第114話

文字数 943文字

 剣道のポジションは先鋒から順に大将が強いわけではない。多くは大将、中堅、先鋒、副将、次鋒の序列で且つ体格や剣道のタイプによって配置する。城西高校は代々基本的には大将に一番強い男を据えてきた伝統がある。
 顧問の意図は分かっていた。部内試合の結果を考慮すれば、大将千城、未咲が中堅のところを三年の威信もあって板谷を選んだ。高宮は典型的な先鋒である。

「それなら大将は未咲だ、自分は大将じゃなくて構わない」
 黙って三年生たちの言い分を聞いていた千城が発言する。
「最悪、それでもいい。俺たちはこのままお前を大将に認めることはできない」
 以前千城が漏らしていた不満、部活動紹介の件と言い、高校体育会系において実力主義もその一つであるが、年功序列の縦社会がその醍醐味でもある。
「分かった。ポジションは皆で話し合って決めろ。剣道は一対一での勝負であっても、団体戦は役割、信頼関係、勢い、そう言ったものが勝敗を分ける。このままでは優勝候補筆頭なんて笑われてしまうぞ」


「三年、集まれ。すまんが残りは少しそっちで話し合ってくれ」
 高宮は持ち前のキャプテンシーを発揮し、発端である三年を隔離し事情聴取に入る。
 一、二年側は肩身が狭い。当の千城はシレッとしている。それを見て取った颯来が口火を切る。
「彦……白銅中は強かったよなぁ」
「え? あ、うん強かった」 
「その中でもお前は強かった……」
「……あぁ。その通り」
「俺の中学はさ、てんで弱くってさ、サボる奴多いし」
「……」
 他の一、二年も黙っている。
「そん時俺さえ強ければ、個人戦で勝ち上がればいいと思ってて」
 颯来は何かを飲み込む。
「思ってたけど、お前に負けた……」
「……」
 しばしの間が流れる。
「……今はきっと俺の方が強い……」
 ぼそりと小さく呟く。
「いいよ、そういうの。せっかくみんな聞いてるのに」
 すかさず千城が突っ込む。
「彦……お前の求めてるものはここにはないよ」
「颯来、お前……」
 千城は颯来が『自分寄り』なことを言うと期待していた。
「でも、違うものがここある。個々の能力だけでは勝ち取れなかった全国優勝できる力が」
 颯来の言葉に千城の顔色が変わる。
「多分、その中心にいるのはお前だ、彦。お前次第だと思うぜ?」
「……ンニャロ」
「それは俺の決め台詞だ」
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