第115話 決勝戦

文字数 998文字

 いつの間にか三年生たちも颯来の話を聞いていた。見計らって高宮が声を掛ける。
「千城、未咲、みんな。話はついたようだな」
「はい」
 答える颯来を見つめる千城は、すぐに三年生たちに向かって最敬礼で詫びる。
「先輩方、すみませんでした。自分は大将を辞退させていただきます」
 顔を見合う三年生たち。そう素直に謝られるとどうもできない。元々は千城を認めている。
「剣道にはホームランはないし、大将まで回せば逆転できるわけでもないからよ、お前大将じゃもったいねーよ」
 場を和ます言い回しで板谷が応える。それに他の三年生も乗じることで一気に回復していく。
「勝ちが決まってても、負けが決していても大将は戦わなきゃいけねーんだ、そんなの未咲にでもやらせておけ」
「え? 自分ッスか?」
 意表を突かれた颯来が戸惑う。
「千城の言葉も受け取った。三年で話し合った結果も踏まえてチームのことを考えれば未咲に大将をやってもらいたい」
 高宮はそうまとめると、顧問に報告した。
「板谷、椎名、根岸、そしてすべての三年生たち、嫌な思いをさせてしまって申し訳なかった、この通りだ」
 顧問は深く頭を下げた。

「説明してもらおうか?」
「先輩も彦を認めてるんだよ、ただお前にはもっと周りも見て欲しかった、特に三年生。だからあれで良かった」
「俺は颯来を信じて乗っかっただけだ」
「そのおかげでまとまったろ?」
「ちょっと前から何だか三年に目の敵にされてたからな」
「あ、ちゃんと知ってたの?」
「まぁ……」
「負けん気に火がついた、先生が描いたシナリオ通り。憎っくきお前を倒すため、強くなった」
「あんまり調子に乗んなよってか?」
「いい湯加減だろ?」
「ちょっと熱くてびっくりしたよ」
「みんなも彦を認めてるってことだ、ただ最後みんながまとまる必要があった」
「……何で分かった?」
「椎名先輩と根岸先輩を見たら、かな」
「?」
「まるで……補欠になるのが解っている? 三年は全部知っててこうしたのかもな」
「気付かないだろ、普通」
「気付かない様なら中学のままだ、俺は」
「凄いな、颯来」
「望未がキャッチャーは前を向いて毎回全員の顔を『視る』のが仕事だって言ってたぜ」
「……凄いな、お前ら」
「俺、彦のおかげで団体戦好きになったんだぜ」
「その責任はきっちり取らせてもらうよ。俺も中学校と同じじゃいられない」
「ま、闘争心とチームワーク、どちらが欠けても日本一はあり得ないってことだな」
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