関に掛けられていたので、尋ねた。
「寺に来たら住職の話を聞き、身になるものをもって帰る」という意味だと話された。多分、日頃の説経でも、有益な話をされていそうな優しく知的な紳士だった。
 野町の外れに「関所跡」という石碑だけがポツンと立っていた。
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