第117話 ジョウダンですか

文字数 851文字

 高宮、品川ともに素早い小技の利いた先鋒らしい剣道を好んでいた。速い展開に後れを取った方が負けと言える。
 お互い探り合いの時間が終わると、小気味良い乱打戦が始まる。高宮が小手―面の二段打ちで軽快な音を響かせると、品川も見事な体捌きで躱し、すぐさま攻撃に転じる。
 華麗なスリ足で一気に間合いを詰める高宮にも落ち着いて対処する品川。
 両者決定打が出ないまま、激しく打ち合い四分間が経過する。
「すまん、頼んだ」
 高宮の乱れた呼吸と、大きく肩を揺らす姿が打ち合いの壮絶さを物語る。
「大丈夫ッス」
 何が『大丈夫』なのか分からないが板倉の気持ちは十分伝わる。

 千城、颯来と華々しい二人がいる中、二年生たちは悔しい思いを乗り越えて稽古に励んできた。そして他の三年生を抑えてこの決勝の舞台にいる板倉の覚悟は固い。
 一方の小田原、白銅中で初心者から始めた剣道、努力が実を結びだし高校で急成長を遂げレギュラー入りした勢いがある。二年生らの来年を見越した覇権争い、『打倒、千城、未咲』を目標に、板倉同様下剋上を目論んでいる。
 そんな思惑が渦巻く次鋒戦、板倉対小田原が始まる。

 落ち着いた剣道の二人。相手の腹の内を読み取る探り合いが始まっている。小田原がフェイントでグッと踏み込む振りをすると、僅かに板倉が反応を見せる。
 小田原は板倉が『出鼻技〔*相手が打ちに出る間際に攻撃すること〕』、それも小手打ちを狙っていると考える。

(小田原の奴、これで俺が『出鼻小手』を狙ってると思っただろ)
(板倉は今ので俺に悟られたと感じたに違いない)

(小田原は警戒して出鼻を封じる動きを見せるはず)
(多分板倉は俺が『小手すり上げ面〔*振りかぶるように相手の小手打ちを竹刀ですり上げながら面打ち込むこと〕』でも打つと思うはず)

(小田原が狙うは『小手すり上げ面』辺りだろう。だから俺が狙うは……)
(板倉は『出鼻面』に切り替えたはず、なら俺が打つのは……)

(『面抜き胴〔*面打ちに対して、かいくぐるように避けながら胴を打つこと〕』だ)
(『面抜き胴』だ)
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