第23話 大隈宿 乳房の森のお水

文字数 834文字

大隈宿の街道の脇道を入ると、湧き水十五リットルを百円で自動販売している場所がある。店だと二リットルが百円だが、此処は格別に安い。中年男性が二リットルボトルを十本分給水していた。
 「この水は効用があるのですか?」と相方が尋ねると「アルカリ性の地下水で、病人に効くのです」と男性は言う。妻が、「乳がんの友達がいて、水を飲んでいました」と独り言のように呟いた。男性は、「ガンには二日市温泉が、効用があります。体も温まるし治療にはいい」と薦める。筑紫野市にある二日市温泉は、天拝山の東麓にあり、発見は約千三百年前、薬師如来のお告げによるものと伝えられる。
 「玄米も、ガンには良いですよ」と男性は詳しそうに話す。「あまりおいしくないと、友人が言っていました」と、妻が反論すると「玄米だけだと、冷めて食べると不味い。玄米に白米を混ぜ土鍋で炊くといい」更に「美味しいご飯の炊き方を知っています。私は医者であり、ガンの治療など対応している」太宰府で天拝坂クリニックをやっているという。
天拝山は筑紫野市にある二五七メートルの山で、菅原道真が大宰府に左遷され、無実を訴えるため何度も登頂し、天を拝した所と伝えられている。
 「ここで会ったのも何かの縁です。玄米の美味しい炊き方を伝授します。医院へ電話し
て『院長の知り合いなので繋いで』、と話してください。ファックスで作り方を教えます」と言う。人の出会いは偶然で、面白いこともある。数日後、電話すると、院長が玄米の炊き方の自筆文を送ってくれた。妻は、有り難そうにお礼の電話をしていた。
 出会いの場所は、大隈宿の「乳房の森のお水」という給水所だった。その近くに「神功皇后がこの水を飲んだら、お乳がでた」という伝説があり、祭られている。石があり皇后がお座りなったと言い伝えに書いてある。
 山からの湧き水が、狭い側溝を勢いよく流れ、傍を半間ほどの道が続き、その両側に家々が並ぶ、昔の住宅地形がそのまま使われている。大隈宿が江戸期に繫栄した証である。
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