第80話 想い

文字数 832文字

 遠野遥、同名で水商売をやっている方を検索して、二人ほどチョイスして流した。一人は超セクシーな美女。
「おー。見ろよこの遥ちゃん」
「うわ、エッロッ」
「この店、行きてぇー」
 もう一人は八十歳近くの老熟したホステス。
「え? 今噂の遠野の写真が出回ってる? どれどれ」
「おぉ……、……」
「遥か未来の写真か? これは……」 
 男子たちの色目と笑いで目先を変える。

「野球部もソフトも親戚みたいなもんだもんね、助け合いよ」
 拡散には野球部のみんな、ソフトボール部も力を貸してくれた。宇佐美には人望があるようだ。
 引退した体育科の三年生たち、卒業前までの最後、野球部、そして遥のために一年の廊下を練り歩き、睨みを利かせてくれる。共に戦った後は、身内には優しい。

『春原が遥に振られた』という新しいデマを流し、敢えて二人がその事を否定することで噂が真実かをぼやけさせる。
 これには事情を知らない遥もびっくりして火消しに回った。

「ベスト8の野球部のエースがモテない訳ないでしょう?」
 宇佐美はしたり顔で言う。
「大師……は大丈夫なのか?」
「あぁ、俺、大丈夫。意外と楽しいよ、これ」
 望未は顔を見回す。二人とも、無邪気な笑顔を見せる。と同時に望未は思う。
(宇佐美……敵に回すと恐ろしいな)



 人当たりの良い春原が『この手のデマが流行ってるみたい』と言葉にする威力は抜群だった。
 さらに幸いにも遥はソーシャルネットワークに疎かった。おかげでその仕打ちが遥には最小限にしか晒されなかったのと、遥の意志が『強い個人』を成立させていたからであろう、宇佐美の作戦は成果が発揮されていく。

 いじめは目立つのもダメだが、立場を弱くすればつけ込まれていく。遥の意志は颯来から聞いた『障害者の女性』である、自身が強く前に進んで行けないと周囲までも変えてしまう。
 遥はそれが嫌だった、心を強く持つことができた。そしていつの間にか遥の噂を口にする者は居なくなった。
 いや、以前と同じく『可愛い』との噂だけが残った。
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