第33話

文字数 541文字

 春。門構えのような桜をくぐり、新しい気持ちで歴史が詰まった校舎に入る。

 つい半月前まで中学生だったはずなのに、やたら大人びて見えるのは新しい制服だからであろうか? 女子中学生ならではの騒がしさが抜け、精神も身体も女性に急成長した愉香を桜がさらに盛り立てている。
「さぁて、明日からは本番よ」
「分かってらい」
 颯来は慌てて前を向く。


***


「颯来が心配かい?」
「ううん。愉香もいるし」
 まるで大学のキャンパスのような眺めである。今風な校舎と、チェックのスカートが大人びている遥をキュートに見せる。
 望未の落ち着いた男の風格はブレザーのおかげだ。

 中学で成績の良かった望未と遥は大城学園に進学していた。
「本当にやるの? 野球部のマネージャー」
「何か都合悪いことでも?」
「いや……」
「強いんでしょ、ここの野球部」
「まぁ、以前までは。今年からはどうだろう? 強豪更科高に入った彼方に借りを返せるかどうか」
「じゃあ……甲子園、連れてって」
 遥は望未の目を真直ぐ見る。
「……」
「てへっ」
 望未が照れて視線を外すのと同時に遥はおどけてみせる。
「……ったく、俺はキャッチャー。そういうことはエースに言ってくれ」
「また……野球が、見られるのね……今度は一緒に……」
 遥は春の日差しを体中に感じた。


***
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