第25話 千手宿に残る溝口商店

文字数 528文字

千手宿の出口近くの坂道に溝口商店の立看板が目についた。「二百年続いた味噌・麹の店」となっている。下が板で上がガラスの、昔風の引き戸を開け「こんにちは」と相方が声をかけた。毎日使う味噌に、大いに興味があるのだ。白髪のご婦人が応対してくれた。天井と上部の壁は、黒い煤のようなもので真っ黒である。「これは麹のカビが天井や壁に付いているものです」と説明がある。
 奥に細長く作業場が続いている。神棚を指し「それが麹の神様です」間仕切り壁の柱に目の高さの位置に設置してある。五月なのに玄関にお飾りが掛けてある。神棚にパックの鏡餅が備えてある。その背後に般若心経の写経が飾ってある。相方は一パック六百円の米味噌と合わせ味噌を買った。
 今でも需要はあるが「作業するのに夫婦二人いなければ、仕事が出来ないのです」と言う。三人の息子がいるが、皆な別の仕事をしているらしい。「この商売を押し付けるわけにはいきません。我々の代で店仕舞いです」と残念そうに語る。
 旧宿場で、現在でも現役で残る商売は、味噌屋さんが多い。鳴瀬宿の味噌・六角宿の小串麹・木屋瀬宿の味噌など歴史的続く味として、現在でも多くの愛好家がいるようである。
千手宿は嘉麻市千手にあり、公民館前に宿場図が掲示してある。
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